夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


人体の精密

2025年11月26日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 ここのところ読んできた最近の人体に関する本(新書)をいくつか紹介したい。書名のあとに、本のカバーや帯にある文章を載せて説明に代えよう。副題は冒頭に載せる。

1.『自律神経の科学』鈴木郁子著(講談社BLUE BACKS 4/20/2023)

副題「「身体が整う」とはどういうことか」
「心身の不調は自律神経が原因かもしれない」「自律神経のバランスが乱れている」などとよく耳にします。そもそも、自律神経とはどのような神経なのでしょうか?簡単にいえば「内臓の働きを調整している神経」。全身の臓器とつながり、身体の内部環境を守っています。自律神経に関わる歴史的な研究を辿りながら、交感神経・副交感神経の仕組みや新たに発見された「第三の自律神経」の働きまで、丁寧に解説していきます。(本カバー裏表紙より)

2.『硬くて柔らかい「複雑系」骨のふしぎ』石井優著(講談社BLUE BACKS 5/20/2025)

副題「からだを支えるだけでない、知られざるはたらき」
一見、硬くて不動のものであるように感じる骨。しかし、最先端の技術で観察すると驚くほど「動的」な姿が見えてきた。骨を壊す細胞とつくる細胞、真逆の機能の両者は、互いに制御し合っていた! 骨は生命に必須のカルシウム&リンの貯蔵庫の役割も。脳や脂肪組織とのかかわりが指摘される骨ホルモンとは? そして、人類の敵、がんはどうやって骨に移転するのか。第一人者が解説する骨研究の最前線。(本カバー裏表紙より)

3.『脳と免疫の謎』毛内拡著(NHK出版新書 6/10/2025)

副題「心身の不調はどこからくるのか」
「脳の免疫細胞」と言われるグリア細胞。その研究から、脳と免疫の相互作用が心身の不調、精神疾患、依存症などに影響を及ぼしていることが明らかになってきた。いったい脳の中で何が起きているのか。疲労・炎症のメカニズムだけでなく、脳のパフォーマンスの上げ方、セルフケアまで。気鋭の脳科学者が最新研究の成果をわかりやすく解説する!(本カバー表紙裏より)

4.『腎臓の教科書』取優二著(講談社BLUE BACKS 9/20/2025)

副題「体液の循環・浄化から見る驚異の生命維持システム」
一日に150~180リットルの体液を濾過し、水分・ミネラル・pHを調整する生命維持装置「腎臓」。再生医療でもっとも実現が難しいといわれる臓器の精緻な構造と老廃物除去のしくみから、脳や腸、心臓といった全身の臓器との連携について。さらに、慢性腎臓病約2000万人時代に知っておきたい、正しい医療知識や生活習慣による腎臓機能維持の方法までを腎臓専門医がていねいに解説します。(本カバー裏表紙より)

5.『「腸と脳」の科学』坪井貴司著(講談社BLUE BACKS 9/20/2024)

副題「脳と体を整える、腸の知られざるはたらき」
腸と脳がやり取りをして、お互いの機能を調整しているしくみ「脳腸相関」の研究がいま注目を集めています。腸内環境の乱れは、腸疾患だけでなく、不眠、うつ、発達障害、認知症、糖尿病、肥満、高血圧、免疫疾患や感染症の重症化……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきているのです。腸がどのように脳や全身に作用するのか。分子および細胞レベルで見えてきた驚きのしくみを解説します。(本カバー裏表紙より)

 以上だが、今更ながら人体(脳と身体)の精密に驚く。いまは『脳と免疫の謎』と同じ著者の『脳を司る「脳」』(講談社BLUE BACKS 12/20/2020)という本を読んでいる。興味深い知見があればご紹介したい。

 尚、上記5冊以前に読んだ『脳は眠りで大進化する』上田泰己著(文春新書6/20/2024)については、去年「眠りの研究」の項で紹介した。併せてお読みいただけると嬉しい。

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発酵文化

2024年10月23日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 『発酵文化人類学』小倉ヒラク著(角川文庫)という面白い本を読んだ。副題は「微生物から見た社会のカタチ」。著者の小倉氏は発酵デザイナーという肩書を持つ行動力に溢れた人。内容について、本のカバー裏表紙の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

味噌、醤油、ヨーグルト、日本酒、ワインなど、世界中にある発酵食品。著者はあるきっかけで、“発酵”に魅せられ、日本だけでなく世界各地に伝承された美味なる食品を求めて旅をした。発酵の仕組みや人間と微生物との関りを学ぶ中で発見したのは、発酵には未来と過去があり、“微生物と人間の共存”は社会を見直すキーワードそのものだったということ。生物学、哲学、芸術、文化人類学などの専門用語を平易に解説。解説・橘ケンチ

(引用終了)

 このブログでは以前「発酵食品」の項で、発酵の定義や意義、微生物の分類、発酵の種類などを整理し、発酵食品の特長を3つに纏めたことがある。

1.美味しく健康に良い
2.モノというよりもコト
3.多様性を育む

「モノというよりもコト」というのは、このブログで論じている「モノコト・シフト」(動きの見えないモノよりも、動きのあるコトを大切にする生き方、考え方への関心の高まり)と発酵食品との整合を指す。それは又、複眼主義でいうB側(日本語的発想−環境中心)の重要視でもある。小倉氏も、文庫版あとがきの中で、

(引用開始)

 僕が何を言いたいのかというとだな。21世紀における日本的実践思想の系譜を継ぐのが発酵ということなんだ。ふたたび訪れた激動の時代に、人の精神や生活の拠り所になり、ものづくりの指針となり、それぞれの土地のアイデンティティとなる、思想運動としての発酵は、醸造家や料理家だけでなく多くの分野の発酵ラバーによって社会に深く根付き、価値が醸されていういくだろう。楽しみだぜ!

(引用終了)
<同書 379ページより>

と書いておられる。参考までに目次(一部省略)も載せておこう。

<はじめに> 発酵をめぐる冒険に、いざ出発!
Column 1 発酵ってそもそも何ぞや?
<PART 1> ホモ・ファーメンタム
Column 2 発酵と腐敗を分かつもの
<PART 2> 風土と菌のプリコラージュ
Column 3 発酵文化の見取り図
<PART 3> 制限から生まれる多様性
Column 4 発酵菌と酵素の違いとは?
<PART 4> ヒトと菌の贈与経済
Column 5 恥ずかしくて人に聞けないお酒の基本
<PART 5> 醸造芸術
Column 6 醸造とは何か?
<PART 6> 発酵ワークスタイル
Column 7 発酵ムーブメントの見取り図
<PART 7> よみがえるヤマタノオロチ
<あとがき> いざ、次なる冒険へ!

 小倉氏は微生物と人間の間を自在に繋ぎ、発酵の意味するところを文化論のレベルにまで高めた。本のなかの挿絵や見取り図も愉しい。是非一読をお勧めしたい。

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眠りの研究

2024年09月09日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 アロマに続いて眠りの研究について。この夏『脳は眠りで大進化する』上田泰己著(文春新書)という本を面白く読んだ。読むきっかけとなった新聞書評によって内容を紹介しよう。

(引用開始)

 熱帯夜が続き、寝不足になりがちなこの頃だ。よい睡眠が健全な心身を支えていることは確かだし、多くの生きものたちが寝ているので、これは生きるために不可欠なものだろう。ところが、研究対象としてはなかなかの難物で、近年やっとその意味とメカニズムが解け始めたところなのだ。著者はその最先端を走る研究者の一人である。本書を紹介したいと思ったのは、優れた研究者の現場がていねいに語られているからである。私たちが持つ、ほぼ24時間周期の体内時計は、各臓器にあって時計遺伝子をもつ時計細胞と、それを調整する脳の中枢時計から成る。この時計は、化学反応で動いているのに、温度によって周期が変わらないのはなぜか。ここで著者は、温度変化に強いリン酸化酵素が時計タンパク質に印をつけたりはずしたりしているからだということを見つける。
 こうしてリズム・サイクルの基本が見えたので、「難攻不落の睡眠研究に立ち向かう」のだが、その戦略がユニークだ。遺伝子などの分子、細胞、個体(臓器)の間をつないだ理解には、個体をつくる全細胞のカタログが必要と考え、細胞の透明化に挑戦する。それには「アミノアルコール」処理が有効と分かるまでに、いかほどの物質を調べたことか。透明マウスの写真を見た時の驚きを思い出す。これで全細胞が観察できる目処(めど)がついた。更に、遺伝子改変を交配なしに一世代で検証できる技術、多くの遺伝子を一度に破壊できる技術も開発し、実験のスピードを百倍以上あげた。もう一つ、脳外科手術せずに寝息のパターンで推認時間を測定する装置もつくっている。
 著者は、研究のいちばんの難しさは「難しさを分解すること」だと書く。開発した技術はどれも、根本からの問題解決に不可欠な分解なのだ。これは科学研究に止(とど)まらない大事な視点ではないだろうか。
 睡眠の制御機構は三つある。体内時計による制御、危険と関わるエマージェンシー制御、そして恒常性制御である。一定量の睡眠時間を確保するための恒常性制御は、「疲れたら眠る」という単純な仕組みに見えながら、まったく答えの見えていない再難問なのだ。
 これまでの研究で注目されてきた睡眠物質は、エマージェンシーの時に必要なのであって、それ以外の睡眠には寄与していないことが見えてきた。ここで著者は、逆に覚醒物質があるのではないかと発想を転換し、神経が興奮すると細胞内に入ってくるカルシウムに注目する。陽イオンであるカルシウムは、神経細胞を活性化する一方、カリウムを外へ出すはたらきをして、神経細胞をなだめもするのだ。実験の結果、カルシウムに引き金を引かれてリン酸化酵素(体内時計でも活躍した)が睡眠を制御していることが分かってくる。このメカニズムのレム、ノンレム睡眠との関わりなどを調べていくうちに、「睡眠時のほうが覚醒時に比べて神経細胞同士のつながりを強くする」ことが見えてきて、覚醒時は探し、睡眠時は覚えるのではないかという考えが生まれる。これが「シナプスはノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルで進化しうる」という仮説につながっていくのだ。独自の発想と自ら開発した新技術を駆使しての本質解明。難問を抱えた現代社会が学ぶ問題解決法としても非常に興味深い。(中村桂子)

