夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


銀座のハチミツ

2009年11月03日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 “銀座のミツバチ物語”田中敦夫著(時事通信社)を読む。著者の田中氏は、NPO法人「銀座ミツバチプロジェクト」の副理事を務めておられる。「銀座ミツバチプロジェクト」の活動は、TVなどでも紹介されていたから、ご存知の方も多いだろう。まず本の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

 東京・銀座のビルの屋上でミツバチを飼うというプロジェクトを三年前に立ち上げた著者による奮闘記。皇居が近いなど自然環境が豊かで、農薬の心配もないことから、日本を代表する繁華街は、意外なことにミツバチにとって暮らしやすい環境だという。ここで採れたハチミツが特産品となりつつあるだけでなく、街の緑化も進み始めるなど、地域の意識が変化してきた様子を描く。出発点は「おもしろいよね」。持続可能な街づくりのヒントに満ちた一冊。

(引用終了)
<日経新聞の書評欄より>

 田中氏は、肩肘の張らない語り口で、プロジェクト発足の経緯から最近の活動までを書いておられる。銀座商店街との連携、「オペラ・銀ぱち物語」、ファームエイドの開催、「日本熊森協会」との出会い、「メダカのがっこう」とのコラボレーションなどなど。

 これまで「建築士という仕事」や「金属吸着剤」などで、これからの安定成長時代を代表する四つの産業システム、

1. 多品種少量生産
2. 食の地産地消
3. 資源循環
4. 新技術

のうち、複数のシステムが関連するビジネスは、一つだけの場合に比べて、時代を牽引する力が強い筈だと述べてきたけれど、この「銀座のミツバチプロジェクト」は、

1. 多品種少量生産(ケーキやカクテル、石鹸など)
2. 食の地産地消(銀座商店街での販売)
3. 資源循環(ミツバチ受粉による緑化推進)

ということで、時代牽引力の強い、21世紀型スモールビジネスの一つに違いない。そのことを証明するように、最近同じような取り組みが、自由が丘や恵比寿などでも行なわれ始めているという。

 この本にも出てくるが、アメリカなどでは今、養蜂家の巣箱からミツバチが突然、大量に姿を消す「蜂群崩壊症候群」(CCD)という現象が起きている。CCDは、ハチミツを大量生産するために、品種改良や遠距離移動、単一で農薬の多いアーモンド畑などにおける蜜採取を行なうことによって、ミツバチにウイルス感染病が発症したのではないかといわれている。CCDについては“ハチはなぜ大量死したのか”ローワン・ジェイコブセン著(文藝春秋)に詳しい。これに対して、「銀座ミツバチプロジェクト」は、あくまでも地域密着型のスモールビジネスだ。都会の各地でミツバチたちが花の蜜を集めていると思うと楽しい気分になる。

 ところで、「リーダーの役割」などで言及した、「全体のうち2割の人はよく働き、6割はふつうに働き、そして残りの2割はあまり働かない」という組織の法則は、田中氏によると、ミツバチの集団にも見られるようだという。

(引用開始)

 ミツバチもそうなのではないか(組織の法則に適応しているのではないか)と観察すると、相当数の怠け者がいるのは確かです。時々忙しそうに前足でカンナ研ぎしているミツバチは、実は何もしていなかったりするそうです。割合は定かではありませんが、頭がよいだけじゃなく、人間社会にそっくりだと思うのは私だけではないでしょう。組織が環境の変化に対応して生き残っていくための柔軟性として、怠け者の存在も存外必要なのかもしれませんね。そう考えると、部下に働け働けと尻を叩くばかりが能じゃないということになります。
(引用終了)
<同書85ページより。カッコ内は引用者による注。>

ミツバチの生態はまだまだ謎が多いけれど、その集団生活の様子は、人間社会のそれとよく似ているようである。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 10:44 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

競争か協調か II

2008年11月25日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 先日あるイベントでご一緒した不動産業の方が、都内のコイン・パーキング場について、「競争が無いうちは儲かるのだが、周りに増えてしまうと一挙に赤字に転落してしまう」と嘆いておられた。これを、以前「競争か協調か」の中で考察した、「競争を選ぶか協調を選ぶかは、資源全体の多寡・増減に依る」という原則に照らして考えてみたい。

