夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


これからのモノづくり

2012年03月06日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 先日「日本のモノづくり」の項で、

(引用開始)

 モノづくりの本質は、絶え間のないProcess Technologyの改善である。以前「日本の生産技術の質が高い理由」の項で、日本語が母音語であることと、それに伴って起こる「自他認識」の希薄性が、「話し手の意識を環境と一体化させる傾向」を生み、それが自然や組織ばかりではなく機械などの無機的環境に対しても働くことを論じたけれど、日本のモノづくりの質の高さは、この「日本語の特質」に由るところが大きいと思う。

 このブログでは、安定成長時代の産業システムとして、多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術の四つを挙げているが、これらの中心に「日本のモノづくり」があるのは間違いないだろう。

(引用終了)

と書いたけれど、「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」のなかで、これからの日本のモノづくりはどうあるべきなのだろうか。今回はこのことについて考えてみたい。

 日本のこれからのモノづくりにとって第一に大切なのは、それが、「多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術」という四つの安定成長時代の産業システムに何らかの形で関わっていることであろう。実態として、大量生産・輸送・消費システムによる製造が日本からまったく消えることはありえないだろうし、そうなるべきだと主張しているわけではないが、これからの日本のモノづくりは、安定成長時代の産業システムと親和性を持つ方向にシフトしていくべきだと思う。

 多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術にリンクしたモノは、「コト」を生み出す力が強い。「コト」は必ず地域(固有の時空間)で起こる。多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環の三つは、高度成長時代の大量生産・輸送・消費システムよりも地域密着型だから、「コト」を起こす力がより強いのだ。「“モノからコトまで”のリードタイムが短い」と言い換えても良いかもしれない。また、新技術(や新素材)は、旧技術よりも新しい「コト」を起こす力が強い。小惑星探査機「はやぶさ」が引き起こした新しい「コト」の数々は我々の記憶に新しいところだ。

 日本のこれからのモノづくりにとって第二に必要なのは、できるだけ「コト」が起こりやすいモノづくりを心掛けることであろう。「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」の項の最後に、

(引用開始)

そしてまた、「モノ」であっても、自分が気に入った「モノ」をよくよく観察していれば、やがて、それが作られたときの「時間と空間」が解けて見えてくるかもしれないということでもある。

(引用終了)

と書いたけれど、伝統工芸品や手作り品の良いモノは、それが作られたときの「時間と空間」が後ろに揺曳してみえる。優れたブランド品は、ブランド固有の物語がそのモノの内に秘められている。絵画の傑作は、描かれた光景がいまにも動き出しそうに見える。

 “営業部は今日で解散します。”村尾降介著(大和書房)という本には、自社製品の持つ物語(コト)をいかに顧客に伝えるか、というアイデアの数々が書かれている。「覚えられるネーミング」「写真に取りたくなる仕掛け」「お客さまにビジネスに参加してもらう」「人が覚えられるコピーは15文字以内」「意外な推薦人をつくる」などなど。本のサブタイトルには“「伝える力」のアイデア帳”とある。一読をお勧めしたい。

 以上、これからのモノづくりにとって大切なポイントを纏めると、

A 安定成長時代の産業システムに何らかの形で関わっていること
B できるだけ「コト」が起こりやすいモノづくりを心掛けること

となる。さて、これを踏まえて、改めて「日本のモノづくり」の項で取り上げた“奇跡のモノづくり”江上剛著(幻冬舎)に紹介された8つのモノづくり:

1. 本間ゴルフ・酒田工場(ゴルフクラブ製造)
2. メルシャン・八代工場(焼酎づくり)
3. 山崎研磨工場・燕市(タンブラーなどの研磨)
4. コニカミノルタ・豊川工場(プラネタリウム製造)
5. クレラ・新潟事業所(新素材開発)
6. キッコーマン・野田工場(醤油の国際化)
7. 宮の華・宮古島(琉球泡盛づくり)
8. 波照間製糖・波照間島/シートーヤー・宮古島(黒糖づくり)

を見てみると、どれもAに関わり、Bに対応していることがわかる。これは偶然ではないと思う。そして重要なことは、これらの企業は決して売り上げ規模のみを追求していない。このブログでは、「安定成長時代の産業システムを牽引するのは、フレキシブルで、判断が早く、地域に密着したスモールビジネス」であると主張してきたが、これからは「モノづくり」においても、地域に密着した理念あるスモールビジネスの出番なのではないだろうか。中小規模の「モノづくり」については、「中小製造業」の項も参照していただきたい。

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森ガール

2012年01月17日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 前回「場所のリノベーション」で紹介した“三低主義”のあとがきの中で、三浦展氏は、

(引用開始)

 実際、今、若い世代を中心に、時代の感覚がすごく変化している。たとえば、バブル時代の若い女性は、銀座で遊び、青山の高級マンションに住み、高級外車や高級ブランド品を買う暮らしに憧れた。しかし現代の若い女性は、青山のマンションよりも谷中の長屋に住みたがる。高級外車には興味がなくなり、鉄道が好きな「鉄子」や中古カメラを持って浅草や向島を散歩する「カメラ女子」が増えている。ブランド品への関心もなくなり、ユニクロや無印や古着や浴衣を好んでいる。お墓めぐりを趣味とする女性すら増えているという。そこでは完全に「近代」が笑いとばされている。と言うか、すでに「近代」が眼中にない。

(引用終了)
<同書 250ページ>

と書いておられる。先日「“シェア”という考え方 II」のなかで、

(引用開始)

 地球規模でエネルギー循環が求められるようになり、日本が安定成長時代に入った今、われわれの社会は必然的に変わらざるを得ない。どう変わらなければならないかというと、人々は「世間」に縛られすぎることなく「所有原理」を自覚して精神的に自立すること、政治やビジネスは、女性性に基づく「関係原理」を大胆に取り入れること、この二つである。

(引用終了)

と書いたけれど、“三低主義”のルーツには、この「女性性に基づく関係原理」があるようだ。

 さて「鉄子」や「カメラ女子」の元祖と言えば、やはり「森ガール」ということになるのではないだろうか。過去の新聞から「森ガール」に関する記事を拾ってみよう。

(引用開始)

 「森ガール」は三年前、インターネットの会員制サイト「mixi」で森ガールコミュニティーができてから、表舞台に登場した。「森にいそうな女の子」のファッションは少女っぽいメルヘンな世界。ゆったりしたワンピースにファーなどのふわふわしたアイテム。レギンスやタイツをはき、露出が少ないのも特徴だ。

(引用終了)
<東京新聞 11/23/2009>

(引用開始)

 森ガールと呼ばれる人はファッションや雑貨など、趣味の領域では好き嫌いがはっきりしている。マニアの気質を備えてはいるのだが、執着心が強いわけではない。「ないもの」ねだりを繰り返すのではなく、手の届く届くもので満足する。そこには、「今あるもの」を大切に繰り返し使おうとするエコロジーの考え方からの感化もみてとれる。(中略)健康と環境に配慮したライフスタイルを表す「ロハス」ブームの系譜に連なるかのような、環境意識の高まりにつながる要素を抱えている。

(引用終了)
<日経新聞 1/23/2010>

ということで、その服装には、上の記事にある「ゆったりしたワンピースにファーなどのふわふわしたアイテム。レギンスやタイツをはき、露出が少ない」という特徴のほかに、自然素材、アースカラー、重ね着、ローヒールの靴などといった特色もある。

 それらの特徴は、勿論西洋化を生活に取り入れたあとのファッションだから着方やスタイルは違うけれど、自然素材、重ね着、ローヒール、ゆったりとしたワンピース、露出が少ないなどといった点で、日本古来の「和服」とコンセプトが似ている。

 以前「牡蠣の見上げる森」や「森の本」の項で、日本では古来より「森」が産業や文化のルーツとなっていることをみてきた。言語に強い身体性を持つ日本人は、本来的に自然志向である。そういう意味で「森ガール」の生まれた土壌は肥沃であり、その現象は決して一過性の流行とは思われない。以前「本の系譜」の項で紹介した“「本屋」は死なない”のなかに登場する「ひぐらし文庫」の原田真弓さんは、昨今のいわゆる“ブーム本”を批判するなかで、

(引用開始)

「最近だと“森ガール”のブームがそれにあたると思います。森の中にいるイメージの女の子やそのファッション。見方を変えれば昔からあるものだし、多くの人にはなんだかよくわからないですよね(笑)。最初にそういう視点で本をつくった出版社があって、これは面白い、と私も思った。魅力が定着するには、時間をかけてゆっくり広がっていったほうがいいんです。それが、あっという間に行き渡っちゃう。(中略)じっくりやれば、渋谷の洋服屋さんなんかとも組んで、いろんなことができたと思うんだけれど」

(引用終了)
<同書 35‐36ページ>

と述べて、関連本のブームが過去のものになってしまったことを嘆いておられる。関連本ブームは去ってしまったはかもしれないが、「森ガール」が成長しそのファッションがさらに洗練されてくれば、日本古来の「和服」とも融合(fusion)し、近代以降の日本の服装として社会生活に定着していくのではあるまいか。

 自然志向の「森ガール」は、多品種少量生産、食の地産地消、資源循環といったこれからの安定成長時代を象徴し、政治やビジネスに必要な「女性性に基づく関係原理」を体現する存在なのである。

 「鉄子」や「カメラ女子」のみならず、「山ガール」、「新書読書法(2010)」で紹介した三浦展氏の“シンプル族”といった人たちは、みな「森ガール」の血筋を受け継いでいるといってよいと思う。

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“シェア”という考え方

2011年12月20日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 “これからの日本のために「シェア」の話をしよう”三浦展著(NHK出版)という本を内容に共感しながら読んだ。著者の三浦氏は、消費社会研究家、マーケティング・アナリストで、以前「街の魅力」や「新書読書法(2010)」などでも本を紹介したことがある。まず同書のカバー裏の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

 いま、消費や経済自体がシェア型になり始めている。かつそれが消費や経済を縮小させるのではなく、むしろ新たな方向に拡大する力を持ち始めている。
 本書は、これからの日本社会にとって有効なシェア型の価値観や行動、そしてすでに拡大し始めたシェア型の消費やビジネスの最新事情についてのレポートである。