(引用終了)
<毎日新聞 8/17/2024>

 参考までに本書の目次も掲げておこう。

第1章 私たちの体にひそむ時計の機能と睡眠
第2章 生命科学のパラダイムシフトと新世代の研究
第3章 細胞から個体へ――睡眠研究前夜の技術開発
第4章 難攻不落の睡眠研究に立ち向かう
第5章 睡眠の謎を解明していく
第6章 試験管の中に見えた睡眠中の「脳の大進化」
第7章 「健康な睡眠」の提案
第8章 人間をミクロに摑んでマクロに考える

 眠りについての知識は勿論だが、この本でとくに興味深かったのは以下の二点。

1.システムと個性

おもに第2章で展開される議論だが、2003年にヒトゲノムの解読完了が宣言されたことを受けて、それ以降の生命科学が工学的な「システム」を指向する中、「個性」に注目する必要性に著者が気付くところ。システム指向を推し進めると、果てはAIによる人工生命といった研究に行きつくのだろうが、著者はその前に一旦立ち止まり、環境と細部の働きに目を向ける。そして、全体と細部を往還しながら考える事の重要性に気付く。これは複眼主義の対比、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」
世界をモノ(凍結した時空)の集積体としてみる(線形科学)

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」
世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみる(非線形科学)

でいうところの、A側とB側のバランス、流れを橋の上から見るオイラー的視点とボートの上で考えるラグランジュ的視点との往復、といった考え方に近い。このブログで提唱しているモノコト・シフトでいえば、<香り>同様、<眠り>もコトであり、B側と親和性が強い。それもあって、科学者であるとともに日本人であるところの上田氏は、A側の俯瞰とB側の体感、その両方を往還しながら考えることの重要性に思い至ったのではなかろうか。

2.脳と心臓の働きの類似性

こちらは第8章で語られる話。心臓の心筋細胞が拍動して血液のフローを制御しているのと同じように、脳の神経細胞が振動して脳脊髄液のフローを制御しているのではないか、という仮説である。脳については以前、

内因性の賦活
内因性の賦活 II

の項などで、ニューロン・ネットワーク以外の高電子密度層の働きについて書いたが、今回眠りの研究の中からも、脳におけるニューロン・ネットワーク以外の仕組みが見えてきたことはとても意義深いと思う。今後の研究に大いに期待したい。

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posted by 茂木賛 at 09:36 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

アロマの研究

2024年09月06日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 前回「16の香り」の項で紹介した『「植物の香り」のサイエンス』塩田清二/竹ノ谷文子共著(NHK出版新書、2024年)に導かれて、『<香り>はなぜ脳に効くのか』塩田清二著(NHK出版新書、2012年)を読んだ。こちらの副題は「アロマセラピーと先端医療」。内容について本のカバー表紙裏の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

いい香りを「嗅ぐ」だけで、重度の認知症患者の症状が改善されたり、がんによる疼痛がやわらぐ――<香り>の成分は、私たちの脳や体内に、どのように吸収され、作用しているのか。西洋医学では太刀打ちできなかった「治りにくく予防しにくい」疾患の画期的な治療方法として、今注目されているメディカルアロマセラピーを、嗅覚のメカニズムや最新の臨床例からわかりやすく解き明かす。

(引用終了)

 香りの元となるアロマ(精油)は、前回書いたように気体(香り)として体内に届く以外に、液体としても(血液を通して)体内に届けられる。液体は、経皮投与と経口投与を通して血液に達する。血液からは、直接末梢臓器に届く場合と、一旦脳(大脳辺縁系や視床下部)に届けられる場合とがある。血液と鼻腔から脳に届いたアロマは、大脳を介して感情や情動行動を制御、視床下部を介して自律神経系や免疫系へ、下垂体を介して内分泌系へと作用する。

 前回同様、本の目次を掲げておこう。

第一章 臭覚のメカニズム
1.においを感じる「仕組み」を知る
2.なぜ何千種類ものにおいを嗅ぎ分けられるのか
3.においはダイレクトに脳に働きかける
第二章 <香り>が人体におよぼす作用
1.急速に進む「におい」の研究
2.<香り>と医療――メディカルアロマセラピー
3.アロマセラピーの歴史
4.アロマセラピーで用いる精油の薬理作用
第三章 治りにくい・予防しにくい疾患に効く<香り>
1.医療現場で導入が進むアロマセラピー
2.認知症患者の脳を刺激する<香り>
3.アルツハイマー病
4.がん
5.肥満
6.動脈硬化性疾患
7.女性特有の疾患
8.痛み
9.その他の症状への活用
10.小児科疾患
11.「<香り>の医療」の未来と可能性
12.メディカルアロマセラピーの今後の課題
第四章 <香り>の効能を楽しむ
1.精油を正しく使う
2.精油選びで知っておきたいこと
3.精油成分の作用と副作用

 香りの研究は奥が深いと思う。第四章に精油の抽出法がいくつか紹介されているが、その一つ「低温真空抽出法」は、今世紀に入って日本で開発された最新かつもっとも効率性の高い抽出法だという。このブログで提唱しているモノコト・シフトでいえば、<香り>はコトであり、複眼主義の対比、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」
世界をモノ(凍結した時空)の集積体としてみる(線形科学)

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」
世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみる(非線形科学)

でいえばB側と親和性が高い。今後とも塩田氏や竹ノ谷さんなどの日本人による研究に期待したい。


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posted by 茂木賛 at 09:48 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

16の香り

2024年08月19日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 この夏、『「植物の香り」のサイエンス』塩田清二/竹ノ谷文子共著(NHK出版新書、2024年)という本を読んだ。副題は「なぜ心と体が整うのか」。まず新聞書評によって内容を紹介しよう。

(引用開始)

 解剖生理学、セルフケアの専門家らが、「植物の香り」が心身に与える良い効果や、疲労回復、ストレス解消などへの活用例を、最新の知見を基に紹介する。
 香りが脳と体に働きかけるメカニズムを説明した上で、不安の軽減や睡眠の質の向上、女性の心身などに良い香りを、植物名を挙げながら解説。香り成分のうち実際にどれが効くのかも探っている。
 香りで食欲を抑える実験例も。ダイエットに光明が差しそうだが、この分野の研究は発展途上のよう。とはいえ海外では医療現場や、トップアスリートがパフォーマンスの向上のために使うという植物の香り。可能性は奥が深そうだ。

(引用終了)
<東京新聞 3/23/2024>

 香りの分子が鼻の嗅覚受容体に結合すると、その情報は電気信号として脳の神経細胞に伝わる。植物の香りの中には、自律神経を調整している視床下部に作用するものが多くある。人の心身は(自律神経のうち)交感神経系が活性化されると覚醒し、副交感神経系が活性化されるとリラックスするから、植物の香りによって、人は覚醒したりリラックスしたりできるわけだ。

 参考までに本書の目次を掲げると、

序章  植物の香りでなぜ心身が整うのか
第一章 ストレスや疲労に効く香り
第二章 睡眠に効く香り
第三章 不安やうつに効く香り
第四章 脳を活性化させる香り
第五章 食欲を調節する香り
第六章 医療現場で利用される香り
第七章 女性の心身を守る香り
第八章 運動のパフォーマンスを高める香り

ということで、植物とその効き目が用途別に整理されていて分かり易い。

 この本の最後に、巻末付録として当書で紹介された植物の一覧が載っている。全部で16あるから、これらを「16の香り」として以下引用しておきたい(あいうえお順、文章は抜粋)。

(引用開始)

1. イランイラン
バンレイシ科の常緑高木。インドや東南アジアに分布し、高さは大きなものだと30メートルを超える。名はタガログ語で「花の中の花」を意味するilang-iliangに由来。香りには鎮静作用がある。

2. カモミール
キク科の越年草。和名はカミツレ。ドイツでは「母なる薬草」と呼ばれるほど代表的なハーブ。薬用で発汗解熱剤として内服されるほか、リキュールなどの香りづけにも使われたり、花を乾燥させたものがハーブティーとして愛飲されている。精油は月経困難症などの疾患に効果がある。

3. クラリセージ
シソ科の多年草(または二年草)。高さ1メートル超まで成長する。全草に精油成分を含み、芳香がある。香りは抗ストレス、鎮静作用、生理痛など女性ホルモンに由来する症状の改善などに効果がある。

4. グレープフルーツ
ミカン科の常緑高木。ブドウのように一枝に多数の実がつくことからこの名があるといわれる。他の柑橘類と比較して糖質が少ないのも特徴。香りは脳機能の活性化(意欲や集中力の向上)や食欲の抑制などに効果がある。

5. コリアンダー
セリ科の一、二年草。非常に古くから利用されており、紀元前1550年頃の古代エジプトの医学文書に薬用について記載があるほか、プリニウスの『博物誌』にも登場する。現在ではエスニック料理の普及により、タイ語名のパクチー、中国語名のシャンツァイ(香菜)の名でもよく知られる。香りには鎮静作用などがある。

6. ジンジャー(ショウガ)
ショウガ科の多年草。世界中で重宝される代表的な香辛野菜のひとつ。漢方ではジンジャーの新鮮な根茎を生姜(しょうきょう)と言い、発汗剤・健胃薬などとする。体を温めて消化を助ける力を持つほか、殺菌作用も知られる。香りは食欲増進に効果がある。

7. ゼラニウム
フウロソウ科の多年草。園芸種としても多くの品種がある。葉面に馬蹄(ばてい)形の褐色の斑紋があり、その葉から抽出される精油にバラに似た香りがある。香りは更年期の女性ホルモンのバランス調整や抑うつ症状の改善に効果がある。

8. ティートリー
フトモモ科の常緑高木。オーストラリア原産で高さ8メートルほどまでに成長する。精油が取れる葉には殺菌力や抗感染力があり、オーストラリアの先住民族であるアポリジニが、葉をつぶしてケガの治療など万能薬として愛用していた。香りには抗菌・抗ウイルス作用がある。

9. ヒノキ
ヒノキ科の常緑高木。高さ30~40メートルほどになる。古くから最高品質の建材として活用されており、現在でも木材として最もよく栽培される種のひとつ。精油にはヒノキチオールが含まれ、香料にされるほか、皮膚病、口内炎などにも外用される。

10.ペパーミント
シソ科の多年草。和名はセイヨウハッカ、コショウハッカ。『新約聖書』の中でも香辛料として記されており、古代エジプトやローマでもるようされていた。薬用としては消化不良や緊張性頭痛などに用いられる。香りには疲労回復、食欲増進効果がある。

