以前「
エッジ・エフェクト」のなかで紹介したNHK-BSの「名曲探偵アマデウス」というシリーズ番組は、その後も、
サン・サーンス「動物の謝肉祭」
ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」
リヒャルト・シュトラウス「ティルオイゲンスピーゲルの愉快ないたずら」
シューベルト「さすらい人幻想曲」
ヴィヴァルディ「四季」
ショパン「英雄」
モーツァルト「交響曲第41番ジュピター」
と続き、先日はサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」だった。5123(ソドレミ)の魔術、ロマ音階、トリルとグリッサンドによる泣きの調べ、ハイポジションの多用、チャルダーシュのラッシューとフリッシュ、左手による高速のピッチカートなど、この曲の魅力が余すところなく紹介され楽しかった。
その前のモーツァルト「交響曲第41番ジュピター」も面白かった。特に、第四楽章でジュピター音型(ドレファミ)が波のように重なり合い、変形され、最後に第一楽章から出来てくる5つのモチーフが、チェロ・ビオラ・バイオリン1・バイオリン2・コントラバスの五つの楽器で同時に奏でられるコーダの部分は美しい。モーツァルトはこれまでもよく聴いていたけれど、こうして解説を受けながらだと、作曲や演奏の技術的なことがよく分かる。
ショパンの「英雄」は、ショパンが祖国ポーランドの独立を祈願しながら書いたというポロネーズで、最後にヘ短調から変イ長調に転調するところがミソ。ヴィヴァルディ「四季」は、多様な演奏が可能なバロックの名曲。シューベルト「さすらい人幻想曲」は、遠隔転調によるイ長調から変ホ長調への“突然光が差し込むような驚きの演出”がロマン派らしい、などなど、西洋近代音楽の薀蓄を知ることが出来る。天出臼夫と響カノンの二人も好調で、番組ごとに異なった多彩なゲストとの遣り取りも楽しい。興味のある方は、そのうち再放送があるだろうから、見逃さないようにしていただきたい。
今回サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」の番組タイトルは“恋するアラフォー”とやらで、ゲスト・クライアント役には、テレビ朝日の「相棒」で亀山薫の妻美和子役だった鈴木砂羽さんが出演した。「相棒」シリーズの面白さの一端は多彩な脇役陣にあるのだが、先シリーズ途中で亀山が「特命係り」からいなくなり、鈴木さんの出番もなくなってしまったようで寂しい気がする。
さて、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」に関して、作家内田栄造(号百閨jに“サラサーテの盤”という短編小説がある。私は、学生時代に“日本の文学34 内田百閨E牧野信一・稲垣足穂”(中央公論社)という文学全集シリーズでこれを読んだ。今回読み返してみたが、この短編はやはり「恐怖の名作」の名に相応しい。
この作品を「恐怖の名作」と呼んだのは、同文学全集シリーズの編集委員でもあり、同書の解説を受け持った平岡公威(ペンネーム三島由紀夫)である。その解説から引用しよう。
(引用開始)
もし現代、文章というものが生きているとしたら、ほんの数人の作家にそれを見るだけだが、随一の文章家ということになれば、内田百闔≠挙げなければならない。たとえば「磯辺の松」一遍を読んでも、洗煉の極み、ニュアンスの極、しかも少しも繊弱なところのない、墨痕鮮やかな文章のお手本に触れることができよう。(後略)
(引用終了)
サラサーテを巡って名曲探偵から内田百閧ワで書いてきたが、私の手元にあるこの曲の入ったCDは、“ツィゴイネルワイゼン〜パッション 諏訪内晶子(ヴァイオリン)、ブタペスト祝祭管弦楽団、指揮:イヴァン・フィッシャー”(Philips)である。今度、新しく買った車の中でじっくりと聴いてみるとしよう。