(引用終了)

 三浦氏はこの本で、なぜ今の日本にシェア型の価値観や行動が必要なのかということについて、超高齢社会、コミュニケーション・共感の重視、エコ意識の拡大、情報化などから分析し、すでの始まっているシェア型の消費とビジネスについて、物のシェア、人のシェアの両面から具体的な例を挙げて丁寧に説明している。そしてシェアのコンセプトを、分配、分担、共感という三つのキーワードに込め、シェアの意味を、

私有     → 共同利用
独占、格差 → 分配
ただ乗り   → 分担
孤独     → 共感

といった「パラダイム・シフト」として示している。詳しくは同書を読んでいただきたいが、三浦氏がご自分でも、

(引用開始)

 また本書は、私が郊外、団地、ニュータウン、都市、住宅、建築、家族、若者、私有、コミュニティなどについて過去ずっと考えてきたことが、渾然一体となっている。その意味では個人的にいささか感慨深いものがある。

(引用終了)
<同書 232ページ>

と書いておられるように、“シェア”は、安定成長社会の様々な事象の底に流れる根幹的な価値観と云えるだろう。

 このブログでは、安定成長時代の産業システムとして、多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術の四つを挙げ、それを牽引するのは、フレキシブルで判断が早く、地域に密着したスモールビジネスであると述べてきているが、分配、分担、共感をベースとする“シェア”は、多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環といった産業システムの中心コンセプトであり、スモールビジネスの成立に欠かせない社会的価値観でもあると思う。

 さて、“シェア”の時代にとって大切だと思われるテーマをいくつか挙げてみたい。

1. モノからコトへ

 シェアという「コト」の分析には、アフォーダンスや言語、エッジ・エフェクトや境界設計といった「関係性」の人間科学、免疫学(生物学)や気象学、流体力学や波動力学、熱力学といった「コトの力学」の応用が必要だと思われる。

2. 生産と消費の相互性

 このブログでは、他人のための行為を「生産」、自分のための行為を「消費」と呼び、ある人の「生産」は別の人の「消費」であり、ある人の「消費」は別の人の「生産」であると論じてきた。“シェア”型経済においては、これまでの大量生産/在庫販売システムから、少量生産/対面販売システムへと、その経済活動の中心がシフトしていくと考えられる。そしてこの少量生産/対面販売システムは、ある人の「生産」が別の人の「消費」であり、ある人の「消費」が別の人の「生産」であるという、「生産と消費の相互性」原理をより顕在化させるだろう。生産と消費の相互性について、「生産と消費について」の項から引用しておこう。

(引用開始)

 「生産」(他人のための行為)と「消費」(自分のための行為)には、必ず相手が存在する。一対多である場合もあれば一対一ということもあるだろうし、「生産」がサービスではなく物(商品)の場合は在庫期間もあるだろうが、他人のための行為にはかならず受け手が想定されるし、自分のための行為にはかならずそれを与えてくれる人が居る。自然を満喫しようと思って山歩きをしたとしても、どこかに誰か、山道を整備してくれた人が居るはずなのだ。三つ星レストランのシェフが腕によりをかけて料理を作ろうとすれば、すばらしい素材を提供する多くの農家や酪農家が必要となる。オペラ歌手にはその技量を味わう観客が必要なのだ。

(引用終了)

このブログのカテゴリ「街づくり」の各項で取り上げてきたテーマは、みなそのような“シェア”型経済に根ざした活動(の諸相)である。

3. 精神的自立の必要性

 “シェア”は、

私有     → 共同利用
独占、格差 → 分配
ただ乗り   → 分担
孤独     → 共感

ということであるから、その前提として、個人の精神的自立が必要である。そうでないとメンバーの間にもたれ合いや依存状態が生じ、“シェア”のコンセプトそのものが成り立たなくなる。日本人(日本語)の環境依存性については、カテゴリ「言葉について」の各項でも論じてきたが、元一橋大学学長の阿部謹也氏は、その著書“「世間」とはなにか”(講談社現代新書)のなかで、日本人の環境(人間関係)依存性について、

(引用開始)

 日本の個人は、世間向きの顔や発言と自分の内面の想いを区別してふるまい、そのような関係の中で個人の外面と内面の双方が形成されているのである。いわば個人は、世間との関係の中で生まれているのである。世間は人間関係の世界である限りでかなり曖昧(あいまい)なものであり、その曖昧なものとの関係の中で自己を形成せざるをえない日本の個人は、欧米人からみると、曖昧な存在としてみえるのである。ここに絶対的な神との関係の中で自己を形成することからはじまったヨーロッパの個人との違いがある。わが国には人権という言葉はあるが、その実は言葉だけであって、個々人の真の意味の人権が守られているとは到底いえない状況である。こうした状況も世間という枠の中で許容されてきたのである。

(引用終了)
<同書 30ページ>

と述べておられる。精神的自立の必要性については、カテゴリ「公と私論」の各項でも論じてきた。参照いただければと思う。

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日本のモノづくり

2011年11月14日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 “奇跡のモノづくり”江上剛著(幻冬舎)という本を読んだ。まず新聞書評の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

 至高のゴルフクラブを製造する本間ゴルフ、個性を極めた焼酎を造るメルシャン八代工場、ビールの泡が消えない不思議なタンブラーを生んだ山崎研磨工場など8ヶ所の現場を著者が訪ね、モノづくりの真髄を報告する。本間ゴルフでは、塗装一筋25年の職人が言う。「自分の仕事はこれだというか、魂で仕事をやっていますよ」。日本はモノづくりでいくしかない、という著者の強い思いがあふれている。

(引用終了)
<朝日新聞 9/18/2011>

 著者の江上剛氏は経済小説で知られた作家だが、東日本大震災の被害に直面して自信を失いかけている人々に、もういちど日本のモノづくりの力強さを伝えたいとの想いから、この本の取材執筆を思い立ったと云う。紹介された8つの現場は以下の通り。

1. 本間ゴルフ・酒田工場(ゴルフクラブ製造)
2. メルシャン・八代工場(焼酎づくり)
3. 山崎研磨工場・燕市(タンブラーなどの研磨)
4. コニカミノルタ・豊川工場(プラネタリウム製造)
5. クレラ・新潟事業所(新素材開発)
6. キッコーマン・野田工場(醤油の国際化)
7. 宮の華・宮古島(琉球泡盛づくり)
8. 波照間製糖・波照間島/シートーヤー・宮古島(黒糖づくり)

どの現場にも「元気なリーダー」がいて「宝石のような言葉」がある。本の前書きから、江上氏の想いの篭った文章を紹介しよう。

(引用開始)

 日本は、モノづくりで生きて行くしかない。金融立国論を唱える人もいるだろう。しかし日本が世界から認めれ、世界に貢献できるのは、モノづくりの力だ。日本のモノづくりは、決して死なない。これからも生きて、輝き続ける。私は、彼らを取材してますます強くそう考えるようになった。私は、彼らから勇気をもらった。日本の将来に不安を抱いている皆さんにもその勇気をぜひお分けしたい。

(引用終了)
<同書 7ページ>

 モノづくりの本質は、絶え間のないProcess Technologyの改善である。以前「日本の生産技術の質が高い理由」の項で、日本語が母音語であることと、それに伴って起こる「自他認識」の希薄性が、「話し手の意識を環境と一体化させる傾向」を生み、それが自然や組織ばかりではなく機械などの無機的環境に対しても働くことを論じたけれど、日本のモノづくりの質の高さは、この「日本語の特質」に由るところが大きいと思う。

 このブログでは、安定成長時代の産業システムとして、多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術の四つを挙げているが、これらの中心に「日本のモノづくり」があるのは間違いないだろう。

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仕事の達人 II 

2011年10月18日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 前回の「仕事の達人」に続いて、今回は仕事へのモチベーションをどうキープするかについて書いてみたい。勿論前回みた脳内物質のコントロールや起業家精神をもって進めば、モチベーションは保たれる筈ではあるけれど、そこは人間、仕事以外でいろいろと悩むことも多い。

 “ポジティブな人だけがうまくいく 3:1の法則”バーバラ・フレドリクソン著(日本実業出版社)という本は、人の心理状態をポジティブ(自己肯定的な心の状態)とネガティブ(自己否定的な心の状態)とに分け、モチベーションに関連してこの二つの比率に注目している。

 著者はアメリカの心理学者だが、様々な実験によって、ポジティブ比率がある点(転換点)を越えると、ポジティブ・フィードバックが掛かってその比率がさらに上昇することを確かめたという。逆に転換点を下回ると、人はネガティブ・スパイラルに陥ってしまうという。本のタイトルからも分る通り、その転換点の比率は、3:1(ポジティブ3:ネガティブ1)以上ということである。

 たしかに自己否定的な心理状態は人を落ち込ませる。なにごとも常に前向きに考えることは大切だ。ここで著者のいう「10のポジティブ感情」を挙げておこう。

1.  喜び(Joy)
2.  感謝(Gratitude)
3.  安らぎ(Serenity)
4.  興味(Interest)
5.  希望(Hope)
6.  誇り(Pride)
7.  愉快(Amusement)
8.  鼓舞(Inspiration)
9.  畏敬(Awe)
10. 愛(Love)

ということで、どれも自己肯定的な心理状態である。

 以前「モチベーションの分布」や「興味の横展開」で述べたように、個人のモチベーションは必ずしも会社の目標と合致するわけではないけれど、生きていく上でこれらのポジティブ感情を増やすことができれば、人生の目標を支える日々の仕事についても、前向きに取り組むことができるだろう。

 ところで、この本には3:1の比率の分析に関して、「バタフライ効果」の話が出てくる。その部分を引用したい。

(引用開始)

 ロサダの方程式は、マネジメントチームの行動がひとつの複雑系―――具体的にいうと、非線形動的システム―――を反映していることを示しています。非線形動的システムの顕著な特徴は、よく「バタフライ効果」という言葉で呼ばれます。些細に見えるインプット(たとえば、ある地域でチョウチョが羽をばたつかせること)が、のちに他所でそれと比較にならない大きな結果につながる、というような意味です。
 確かにポジティビティは「バタフライ効果」なのかもしれません。チョウチョの羽のばたつきのように、かすかなポジティビティが驚くほど大きな結果につながるからです。