11.ベルガモット
ミカン科の、高さ4メートルほどの常緑低木。果皮を圧搾して抽出するベルガモット油は、オーデコロンの原料や石鹼の香料にも使われるほか、食品のフレーバー素材としても利用されている。アールグレイはベルガモットで着香した紅茶として広く愛飲されている。香りには抗ストレス、入眠促進作用、鎮静作用などがある。

12.マジョラム
シソ科の多年草。地中海沿岸の原産。後を引くクセのある香りは肉やチーズと相性がよく、イタリア料理でよく用いられる。古代ギリシャ、ローマでは「幸福」のシンボルとされ、新婚夫婦の冠に使われていた。またヨーロッパでは古くから抽出成分が民間薬として、気管支の症状や緊張性頭通、消化不良、筋肉痛や関節痛など、内用・外用問わず使われていた。

13.ラベンダー
地中海沿岸からアルプス地方が原産の、シソ科の多年草。多くの品種(系統群)があり、草全体から香りを放つため「香りの女王」とも呼ばれる。香りには抗ストレス、鎮静作用、食欲増進、生理痛など女性ホルモンに由来する症状の改善などに幅広く効果がある。

14.レモングラス
香料植物として熱帯地方の湿地で栽培されるイネ科の多年草。葉にシトラールという成分を多く含むことからレモンのような香りがあり、エスニック料理に多用されるハーブの代表として広く知られている。その香りは脳機能の活性化(意欲や集中力の向上)、抗ウイルスなどに効果がある。

15.ローズウッド
日本では「紫檀(したん)」と呼ばれるマメ科の常緑高木。木は堅く黒紅紫色を帯び、木目が美しいことから、昔から建築や家具材などに用いられてきた。ピアノ材としても珍重されている。材にほのかにバラに似た香りがあることから、この名で呼ばれるようになった。香りには鎮静作用がある。

16.ローズマリー
シソ科の常緑高木。ヨーロッパでは古来、羊肉の料理に欠かせないハーブとして珍重されてきた。薬用としては薬の浸出液が強壮剤に処方されたり、リウマチや外傷に外用されたりするなど、薬草としても栽培されてきた。香りは脳機能の活性化(集中力や記憶力の向上)、抗ウイルスなどに効果がある。

(引用終了)
<同書 206−212ページ>

以上、私はこれまでラベンダーを使うことが多かったけれど、これからは他もういろいろと試してみたい。皆さんも、これらの香りを楽しみつつ豊かな生活を送っていただきたい。尚、脳内情報伝達を調整する神経伝達物質や、血液中に放出されて情報を伝達するホルモンについては、以前書いた「神経伝達物質とホルモン」の項などを参照されたい。

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モノとコトの間 II

2023年01月10日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 ここまで、「モノとコトの間」、「コトの制御」と、

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話者から見て、
動きが見えない時空=モノ
動きが見える時空=コト
---------------------------------------

という定義について書いてきたが、この定義のsignificanceについて「後期近代」という時代背景に即して考えを展開してみたい。

 西洋で発祥した「近代」の特徴の一つに、「合理主義」というものがあった。「後期近代」に入り、この合理主義はさらに「デジタル・AIの活用」へと進展してきているが、一方、合理主義の一側面である「還元主義的思考」によって生まれた“モノ信仰”に行き詰まりを感じ、動きのある“コト”を大切にする生き方・考え方への関心も高まってきている(モノコト・シフト)。そういう時代に上の定義は何を示唆するのだろうか。

 近代の合理主義は、時間と空間について「宇宙は唯一無二の空間であり、そこには均一の時間が過去から未来へ滔々と流れている」という考え方を前提としている。複眼主義の「世界は無数の時空の入れ子構造としてある」という考え方を前提としていない。宇宙で起こるコトにはかならず原因となるモノがあり、コトは「モノが時間の流れに沿って変化する現象」であると考える。だからコトの原因を探るには、それを構成するモノを解析すればよい(還元主義)。多くの場合、コトの要因には複雑に絡まったモノが多数存在するから、解明には時間もかかるしそれを探る装置も巨大なものになる。

 こういった還元主義的思考に疑問が呈されるようになったのは、20世紀後半、カオス理論や複雑系と呼ばれる科学思考(非線形科学)が出てきてからのことだと思う。その前から熱力学などの分野ではコトの複雑さが指摘されてはきたけれど。

 「後期近代」に入り、科学界はようやく、還元主義をさらに突き詰める方向(デジタル・AIの活用)と、“コト”をコトとして捉えようとする方向(非還元主義的思考)とに分かれてきた。しかし「宇宙は唯一無二の空間であり、そこには均一の時間が過去から未来へ滔々と流れている」という前提はまだ崩れていない。

 「西洋近代」を支えるのはキリスト教精神であり、世界の出来事が均一時空に存在する“モノ”の作用であるとすれば、その背後に(モノを操作する)万能の人格神を想定しても科学と矛盾しない。キリスト教と還元主義の親和性。デジタル・AIの活用の先端分野たる「遺伝子操作」などはぎりぎり神の領域に近づくけれど、還元主義者たちは神の操作範囲を後退させて行為を正当化するだろう。

 「宇宙は唯一無二の空間であり、そこには均一の時間が過去から未来へ滔々と流れている」という前提が還元主義的思考を生んだ。しかし、還元主義的思考によって“コト”は解明できない。ヒトの遺伝子をすべて同定しても生命の本質は解明できない。還元主義によって出来るのは、「工学的」に“コト”の効率を上げたり下げたりすることまで。それによって生活は便利になるが、自然環境は破壊されつつある。それが、モノコト・シフト、“モノ”よりも“コト”を大切にする生き方・考え方への関心の高まりを生んだ。

 複眼主義では、

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話者から見て、
動きが見えない時空=モノ
動きが見える時空=コト
---------------------------------------

という定義及び「世界はそれら無数の時空の入れ子構造としてある」という認識を前提に、コトのインパクトは、その時空の持つエネルギーの大きさと、話者とその時空との近接度によると考える。コトには動きの種となる環境はあるが、コトの原因にモノが存在するとは考えない。だから禍事に臨んで重要なのはその制御の方法であり、探しても見つからないモノを取り押さえようとすることではないという話になるわけだ。

 モノコト・シフトの時代を正しく捉えるためには、コトの原因にモノを探す還元主義的思考から離れ、コトをコトとして扱う複眼主義的思考への転換が必要なのだ。複眼主義の定義のsignificanceは、「後期近代」の今こそ見えてくるはずだ。

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コトの制御

2023年01月05日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 2021年の終わりに「モノとコトの間」という記事を書き、モノコト・シフト時代の特性の一端として、

---------------------------------------
話者から見て、
動きが見えない時空=モノ
動きが見える時空=コト
---------------------------------------

という複眼主義の定義を記した。世界はそれら無数の時空の入れ子構造としてある。今回は続編として、「動きが見える時空=コト」のうち、あなたやあなたの会社がよくないコト(禍事=わざわいごと)に襲われたとき、どうやってそれを制御するかについて、方法をいくつか挙げてみたい。皆さんが日々やっていることだろうが、こうして並べてみると、どういう場合にどの方法を選べばベストなのか、頭の整理にはなると思う。

(1)モノによる制御

川が氾濫したとき家の周りに土嚢を積むイメージ。物量作戦。あくまでも一時凌ぎでしかないが、緊急時には有効。冬山で寒さに襲われたときの防寒具など。

(2)流れを躱(かわ)す

時空の動きを観察して流れから身を躱(かわ)す。武道でいう受身。柔よく剛を制すともいう。

(3)動きの元を断つ

これができれば一番良いが、コトが大きくなってからでは難しい。気配を察知して、大ごとになる前に種を潰しておく。ただし天変地異などについては困難。

(4)巻き込まれないように離れる

コトはかならず場所で起こる。だから小規模なコトであれば、巻き込まれないようにその場所から離れるのが上策。

(5)コトに身を委(ゆだ)ねる

場合によってはコトに身を委ねることで禍(わざわい)を無化できる。例えば船に乗っているとき、遠方を見、揺れに身を委ねることで船酔いを防ぐことができる。

(6)コトをぶつけて中和する

ノイズに対して逆位相をかけて音を中和する。買収を仕掛けられたらカウンターで買収を仕掛ける。怒鳴られたら怒鳴り返す。手荒な解決法だし副作用も覚悟しなければならないが、上手くゆく時もある。

(7)しばし様子を見る

コトには初めと終わりがある。原因を探り次の動きを予測するなどして暫し様子を見ていると、禍が自然に収束する場合がある。

(8)コトを小分けにして対処する

大きな禍に襲われたら、禍(コト)を小分けにして上の(1)から(7)までの合わせ技で対処する。

(9)力を合わせてコトに当る

一人で対処できないような禍事には、仲間を集めてコトに当る必要がある。制御の方法は相談にて。

 以上、(1)から(9)まで並べてみたが、以下さらに書き足しておきたい。

〇解らないコトについては、解るまでよく考える事。

〇起こっているコトをよく観察して敵を見間違わないように。

〇体が弱っているときはエネルギーが満ちるまで待つ。

〇粘り強く、諦めない。

〇人間関係の禍にはとくに(4)と(7)が有効。(3)もあり。興奮した相手の話に水を差す。

〇コトにあたり好きなモノを身近に置くとpositiveになれる

禍事も「動きが見える時空=コト」の一種だから、それを制御する方法は必ずある。落ち着いて対処してほしい。先人もいうように、この世に「明けぬ夜はない」のだから。

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11の温泉

2022年11月26日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 以前「日本列島の来歴」の項で、“4つのプレートがせめぎ合い、自然災害が多い日本列島”の生い立ちについて概観したが、災害の多い日本列島は同時に、「温泉」という自然の至物に恵まれた地でもある。ここではまずその泉質について、雑誌『自遊人』の別冊「温泉図鑑」(2016年9月)から、掲示用泉質名を列記したい(「泉質名の見方」60−61ページ)。

1.単純温泉
2.二酸化炭素泉
3.炭酸水素塩泉
4.塩化物泉
5.硫酸塩泉
6.含鉄泉
7.含アルミニウム泉
8.含銅−鉄泉
9.硫黄泉
10.酸性泉
11.放射能泉

実際の泉質名は、昭和53年から主な化学成分を記した「新泉質名」を使うようになった。成分表示は影響力の大きい順番に並べる。例えば「ナトリウム(陽イオン)‐塩化物・炭酸水素塩泉(陰イオン)」のように。一方、温泉の性格は陰イオンの性質によって決まることが多い。そこで掲示用泉質名は、性格の強い陰イオンを表示する。この場合は従って「塩化物泉」となる。ちなみにこの例の旧泉質名は「含重曹−食塩泉」。重曹=炭酸水素ナトリウム。