 コイン・パーキング場にとって、「資源全体の多寡・増減」とは、その地域における駐車場の需給バランスのことである。地域の公共政策にもよるが、需要過多であれば、街並みの景観に配慮した上で徐々に供給を増やしていけばよい。バランスが一旦供給過多に傾いたならば、上記原則に照らして、協調戦略へ転移しなければならない。単なる値引き競争だけではいづれ共倒れしてしまうからだ。

 さて、コイン・パーキング場の協調戦略にはどのようなものが考えられるだろうか。まず大切なのは「棲み分け戦略」だろう。あるパーキング場はレストランなどと顧客サービス契約を結ぶ。別のところはオフィスなどと契約、他のところは一般の店舗との契約を進める。契約に金は掛かるかもしれないが、単に値引きに走るよりも顧客を奪い合うことが少なくなる筈だ。実際「パーク24」という会社は、鉄道会社と組んで電車利用者に対する割引サービスを行っている。業種別需給バランスを保つことが出来れば、顧客の利便性も向上する。「棲み分け」を地域全体で上手く宣伝すれば、需要それ自体が増える可能性もある。

 次に考えられるのは各種「付加価値サービス」だろう。パーキング場が飲み屋街にあれば代走サービス、オフィス街に近ければ洗車サービス、店舗街であれば買い物カート提供サービスなどなど。大事なことは、各企業がそれぞれの起業理念に基づいて、利用顧客の「生産・消費」活動に役立つサービスを編み出すことだ。単に他のところを真似るのではなく、その街と顧客に合った独自のサービスを編み出すこと。そのことは(サービスを他の地域に転用できる可能性もあるから)企業の競争力を高めることにも繋がる。

 このようにしてサービスの充実を図っていけば、コイン・パーキングビジネスは一見飽和状態に見える地域でも、産業の活性化に貢献することができる。この場合大切なのは、地域の店舗・産業を巻き込んだ形での「協調戦略」=「チームワーク」なのである。

 ちなみに、先日のあるイベントとは、友人が主催した「第3回斑尾国際音楽村Projectライブ」のことである。今年はフィンランドから音楽家のパウリーナ・レルフェ(と妹のハンナマリー・ルーカネン)さんを招待、私は通訳のお手伝い方々参加したのだが、週末二日間のコンサートのほか、フィンランドにちなんだ食事会や料理教室などもあってとても楽しかった。

 以前「アートビジネス」のなかで、『アートビジネスは「多品種少量生産」だから、これからの安定成長時代、重要度が増すに違いない。』と書いたけれど、友人は、このような音楽イベントを企画することで、地域を活性化させようと頑張っている。まだまだ「ビジネス」にはならないかもしれないが、これからもできる範囲で彼女を応援していこうと思う。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 11:54 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

建築について

2008年07月29日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 スモールビジネスとしての建築士の仕事について書いた(「建築士という仕事」)ところで、私の建築に対する興味をまとめておこう。

 一つ目は建築の実用面である。住宅や店舗、オフィスなど、人の生産と消費活動を支える道具としての建物。エネルギーの循環システムや、材料・工法に関する新技術が日々開発され、街角に斬新な建物が姿を見せる一方、町屋や古民家が再生されるのも楽しい。実用的な建物に必要なのは、合理性と身体性との高度なバランスだと思う。

 二つ目は、美術(Art)としての建築である。「Before the Flight」の中で、

 『「美」には大きく分けて二つの範疇があるようだ。二つは重なる部分も多いし、はっきりと分けることも難しいが、ひとつは、螺旋階段のように重力に逆らう運動に基づき、我々の気分を生き生きとさせてくれる感覚的な美しさであり、もう一つは、脳の中で構成される、過去の記憶に基づく郷愁的な美しさだ。それ自体に動きはないものの、優れた建築、庭園、彫刻、宝石などは、重力を一旦吾身に引き受けた上で、次の飛躍を内に秘めた「力」の表現であり、大きくは前者の範疇に入ると思われる。』