(引用終了)
<同書178−179ページ>

ここでいうロサダの方程式とは「チーム行動の数学的モデリング」から導かれたチーム連結性を示す数式のことで、著者の「拡張―形成理論」と多くの点で整合するという。詳しくは本書をお読みいただきたいが、ある転換点を超えると、ポジティビティの拡張(上昇スパイラル)が起こるというのが「拡張―形成理論」であり、ロサダの方程式などと共にこの理論が「3:1の法則」のベースとなっている。

 バタフライ効果とは、気象学でよく使われるTermである。「仕事の達人」の項で挙げた脳内物質(神経伝達物質)のコントロールを仕事術への免疫学(生物学)的アプローチとすれば、このポジティブ比率の考え方は、いわば気象学的(物理学的)アプローチと云ってもよいかもしれない。

 以前「気象学について」の項で、免疫学と気象学への共通興味として「社会科学への応用」を挙げたけれど、免疫というミクロコスモスと気象というマクロコスモスの両面から中間のメゾコスモスを分析するというアプローチは、社会分析だけでなく、「仕事の達人」への道にも応用できるようだ。

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仕事の達人

2011年10月10日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 以前「人生系と生命系」の項で、
 
(引用開始)

人生の達人と呼ばれる人々は、「交わりにくいふたつの物語」をそよ風にでも準(なぞら)え、振幅が小さい呼吸や脈拍、脳波といった振動から、振幅が中位の昼と夜、気圧と気温、仕事と休息といったリズム、さらには幼年期、青年期、壮年期、老年期といった人生の大きな波動を、「1/f のゆらぎ」の要領で上手く同期(synchronize)させているのかもしれない。

(引用終了)

と書いたけれど、人生の達人の前に、まず「仕事の達人」になろうということで、今回は、“脳内物質仕事術”樺沢紫苑著(マガジンハウス)と、“スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション”カーマイン・ガロ著(日経BP社)の二冊の本を紹介したい。

 まずは“脳内物質仕事術”から。脳内物質とは著者の造語で、そもそもドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のことを指すという。新聞の紹介記事を引用しよう。

(引用開始)

脳の仕組みを利用した上手な働き方指南

 精神科医である著者が、ビジネスマンに向けて脳内物質を活かした仕事術を伝授。精神論で乗り切るのではなく、脳の仕組みを利用した上手な働き方を提案している。
 紹介されているのは、モチベーションを高める幸福物質「ドーパミン」、緊張感やプレッシャーで効率を高める「ノルアドレナリン」、興奮や怒りと関連して分泌される勝負物質「アドレナリン」、うつ病予防にも役立つ癒やし物質「セロトニン」、疲労回復に欠かせない睡眠物質「メラトニン」、認知機能とひらめきを高める「アセチルコリン」、究極の癒やし物質「エンドルフィン」の7つの脳内物質。これらはどれかが突出していてはダメで、バランスがよく分泌されていることが重要なのだという。例えばアドレナリンは、火事場のバカ力を出すには有効なものの、出しすぎれば疲弊状態に陥るのだとか。それぞれの脳内物質をオン・オフにするための食事法や生活術が紹介され、実践的だ。

(引用終了)
<日刊ゲンダイ 1/8/2011>

仕事には呼吸法も大切である。呼吸法については、以前「自律神経と生産と消費活動について」の中で述べたことがある。この脳内物質活用術と、仕事中の呼吸法とによって、昼と夜、仕事と休息などのリズムをより上手くコントロールできるようになる筈だ。

 “スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション”は、アップルの創業者をモデルに、商品開発における起業家の理念を分りやすく7つに纏めたものだ。これも新聞の紹介記事を引用しよう。

(引用開始)

 本書を見てすぐ気付くのはベストセラーになった『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』(日経BP社)の「二匹目のドジョウ」を狙った作品という点だ。著者も訳者も装丁も同じ。唯一異なるのは、前著がジョブズ氏の情報伝達力に焦点を当てたのに対し、今回は彼や米アップルの卓越した商品開発力をテーマにした点である。
 「シンク・ディファレント」。アップルを追われたジョブズ氏が返り咲いた翌年、同社が1997年から始めたキャンペーンのコピーだ。これを機にアップルは「iMac」「iPod」「iPhone(アオフォーン)」「iPad」と、強烈な勢いで世界を変える商品を世に出した。
 本書はその開発力の源泉はジョブズ氏の創造性にあるとし、7つの法則にまとめた。すなわち「大好きなことをする」「製品を売るな。夢を売れ。」「メッセージの名人になる」―――。前著でジョブズ氏の逸話を多数紹介したため、今回は他の成功者の話も交え、法則を説明している。
 興味深いのは外村仁氏の解説だ。「iPod」のアイデアは外部からの提案だが、先に話を聞いた日本の家電メーカーは皆、前例のない商品に「ノー」といったそうだ。まさに利用者視点に立ったジョブズ氏の感性が成功をもたらした。前著と合わせて読むと、日本企業に足りない何かが見えてくる。井口耕二訳。

(引用終了)
<日経新聞 8/21/2011>

書評に書かれなかった7つの法則の残りは、「宇宙に衝撃を与える」「頭に活を入れる」「1000ものことにノーと言う」「めちゃくちゃすごい体験をつくる」である。先日亡くなったジョブズ氏から我々が学ぶところはとても多いと思う。

 起業の理念については、「理念(Mission)と目的(Objective)の重要性」などで論じた。また、組織におけるリーダーシップについては「ホームズとワトソン」や「リーダーの役割」の項で述べた。

 7つの脳内物質活用術と呼吸法、起業理念と商品開発の7つの法則、リーダーシップの自覚などをもって、みなさんも「仕事の達人」への道を目指していただきたい。

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布づくり

2011年04月19日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 先日「境界としての皮膚」の項で、身体の境界としての「皮膚」について述べたけれど、人が身に纏う「布」は、身体境界の社会的な表現であり、まさに「第二の皮膚」と云えるだろう。

 “魂の布”松本路子著(淡交社)という本は、日本を含むアジア地域でこの「第二の皮膚」であるところの布づくりに励む、12人の女性作家たちを(美しい作品写真と文章とで)紹介している。表紙カバー裏の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

モンスーンアジアの12人の女性作家をめぐる旅は、
スピリチュアルな気配に満ちていた。
かつて布は神への捧げ物として、
また愛する人の無病息災を祈り、
その魂を守るためにと、染め、織られた。
現代の布作家たちもまた、
糸や染料など自然からの生命(いのち)を得て、
その素材を慈しみ、祈るように造形していく。
「魂の布」のいまれる瞬間のきらめき。
そしてその布は、手にした者を立ち去りがたくする
魔力をたっぷりと内に秘めていた。
――「あとがき」より――

(引用終了)
<表紙カバー裏の紹介文>

12人の女性作家とは、

竹染めの白     秦泉寺由子(バリ)
黒檀染めの黒茶   瀧澤久仁子(タイ)
精霊の布      ヴォアヴァン・ポウミン(ラオス)
こころも       真砂美千代(葉山)
錦の織花      サワニー・バンシット(タイ)
あけずば織り    上原美智子(沖縄)
芭蕉交布の彩    石垣昭子(西表島)
柿渋染めの衣    原口良子(西荻窪)
墨・染・織      真喜志民子(沖縄)
蚕衣無縫      安藤明子(多治見)
風の手織り布    真木千秋(あきる野)
ジャワの華布    ジョセフィーヌ・コマラ(ジャワ)
<目次と本の帯より>

の各氏である。本の帯には、“大地のエネルギーを秘めた布をめぐる旅”とあり、12人の居住地(上記リストの括弧内)と作品の写真がある。作家たちのストーリーはどれも素晴らしい。私は、自己の「女性性」を最大限にしてこの本を堪能した。本には、収録作家のギャラリー・ショップ情報も載っているから、興味のある方はコンタクトしてみていただきたい。

 このブログでは、「多品種少量生産・食品の地産地消・資源循環・新技術」の四つを「安定成長時代の産業システム」として捉え、そのシステムを牽引するのは「フレキシブルで、判断が早く、地域に密着したスモールビジネス」であると指摘している。

 自然素材を用いた多彩な機織・布づくりは、「多品種少量生産・資源循環」の二つに関わっており、12人の女性作家たちが起こしたビジネスは、まさに「フレキシブルで、判断が早く、地域に密着したスモールビジネス」である。12人の皆さんの更なる活躍に期待したい。

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宝石のような言葉

2011年02月01日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 “夢の扉〜NEXT DOOR〜不可能を可能にした会社”菊野浩樹著(朝日新聞出版)を読んだ。元気ある日本のスモールビジネス9社を紹介した本で、(TVプロデューサーである)著者菊野氏が、自らのドキュメンタリー番組で取り上げた社会フロンティアたちの中から、特に印象に残った会社を再取材して纏めたものだ。

(引用開始)

人も、会社も、日本もまだまだ捨てたものじゃない!
人を救いたい、アイデアで役に立ちたい、失敗しても諦めない……
プロデューサーが自ら綴った、番組で触れられなかった感動のドラマ。
放送300回を超えた人気長寿番組、初の単行本化。

(引用終了)
<本の帯の紹介文より>

ということで、その9社とは、

(引用開始)

1 ふわふわのパンを缶詰で世界を救いたい|パン・アキモト
2 家を空気で浮かせて地震から守りたい|ツーバイ免震住宅
3 事故の起きない安全なナットを作りたい|ハードロック工業
4 あらゆる製品の小型化に役立ちたい|シコー
5 小型風力発電で新しいエコを広めたい|ゼファー
6 世界を駆け回りハイテク産業を守りたい|アドバンスト マテリアル ジャパン
7 日本の伝統を守るため新たな職人を育てたい|秋山木工
8 もっと農業に向き合う人々を増やしたい|マイファーム
9 体が不自由な人にも旅行を楽しんでもらいたい|旅のお手伝い楽楽