 ここからは日本温泉協会の「温泉名人」というサイト情報を基に主な泉質をさらにみていこう(こちらのサイトでは掲示用泉質名を10に分類。上記との違いは7.と8.が無く、別に「含よう素泉」がある)。

1.単純温泉
基準:温泉水1kg中の溶存物質量(ガス性のものを除く)が1,000mg未満で、湧出時の泉温が25℃以上のもの。このうちph8.5以上のものを「アルカリ性単純温泉」と呼ぶ。
特徴:肌触りが柔らかく、癖がなく肌への刺激が少ないのが特徴。アルカリ性単純温泉は、肌が「すべすべ」する感覚があるのが特徴。
例:岐阜県・下呂温泉、長野県・鹿教湯温泉など。
泉質別適応症(浴用):自律神経不安定症、不眠症、うつ状態。

2.二酸化炭素泉
基準:温泉水1kg中に遊離炭酸(二酸化炭素)が1,000mg以上含まれているもの。
特徴:入浴すると全身に炭酸の泡が付着して爽快感がある。ただし加熱すると炭酸ガスが揮発する場合あり。
例:大分県・長湯温泉、山形県・肘折温泉郷の黄金温泉など。
泉質別適応症(浴用):きりきず、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症。

3.炭酸水素塩泉
基準:温泉1kg中の溶存物質量(ガス性のものを除く)が1,000mg以上あり、陰イオンの主成分が炭酸水素イオンのもの。
特徴:陽イオンの主成分により、ナトリウム‐炭酸水素塩泉、カルシウム‐炭酸水素塩泉、マグネシウム‐炭酸水素塩泉などに分類される。
例:和歌山県・川湯温泉、長野県・小谷温泉など。
泉質別適応症(浴用):きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症。

4.塩化物泉
基準:温泉1kg中の溶存物質量(ガス性のものを除く)が1,000mg以上あり、陰イオンの主成分が塩化物イオンのもの。
特徴:陽イオンの主成分により、ナトリウム‐塩化物泉、カルシウム‐塩化物泉、マグネシウム‐塩化物泉などに分類される。日本では比較的多い泉質。
例:静岡県・熱海温泉、石川県・片山津温泉など。
泉質別適応症(浴用):きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症。

5.硫酸塩泉
基準:温泉1kg中の溶存物質量(ガス性のものを除く)が1,000mg以上あり、陰イオンの主成分が硫酸イオンのもの。
特徴:陽イオンの主成分により、ナトリウム‐硫酸塩泉、カルシウム‐硫酸塩泉、マグネシウム‐硫酸塩泉などに分類される。
例:群馬県・法師温泉、静岡県・天城湯ヶ島温泉など。
泉質別適応症(浴用):きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症。

6.含鉄泉
基準:温泉水1kg中に総鉄イオン(鉄IIまたは鉄III)が20mg以上含まれているもの。陰イオンによって炭酸水素型と硫酸塩型に分類される。
例:兵庫県・有馬温泉など。
泉質別適応症(飲用):鉄欠乏性貧血症。

9.硫黄泉
基準:温泉水1kg中に総硫黄が2mg以上含まれているもの。
特徴:硫黄型と硫化水素型に分類され、日本では比較的多い泉質。
例:栃木県・日光湯元温泉、神奈川県・箱根温泉郷の小涌谷温泉など。
泉質別適応症(浴用):アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症(硫化水素型については、末梢循環障害が加わる)。

10.酸性泉
基準:温泉水1kg中に水素イオンが1mg以上含まれているもの。
特徴:口すると酸味あり。殺菌効果もある。ヨーロッパ諸国ではほとんど見られない泉質だが、日本では各地で見られる。
例:秋田県・玉川温泉、岩手県・須川温泉など。
泉質別適応症(浴用):アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、糖尿病、表皮化膿症。

11.放射能泉
基準:温泉水1kg中にラドンが8.25マッヘ単位以上含まれているもの。ごく微量の放射能はむしろ人体に良い影響を与えることが実証されている。
例:鳥取県・三朝温泉、山梨県・増冨温泉など。
泉質別適応症(浴用):痛風、関節リウマチ、強直性脊椎炎など。

以上、温泉の各泉質について纏めた。詳細はまだ勉強中だが概要は掴んでいただけると思う。

 尚この項は、自然の物や現象を「数」で綴ったシリーズとして、

3つの石」(10/30/2018)
12の土」(11/19/2018)
10の雲形」(1/21/2019)
20のアミノ酸」(6/30/2019)

に続く5番目となる。それらも併せてお読みいただければ嬉しい。

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無意識について

2022年08月16日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 『BTS、ユング、こころの地図』マリー・スタインス/ティーヴン・ビュザー/レオナード・クルーズ共著(創元社)という本を読んだ。BTSというグループがユング心理学の影響を濃く受けているとは知らなかったが、ユングの自我、ペルソナ、影、アニムスとアニマ、コンプレックス、集合的無意識、といった諸概念をあらためて確認することができた。ユングについてはこれまで、「百花深処」<平岡公威の冒険 4>の項で触れたことがある。三島由紀夫(本名:平岡公威)が晩年嵌ったのがユングの集合的無意識だった。

 そのこともあり、今回は「無意識」について、いくつか思いつくことを備忘録的に記しておきたい。

(1)人の内面の新大陸

 「後期近代」で書いたように、西洋で発祥した「近代」の特徴は、

〇 個の自立
〇 機会平等
〇 因習打破
〇 合理主義
〇 地理的拡大
〇 資本主義
〇 民主政治

といったことだったが、この中の「因習打破」や「合理主義」が、人の無意識というものを見つけ出すのに役立った。それは内向きの「地理的拡大」であり、人の内面の新大陸発見だったといえる。

(2)個人の精神分析ツールとして

 「無意識」はまず、精神分析ツールとしてフロイト(1856-1939)によって定律化された。精神分析は、近代の特徴である「個の自立」を目指すためのツール(の一つ)として社会に広まった。フロイトに続き、無意識の研究はアドラー(1870-1937)やユング(1875-1961)、ラカン(1901-1981)、さらにはギブソン(1904-1979)らによって深化。フロイトは「性」、アドラーは「社会の中の個人」、ユングは「元型」、ラカンは「言葉と性」、ギブソンは「生態」といったキーコンセプトによって「無意識」を追求した。

(3)社会の構造分析ツールとして

 「無意識」の研究はさらに精神分析の範囲を超え、ベンヤミン(1892-1940)の集団の無意識、フロム(1900-1980)の社会的性格論、ギブソンのアフォーダンス、ブルデュー(1930-2002)の界とハビトゥス、トッド(1951-)の家族類型論などによって、社会構造の重要なエレメントとしても注目されるようになった。

(4)諸刃の剣として

 後期近代の特徴は、

〇 貧富の差の拡大
〇 男女・LGBT差別
〇 自然環境破壊
〇 デジタル・AI活用、高齢化
〇 グローバリズム
〇 金融資本主義
〇 衆愚政治

といったものだが、無意識の研究はこれから、人類にとって“諸刃の剣”となると思われる。人々の理解が深まって社会の安定が進む一方、権力を握った富者は、(個や集団の)無意識を使って貧者を支配する術に磨きをかけるだろう。

(5)複眼主義でいうと

 このブログでは複眼主義を提唱している。複眼主義では、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

という対比を掲げ、生き方としては両者のバランスを大切に考える。ただし、
・各々の特徴は「どちらかと云うと」という冗長性あり。
・感性の強い影響下にある思考は「身体の働き」に含む。
・男女とも男性性と女性性の両方をある比率で併せ持つ。
・列島におけるA側は中世まで漢文的発想が担っていた。
・今でも日本語の語彙のうち漢語はA側の発想を支える。

「無意識」を複眼主義で考えると、それは基本的にB側、身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働きといえる。性の深層、条件反射、感性、夢の形象、知らず知らずのうちに身に付いた暗黙の知の体系などなど。モノコト・シフトの時代はB側偏重でもあるから、ますますこういった無意識への注目度は高まるだろう。

 西洋近代の道程は、新大陸発見の旅(地理的拡大)と並行して、A側による内側新大陸(無意識=B側)探検の旅でもあった。外側新大陸発見の旅の最後、極東の果てにB側王国の「日本」があったことは愉快な偶然、ユングにいわせれば「意味のある偶然の一致(シンクロニシティ)」なのかもしれない。「ひらめきと直感」の項でみたように、ユングは日本人のB側偏重に気付いていた。

 以上、無意識について思いつくことを記したが、私が社会学における無意識について知ったのは、中学か高校生の頃に読んだフロムの『自由からの逃走』(東京創元社)によってだった。個人の無意識については、同じ頃読んだ三島由紀夫の『音楽』(新潮文庫)によって。最近は、ビジネスコンサルとして経営的観点から、文芸評論として歴史・文化的見地から、「無意識」に興味を寄せてきた。これからもこの“諸刃の剣”について留意しながら、後期近代のpositiveな未来、

● local communityの充実
● 継続民主政治による社会の安定
● 自然環境の保全

の実現に向けて考えを進めたい。

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エピジェネティクス

2022年04月22日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 ここのところ、ウイルスや免疫、ゲノム編集の本を読み、今から十年足らず前に興味を持った「エピジェネティクス」について改めて知識を整理しておこうと、当時読んだ本を二冊ほど再読した。

『エピジェネティクス』仲野徹著(岩波新書、初版2014年)
『エピゲノムと生命』太田邦史著(講談社・BLUE BACKS、初版2013年)

エピジェネティクスとは、DNAの配列変化によらずに遺伝子発現を制御・伝達するシステム、およびその学術分野のことで、2003年にヒトゲノム(ヒトの遺伝情報全体)の解読がほぼ完了したあと特に興隆してきた。ヒトゲノムを解読してみると驚くことに、タンパク質をコードする部分(遺伝子)はヒトゲノム全体の約2%でしかないことが解った。ヒトの脳と身体の複雑さを考えたとき、そのほかの部分がどのような役割を果たしているのかが、生命科学の主要関心事となっていった。ゲノムを、タンパク質を作るのに必要な遺伝情報(コードDNA)の塩基配列としてではなく、ゲノム全体の98%を占める非コードDNAとコードDNAとの連携(ヒストン修飾とDNAメチル化)として見るわけだ。