と書いたが、「反重力美学」としての建築、特に美術館や博物館などを巡るのは愉しい。なかでも、「螺旋階段」で訪れたポーラ美術館や、「Before the Flight」の神奈川県立近代美術館葉山などのように、自然と溶け合った建物は美しいと思う。

 三つ目は都市の一部としての建築である。個々の建物は実用的であったり美的であったり、あるいはそうでなかったりする訳だが、幾つもの建物を、道路や上下水道、電線などで結び、「集合体」として束ねるのが都市であり、個々の建物は、人々から見られ、利用され、記憶されることによって、「公」の場を形成する。住宅街、学校や神社仏閣、商店街、新しい図書館、取り壊される駅舎などなど。都市の建物は、好むと好まざるとに関わらず、合理性と身体性に加えて社会性を帯びることになる。

 ところで、都市の建物の「社会性」とはどのようなものなのだろうか。日本の建物の社会性は、他の国々のそれとどう違うのか。日本おける居心地のよい広場とはどのような場所なのか。都市と自然とのバランスはどうなっているのか。それを考えるためには、単に建物の様式を比較したり来歴を調べるだけでは不充分で、「集団の時間」で述べたように都市が人々の脳の外化したものであってみれば、日本の都市と建物を語るには、日本語という「言葉」の本質に迫らなければならないと思う。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 18:16 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

建築士という仕事

2008年07月22日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 建築士という仕事、なかでも住宅や小規模公共施設を対象とする仕事は、これからの時代を牽引する重要なスモールビジネスの一つだと思う。

 「最高の建築士事務所をつくる方法」湯山重行著(エクスナレッジ)という本は、これから事務所を開こうとする建築士への丁寧なガイドブックだ。一級建築士である湯山氏ご自身の事務所設立体験を元に、独立の心構え、オフィスの立地からクライアントとの付き合い方、設計の進め方からスタッフの雇用、契約書の作り方まで、幅広く説明してあるので参考になることが多いと思う。

 これまで私は、安定成長時代の産業システムとして、

1. 多品種少量生産
2. 食の地産地消
3. 資源循環
4. 新技術

の四つを挙げ(「スモールビジネスの時代」)、それぞれについて、

1. 本の出版(「本づくりとスモールビジネス」)
2. 米の高付加価値化(「食生活の変化と自給率」)
3. レアメタルのリサイクル(「レアメタル」)
4. 新技術のカーブアウト(「カーブアウト」)

などを例にとって具体的に見てきた。

 当然ながら、四つの産業システムが複数関連したビジネスであれば、時代を牽引する力はより強くなる。たとえば先回の「里山ビジネス」は少なくとも、

1. 多品種少量生産(ワイナリー、野菜園)
2. 食の地産地消(ワイン、レストラン)
3. 資源循環(水、肥料など)

の三つが関連した、魅力的なビジネスモデルだ。住宅や小規模公共施設を対象とする建築士の仕事は、

1. 多品種少量生産(受注生産)
2. 資源循環(エネルギー)
3. 新技術(建材や工法など)

の三つが関連しており、これからの時代、重要度が増すに違いない。私のオフィスでも、建築士さんの起業を積極的にサポートしていきたい。

 湯山氏の本は、起業の方法や、起業時点で必要になる備品のリスト、コストの概算、税金のことまで詳しく説明してあるので、建築士さんだけでなく、新しくスモールビジネスを始めようと考えているその他の皆さんにも参考になると思う。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 10:57 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

里山ビジネス

2008年07月15日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 「集団の時間」のなかで、都市の時間 (t = interest)と自然の時間(t = ∞)について述べ、「社会問題の多くは、この2種類の時間の混同から起こる。」と書いたが、(都市と自然の)二つの時間が隣接するところに、興味深い空間や現象が生まれることも事実だ。

