夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


免疫について

2008年04月02日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 私は医学の専門家ではないが、「免疫」についていろいろと興味を持って勉強している。

 私の興味は今のところ少なくとも三つの視点から成り立っている。一つは自分の健康管理だ。体の健康を保つためには免疫の知識が欠かせない。参考になるのは「これだけで病気にならない」西原克成著(祥伝社新書)や「自分ですぐできる免疫革命」安保徹著(だいわ文庫)などなど。

 もうひとつは、上の安保徹教授(新潟大学大学院)がその重要性を説かれている、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスと、私が『「理性」と「感性」』の中で書いたこととの関連だ。

 安保教授は、交感神経優位が興奮する体調を生み、副交感神経優位がリラックスする体調を生むと述べておられる。一方、私が指摘したのは、「生産」は「理性的」活動を中心とし、「消費」は「感性的」活動を中心としているということだ。

 多くの場合、理性的活動が仕事の緊張を生み、感性的活動が余暇のリラックスした心理状態を支えているから、交感神経優位の体調が「生産活動」には必要で、その逆に、副交感神経優位の体調が「消費活動」を支えている、という対比が可能となる。「生産−理性的活動−交感神経優位」、「消費−感性的活動−副交感神経優位」というわけだ。

 社会における生産や消費は、人間の脳がその活動を采配している。免疫系は自律神経の話だが、自己と非自己、自然免疫と獲得免疫などを巡る存在論的な側面と併せて、免疫と脳科学との関係を今後さらに勉強したい。

 最後は、以前「並行読書法」の中で述べた、「人体免疫システムに関する知見は、行き詰ったアメリカの行動科学の先にある、新しい社会科学のあり方に示唆を与える。」という視点だ。

 「ウェブ新時代」で紹介した東京大学教授の西垣通氏は、日経新聞朝刊の「やさしい経済学」で、社会科学としての生命情報学について、示唆に富む連載記事を書かれた。「生命的な情報組織」という題で3月4日から8回連載、各回のタイトルは、
1. ウェブ上の人格
2. 分散人格と複合人格
3. 自立的システム
4. 思考機械をめざして
5. 個体とは何か
6. ヒトの共同体
7. 機械化されたヒト
8. ITは知恵の手だて
というもので、全体としての論旨は、シャノンのコミュニケーション論に代表される旧来の機械的な情報学から、インターネット社会の可能性を踏まえた生命情報中心の情報学へ、発想の転回を促す内容である。図書館などで是非お読みいただきたい。

 免疫学や生命情報学を社会科学に適応する研究は、まだその途に就いたばかりだが、「逆システム学―市場と生命のしくみを解き明かす―」金子勝、児玉龍彦共著(岩波新書)や「免疫をもつコンピュータ 生命に倣うネットワークセキュリティ」溝口文雄、西山裕之共著(岩波科学ライブラリー)などは、その先端的な試みとして重要だろう。

 「生産と消費について」の中で、ある人の「生産活動」は別のある人の「消費活動」であると述べたが、免疫系と脳の言語系、すなわち、心と体の状態をつなぐ自律神経のバランス(免疫系)と、社会をつなぐ「生産」と「消費」のバランス(言語系)とは、「環境におけるエネルギーの循環」という点で、そもそも相似的構造になるのかもしれない。

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posted by 茂木賛 at 15:37 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

アフォーダンスについて

2008年02月09日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 先日来「集合名詞(collective noun)の罠」と「ウェブ新時代」とで触れた「アフォーダンス」について、もう少し(私の理解している範囲で)説明しておいた方が良いかもしれない。

 アフォーダンス理論では、我々の住むこの世界は、古典幾何学でいうような、直線や平面、立体でできているのではなくて、ミーディアム(空気や水などの媒体物質)とサブスタンス(土や木などの個体的物質)、そしてその二つが出会うところのサーフェス(表面)から出来ているとされる。そして我々は、自らの知覚システム(基礎的定位、聴覚、触覚、味覚・嗅覚、視覚の五つ)によって、運動を通してこの世界を日々発見する。ジェームズ・ギブソン(1904-1979)というアメリカの学者が主宰した理論で、心理学やリハビリ医療、さらにはアートや建築の目指すところと親和性がある。