 『DNAの98%は謎』小林武彦著(講談社・BLUE BACKS、初版2017年)という本はさらにその詳細の解説。最近手にして読了した。副題は“生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か”。本カバー裏表紙の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

サルとヒトで遺伝子はほとんど同じなのに、
なぜ見た目はこんなにも違うのだろう?
------------------------------------
ヒトゲノム(全遺伝情報)のうち、遺伝子部分はわずか2%。
残りの98%は「非コードDNA」と呼ばれ、
意味のない無駄なものと長らく考えられてきました。
ところが、じつはそれこそが生命の不思議に迫る
重要な役割を担っていることが分かってきたのです。
サルとヒトの違いを生み出し、老化と寿命に関わり、
進化の原動力ともなる「非コードDNA」の仕組み、
そして驚きの発見の数々をエピソード豊富に紹介します。
------------------------------------

(引用終了)

目次は、

はじめに
第1章 非コードDNAの発見、そしてゴミ箱へ
第2章 ゴミからの復権
第3章 非コードDNAと進化
第4章 非コードDNAの未来
おわりに

ということで、メンデルの遺伝子発見から最近のゲノム編集に至る研究の数々を辿る。「おわりに」から著者の文章を引用しよう。

(引用開始)

 生物学は多様性を理解しようとする学問です。
 ゲノムの解読が可能になり、その配列の意味を理解することが、多様性を研究する上で最も重要な課題となってきました。そして現在はコード領域から非コード領域へと、研究者の関心が移り始めています。
 コードDNA領域、つまり遺伝子は私たちの体を作る設計図です。これまではこの「遺伝子」を中心に研究がされてきました。遺伝子の変化は、細胞に異常をもたらす可能性が高いです。つまり、コードDNA領域の情報はおいそれとは変わってもらっては困る必須情報なのです。
 それに対して、非コードDNA領域は多少変わっても即座に大きな問題を生じないかもしれません。別の言い方をすれば、コードDNA領域が突然大きく変わらないように、非コードDNA領域がクッションとなり、自身が変化することでしのいでいると言ってもいいかもしれません。このクッションがどれだけ柔軟に変化に耐えうるかが、我々人類がどれだけタフに環境の変化に耐えうるかを決める重要な要素となります。
 非コードDNA領域はコード領域を守りつつも、少しずつ変化しコード領域に影響を与えて進化を促します。すなわち非コードDNA領域は人類の行く末を決める重要な領域なのです。
 非コードDNA領域の研究は、まだ始まったばかりです。今後も研究を重ねて、より具体的な非コードDNAによるゲノムのコントロールのメカニズム、そしてそこから予想される人類の未来像を描いていきたいと考えています。実際の数万年、数十万年後の人類の姿、かたちがどうなったかの確認は、我々の子孫に委ねることにいたしましょう。

(引用終了)
<同書 195−196ページ>

 このブログでは、今の時代に見える傾向を「モノコト・シフト」と呼んでいる。モノコト・シフトとは、20世紀の「大量モノ生産・輸送・消費システム」と人のgreed(過剰な財欲と名声欲)が生んだ、「行き過ぎた資本主義」(環境破壊、富の偏在化など)に対する反省として、また、科学の「還元主義的思考」によって生まれた“モノ信仰”の行き詰まりに対する新しい枠組みとして、(動きの見えない“モノ”よりも)動きのある“コト”を大切にする生き方・考え方への関心の高まりを指す。2003年以降生命科学は、ゲノムを塩基配列という「モノ」としてではなく、連携という「コト」として見る方向へ転換したわけだから、「モノコト・シフト」と符合する。符合するというより、2003年のヒトゲノム解読が、シフトそのものを生む要因の一つだったと云えるだろう。

 物理や社会学の分野では、非線形科学(同期現象やゆらぎ、相転移や自己組織化などの研究)が隆盛している。非線形科学は「生きた自然に格別の関心を寄せる数理的な科学」であり、ヒストン修飾とDNAメチル化の振舞いが線形(比例的)ではないエピジェネティクスもその範疇に入る。このブログでは「モノコト・シフト」は非線形科学の時代だとも唱えている。

 先日「後期近代」の項で、後期近代の特徴は、

〇 貧富の差の拡大
〇 男女・LGBT差別
〇 自然環境破壊
〇 デジタル・AI活用、高齢化
〇 グローバリズム
〇 金融資本主義
〇 衆愚政治

であり、これから先に見える未来の姿は、negativeに考えると、

● 高度監視社会
● 政治の不安定化(監視社会への人々の反撥)
● 災害の頻発(恐慌やパンデミックを含む)

といったものになるだろうと書いたけれど、デジタル情報を駆使したエピジェネティクスは、扱いを一歩間違えると「高度監視社会」の技術ツールとして利用されかねない。『DNAの98%は謎』の著者がいうように、長い目で見る態度が必要で、それが自然や生命を大切にすることに繋がると良いと思う。

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免疫について III

2020年05月13日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 前回「免疫について II」の項で、MHC拘束性について触れたが、「免疫について」の項で紹介した『これだけで病気にならない』西原克成著(祥伝社新書)には、MHCの本来の役割は老化した細胞を見分けること、とある。

(引用開始)

 MHCは移植免疫で発見されたので、自己・非自己を見分けるためのものだと思われていますが、実は、この見分けがMHCのメインの仕事ではありません。白血球が自己・非自己を見分けるのはあくまでもついでの仕事です。MHCの本来の仕事は、細胞膜のほころびによって老化した細胞を見分けることなのです。
白血球は、老化した細胞を見つけると細胞膜を破って消化し、老廃物と再利用できる物質とに分けます。再利用できる物質は、細胞のリニューアル(再生)に用いられます。老化した組織の細胞と接して未分化細胞が待機しており、これが次々に新しい細胞になります。

(引用終了)
<同書 42−43ページ>

この考え方は、西原氏の「重力進化学」に詳しい。MHC発生は、三億年以上前に海から陸に上がった生物における十二の変化の内の一つだという。

 老化した細胞のMHC(クラスI分子)は変性するので、自然免疫のNK細胞はそれを見つけて消化する。NK細胞は、老化した細胞だけでなく、がん化した細胞やウイルスに感染した細胞に対しても作動する。MHC拘束性は獲得免疫の話で、自然免疫系はどんな異物に対しても働く。しかし完全ではないので、そのあとより複雑な獲得免疫が作動するわけだ。

 最近アレルギーや自己免疫疾患が増えている。生物はゆっくり進化するから、昨今の急激な環境、生活や食の変化に、人の免疫、特に獲得免疫系が付いて来られず過剰反応してしまうのだろう。これも一種の自然破壊(体内環境破壊)だと思う。新型コロナウイルスに対する抗体づくりも獲得免疫の働きだが、その前に、基礎的な抵抗力として、自然免疫を高めておくことはやはり大切だ。

 一方、「免疫について II」の項で引用した『笑う免疫学』藤田紘一郎著(ちくまプリマ―新書)には、MHCの型は個人差が大きいがそれは共生の手段だ、とある。尚、ヒトではMHCはHLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)と呼ばれる。

(引用開始)

 たとえば、細胞がウイルスに感染したとします。ある人のHLA分子はそのウイルスを上手に提示できなかったため、Tリンパ球による攻撃がされずにウイルスが増殖してしまいました。しかし、またある人は同様のウイルスに感染しましたが、HLAの型が違うため、上手にHLA分子が異物を提示出来て、Tリンパ球の攻撃でやっつけることができました。
 つまり、人ごとにHLAの型を変えておけば、多種多様な異物があっても、これらを排除できるHLAを持っている人が生き延びて、人類を絶滅の危機から救うことができるというわけです。もしみんなが同じHLA型で個人差がないとすれば、ある驚異の異物が感染したりすると、あっという間に人類は全滅してしまうでしょう。
 このように、私たちは個人差のある免疫能力を持って病気に立ち向かい、人間という種を存続させています。これは、自分は他人のために、他者は自分のために生きているという意味で「共生」であるとも言えるでしょう。

(引用終了)
<同書 167−168ページ>

今回の新型コロナウイルスの場合も、すぐ治る人と重症化する人の違いは、一部、HLAの型にあるのだろうか。

 藤田氏の考え方は、氏の「共生の思想」の延長線上にある。「自分は他人のために、他者は自分のために生きている」という免疫の役割は、このブログの<生産と消費論>における社会のあり方と一致する。

 「重力進化学」も「共生の思想」の考え方も、私の免疫に関する興味、

(1) 健康管理
(2) 脳科学との関係
(3) 社会科学への適応

においては、(1)を超えて(2)や(3)の領域に入る。どちらも免疫というシステムの奥深さを示していると思う。さらにいろいろと考えたい。

 (1)に戻ると、「免疫について II」の最後に記した「免疫力をつける」とは具体的にどういうことなのか整理しておきたい。それは、生活リズム、食事、ストレスなどに気を配ることによって、

〇 自然免疫と獲得免疫
〇 ヘルパーT細胞のTh1とTh2
〇 腸内細菌(善玉菌と悪玉菌)

の体内バランスを崩さないこと。このブログ<非線形科学>カテゴリでも、発酵食品、自律神経、笑いの効用、活性酸素、食品添加物などについて記しているので参考にしていただきたい。

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免疫について II

2020年04月27日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 以前「免疫について」の項で、免疫に関する興味を、

(1) 健康管理
(2) 脳科学との関係
(3) 社会科学への適応

の三つに纏めたことがある。今回、新型コロナウイルスとの関連で、特に(1)の健康管理の観点から免疫の働きを整理しておきたい。内容は主に、2016年に出版された『笑う免疫学』藤田紘一郎著(ちくまプリマ―新書)に拠る。

 まずは免疫細胞の種類から。免疫には大きく「自然免疫」(生体が先天的に持っている作用)と、「獲得免疫」(後天的に得る作用)とがある。マクロファージ、好中球、NK細胞などは自然免疫、T細胞、B細胞などは獲得免疫を担当する。T細胞にはキラーT細胞とヘルパーT細胞(Th1とTh2)がある。

 ウイルスは、自身ではエネルギーも作れず増殖もできない。寄生した生体の宿主細胞と一体化し、内部に自身のRNAを注入、子孫のウイルスを作り増殖する。

 体内にウイルスが入ってくると、まずマクロファージがこれを食べる。NK細胞はウイルスに感染した細胞を殺す。NK細胞はさらにサイトカイン(免疫反応の調整に不可欠な物質)を産出し、体内の細胞にウィルスに対する抵抗性を持たせる。ここまでが自然免疫の作用。