(引用終了)
<本の帯裏の紹介文より>

の各社である。どれも社会貢献への確固たる理念(Mission)と目的(Objective)とを持ったすばらしいスモールビジネスだ。

 紹介の最後に載せられた会社基本データによると、各社の従業員数は、非本社籍社員などを除くと8名−76名で、年商は多いところで340億円である。以前「組織の適正規模」の項で述べたように、従業員規模が大きくなると、意思疎通や情報伝達の面で効率が悪くなる。同じことを繰り返すだけの“少品種大量生産”企業はそれでも良いかもしれないが、多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術を旨とするこれからの産業システムにおいては、意思疎通の十全さと情報伝達のスピードが命で、そのためには組織規模が小さい方が断然有利である。ネット時代だから、足りない機能はいくらでも他社との連携によって補完できる。

 この本を読むと、それぞれの社長さんたちがいかに顧客と社員とを大切にしているかがわかる。各社の来歴やオペレーションの詳細は本書を読んで貰うとして、以下、私が気に入った社長さんたちのコメントを幾つか紹介したい。

「親父に言われた言葉があります。私たちは、食品会社です。その食品の“食”という字は、“人”に“良”と書くんですね。そして“品”という字は、“口”が三つじゃないですか。だから、『多くの人の口に良いものを作るのが、食品会社だ』って、教わってきたんです」(「パン・アキモト」秋山義彦氏)

「人を見るときは、半分以上、良いところがあるかどうか。良いところと悪いところを両方、考えてみる。あいつは、だらしなくて無愛想だけど、真面目(まじめ)で、仕事熱心で、手先も器用だから、半分以上は良いところがあるというふうに人を見る。まあ、主観でしかないんですけどね。社員のみんなにも、半分以上良いところがあれば、“良い”と見るよと。そして、そういうやつなら、うちの会社のためになると。人間、100パーセント完璧な人なんていないですしね。もし、いたとしても、まあ、うちの会社には来ないでしょう(笑)」(「ツーバイ免震住宅」坂本祥一氏)

「“顧客満足”が第一だって、いつも言うんですけど。お客さんを満足させないと仕事というのは安定しないし、拡大していかないね。お客さんの満足より自分の満足が先に来たら、絶対ダメ。たとえば、仮に一個10円でできるものを50円で売ったら40円儲かるじゃないですか。自分は儲かるけど、お客さんは満足しませんね。それじゃ、うまくいかないわけですよ」(「ハードロック工業」若林克彦氏)

「どんな商品でも、同じ性能なら小さいほうがいい。機能さえあれば、姿はいらないんですよ。あとは、商品が小さければ材料も少ないから費用がかさまない。その分、知恵の勝負になる。日本は資源がないから、知恵で戦わないとダメだと思っています」(「シコー」白木学氏)

「社長になる人は、ビジョンを語れる人でないとダメ。ここで大事なのは『語れる』ことだよ。ビジョンを持つだけじゃダメ。ビジョンを持って、人に語る。人に伝えるんだよ。要するにビジネスの世界は、常に群れだからね。群れの中でコミュニケーションしないと。そのためには、口に出して語らないと」(「ゼファー」伊藤瞭介氏)

「何かにこだわるやつ、物事にこだわるやつね。そして、ちょっとしつこいやつ。そういう人は、知識も含め、専門的な考え方ができるようになる。そして同時に、広い視野を持っている人がいいね。あまり、偏見とか、差別意識とか、持っている人はダメだね」(「アドバンスト マテリアル ジャパン」中村繁夫氏)

「『機械を導入すると、10人の職人のクビが切れるよ。今は高くたって、長期的には、人件費の大きな節約になるよ』って言われたんです。でも絶対に、買わなかった。こんな機械を3000万出して買うならね、人間に3000万円投資したほうがいいよ。こんな機械で作ったもん、そのうち、だれも買わなくなるよ。そういう時代が来るよ、ってね」(「秋山木工」秋山利輝氏)

「日本の農業を変えるには、農家や農地や法制度をどうこうするまえに、まず消費者の意識を変えなければいけません。実際に農業をしてみて、自分で育てた作物を自分で食べる。その一連を我々は“自産自消”と言っているんですが、やはり、自分で育てた野菜はおいしいですよ。これが、『めっちゃ楽しい』です。同時に、その“自産自消”を通じて、農業がどれだけ大変か、知ってもらう。『安全で美味しい食品を食べたい』、そう言うだけなら簡単です。言うだけじゃなく、いろんなことがわかった上で、食品の安全や味を考えて欲しいですね」(「マイファーム」西辻一真氏)

「霊山護国神社ですか。確かに、あそこは車椅子では厳しい。でも、お客様がどうしても行きたいとおっしゃったら、なんとか行ける方法を考えますよ。『いけるところ』から『行きたい所』へ、ですからね」(「旅のお手伝い楽楽」佐野恵一氏)

いかがだろう、元気なリーダーたちの宝石のような言葉を味わってもらえただろうか。尚、先ほどの会社基本データには、各社のホームページアドレスも載っているから、アクセスして更なる情報を得ることも可能だ。

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騙されるな!

2010年11月23日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 ビジネスを経営していて(資金繰り以外で)一番困るのは、人に騙されることだ。商品の競争力不足や市場とのミス・マッチなどは、後でいくらでも修正が効くけれど、人に騙されるとなかなか取り返しがつかない。

 前回「母音言語と自他認識」の項で説明した“日本語的発想における「自他認識」の薄弱性”の問題点は、人に騙されやすいことだろう。

 「自他認識」の薄弱性は、話し手と聞き手が一体化しやすく「環境や場を守る力」は強いのだが、話し手が環境や場に縛られすぎると、事の本質が見えなくなることが多い。事の本質が見えないと、見せかけの「権威」や「うそ」に騙されやすくなる。

 海外にいくと「日本人はお人好しだ」とよく言われる。それは我々が生まれつきそうなのではなく、日本語そのものに「要因」が埋め込まれていると思われる。

 見せかけの「権威」や「うそ」に騙されないようにするにはどうしたら良いか。以前「自立と共生」の項で、

(引用開始)

精神的に自立していなければ、すぐに他人に騙されてしまい、経済的自立を保つことが出来ない。

(引用終了)

と書いたけれど、自分で物事の本質を見抜くためには、「精神的自立」がまず必要である。そのためには、自分と相手、さらに周りの状況を客観的に把握できなくてはならない。まさに発想における「自他認識」が必要なのである。

 このブログではこれまで、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
B Process Technology−日本語的発想−環境中心

という対比を見てきたが、客観的に状況を把握するためには、環境中心の日本語的発想よりも、自他認識に優れた「主格中心の英語的発想」が必要とされるのだ。

 ビジネスにおいて、見せかけの「権威」や「うそ」に騙されないようにするには、環境や場に過度に縛られることなく、全体を俯瞰して「合理的な判断」をしなければならない。そのためにも、自らの「理念(Mission)と目的(Objective)」に基づいて、信頼できる人的ネットワークを築いていっていただきたい。

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高度な経営

2010年08月24日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 前回「情報公開」の項で、

(引用開始)

 組織が競争に打ち勝つには、「情報公開」によって組織メンバーの能力を結集し、その上で、最適戦略を立案することが求められるのである。

(引用終了)

と書いたけれど、企業が競争に打ち勝つためには、「情報公開」ばかりではなく、日本語の「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の源泉を分析し、それをさらに、「自覚的」に利用することも考えなければならない。

 どういうことか説明しよう。「先輩と後輩の関係」「迷惑をかけない」「空気を読む」「派閥をつくる」「敬語の使用」「上座と下座」「お辞儀」「相手にあわせる」といった「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の表出形態には、そもそも何故それらが日本社会に出現したのかという歴史的理由(わけ)がある筈だ。今日の機能組織(ゲゼルシャフト)では、往々にしてそれらが「組織内の秩序を乱さないように努力する姿」となってしまい、変革の妨げになるわけだが、その表出形態の源泉を探り、その奥にあるエッセンスだけをいまの経営に生かすことができれば、今日の機能組織にとっても、「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」そのものは、力強い見方になり得るということである。

 もともと、「先輩と後輩の関係」「迷惑をかけない」「空気を読む」「派閥をつくる」「敬語の使用」「上座と下座」「お辞儀」「相手にあわせる」といった「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の表出形態は、日本の近代化以前の、血縁・地縁組織(ゲマインシャフト)において整備された、きわめて「身体性」の強い、日本人特有の行動様式であった。個人という主格中心ではなく、家族や一族、身分、自然や神々などの「環境」を中心に据えた、人々の「身の処し方」であった。

 であるならば、「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の表出形態の奥にあるエッセンスは、環境を中心に据えた身の処し方、つまりは「身体性」そのものであると考えることができる。従って、その「身体性」を上手くいまの経営に生かすことができれば、今日の機能組織にとっても、「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」そのものは、力強い見方になり得るということなのである。

 一昔前、日本的経営の鏡としてもてはやされた「家族的経営」を例にとって具体的に考えてみよう。

 「家族的経営」手法は、家族や一族、身分、自然や神々などの「環境」の代わりに、「会社」という「環境」を中心に据え、経営者と社員の「身の処し方」を謳ったものである。「会社」をいわば擬似的家族として位置付けるわけだ。昨今のグローバルな競争のなかで、「家族的経営」は、組織の効率的な運営を妨げる元凶として打ち捨てられた感があるけれど、使い方を間違えなければ、今日でも会社運営における力強い見方になる筈だ。

 なぜ「家族的経営」が一見時代遅れのように見えるのか。それは、会社の規模が肥大化し、経営者と社員一人ひとりの顔が見えなくなってしまったこと、経営者が自分の家族を後継者に据えるなど、「家族的経営」を意思決定プロセスに用いてしまったこと、などが主な理由であろう。「身体性」の強い「家族的経営」手法は、組織規模を適正に保ち、その上で、従業員のモチベーション管理などに限定して用いるべきなのである。

 組織経営には、戦略思考であるところのResource Planningと、工程の改善を図るProcess Technologyの両方が必要であることは、以前“現場のビジネス英語「Resource PlanningとProcess Technology」”の項で説明した。意思決定プロセスはResource Planningの重要エレメントであり、従業員のモチベーションはProcess Technologyのエレメントである。このProcess Technologyの実現手段として、日本では「家族的経営」「ボトムアップ」「サークル活動」「全員参加」「会社運動会」などが有効に働く筈である。