 この論理の重要な点は少なくとも三つある。一つは、常に思考や行動の枠組みから「自分」というものを外さないということ。私は「集合名詞(collective noun)の罠」で、行為主体として自己の重要性を指摘し、自己言及性に富んだアフォーダンスとの親近性に触れた。

 二つ目は、環境と知覚とが、運動を通して表裏一体とされる点である。私の「生産と消費論」では、生産と消費はコインの裏表のようなものなのだが、それは、(アフォーダンス理論で)環境と知覚とが表裏一体とされるのと同じ構造のように思われる。「集合名詞(collective noun)の罠」では、これを「生産と消費との相補性」と呼んだ。

 表裏一体ということは、お互いの交換価値が等しいということである。私はこの価値等価性を「通貨とは異なる価値基準の鼎立」として、さらに展開・深化できないものかと考えている。これまでの経済理論では、生産と消費とは別々の場面で、それぞれ異なった動機で行われ、その価値は通貨という客観的な価値基準で決まるとされている。このようなアフォーダンス理論の経済学への適用は、まだあまりなされていないのではないだろうか。

 三嶋博之早稲田大学教授も、私へのご返事の中で、「経済学的な生産と消費に関してアフォーダンス理論と関連づけて議論されたものは、私自身は心理学の領域に身をおいていることもあって情報が制限されているせいかもしれませんが、存じておりません。(中略)直感的なものですが、貨幣という媒介物を経ずに、生産と消費の双対性を議論する方法は、アフォーダンス理論の直接知覚論と構造的に似ていると思います。」とお書きになっている。

 さて、アフォーダンス理論の重要な点の三つ目は、「知覚システム」には終わりがないということだ。どういうことかというと、我々は、世界の何処で何をしていようが、常に世界全体を(一挙に)把握しているということである。知覚システムは常に環境からの情報をそれまでの情報に重ね合わせて修正を加え続ける。たとえば、今あなたはPCの画面を覗いているが、画面の後ろにある壁、部屋全体、家や街、そして世界全体を(一挙に)把握している筈だ。あなたの頭の中にはあなたがこれまで体験してきた世界の全てが同時にある。アフォーダンスではこれを「異所同時性」と呼ぶ。つまり、脳は常に「現在進行形」なのだ。とすると、果たしてこの世界に客観的な時間は本当に流れているのかどうか。「ウェブ新時代」で触れたのはこのことだ。

 私は、古典物理学や数学が、いつも自己を外において理論を作り上げることに飽き足らなく感じていたので、自己言及性に溢れたこのアフォーダンス理論に魅せられている。尚、このテーマを小説の形で追求したのが「僕のH2O」という電子書籍(315円)だ。このサイトからもアクセスできるから是非ダウンロードして読んでみて欲しい。

 初めてアフォーダンス理論に触れる方は、「アフォーダンス―新しい認知の理論」佐々木正人著(岩波書店)や、前述した三嶋博之さんの「エコロジカル・マインド」(日本放送出版協会)などが格好の入門書になっている。

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posted by 茂木賛 at 12:48 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

ハブ(Hub)の役割

2008年01月02日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 先日スモールワールド・ネットワークについて紹介したが、「『複雑ネットワーク』とは何か」増田直紀、今野紀雄共著(講談社)は、この辺の最新の知見が整理されていて分かりやすい。

 スモールワールドに加えて、社会ネットワークでもう一つ重要なエレメントは、各人が持つ知人・友人の数(次数と呼ばれる)である。

 この次数相関(関係)によって、社会ネットワークにはスケールフリー性が生まれる。スケールフリー性とは、例の80:20の法則(全体の20%の人が80%の収入を得るという譬え)のように、平均値や分散値が捉えられないネットワークの性質を指す。

 この次数が非常に大きい頂点のことをハブ(Hub)という。インターネットの世界では、このハブの振舞い方によっていわゆるロングテール現象などが起こるらしい。「渋滞学」西成活裕著(新潮社)という本では、近年ハブの研究が道路渋滞の解明にまで及んでいることが分かって面白い。