 マクロファージが食べたウイルスの情報は、ヘルパーT細胞(Th2)を通してB細胞に伝わる。するとB細胞はウイルスに対する抗体(抗原と特異的に結合して抗原の働きを抑える)を産出。抗体はウイルスに感染した細胞を除去する。ヘルパーT細胞(Th1)は同時に、キラーT細胞に命じてウイルスと戦わせる。T細胞とB細胞はこのウィルスの情報を記憶して再度ウイルスが侵入してきた時に備える。これらが獲得免疫の作用である。

 以上のステップのどこかに不具合が生じるか、別の特異な要因が加わると、ウイルスはなくならない。新型コロナウイルスの場合、感染してもしばらく発症しないのは何故か、すぐに治る人と重症化する人の違い、症状、検査方法、ウイルスの種類、抗体の有効性、サイトカインストーム、治療、情報の記憶、ワクチン製造、抗体消失、集団免疫などについてもっと知る必要がある。知識を増やしたい。

 免疫作用は、細菌やウイルスなど外部からの抗原(非自己)を攻撃するばかりでなく、内部組織を抗原とみなして攻撃してしまうこともあるから厄介だ。後者は自己免疫疾患と呼ばれる。免疫はこの自己と非自己を見分ける仕組みがかなり複雑で分かりにくい。主要組織適合抗原複合体(MHC)、クラスI分子とクラスII分子、T細胞受容体(TCR)、MHC拘束性、自己免疫寛容(クローン除去、アナジー、制御性T細胞)、Th1とTh2のバランスなどなど。

 たとえばMHC拘束性とは何か。

 人は、ほぼすべての細胞表面にMHC(Major Histocompatibility Complex)を持っている。MHCにはクラスI分子とクラスII分子とがあり、前者は人を構成する大部分の細胞表面に存在、後者はマクロファージ、T細胞、B細胞などの限られた細胞表面にしかない。細胞がウイルスに感染すると、感染した細胞の(マクロファージ由来の)クラスII MHCとウイルス抗原に、ヘルパーT細胞(Th1)が接着してサイトカインを放出、キラーT細胞を出動させる。キラーT細胞は、ウイルス感染細胞の表面のクラスI MHCとウイルス抗原に接着し、ウイルス感染細胞を破棄除去する。これは上述した獲得免疫の作用の一部だが、この時、キラーT細胞は、感染細胞に自分の組織と同じMHCがないと作動しない。これをMHC拘束性という。

 たとえば自己免疫寛容とは何か。

  私たちの体内には、自己の物質(自己抗原)に対する抗体も存在する。それらが抗原抗体反応(抗体が抗原と特異的に結合して抗原の働きを抑えるように作用すること)を起こさないよう、免疫系が(クローン除去、アナジー、制御性T細胞という3つのメカニズムで)制御している現象を、自己免疫寛容という。

 たとえば自己免疫疾患とは何か。

 なにかの理由で自己免疫寛容に異変が生じ、自己組織を敵とみなすキラーT細胞やマクロファージが刺激され自己組織を攻撃したり、自己成分を異物とみなすヘルパーT細胞やB細胞が刺激され自己成分に対する抗体を作り自己組織を攻撃することを、自己免疫疾患という。

 これらの詳細については当書(注)、あるいは類書をお読みいただきたい。

 「サンフランシスコ・システム」や「父性の系譜」、「新しい統治正当性」などの項で指摘してきたように、今の日本列島に「国家理念」と呼べるものはない。あるのは官僚による「政策」だけ。一本筋の通った国家理念とそれに基づく強いリーダーシップがないと、特に複雑系の政策は後手に回る。

 今回のウイルスの発生原因については諸説あるが、一部の為政者はこれを覇権争いに利用すると同時に、「コロナウイルスとモノコト・シフト」の項で指摘したように、「認知の歪みを誘発する要因」の項で触れた「ショックドクトリン政策」によって、監視の強化や経済的影響力深化を進めるだろう。社会的弱者の切捨ても。

 スモールビジネスに関わる皆さんは、そういう為政者に惑わされることなく、免疫力をつけ、ウイルスに関する知識を増やし、自身(と家族や従業員)の危機管理対策に知恵を絞っていただきたい。

(注)
・同書120ページ13行目「自分にとって不都合なMHC」は「自分にとって不都合のないMHC」か。
・同書138ページ7行目「自分と同じMHCを持っている細胞」は「自分と同じMHCで変性していない細胞」か。

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ニュートン粒子と自己駆動粒子

2020年04月09日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 以前「新しい統治思想の枠組み II」の項で、『渋滞学』西成活裕著(新潮選書)という本に触れた際、「ニュートン粒子と自己駆動粒子」という言葉を紹介した。

 ニュートン粒子とは、水分子やゴルフボール、惑星など、ニュートンが考えた力学の基本原理、@慣性の法則、A作用=反作用の法則、B運動法則を満たすものを指し、自己駆動粒子とは、車や人、生物など、一般にニュートンの3法則を満たさないものを指す。

 渋滞学の研究対象は主に自己駆動粒子だ。ただしニュートン粒子にも粉粒体というものがあり、研究が進められているという。粉粒体とは、構成している粒子の一つ一つは固体だが、それがある程度集まるとサラサラと流れるような動きをしたり、凝集すると再び固まったりする性質を持つものを指す。

 いま我々の生活を脅かしているウイルス、生物と言ってよいのかどうか分からないが、生物に付いて増殖することは確かだから、自己駆動粒子系ということで、立派に渋滞学の対象の筈。『渋滞学』の中にも、病原菌についての言及がある。同書第5章「世界は渋滞だらけ」<渋滞が望まれる森林火災>から引用しよう。

(引用開始)

 次々と燃え広がる火を一種の流れとみなせば、これもまた自己駆動粒子系として考えることができる。そしてこれまでと違って「火災の渋滞」とは、むしろ大歓迎すべき現象ということになる。つまり、渋滞せずにどんどん進んでゆくことは、火災の広がりを意味しているが、渋滞とはそこで火の進む勢いがなくなることを意味するからだ。
 このような観点から森林火災を考えると、その防止のためにはいかにして渋滞を起こせばよいのか、という逆の発想が必要だ。いま、ある木が燃え出したとして、それが山全体に燃え広がらないためにの条件はどういうものだろうか。たとえばある程度木と木の間隔が開いていれば、火にとって通り道がなくなりそれ以上前には進めない。しかしあまり間隔をあけて植林するというのは、林業などで材木を切り出す場合にはあまりにも効率が悪くなる。したがって、ある木の近くにどのように他の木が分布していれば安全なのかが知りたくなる。
 このような疑問に答えるのに適した手法が「パーコレーション」といわれるもので、統計物理学の比較的新しいテーマの一つだ。パーコレーションとは「浸透」という意味で、あるものが別のものの中にどれだけ浸み込んでゆけるかを計算できる。たとえば、雨が地面に落ちて地下に浸み込んでゆく様子がまさにパーコレーションで、どのような土質と表面にすれば雨水はどのように浸透してゆくのか、というのは土木工学でも重要な研究課題になっている。森林火災では、火がどれだけ森の中を燃え広がるのかが知りたいので、まさにこのパーコレーションの手法が使える。(中略)
 パーコレーションという強力な統計物理学の方法を渋滞学に応用することで、他にも様々な流れとその渋滞を研究することができる。たとえば、伝染病の問題が挙げられる。木を人とし、火を病原菌にとみなせば、森林火災とほぼ同じアプローチで考えることができ、伝染病を食い止めるのは、病原菌の渋滞を起こせばよいことになる。感染者の分布密度がある一定値以上に上がらなければ病気が全体に広がることはない。この限界密度を求める研究は現在盛んに行われている。
 また、病原菌の代わりに意見や噂という実態のないものを考えれば、どのように人々の間に世論が形成されるのか、あるいは噂はどのように広がってゆくのか、なども研究してゆくことができるだろう。これは次章で述べる、ネットワークの話と絡んで最先端の研究テーマの一つになっている。

(引用終了)
<同書 186−190ページ>

この本が出版されたのは2006年だから、こういった「パーコレーション」の研究はその後かなり進んだだろう。

 「新しい統治思想の枠組み II」を書いたのは去年の10月。新型コロナウイルスの流行を予見したわけではないが、社会をモノ(ニュートン粒子)の集積体として捉えない「渋滞学」の知見が、今回の事態にどれだけ生かされるか、他の医学的知見と併せて注目したい。

 ウイルス問題は、ウイルスの感染渋滞そのものもさることながら、ワクチンや治療薬の開発、治療器や医療のリソース、実物経済・マネー経済へのインパクト、他地域の状況、社会的不安(噂の拡散)、集団免疫の形成など、数多くの事象の「フィードバック効果」が一気に重なり合うから、対策には知恵がいる。自己駆動粒子の多体問題(multibody problem)。「対数正規分布」の項でみたように、21世紀はやはり自然科学、社会科学も含めた「複雑系科学」の時代に違いない。

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内因性の賦活 II

2020年02月28日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 「内因性の賦活」の話を続けたい。内因性の賦活が脳のLGSによってもたらされたとするならば、関連するテーマとして、

1.脳の個性
2.賦活の制御
3.脳と社会とのつながり方
4.脳機能の広がり

などが考えられる。順に見ていこう。

1.脳の個性

LGSの基本構造は熱対流によって作られるから、その機能は人によって特有の精度分布を持つ。人の才能や性格はそのバリエーションによる要素が強い。一方、学習はニューロン・ネットワークが担っている。言語や利き腕による脳の活性化領域の違い、LGS機能の習熟効果、奇形などによって、どのような脳の個性(多様性)が人に生じるのか。

2.賦活の制御

小脳における運動学習は、予定通りの結果が生まれるまで学習を促す方向で制御がなされる。内因性の賦活の場合、情報処理が予定通りの結果を生んだかどうかの判断は何に依存するのか。会話の場合は相手の納得、計画の場合は達成度、しかし目に見えるかたちで結論の出ないものは、外因性の賦活による中断、もしくはエネルギー切れによってしか終息しないのか。

3.脳と社会とのつながり方

以前「自由意志の役割」の項で、

(引用開始)

人間社会のおける「ゆらぎ」は、自然環境変化や気候変動、科学技術の発展、歴史や言葉の違い、貧富の差や社会ネットワーク・システムなどなど、それこそ無数の要因(コト)が複雑に絡み合って齎されるが、人の「自由意志」もそれらの要因の大切な一部である。とくに社会の多様性を保つために、人の「自由意志」の果たす役割は大きいと思う。