 以前“現場のビジネス英語「MarketingとSales」”の項で、今は亡き井上ひさし氏の著書を紹介しつつ、「自治の精神」(Resource Planning的エレメント)と「市民同士の連帯」(Process Technology的エレメント)について書いた文章も、ここに再録しておこう。

(引用開始)

 ところで、Resource PlanningとProcess Technologyの二つを活かす「包容力」は、企業経営だけに止まらず、あらゆる組織運営に必要なことだと思う。

 最近「ボローニャ紀行」井上ひさし著(文藝春秋)を読んだが、氏はその軽妙な語り口で、ボローニャ市民が豊かな地域文化を創りあげてきた背景には、ローマ時代から長く受け継がれてきた「自治の精神」があり、市民たちの思考の原点には自分という「主格」がしっかりと置かれていること、と同時に彼らはボローニャという自分たちの「環境」を大切にし、市民同士の連帯のなかからいろいろなビジネスや施設を立ち上げていることを指摘しておられる。都市の運営にも的確なResource Planningと、行き届いたProcess Technologyが必要なのだ。

(引用終了)

 「崖の上のPonyo」の項で紹介した株式会社「スタジオジブリ」は、数年前に社員のための保育園を設立した。ソフト販売会社の「アシスト」は、数年前から従業員の週末農業を助成している。これらは、「家族的経営」手法を従業員のモチベーション管理に導入した、優れた例と云えよう。

 尚、企業における「従業員のモチベーション管理」の重要性は、以前「リーダーの役割」の項で述べた、

(引用開始)

 社員が何に興味を持っているのか、何に向いているのかを良く見て、社内外で適材適所を図るのがリーダーの役割の第一である。

(引用終了)

という指摘とも重なる筈だ。

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posted by 茂木賛 at 09:21 | Permalink | Comment(0) | 起業論

マグネシウム循環社会

2010年05月25日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 “マグネシウム文明論”矢部孝/山路達也共著(PHP新書)を読む。まず本カバー裏の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

石油の次のエネルギー資源は何か?太陽電池で日本のエネルギーを賄(まかな)おうとすると、国土の六割を覆う必要がある。水素社会なら地下が水素貯蔵タンクだらけ。リチウムイオン電池を載せた電気自動車が普及すると、リチウム資源が不足する。さらに、今の造水法で世界的な水不足に対応するには、世界の電力を五割増やさねばならない。この状況を突破する解こそ「マグネシウム循環社会」である。『タイム』誌で二〇〇九年Heroes of the Environmentに選ばれた、二酸化炭素二五%削減も実現する新技術を公開する。

(引用終了)

ということで、この本は、海水に含まれるマグネシウムを使った、エネルギー循環社会について書かれたものだ。本文は、テクニカルライターの山路達也氏が、矢部孝東京工業大学教授の研究・事業内容をわかりやすく紹介する形をとっている。詳しくは本書をお読みいただきたいが、以下、簡単にそのステップを説明しよう。

 まず初めのステップは、海水に含まれる塩化マグネシウムを、淡水化プラントにて、淡水と塩化マグネシウムに分化する。さらに塩化マグネシウムに熱を加えて酸化マグネシウムにする。淡水はそのまま農作物の生産などに使用される。

 次に、精錬所で、淡水化プラントから送られた酸化マグネシウムを金属マグネシウムにする。ここでは、太陽光からレーザー光線を作り、そのレーザー光線によってマグネシウムを製錬する。

 できた金属マグネシウムは、消費地に送られ、発電所の燃料や燃料電池として車などに使われる。この燃料電池は、マグネシウムと酸素の反応を利用するもの(空気電池)だ。使用されて(燃やされて)酸化したマグネシウムは、再びマグネシウム精錬所に送られ、レーザー光線によって金属マグネシウムに戻される。

 以上がマグネシウム循環のステップだが、エネルギー源として使われるのは、海水と太陽光、それと酸素である。海水中の総マグネシウム資源量は1880兆トン(石油10万年分)というから、太陽光や酸素と併せて、エネルギー源は無尽蔵と云えるだろう。各ステップで、有害物質が排出されることもないという。

 課題は勿論、各ステップにおける変換効率であろう。淡水化プラントやマグネシウム精錬所、発電所や空気電池製造工場などにおける設備投資と、そこから得られる各エネルギーの回収量が長期的に見合わなければ、いくらエネルギー源が無尽蔵にあるといっても、事業としては成り立たない。

 鍵を握るのは、各ステップで導入される新技術である。淡水化プラントにおける高速回転ローラーなどを使った淡水化技術、マグネシウム精錬所で必要となる太陽光励起レーザー、自動車などで使われるマグネシウム空気電池などなど。これらの新技術の完成度によって、各ステップにおけるエネルギー変換効率が決まってくる。

 これらの新技術のうち、実用化に漕ぎ着けたのは、最初のステップである淡水化技術であるという。本書から引用しよう。

(引用開始)

 太陽光の集熱機で80~90度に暖めた海水を、ローラーで細かい水滴にして蒸発させ、蒸留水をつくる。この方式は、高価な逆浸透膜も不要ですし、メンテナンスも容易です。
 さらに、水が蒸発する際の潜熱を回収して再利用するなど改良を重ね、「ペガサス浄水化システム」と名づけました。(中略)
 すでに装置自体は完成しており、10トン/日の淡水化能力を実現しています。逆浸透膜法の装置と比較した場合、価格当たりの生産水量は9倍です。逆浸透膜法は電気代がかさむのが難点ですが、ペガサス浄水化システムは太陽熱や排熱を利用するため、ランニングコストがほとんどかかりません。

(引用終了)
<同書185−186ページ>

いかがだろう。研究を推進する矢部教授は、各技術に自信を表明しておられるので、成果に期待したいと思う。尚、マグネシウム循環社会構想については、”The Magnesium Civilization”に、最新情報が紹介されているので、興味のある人は参照して欲しい。

 このブログでは、日本の安定成長時代を代表する産業システムとして、

1. 多品種少量生産
2. 食の地産地消
3. 資源循環
4. 新技術

の4つを挙げている。マグネシウム循環社会構想は、このうち「資源循環」と「新技術」に関わっているので、今後、有望なビジネスの一つとなるだろう。

 またブログでは、これらの産業システムを牽引するのは、フレキシブルで、判断が早く、地域に密着した「スモールビジネス」であると書いてきたけれど、この研究を推進するのは、東京工業大学発ベンチャー株式会社エレクトラ(代表取締役会長・矢部孝)であり、淡水化プラントを運営するのは、傘下の株式会社ペガソス・エレクトラ(社長・吉川元宏)であるという。この淡水化プラントは、さらに多くのスモールビジネスによって支えられている。

(引用開始)

 ペガサス浄水化システムの製造を請け負っているのは、大手メーカーの下請けをしている中小企業数十社です。2008年、中小企業が集まっている東京の瑞穂町(みずほまち)で、マグネシウム循環社会のビジョンについて講演をしました。そのビジョンに共感した中小企業の経営者と組んで、淡水化装置のビジネスを展開しています。

(引用終了)
<同書188ページ>

関係する皆さんのご活躍を応援したい。

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posted by 茂木賛 at 13:09 | Permalink | Comment(0) | 起業論

内需主導と環境技術

2009年11月09日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 このブログでは、これからの日本の安定成長時代を代表する産業システムとして、

1. 多品種少量生産
2. 食の地産地消
3. 資源循環
4. 新技術

の四つを挙げてきた。これらの産業システムは、今回「政権交代」により実現した民主党政権が掲げる、「内需主導と環境技術」政策と重なる部分が多い。鳩山首相の所信表明演説からその部分を引用しよう。

(引用開始)

 同時に、内需を中心とした安定的な成長を実現することが極めて重要となります。世界最高の低炭素型産業、「緑の産業」を成長の柱として育てあげ、国民生活のあらゆる場面における情報通信技術の利活用の促進や、先端分野における研究開発、人事育成の強化などにより、科学技術の力で世界をリードするとともに、今一度、規制のあり方を全面的に見直し、新たな需要サイクルを創出してまいります。

(引用終了)
<10/27/09 東京新聞より>

「内需を中心とした安定的な成長」を支える産業システムは、国民生活の多様なニーズに応えるという意味で「多品種少量生産」が基本型であり、需給双方を押し上げるという意味で「食料の地産地消」が重要となる。環境政策としての「緑の産業」を支えるシステムは、当然「資源循環型」でなければならず、水の浄化などを生み出す「新技術」がより重要となる。

「内需主導」
1. 多品種少量生産
2. 食の地産地消

「環境技術」
3. 資源循環
4. 新技術

ということで、これらの産業システムが、鳩山政権の政策と呼応しながら、さらに強化されていくことを期待したい。

 この「内需主導と環境技術」政策は、21世紀におけるエネルギーが、これまでの化石燃料一辺倒から太陽光熱などへ多様化していくことを背景としている。従って、

1. 多品種少量生産
2. 食の地産地消
3. 資源循環
4. 新技術

の四つは、21世紀型エネルギーそのものを担う重要な産業システムであるとも云えるだろう。

 最近、21世紀のエネルギーに関して、“流域思想”というものがあることを知った。“流域思想”とは、山岳と海洋とを繋ぐ河川を中心にその流域を一つの纏まりとして考える発想で、これからの食やエネルギーを考える上で重要なコンセプトの一つだと思われる。上の四つの産業システムは、この大地と海洋とを繋ぐ“流域思想”にこそ相応しいと思う。“流域思想”については、“本質を見抜く力”養老孟司・竹村公太郎共著(PHP新書)や“環境を知るとはどういうことか” 養老孟司・岸由二共著(PHPサイエンス・ワールド新書)などに詳しい。

 鳩山首相の所信表明演説には、これ以外にも、「人の笑顔がわが歓び」、「自立と共生」、「新しい公共」、「人間のための経済」、「中小企業重視」などなど、このブログでこれまで書いてきたことと重なる主張や政策が多い。それらについても折を見てコメントしていきたい。