 さて、次数相関には、「正」と「負」さらに「±0」の三種類がある。ハブが別のハブと結びつきやすい場合を「正」、ハブが次数の小さい頂点と結びつきやすい場合を「負」の相関、ハブにそういった振舞いが見られない場合を「±0」と呼ぶ。

 インターネットには「負」の相関が見られ、それがロングテール現象を生む訳だ。一方、「正」の次数相関は、「リッチ・クラブ」(特権階級)を形成しやすく、往々にして集団内部に不平等を生む。

 スモールワールドの特徴は、「小さい平均距離」「高いクラスター性」および「遠く離れた人同士の繋がりが一部存在すること」だったが、ハブが極端な「正」もしくは「負」相関を持つと、この三つのバランスが崩れ、スモールワールド性が失われてしまう。

 先日「人の生産活動に注目するということ」の中で書いたランプ屋さんの例を使って考えてみよう。ランプ屋Aさんには、インテリア・コーディネーターのCさん以外にも知人・友人が多かった。ある日Aさんは、仲間内のお金持ちだけを相手に商売をしようと考えた。

 Aさんが手間隙かけて作るランプは評判を呼び、その希少性から一時売り上げは上がった。しかし「リッチ・クラブ」内の需要が一巡すると、逆に売り上げは下がってしまった。インテリア・コーディネーターのCさん、アクセサリーのデザイナーのBさん、鏡屋のDさん、アクセサリー好きのEさんとの連携も生まれない。

 多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術といった、安定成長時代の産業システムは、スモールワールド性がつくり出す「多様性」と「意外性」が発展の糧になる。だからハブの役割は、広く門戸を開き、公平性(次数相関「±0」)を心がけることで、数多くのリアルな「場」を作り出し、社会のスモールワールド性をより加速させることなのだ。

「複雑ネットワーク」とは何か―複雑な関係を読み解く新しいアプローチ (ブルーバックス)   渋滞学 (新潮選書)
   

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posted by 茂木賛 at 10:43 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

スモールワールド・ネットワーク

2007年12月12日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 「スモールワールド・ネットワーク」という言葉がある。われわれは全世界の人々とたった6つのステップで繋がっている、という話で、最近の複雑系ネットワーク理論の一つである。

 「スモールワールド・ネットワーク 世界を知るための進科学的思考法(原書題Six Degrees The Science of a Connected Age)」という本を書いたのは、ダンカン・ワッツというオーストラリア生まれの科学者で、複雑系ネットワーク理論はその後もさらに広がりを見せている。原書は2003年、翻訳書は2004年に出版された。

 「スモールワールド・ネットワーク」は、任意に選んだ相手への到達ステップが少ないこと(小さい平均的距離)と、少人数間の密な人間関係(高いクラスター性)を前提としたネットワーク理論である。

 先日「スモールビジネスの時代」の中で、「ネットワークの発達によって、今の起業家は自分の組織をむやみに大きくしないでも、(他社との連携によって)自らの理念と目的を達成できるようになった」と書いたが、念頭にこの「スモールワールド・ネットワーク」のことがあった。

 大量生産・流通・消費時代は、正規分布に基づいた考え方が主流だったが、これからの多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術時代は、スモールワールド・ネットワークの考え方が重要になるだろう。

 このネットワークが成り立つミソは、「小さい平均距離」、「高いクラスター性」と共に、(高いクラスター性を損なわない範囲で)遠く離れた人同士の繋がりが一部存在することなのだが、インターネットの発達が遠く離れた人同士を結びつける訳だ。

 直感的には、幾らインターネットの時代だといっても、「全世界の人々とたった6つのステップで繋がっている」とはなかなか思えない。しかしそれは、遠慮や諦め、面倒くさいと思ってしまう消極性故であって、この理論は、当たって砕けろという情熱と行動力があれば、世界中のどの人へもすぐに(6つのステップ以下で)コンタクト出来ることを示している。

スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法

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posted by 茂木賛 at 13:08 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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