(引用終了)

と書いたが、社会の「ゆらぎ」としての自由意志と、LGSが持つ「ゆらぎ」との調和、そういう場の設計やdemocracyのあり方について考えたい。

4.脳機能の広がり

言語と音楽や色彩、直感、運動と思考といった、“mind”と“sensory”とのやり取りの諸相も興味深いテーマだ。それはまた脳の個性とどうつながるのか。

 今のところ以上だが引き続き考えたい。中田氏亡きあと、LGS仮説を踏まえこれらのテーマを追求する科学者が出ると良いのだが。

参考までに、中田力氏の著作を私の知る範囲で記しておこう。

@ 2001年9月 『脳の方程式 いち・たす・いち』(紀伊國屋書店)
A 2002年8月 『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』(紀伊國屋書店)
B 2002年11月 『天才は冬に生まれる』(光文社新書)
C 2003年7月 『アメリカ臨床医物語』(紀伊國屋書店)
D 2006年8月 『脳のなかの水分子』(紀伊國屋書店)
E 2010年12月 『穆如清風 複雑系と医学の原点』(日本医事新報社)
F 2012年2月 『古代史を科学する』(PHP新書)
G 2014年9月 『科学者が読み解く日本建国史』(PHP新書)
H 2018年11月 『神の遺伝子』(文春e-Books)

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内因性の賦活

2020年02月10日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 以前「3つの石」の項で、地球層構造との類似において人の大脳皮質構造を想起し、「水の力」や「五欲について」の項で紹介した『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』中田力著(紀伊國屋書店)を再読したいと書いた。

 故中田氏(2018年逝去)の著書については、2008年に「脳について」の項で、『脳のなかの水分子』(紀伊國屋書店)に触れ、“脳にはニューロン・ネットワークの他にもう一つ高電子密度層があり、その仕組みが人の「内因性の賦活(自由意志や想像力、ひらめき)」を支えているという”と書いたのが最初だ。

 10年以上経ってしまったけれど、今回改めて『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』に沿って、この内因性の賦活について見てみたい。まず同書から引用する。

(引用開始)

 外界からの刺激に対応した脳の情報処理は、外因性の賦活(exgenerous activation)と呼ばれる。感覚器官から到達した信号から連鎖的に起こってくる脳活動という意味である。脳の活動が、すべて外からの刺激によってスタートする一連の現象であったとすれば、脳は、ある入力に反応して結果を生み出す自動制御装置として、けりがついてしまう。
 しかし、脳とはそれほど単純な装置ではない。

 人間は(おそらく、多くの動物も同様に)まったく外部からの刺激を受けない状態で、自発的な脳活動を開始する能力を持っている。
 思考である。
 誰でもが経験するように、深い思考は、むしろ、すべての刺激を断って、じっとしたままの状態の方が進めやすい。
 脳科学ではこのような賦活を内因性の賦活(endogeneous activation)と呼ぶ。外因性の感覚がまったく脳に届いていない状態で開始される、脳活動のことである。そして、この内因性の賦活がどのようにして開始されるかは、脳科学に残された最大の謎のひとつとされていた。たしかに、ニューロン絶対主義の古典的脳科学では、解けない謎である。

(引用終了)
<同書 82ページ(太字化省略)>

 小脳における運動学習は、小脳のプルキニエ細胞が担っているが、その制御は、細胞を一対一で発火させる登上繊維によってなされる。一方、大脳における学習は、ニューロン・ネットワークが担っているけれど、その制御は、高電子密度層と錐体細胞とによって形作られるLGS(と呼ばれる仕組み)によってなされるという。LGSは、小脳の登上繊維のように細胞を一対一で発火させるのではなく、熱放射によって複数の細胞を重み付けしながら発火させる。

 動物の運動は、不随意運動(自律神経系など)と随意運動とに分かれる。随意運動は、大脳前頭葉の運動野からの指令によって筋肉が動き、小脳はこの運動が正しく行われたかを調整・学習する。この場合、大脳の運動野が実践装置、小脳が制御装置である。

 大脳運動野からの運動指令は、大脳中心溝後方の情報処理と前頭前野での判断に基づいた、ニューロンの自家発火である。前頭前野はこの情報処理が正しく行われたかを調整・学習する。この場合、中心溝後方が実践装置、前頭前野が制御装置となる。

 運動野LGSに備わった自家発電能力。これが重要だ。その近傍にある前頭前野。ここから内因性の賦活が生まれた。どういうことか。『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』からふたたび引用しよう。

(引用開始)

 運動野が随意運動の高度化のなかで小脳との連携を固め、実践装置と制御装置との関係を作り上げる中、前頭前野はその関係をモデルとして中心溝後方の情報処理実践装置の制御装置として発達する(中略)。同時に、前頭葉運動野に備わった機能と類似の自家発電能力も踏襲することとなる。そこから生まれたものが、情報処理に関する内因性の賦活、つまりは、思考の過程である。

(引用終了)
<同書 84−85ページ>

動物は、随意運動をモデルとして、前頭前野のニューロン自家発火、すなわち思考能力を獲得したわけだ。

 ここまでは多くの動物に共通だが、人の前頭前野は他の動物よりも大きい。人において前頭前野の機能は高度化した。機能が高度であれば、情報処理と思考に高い能力が生まれる。すなわち知性と自由意志である。

 内因性の賦活=思考は、人において高度化し知性と自由意志を生んだ。知性と自由意志は、人が「理性を持ち、感情を抑え、他人を敬い、優しさを持った、責任感のある、決断力に富んだ、思考能力を持つ哺乳類」となることを可能にした。

 さて、このLGSという仕組み、重要なのは、構造的に「ゆらぎ」を内包していることである。細胞を一対一で発火させる小脳の運動制御はあまりゆらぎを持たないが、LGSは熱放射によって複数の細胞を重み付けしながら発火させるから、制御にゆらぎ(ある量の平均値からの変動)が生じる。中田氏は、ここから、知性には創造性(想像力やひらめき)が備わったという。人における内因性の賦活は、自由意志と創造性とを共に育んだのである。

 いかがだろう、複雑系としての脳科学。LGSの構造、形成されるしくみに興味のある方は、『脳の方程式 ぷらす・あるふぁ』をお読みいただきたい。その前編『脳の方程式 いち・たす・いち』中田力著(紀伊国屋書店)も併せて読むと、より理解が深まるだろう。最後に、研究途中(68歳)で亡くなった中田氏のご冥福を祈る。

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対数正規分布

2019年12月05日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 先日「フィードバック効果」の項で、フィードバック効果の働かない現象を線形、働くものを非線形現象と言うとし、正規分布に従うのは線形、ベキ乗則(べき乗分布)に従うのは非線形現象であると述べた。ここにもう一つ、対数正規分布に従う非線形現象というものがあるという。

 先月末出版された『統計分布を知れば世界が分かる』松下貢著(中公新書)という本がそれで、著者は元中央大学理工学部教授(現在同大学名誉教授)。まず本の帯にある紹介文を引用しよう。

(引用開始)

複雑な世界を「見える」化する強力なツール

一見バラバラに見えるデータでもグラフにすれば特徴が浮かび上がる。身長やテストの点数は真ん中が一番多い釣鐘型のカーブ(正規分布)に、地震の頻度やウェブの被リンク数は右肩下がりの曲線(べき乗分布)になる。そして体重や町村の人口は、釣鐘型だが左側が縮み右側が伸びたカーブになる(対数正規分布)。なぜ世界のほとんどの物事はこの3種類になるのか。仕組みを説明し、データに潜む真理から何が読み取れるかを明かす。

(引用終了)

対数正規分布(ある変数の対数をとったものが正規分布するとき、もとの変数は対数正規分布に従うという<統計学用語辞典>)は、体重や町村の人口のほか、破砕された岩石や鉱石、水平に持った長いガラス棒を床に落として割れたガラスの破片、宇宙の密度の揺らぎ、太陽黒点の面積分布、無脊椎動物や軟体動物の平均寿命の分布、などがあるという。いずれも非線形的な複雑系(系を構成するモノゴトそのものやそれらのつながりが複雑な系)の現象である。

 一方、べき乗分布に従うのは、地震、高額所得者の個人所得、単語の使用頻度、河原の石ころのサイズ、都市の人口、北海道網走沖に流れ着く流氷のサイズ、隕石や小惑星のサイズ、月面クレーターのサイズ、ウェブの被リンク数、生物のサイズと基礎代謝、オンラインショップのユーザーレビュー数と賛同数、などの同じく非線的な複雑系である。

 著者は対数正規分布とべき乗分布との関係について、

(引用開始)

 破砕された岩石が対数正規分布になるのなら、なぜ河原の石ころがべき乗分布を示すのであろうか。砕石場の石はほぼ同じような大きさで同質の岩石が破砕機によってほぼ決まった仕方で破砕される。それに対して、河原のある場所での石ころや砂は、材質が様々で大きさもいろいろな仕方で破砕されてきた結果としてそこにある。それぞれの歴史を背負ってきた複雑系がさらに幾重にも折り重なってはるかに複雑な複雑系が出来上がるという複雑極まりないからくりがべき乗分布の生じる背景にあるのではないかと思われる。

(引用終了)
<同書 90−91ページ>

と指摘する。

 正規分布、対数正規分布とべき乗分布。この三つの統計分布の関係はとても興味深い。著者はとくに対数正規分布に注目する。対数正規分布は、標準偏差(データの散らばり度合い)が平均値と比べてずっと小さくなると正規分布に近づき、標準偏差が大きい極限ではべき乗分布に近づくと述べ、

(引用開始)