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6つのパーソナリティ

2009年10月26日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 先日の土曜日、川原会計事務所主催の異業種交流会に出席した。川原会計事務所さんには、SBSC(スモールビジネス・サポートセンター)でインフラサポートパートナー(ISP)をお願いしている関係で、交流会にはよく顔を出している。

 今回の交流会は、美容・健康の仕事に携わる人中心ということで、先回このブログで書いた「皮膚感覚」と繋がりがあり、その分野の方々とお話が出来て楽しかった。交流会は講演と懇親会の二部構成で、講演では、PCMトレーナーの星野優美子さんのお話があった。

 PCMとはProcess Communication Modelの略で、星野さんのお話によると、ビジネスや私生活におけるコミュニケーションに、行動・思考・感情の分類を役立てようというトレーニングであるという。PCMでは、人のパーソナリティを大きく6つに分類し、各パーソナリティ・タイプ(性格の要素)の組み合わせから、個性が生まれるとする。6つの分類は以下の通りである。

(1) リアクター:感情・フィーリングを重要視する人。
(2) ワーカホリック:思考・論理、合理性を重要視する人。
(3) パシスター:自分の価値観や信念に基づいて行動する人。
(4) ドリーマー:内省、創造性に生きる静かな人。
(5) プロモーター:行動の人。チャレンジ精神が旺盛。
(6) レベル:反応・ユーモアの人。好きか嫌いかがという反応重視。

くわしくは専門のトレーニング・コースがあるようだが、当日頂いた資料から、6つの分類についてさらに引用しよう。

(引用開始)

リアクター:
感情、フィーリングを重要視します。人の気持ちを思いやり、気遣い気配りができます。また、感受性が豊かで人間関係の調和を大切にします。

ワーカホリック:
思考・論理がこの人たちの中心です。計画性があり、責任感が強く、合理的な考え方をします。見るもの全てがデータとして取り込まれ、自分の中に整理分類されます。これをまた必要に応じて取り出すことができます。

パシスター:
自分なりの意見、価値観がはっきりとあります。信念に基づいて動きます。良心的、献身的、観察力が鋭い人たちです。

ドリーマー:
内省(自分の中を見つめる)、創造性に生きる静かな人です。物静かで思慮深く、外界に対して働きかけることより、自分の中の世界に目を向けています。

プロモーター:
行動の人です。順応性があり、説得力もあるので人をひきつけます。考えるよりもまず行動、とにかく“やってみる”というタイプです。チャレンジ精神が旺盛です。

レベル:
反応・ユーモアの人です。好きか嫌いかという反応が全てです。自発的で豊かな創造力を持ち、遊び心に溢れています。また今を楽しむ能力に長け、直感が鋭いところがあります。

(引用終了)
<「人間関係力アップ―自分も相手も幸せになるコミュニケーション」(PCMトレーナー 星野優美子)より>

 さてこのトレーニング、まずは自分のパーソナリティ・タイプ(の組み合わせ)を知るところから始まるという。特に、自分の考え方が人と違うことに悩んでいる人は、このトレーニングによって、なぜ自分がそう考えるのかという理由が(能力の優劣ではなく)パーソナル・タイプにあることを知り、それほど悩まなくなるという。皆さんも、自分に当て嵌まるパーソナリティ・タイプを探ってみていただきたい。

 自分のパーソナリティ・タイプを把握した上で、次はコミュニケーション・スキルである。そのためにはまず、相手のパーソナリティ・タイプを見抜くことが必要となる。くわしくは専門のトレーニングが必要だが、相手のパーソナリティ・タイプを知ると、対応をそのパーソナリティ・タイプに合わせることで、どのような人とでもコミュニケーションをスムーズに運ぶことが出来るようになるという。勿論、これらの分類はいわば「理念型」で、現実にはみなそれぞれの要素を併せ持っているわけだから事は単純ではないけれど、相手が(1)のリアクター・タイプであれば、自分が(3)のパシスター・タイプであっても、相手の気持ちを思い遣り、人間関係を重視しながら話せば上手くいくというわけだ。

 いかがだろう、ビジネスや私生活で出逢う人びとはそれぞれ性格が違い、自分のパーソナリティ・タイプだけで話を進めると誤解が生まれやすいという点は、皆さんの経験から云っても納得がいくのではないだろうか。これは、「彼を知り己を知らば百戦殆(あや)うからず」という、孫子の兵法とも通ずる考え方である。とくにコミュニケーションに苦労されている方は、この分析手法を活用してみてはいかがだろうか。ところで星野さんによると、この分類、男性と女性によってタイプの比率が異なるという。男性は(2)、(3)、(5)のタイプが多く、女性は(1)、(4)、(6)のタイプが多いらしい。

 尚、今回の交流会は、白金台のタワー・マンション内で開催された。講演あとの懇親会は同タワー25階で行なわれ、夜景、とくにピンク色に点灯された東京タワーがとても綺麗に眺められた。

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継続は力なり

2009年09月28日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 大リーグの鈴木一朗(イチロー)選手が、今年もまた「200本安打」を達成した。大リーグ史上初の9年連続となる記録である。イチロー選手は日々の努力を欠かさない。「継続は力なり」という言葉があるけれど、これはまさにイチロー選手の為にあるような言葉だ。毎日新聞の「余禄」コラムに載っていたイチロー選手の語録から引用しよう。

(引用開始)

「ビックリするような好プレーが勝ちに結びつくことは少ないです。確実にこなさないといけないプレーを、確実にこなせるチームは強いと思います」(児玉光雄著「この一言が人生を変える イチロー思考」より)

(引用終了)
<毎日新聞9/20/09>

 前回「フェアウェイ・キープの原則」のなかで、スモールビジネスを立ち上げる際の注意事項として、

(引用開始)

ビジネスを始めたあと継続的に仕事が来るかどうかは、初期顧客を十分満足させられるかどうかにかかっている。十分満足した顧客は、リピーターとしてあなたの店を訪れてくれるばかりでなく、周りの人にも声をかけてくれるから、店の評判は高まるだろう。

(引用終了)

と初期顧客の満足度を強調したけれど、顧客を満足させる努力は勿論初期だけではなく、そのあともずっと続けていかなければならない。ゴルフの試合に勝つためには、前半戦だけでなく、後半戦も「フェアウェイ・キープの原則」を守らなければならないというわけだ。諸見里しのぶ選手は最終日18番ホールまで手を抜かなかったから優勝したのである。

 顧客の満足のために日々努力を重ねている会社はいつまでも繁盛するし、最初は努力しても途中で止めてしまうところは結局衰退する。社内においても、黙々と努力を重ねる社員は、仲間からの信頼が篤い。だから、その人のところには仕事が次々と舞い込んで来る。「大切な仕事は忙しい人に頼め」というのは、このことを踏まえた経験則なのである。

 とはいうものの、起業後しばらくして経営が安定したら、なにか新しいことにチャレンジするのも悪くはない。200本安打を達成したあとのヤンキーズ戦、

(引用開始)

 本拠、セーフコフィールドのファンが、総立ちでイチローを迎えた。1点を追う9回2死二塁。前日にサヨナラ安打を放ったヒーローへの期待感は最高潮に達した。マウンドにはヤンキーズの守護神・リベラ。すでに3安打してからの打席で、気持ちは前向きになっていた。
 「勢いつけていったれ!と思って」。初球のカットボール。バットに乗せるように振り抜いた。打球は弧を描き右翼席に届いた。逆転2ランは、メジャーでは自信初となるサヨナラ本塁打となった。

(引用終了)
<朝日新聞9/20/09>

イチロー選手も、シアトル・マリナーズという大リーグ球団と契約を結ぶ「個人事業主」だ。「継続は力なり」を実践する中、勿論自身の技量範囲内での冒険だろうが、ときとしてこのようなことを仕出かしてくれるから、彼の「個人事業」から目が離せない。

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フェアウェイ・キープの原則

2009年09月21日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 今年の「日本女子プロ選手権」ゴルフは、諸見里しのぶ選手が通算6アンダーのスコアーで優勝した。二位の全美貞選手がイーブン・パーだから、6打差での優勝ということになる。日曜日の午後TV放送を観ていた限りの話だが、難しいコース設定にも関らず、彼女はドライバーのフェアウェイ・キープ率が高く、グリーンを狙うショットでうまくボールを止めることが出来ていた。

 ドライバーが曲がってボールがラフに捕まると、どんなプロでも次のショットでうまくボールをコントロールすることが出来ない。私の我流ゴルフではどの道うまくボールをコントロールすることなど出来ないけれど、それでもドライバーで打ったボールがフェアウェイに残れば、次のショットは安定する。

 諸見里しのぶ選手は、この「ドライバーでフェアウェイをキープして、グリーンを狙うショットでうまくボールをカップの傍に止める」という「ゴルフの王道」を見事に実践していた。さて、彼女のプレイを観ていて思い出したのは、「リーダーの役割」で述べた、

(引用開始)

経営に必要な情報は、どうしてもリーダー及びその周辺に集中する。内容は変化し量は増えていくから、組織全体のおける情報量の分布は、概ね「ベキ則」に従う。

(引用終了)

というところである。週末のんびりTVを観ていても仕事を思い出してしまうのだから我ながら呆れるが、どういうことか説明してみよう。

 ここでいう「ベキ則」とは、構成要素自体が成長し、ネットワーク上優先的選択が起きる場合の法則で、簡単に言えば、金持ちは益々金持ちになる、という80:20の法則(全体の20%の人が80%の収入を得るという喩え)のことである。

 ドライバーを安定して打てる人は、(次のショットをコントロールすることが可能だから)グリーンを狙うショットでうまくボールをカップの傍に止めることができ、スコアーが良くなるが、ドライバーを安定して打てない人は、グリーンを狙うショットでうまくボールを止めることができず、スコアーを悪くしてしまう。この傾向は18ホール全てで起きる。その結果、スコアーの差はホール毎に累積していく。それまでのスコアーが良ければ、たとえラフに入っても余裕を持って対処出来るから大崩れしない。ゲームが進むにつれて、前者は後者に対してますます(ベキ則的に)優位に立つわけだ。勿論、ゴルフはドライバーの上手い下手だけではないけれど、この差は大きい。