 たとえば庭園である。庭園は人が快適さを求めて作ったという面では都市の一部だが、花や樹木の生息という意味では自然の一部でもある。たとえば遺跡である。遺跡は長い年月を経てすでに自然の一部であるが、かろうじて都市の痕跡を残すことで過去の栄華を偲ばせる。昔から人はこのような、都市と自然の時間が明示的に隣接している場所に特別の興味を抱いてきた。

 しかし高度成長時代、人々は自然を捨てて都市へ集中した。遠くから運ばれる安い原材料に自らの生活を委ね、それを支えるために大きな組織が大量生産・輸送・消費システムを構築した。都市の時間(t = interest)が全てを覆い始め、自然はバランスを失って強い災害をもたらすようになった。「個」のレベルで言えば、身体を置き去りにして、頭のゲームに熱中した時代といえよう。

 「多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術といった、安定成長時代の産業システムを牽引するのは、フレキシブルで、判断が早く、地域に密着したスモールビジネスなのではないだろうか。」(「スモールビジネスの時代」)と書いたのは、この二つの時間が隣接した空間や現象への復帰宣言でもある。「個」のレベルで言えば、頭で考えるだけではなく、身体を一緒に動かして何かを作り出していくということである。

 庭園と同じように、日本の「里山」も都市と自然の時間が明示的に隣接した空間だ。しかも里山は、単なる観賞用の庭園と違って、人の生活を支える資源循環システムでもある。「ヴィラデスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリー」のオーナー、エッセイストでもあり画家でもある玉村豊男氏の「里山ビジネス」(集英社新書)には、スモールビジネスとしての里山の可能性が余すところなく描かれている。

 ワイナリーという施設が意味するもの、生活観光の時代、拡大ではなく持続することの大切さ、野菜の地産地消、井戸水の利用、資源の循環システム、職人的仕事観、一人多芸、若者の育成などなど、時には失敗談などを交えながら、玉村氏はこの「小さな王国」について情熱的に語る。本文中、ワイナリーの設立趣意書から一部引用があるが、それは地域密着型スモールビジネスの精神を表して余蘊がない。

 「農業は続けることに意味がある。その土地を絶えず耕して、そこから恵みを受けながら、人も植物も生き続ける。それが農業であり、人間の暮らしである。ワイナリーを中心に地域に人が集い、遠方から人が訪ねて来、そこでつくられたワインや野菜や果物を媒介にして人間の輪ができあがる。それが来訪者を癒し、地域の人びとを力づけ、双方の生活の質を高めていくことにつながるだろう。
 ワイナリーじたいはとりたてて大きな利益を生むものではなくても、そうした、農業生産を基盤とした地域の永続的な発展と活性化を促すひとつの有効な装置として機能すれば、これほど大きな価値を実現できるものは他には類がないと思う」(77ページより)

 尚、「ヴィラデスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリー」については、「ヴィラデストワイナリーの手帖」山同敦子著(新潮社)にも詳しい。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 11:08 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

夜間飛行について

運営者茂木賛の写真
スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)主宰の茂木賛です。世の中には間違った常識がいっぱい転がっています。「夜間飛行」は、私が本当だと思うことを世の常識にとらわれずに書いていきます。共感していただけることなどありましたら、どうぞお気軽にコメントをお寄せください。

Facebookページ:SMR
Twitter:@sanmotegi


アーカイブ

スモールビジネス・サポートセンターのバナー

スモールビジネス・サポートセンター

スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)は、茂木賛が主宰する、自分の力でスモールビジネスを立ち上げたい人の為の支援サービスです。

茂木賛の小説

僕のH2O

大学生の勉が始めた「まだ名前のついていないこと」って何?

Kindleストア
パブーストア

茂木賛の世界

茂木賛が代表取締役を務めるサンモテギ・リサーチ・インク(通称SMR)が提供する電子書籍コンテンツ・サイト(無償)。
茂木賛が自ら書き下ろす「オリジナル作品集」、古今東西の優れた短編小説を掲載する「短編小説館」、の二つから構成されています。

サンモテギ・リサーチ・インク

Copyright © San Motegi Research Inc. All rights reserved.
Powered by さくらのブログ