“銀座のミツバチ物語”田中敦夫著(時事通信社)を読む。著者の田中氏は、NPO法人「銀座ミツバチプロジェクト」の副理事を務めておられる。「銀座ミツバチプロジェクト」の活動は、TVなどでも紹介されていたから、ご存知の方も多いだろう。まず本の紹介文を引用しよう。
(引用開始)
東京・銀座のビルの屋上でミツバチを飼うというプロジェクトを三年前に立ち上げた著者による奮闘記。皇居が近いなど自然環境が豊かで、農薬の心配もないことから、日本を代表する繁華街は、意外なことにミツバチにとって暮らしやすい環境だという。ここで採れたハチミツが特産品となりつつあるだけでなく、街の緑化も進み始めるなど、地域の意識が変化してきた様子を描く。出発点は「おもしろいよね」。持続可能な街づくりのヒントに満ちた一冊。
(引用終了)
<日経新聞の書評欄より>
田中氏は、肩肘の張らない語り口で、プロジェクト発足の経緯から最近の活動までを書いておられる。銀座商店街との連携、「オペラ・銀ぱち物語」、ファームエイドの開催、「日本熊森協会」との出会い、「メダカのがっこう」とのコラボレーションなどなど。
これまで「建築士という仕事」や「金属吸着剤」などで、これからの安定成長時代を代表する四つの産業システム、
1. 多品種少量生産
2. 食の地産地消
3. 資源循環
4. 新技術
のうち、複数のシステムが関連するビジネスは、一つだけの場合に比べて、時代を牽引する力が強い筈だと述べてきたけれど、この「銀座のミツバチプロジェクト」は、
1. 多品種少量生産(ケーキやカクテル、石鹸など)
2. 食の地産地消(銀座商店街での販売)
3. 資源循環(ミツバチ受粉による緑化推進)
ということで、時代牽引力の強い、21世紀型スモールビジネスの一つに違いない。そのことを証明するように、最近同じような取り組みが、自由が丘や恵比寿などでも行なわれ始めているという。
この本にも出てくるが、アメリカなどでは今、養蜂家の巣箱からミツバチが突然、大量に姿を消す「蜂群崩壊症候群」(CCD)という現象が起きている。CCDは、ハチミツを大量生産するために、品種改良や遠距離移動、単一で農薬の多いアーモンド畑などにおける蜜採取を行なうことによって、ミツバチにウイルス感染病が発症したのではないかといわれている。CCDについては“ハチはなぜ大量死したのか”ローワン・ジェイコブセン著(文藝春秋)に詳しい。これに対して、「銀座ミツバチプロジェクト」は、あくまでも地域密着型のスモールビジネスだ。都会の各地でミツバチたちが花の蜜を集めていると思うと楽しい気分になる。
ところで、「リーダーの役割」などで言及した、「全体のうち2割の人はよく働き、6割はふつうに働き、そして残りの2割はあまり働かない」という組織の法則は、田中氏によると、ミツバチの集団にも見られるようだという。
(引用開始)
ミツバチもそうなのではないか(組織の法則に適応しているのではないか)と観察すると、相当数の怠け者がいるのは確かです。時々忙しそうに前足でカンナ研ぎしているミツバチは、実は何もしていなかったりするそうです。割合は定かではありませんが、頭がよいだけじゃなく、人間社会にそっくりだと思うのは私だけではないでしょう。組織が環境の変化に対応して生き残っていくための柔軟性として、怠け者の存在も存外必要なのかもしれませんね。そう考えると、部下に働け働けと尻を叩くばかりが能じゃないということになります。
(引用終了)
<同書85ページより。カッコ内は引用者による注。>
ミツバチの生態はまだまだ謎が多いけれど、その集団生活の様子は、人間社会のそれとよく似ているようである。