 以前「個人事業主」のなかで、

(引用開始)

 自分の興味分野に確信が持てるようになり、それを仕事に活かしたいと思う人は、「個人事業主」として独立し、自らの得意分野に沿った「スモールビジネス」を立ち上げて、社会への貢献を図っていただきたい。

(引用終了)

と書いたけれど、ビジネスを始めたあと継続的に仕事が来るかどうかは、初期顧客を十分満足させられるかどうかにかかっている。十分満足した顧客は、リピーターとしてあなたの店を訪れてくれるばかりでなく、周りの人にも声をかけてくれるから、店の評判は高まるだろう。逆に初期の顧客を満足させられなければ、悪い評判が立って、ますます仕事が来なくなるだろう。これをゴルフの比喩でいえば、特にゲームの初期、ドライバーできちんとフェアウェイをキープするということである。

 それではどうしたらドライバーを安定して打てるようになるのか。月並みな答えだが、それには練習を積むしかない。練習を繰り返してショットに自信をつけ、試合には平常心で臨む。「日本女子プロ選手権」における諸見里しのぶ選手はまさにそのお手本のようなゴルフだった。

 顧客を満足させるためには、日々の努力が必要である。これからスモールビジネスを立ち上げる人は、この「フェアウェイ・キープの原則」を念頭に置いて、素晴らしいスタート・ダッシュを計っていただきたい。

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自分に投資せよ

2009年09月14日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 以前「贅沢の意味」において、

(引用開始)

 贅沢に限らず、なかなか味わえない特別な体験をした人には、そのことによって、その人にしか出来ない「生産」が可能になる。人生の目的が「生産」であってみれば、贅沢や特別な体験は、その人とその人を取り巻く社会にとって貴重な財産になるのだ。(中略)
 贅沢や特別な体験とは、次の「生産」の質を高めるための「消費」であると考えれば、出来る人は(他人に迷惑がかからない範囲で)どんどん贅沢や特別な体験をすべきだということになる。

(引用終了)

と書いたけれど、“次の「生産」の質を高めるための「消費」”とは、“自分への投資”と同義である。人は、自分へ投資することによって「生産」の質を高め、社会への貢献度を増やすことができる。尚、ここでいう「生産」とは、他人のための行為であり、「消費」とは、自分のための行為を指す。詳しくは「生産と消費論」の各項を参照されたい。

 「興味の横展開」において、自転車を買うことを例に挙げたけれど、これも一つの“自分への投資”である。お金は掛けずとも、図書館で本を借りて読んだり、ネットで文献を検索したり、ジョギングや太極拳で、身体を鍛えたりすることも勿論自分への投資である。自分への投資に際して気をつけなければならないのは、他人の決めた価値を基に投資するのではなく、自分の興味に沿った投資を考えることである。運動でも、流行っているからではなく、自分の興味で選ぶ。勉強でも、有名大学を目指すための受験勉強ではなく、自分で興味を持ったテーマについて学ぶ。旅行でも、お仕着せの団体旅行ではなく、自分で行き先を決める。

 自分の興味に沿った投資には、失敗もあるだろう。しかし「失敗は成功のもと」ということわざ通り、個人的レベルの失敗は、当人にとって貴重な経験であり、それも一種の“自分への投資”と考えることも出来る。以前「失敗学」のなかで、「事件や事故は社会の公共財産である」という考え方を紹介したけれど、「個人レベルの失敗は自分の財産である」と考えれば良いのだ。だから、失敗を恐れずになんでもやってみるべきである。

 先回ご紹介した井形慶子さんも、“英語のおかげ”(中経の文庫)第4章「《興味→行動→達成》の法則」のなかで、興味を持つことが(英語の)上達の秘訣だと述べておられる。

 私は中学・高校時代、興味のあることしか勉強しなかったから、学校の成績はいつも低空飛行で、大学は一浪してかろうじて受かった。それも入試にニーチェの「悲劇の誕生」(の一部)を読んで感想文を書かせるようなところだったから受かったようなもので、普通のところは軒並み落ちた。大学時代、友人とシルクロードとヨーロッパを数ヶ月かけて走破し、一年留年した。社会人になってからの失敗は数え上げればきりが無い。それでも私は、これまで自分の興味に沿って(自分への)投資をしてきたという自負はある。それによって今、他人にはない「生産」が出来るような気がしている。フランク・シナトラではないが、”I did it my way”なのである。

 以前「集合名詞(collective noun)の罠」で、

(引用開始)

集合名詞は行為の主体にはなり得ない。これまで人間社会で起ったことのすべては一人一人の判断と行動(あるいは非行動)の結果であり、これからもそれ以外はあり得ないということを我々は肝に銘じるべきだろう。

(引用終了)

と書いたけれど、「社会の力」は「個人の力の蓄積とその集合」でしかあり得ない。より豊かな社会を作る為に、積極的に自分への投資を行なって、お互いの「生産」の質を高めていこうではないか。

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中小製造業

2009年08月25日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 “中小企業は進化する”中沢孝夫著(岩波書店)という、中小製造業についての本を読んだ。

(引用開始)

「植物のようにしっかりと根を張り、環境に適応して地域経済を支える中小企業の強さと柔軟性」

 中小企業は植物である、一ヶ所に根を張り、周囲の環境が激変してもそれに適応すべくがんばる。中小企業は技術を鍛え、研究開発を怠らず、常に進化することでのみ生き残ることができる。福祉的な政策から発展の政策へと転換した中小企業政策を捉え直し、多様な存在の中小企業をポジティブな見通しに位置づける中小企業進化論。

(引用終了)
<本の帯とカバー裏の紹介文より>

 著者は、福井や長野県の中小企業を訪ね、その実例を紹介しながら、中小企業と地域社会・地域経済との関わりを説明し、さらに海外展開、東アジアとの交流、中小企業の質と政策論の転換などについてもわかりやすく論じている。私も自動車関連の中小製造業さんと関わっているので参考になる。新聞の書評からも引用しよう。

(引用開始)

 「“同じ”の時代から“違う”の時代へ」日本企業は進まねばならないと、私は十数年前から言ってきた。先端技術である液晶、プラズマの大画面テレビで、ソニーなど日本の超大企業が世界市場で苦戦して、巨額の赤字を続けている。それは、テレビはどこの国のどの企業がつくってもほぼ同じであり、大量生産の得意な韓国、台湾との価格競争がきわめて厳しいからだ。一方、工作機械は多種多様であり、非常に多くの企業があってそれぞれ得意な製品を持つ日本は、世界でも断然強く、二五年間も市場しシェアトップを続けている。
 “同じ”ものを大量につくっている大企業とは異なり、中小企業はそれぞれに“違う”ものをつくっている。日本の製造業がこれから進むべき道に向いているのだ。
 著者は、現場を訪ねて綿密な調査をする中小企業研究者であり、数多くの元気いっぱいの企業を紹介している。それを基に、中小企業の現在、将来をどう見るかの議論を展開しているが、その基調は、題のとおり“進化”であり、これからも強くあるべき日本の“ものつくり”を託すことができると分かる。(後略)

(引用終了)
<毎日新聞6/28/09森谷正規評>


 このブログの初回「スモールビジネスの時代」のなかに、

(引用開始)

 最近、品質や安全の問題が頻発し、高度成長時代を支えた大量生産・輸送・消費システムが軋みをみせている。大量生産を可能にしたのは、遠くから運ばれる安い原材料と大きな組織だが、多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術といった、安定成長時代の産業システムを牽引するのは、フレキシブルで、判断が早く、地域に密着したスモールビジネスなのではないだろうか。

(引用終了)

と書いたけれど、「フレキシブルで、判断が早く、地域に密着したスモールビジネス」の製造業版が、この本で語られる中小製造業の姿であろう。

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盤上の自由

2009年08月10日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 短い夏休み、長野の山荘で本を読む。今年山へ持っていった本は、

“世界は分けてもわからない”福岡伸一著(講談社現代新書)
“単純な脳、複雑な「私」”池谷裕二著(朝日出版社)
“シリコンバレーから将棋を観る”梅田望夫(中央公論新社)
“日本語は論理的である”月本洋著(講談社選書メチエ)
“海岸線の歴史”松本健一著(ミシマ社)
“ワシントンハイツ”秋尾沙戸子著(新潮社)
“カガク英語ドリル”柳下貢祟/David P. Baca/遠藤良子監修(シーエムシー出版)

の7冊。テラスに椅子を出し、「並行読書法」の要領で読み進める。短い間だったけれど、深い木立と鳥の囀りに囲まれて至福の時を過ごすことができた。


盤上の自由


 “シリコンバレーから将棋を観る”は、以前「ウェブ新時代」や「カーブアウト V」で紹介した、“ウェブ時代をゆく”の著者梅田望夫氏の最新作である。他の本は別の機会に譲るとして、今回はこの本に触れておきたい。まず本の帯から紹介文の一部を引用する。

(引用開始)

 好きなものはありますか?極めたいことはなんですか?――ベストセラー『ウェブ進化論』の著者が「思考(アイデア)の触媒」として見つめ続けてきたものは、将棋における進化の物語だった。
 天才の中の天才が集う現代将棋の世界は、社会現象を先取りした実験場でもある。羽生善治、佐藤康光、深浦康一、渡辺明ら、超一流プロ棋士との深い対話を軸に、来るべき時代を生き抜く「知のすがた」を探る。

(引用終了)

 梅田氏は、「指さない将棋ファン」として、タイトル戦などをネットで観戦しながらこの本を書かれた。氏は本書で、「ウェブ新時代」における「現代将棋」の意義を、次のように書いておられる。

(引用開始)

 羽生に現代将棋の本質について尋ねるとき、決まって彼が語るのは、つい最近まで「盤上に自由がなかった」ということである。それをはじめて聞いたとき、私は「あれっ」と思った。なぜなら将棋を指すとき私たちは、ルールに違反さえしなければ、盤上でどんな手を指したってかまわないからだ。盤上の自由とは、将棋のというゲームに、おのずから内包されたもののはずである。
 しかし羽生が問題視していたのは、将棋界に存在していた、日本の村社会にも共通する、独特の年功を重んずる伝統や暗黙のルールが、盤上の自由を妨げていたことだった。(中略)
 将棋の世界は、いくら新手を創造しても、それを特許や著作権で守ることなどできない。しかも誰かがどこかで一度指した手は、瞬時に伝達されて研究される。しかし、そんな「情報革命」が進行するこの厳しくて大変な時代も、皆で一緒に進化・成長できる良い時代と考えることができる、こういう時代に生きているからこそ将棋の真理の解明も早く進むのだ、そう羽生は認識しているのである。

(引用終了)
<同書29−45ページより>

ここで語られる「盤上の自由」と「知のオープン化」は、以前「ハブ(Hub)の役割」で書いた「公平性=次数相関±0を心がけること」と共に、これからの社会の有り方の基本だと思う。

 本書には、梅田氏と羽生善治氏との対談も収められており、これからの時代に対する、お二人の思いがとても良く伝わってくる。いずれ羽生氏の著書にも目を通してみたい。

 この本から得たことは「ウェブ新時代」の知見だけではない。子どもの頃私も祖父から将棋を習い、参考書などを買い込んで、矢倉や美濃囲い、棒銀や振り飛車などの戦法を勉強した。この本は、その懐かしい将棋の世界へ私を連れ戻してくれた。本にはタイトル戦の棋譜も載っている。私も「指さない将棋ファン」の一人として、棚の奥に仕舞われた将棋盤の埃を払い、駒を並べてみたくなった。

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個人事業主

2009年06月16日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 「興味の横展開」において、ある意図や行為に関するモチベーションの分布を知ることで、自分の中に眠っている様々な可能性を追求して欲しい、と書いたけれど、同様の手法は、スポーツなどの趣味だけでなく、仕事にも活かすことが出来る。

 「生産と消費論」で書いてきたように、仕事というのは、他人のため社会のために役立つ行い(生産活動)であるが、出来るならば、興味に関する「正規分布」のうち自分が度合いの強い2割に属している自分の得意分野でそれを行うのが一番良い。得意分野は一つとは限らない。複数の得意分野を活かしていくには、「個人事業主」として自立し、工夫を重ねて、得意分野を横につなげていくことが必要になってくる。

 「シグモイド・カーブ」で指摘したように、どのような仕事であれ、ある程度長く続けないと本当に自分が好きなのかどうか分からない。だから仕事を始めてすぐに自立を考える必要は無いが、ある程度時間がたって自分の興味分野に確信が持てるようなってきたら、その人には「仕事の横展開」を図る資格があるといえるだろう。

 「個人事業主」として独立を図るタイミングとしては、一つの仕事を始めてから10年くらい経ったときが一つのポイントだろう。勿論モチベーションの度合いやスキルの錬度にもよるが、一つの仕事を10年やればだいたいのことは分かる。次のポイントはそれからまた10年後くらいだろうか。

 私の場合は、「理念(Mission)と目的(Objective)の重要性」で書いたように、エレクトロニクス関連の会社に30年近く勤めたあと独立した。初めの10年は経理や原価計算の仕事、その次の10年は経営企画やマーケティング、最後の10年は他社との提携やネットビジネスを経験した。そのあいだ13年間はアメリカに赴任していた。それぞれ10年ごとのタイミングで独立することを考えたけれど、最終的に独立しようと思ったのは、自分の興味分野が「読書や物を書くこと」だと確信が持てるようになったことと、インターネットの発展によって電子出版などの新しいビジネスが見えてきたことである。

 会社におけるリーダーの役割の一つは如何に社員の「やる気」を引き出すかにあるのだが、社員の立場からすると、他人の決めた組織の枠内でずっと「やる気」を持ち続けるのは容易なことではない。特に「興味の横展開」によって自分の可能性を追求し始めた人にとってはそうだろう。

 自分の興味分野に確信が持てるようになり、それを仕事に活かしたいと思う人は、「個人事業主」として独立し、自らの得意分野に沿った「スモールビジネス」を立ち上げて、社会への貢献を図っていただきたい。

 以前「理性と感性」のなかで、趣味を仕事にするということは、必然的に趣味の中身の変化を伴うと書いたけれど、豊かな人生とは、趣味と仕事を上手く交差させながら、それぞれにおいて、最大限に「興味の横展開」を図っていくことなのかもしれない。

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リーダーの役割

2009年03月10日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 先回の「モチベーションの分布」を考慮しながら、目的集団におけるリーダーの役割について考えてみたい。これは「金属吸着剤」へいただいたコメントに触発されたことでもある。以下、会社の組織を例にとって見ていこう。

 リーダーはまず、社員を活かさなければならない。これは誰もが同意する役割だろう。その為に適正な給料を払うことは勿論だが、それだけでは不充分で、どうにかして「やる気」を引き出さなければ、社員を本当に活かしたことにはならない。しかし「モチベーションの分布」で見たように、ある目的に対する「やる気」はその人の興味の度合いに比例し、組織にはどうしても「全体のうち2割の人はよく働き、6割はふつうに働き、そして残りの2割はあまり働かない」という正規分布が出現してしまう。以前「組織の適正規模」で、

(引用開始)

 企業における組織の役割は、その構成メンバー全員が企業の「理念(Mission)と目的(Objective)」を理解し、”plan, do, see”のサイクルを通して、その目的を達成していくことにある。

(引用終了)

と書いたけれど、「理念と目的」は理解できても、全員目的に対して「やる気」が出るかどうかはまた別の問題なのだ。

 そうとするならば、リーダーの仕事は、皆の「やる気」を強引に会社の目的そのものに適合させようとするのではなく、敢えてモチベーションの分布を自然なことと弁えて、目的を細分化し、その上で適材適所を図ることだろう。研究開発に向いている人、セールスに向いている人、経理に向いている人などなど。いわば組織の内部にモチベーションのマトリックスを編み込むわけだ。目的と一見繋がらないこと(たとえば子育てなど)でも、うまく工夫(就業時間の調整など)すれば編み込めるはずだ。勿論、社員の単なる悪癖や怠慢は矯正しなければならない。

 さらに、適材適所だけで「やる気」を発揮させられない場合は、社員の転職や独立を支援することもリーダーの大切な仕事だと思う。事業の一部を「カーブアウト」するのも、社員の「やる気」を生かす優れた方法だ。

 社員が何に興味を持っているのか、何に向いているのかをよく見て、社内外で適材適所を図るのがリーダーの役割の第一である。このことは、「モチベーションの分布」で紹介した西成活裕氏が指摘する「無駄を生かす」ことにもつながる考え方だろう。

 次に、リーダーの手元に集まる情報について考えてみる。上記「組織の適正規模」で次のように指摘した。

(引用開始)

 安定成長時代の産業システムにおいては、市場や技術の変化が激しく、それに伴ってリーダーの方針や戦略も刻々変化する。また社員の職能も高付加価値化してくる。だから最新の情報を伝達するには、社員との意思疎通を一週間単位程度で繰り返さないと充分ではない筈だ。階層性の多い組織では、リーダーの意志が末端まで到達する間に、早くもリーダーの方針や戦略が変化してしまうのである。

(引用終了)

経営に必要な情報は、どうしてもリーダー及びその周辺に集中する。内容は変化し量は増えていくから、組織全体における情報量の分布は、概ね「ベキ則」に従う。

 ベキ則分布については、以前「ハブ(Hub)の役割」でスケールフリー性ネットワークとして説明した。構成要素(この場合は情報)自体が成長し、ネットワーク上優先的選択(この場合はリーダーとその周辺に情報が集中すること)が起きる場合の法則で、80:20の法則(全体の20%の人が80%の収入を得るという譬え)のように、平均値や分散値が捉えられない分布である。

 この分布は「モチベーションの分布」で引用した「無駄学」西成活裕著(新潮選書)のこの部分と重なる。

(引用開始)

トップ2割の人が企業の利益の8割を稼ぎ、残りの8割の人は利益の2割しか貢献していない、という意味で、「8対2の法則」ともいわれる。

(引用終了)

 会社の稼ぎが情報量に比例する、というのは直感的にも分かりやすい。ところで、社員のモチベーションの分布は、釣鐘型の正規分布に従うということだった。このあたり紛らわしいのでもう一度整理してみよう。

社員のモチベーション: 釣鐘型の正規分布に従う。
会社の稼ぎや情報密度: ベキ則分布「8対2の法則」に従う。

 情報密度はベキ則分布に従うから、リーダーは社員との情報交換を頻繁に繰り返さなければならない。全体の情報量が多ければ収益のチャンスも増える。また情報が共有されればされるほど組織の活性化が進むことは、「相転移と同期現象」や「エッジ・エフェクト」などで考察した。これは、以前「ハブ(Hub)の役割」で書いた、

(引用開始)

 多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術といった、安定成長時代の産業システムは、スモールワールド性がつくり出す「多様性」と「意外性」が発展の糧になる。だからハブの役割は、広く門戸を開き、公平性(次数相関「±0」)を心がけることで、数多くのリアルな「場」を作り出し、社会のスモールワールド性をより加速させることなのだ。

(引用終了)

という部分と重なる筈だ。リーダーの役割の第二は、情報共有による社内の活性化である。

 かくて、リーダーの役割は、第一に構成員の適材適所を図ること、そして第二に情報共有による組織内の活性化である、と纏めることが出来る。こう書くと至極当然のようだが、この二つはそれぞれ別の理論的根拠によって立つことに留意して欲しい。

 目的集団におけるリーダーは、構成員のやる気に関して、「モチベーションの分布」に配慮しつつ、手元に集まる情報密度に関しては、公平性(次数相関「±0」)を心がけなければならない。前者は釣鐘型の正規分布への対応であり、後者はベキ則分布「8対2の法則」への対応である。

 この二つの対応を混同したり、逆に扱ったりすると組織はたちまち非活性化する。組織の目的に対して誰もが「やる気」を持つべきだとか、重要な情報は組織内で共有しない方が安全だとか考えているリーダーはまだまだ多い。しかしそういった組織は、自然法則と社会理法とに反しているが故に、やがて崩壊していくだろう。

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