対数正規分布は正規分布とべき乗分布を補間する、興味深い分布であるということができる。

(引用終了)
<同書 86ページ>

という。それぞれの確率分布の数学的な説明は本書をお読みいただくとして、ここで当書によって3つの分布におけるプロセスの特徴を整理すると、

<正規分布>

加算過程:いろいろなモノゴトがでたらめに積み重なる(足し算される・加算される)ようなプロセス(例:サイコロ振り)。

<対数正規分布>

乗算過程:ほとんどの段階が一つ前の段階を前提にして実現するような掛け算的なプロセス(例:人の体重)。

<べき乗分布>

増副作用:より多くをもつところにモノゴトがいっそう集中するようなプロセス(例:ウェブの被リンク数)。

と纏めることができよう。

 「フィードバック効果」の項で引用した文章に、“フィードバック効果は、プロセスの進行にともなう物理量の変動が小さいうちは無視できるが、変動が大きくなると単に無視できないばかりか、根本的に系のふるまいを変えてしまうことがある”という箇所があった。或る系が、ここにある“変動が小さいうちは無視できる”ような場合、言い換えるとフィードバック効果がまだ乗算過程にあるような場合、その系は対数正規分布に従い、フィードバック効果が大きくなると、すなわち乗算過程にさらに増副作用が加わると、その系はべき乗分布に移行する、と考えることもできそうだ。未だ勉強中なので間違っているかもしれないが。ちなみに私が理解しているフィードバック効果とは、あるプロセスが進行したとき、それによって生じる事態が、そのプロセスの進行を促進したり阻害したりするようなeffectのこと。

 著者松下氏は、この本の第5章と第6章で、現代社会にみられる対数正規分布の例、老人病の介護期間、児童生徒の体重分布、世界各国のGDP、町村の人口などを取り上げ、ランキングプロット(累積個数分布)というグラフを駆使して、将来の発展につながる政策を議論している。「あとがき」で氏は、“筆者は、自身の強い願望も込めて、21世紀は自然科学、社会科学も含めた「複雑系科学」の世紀になるものと思っている”(153ページ)と書く。

 このブログでも先日来、「新しい統治正当性」、「新しい統治思想の枠組み」、「新しい統治思想の枠組み II」の各項で、21世紀の日本に必要なものとして“非線形科学の知見を取り入れた教義”の起草を挙げている。その意味でも一般向けの本書は、タイムリーで有意義な出版であると思う。さらに知見を深め、自然を至高とする日本のあり方を研究したい。

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非線形科学探求の先達

2019年10月13日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 前回「新しい統治思想の枠組み II」の項で、非線形科学を取り入れた教義の惹句の一つとして、寺田寅彦の「天災は忘れられたる頃来る」という言葉を選んだが、『寺田寅彦は忘れた頃にやって来る』松本哉著(集英社新書)という本に、その言葉が刻まれた碑のことが載っている。碑は高知の寺田寅彦記念館(寺田寅彦が幼少期に住んでいた家の跡地)にあるという。同書から引用しよう。

(引用開始)

 南側の川に面した正面から写真を撮っておいた。「寺田寅彦先生邸址」と刻まれた大きな碑の下の石垣に横長の銘板がはめ込まれていて、そこに書かれているのが「天災は忘れられたる頃来る」という有名な言葉である。口惜しいことに寺田寅彦自身がこの言葉を書いたものは見つかっていない。伝説的に伝わった言葉なのである。やかましい人がいて、どうしても寺田寅彦の発言だったという確証を出せと言われれば、ここにこうして刻み込まれていることが何よりの「お墨付き」になる。そんな気がして一度は見ておきたかった。その文字は、地元高知の生んだ世界的植物学者・牧野富太郎氏が筆をとられたものである。
 なお、これも「槲」誌で知ったのだが、大阪にある「水防碑」にもこの言葉が刻まれているらしい。ただしそちらは「災害は忘れたころにやってくる」である。

(引用終了)
<同書 219−221ページ>

「槲」誌とは寅彦研究会機関紙。著者が撮った記念館の写真と銘板の文字が220ページに掲載されている。

 寺田寅彦は、「非線形科学」などといった言葉がない時代から、「生きた自然に格別の関心を寄せる数理的な科学」に深い関心を示していた。同書の紹介文をカバー表紙裏から引用する。

(引用開始)

寺田寅彦は実験物理学者にして文筆家。「天災は忘れた頃にやって来る」という格言を吐き、一方で多数の科学エッセイを書いて大衆の心をつかんだ。茶碗の湯、トンビと油揚、金平糖といった身近な話題を通して、自然界のぞっとするような奥深さを見せつけてくれたのである。明治に生まれ、昭和に没したが、その鋭く豊かな着想は永遠のものであり、混迷の二一世紀あって、あらためて注目されることを願う。夏目漱石、正岡子規といった文学者との交流も懐かしい。高知、熊本、東京にまたがる生涯と魅力的な人物像を追う。

(引用終了)

「自然界のぞっとするような奥深さ」こそ非線形科学が対象とする分野である。寺田寅彦の発想の一端を同書から引用したい。

(引用開始)

 昭和六年に「科学」という雑誌が岩波書店から創刊されたとき、その第一号に文章を寄せて寺田寅彦は言った(『日常身辺の物理的諸問題』)。

「毎朝起きて顔を洗いに湯殿の洗面所へ行く、そうしてこの平凡な日々行事の第一ヵ条を遂行している間に私は色々の物理学の問題に逢着する」

 こういうものの言い方、この文章から想像される「私」という男の姿、これほど寺田寅彦らしいものはないだろう。
 どんな問題かというと
「金盥とコップとの摩擦によって発する特殊な音」
「窓ガラスに付着した水滴の大きさ、並び方の統計的相違」
「湯を沸かすときの湯気の立ち方と湯の温度の関係」
「蛇口から出てくる水のふるまい」
 などを並び立てる。一般大衆の興味を引くためでなく、科学の専門家に対して、「これらの問題はいずれも工学上のみならず気象学や海洋学上の重要な諸問題とかなり密接につながっているのだから、誰かこの一つでもいいからわずかな一歩をでも進めてくれないか。自分一人では全部をやることができないのだ」と呼びかけているのである。
「工学」ほどすぐに何の役にたつというのでもないし、腹の足しにも、金もうけにもならないが、こんなことを考えるのが「理科」だ。

(引用終了)
<同書 192−193ページ(フリガナ省略)>

こういう発想は、前回紹介した『渋滞学』の著者と通ずるものがある。そういえば『渋滞学』にも、列車の遅れ(ダンゴ運転)の考察のところで“これは有名な物理学者である寺田寅彦もだいぶ昔に考察している”(178ページ)と記してあった。

 寺田寅彦の言葉とその評価をさらに『寺田寅彦は忘れた頃にやって来る』から引用しよう。

(引用開始)

「われわれが存在の光栄を有する二十世紀の前半は、ことによると、あらゆる時代のうちで人間が一番思い上がって、われわれの主人であり父母であるところの天然というものを馬鹿にしているつもりで、本当は最も多く天然に馬鹿にされている時代かもしれないと思われる。科学がほんの少しばかり成長して、ちょうど生意気盛りの年頃になっているものと思われる。天然の玄関をちらと覗いただけで、もうことごとく天然を征服した気持ちになっているようである。科学者は落ち着いて自然を見もしないで長たらしい数式を並べ、画家はろくに自然を見もしないでいたずらに汚らしい絵の具を塗り、思想家は周囲の人間すらよくも見ないで独りぎめのイデオロギーを展開し、そうして大衆は自分の皮膚の色も見ないでこれに雷同し、そうして横文字のお題目を唱えている」(『烏瓜の花と蛾』昭和七年)

 カラスウリの花が不思議なスイッチを入れられたかのように、一定の時刻になるといっせいに咲き、それに合わせて無数の蛾が突然に現れてきてこの花に集まる。ホウセンカの実が一定時間の後にひとりではじける。そんな情景を目にした寺田寅彦が「真似したくてもこれら植物の機巧はなかなかむずかしくてよくわからない。人間の叡智はこんな些細な植物にも及ばないのである。植物が見ても人間ほど愚鈍なものはないと思われる」とため息混じりに語った言葉だ。
「二十世紀の前半」はとっくに過ぎ去り、今や二十一世紀の前半に突入している。さすがに「生意気盛り」はごく一部の人たちだけに限られてきているようだが、「自然を見もしない」とか「雷同」「独りぎめのイデオロギー」「横文字のお題目」の弊害はしばしば目に余るような気がしてならない。

(引用終了)
<同書 30−31ページ>

いかがだろう、寺田寅彦に興味を持たれた方はぜひ同書をお読みいただきたい。寺田寅彦は非線形科学探求の先達だと思う。彼の言葉を日本の新しい統治思想教義の惹句に選ぶ理由である。

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フィードバック効果

2019年08月14日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 非線形現象とは何か。『新しい自然学 非線形科学の可能性』蔵本由紀著(ちくま学芸文庫)という本には次のようにある。

(引用開始)

 非線形現象、あるいは非線形系とはそもそも何を意味するのであろうか。大雑把に言えば、非線形現象とは何らかの形でフィードバック効果が働く現象であるといってよいであろう。フィードバック機構、つまりあるプロセスが進行すれば、それによって生じる事態がそのプロセスの進行を促進したり阻害したりするような機構、それを内蔵しているシステムを非線形系とよんでよい。フィードバック効果は、プロセスの進行にともなう物理量の変動が小さいうちは無視できるが、変動が大きくなると単に無視できないばかりか、根本的に系のふるまいを変えてしまうことがある。静止した流体が不安定化して流動を開始する熱対流は、典型的な非線形系現象である。不安定化した流動が、どこまでも不安定ではなくて一定の流れに落ち着くのも、非線形性からくるフィードバック効果による。一般的に非線形系では、安定化と不安定化の機構がさまざまに絡み合って、実に多彩で奥深い現象が現れる。

(引用終了)
<同書 95−96ページ>

フィードバック効果の働く現象が非線形現象、そうでないものが線形現象ということだ。

 以前「モチベーションの分布」と「興味の横展開」の両項で、ある意図や行為に関する人々の興味は「正規分布(例:人の身長やみかんの大きさ)」に従い、興味の度合いに応じて集まる情報量は「8:2の法則(ベキ法則・ベキ乗則のこと。例:トップ2割の人が企業利益の8割を稼ぐ)」に従うと書いたけれど、これをフィードバック効果の在り無しでいうと、前者は(個別事象の集計だから)フィードバック効果無し、後者は(プロセスの進行現象だから)フィードバック効果在りということになる。

 複眼主義の対比、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」
A、a系:デジタル回路思考
世界をモノ(凍結した時空)の集積体としてみる(線形科学)

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」
B、b系:アナログ回路思考
世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみる(非線形科学)

でいえば、A系思考はどちらかというと正規分布指向、B系思考はベキ乗則指向といえるだろう。

 「ハブ(Hub)の役割」でも書いたが、ベキ乗則はスケールフリー(平均値や分散値が捉えられない現象)でもある。『歴史は「ベキ乗則」で動く』マーク・ブキャナン著(ハヤカワ文庫ノンフィクション)という本もあった。副題は「種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学」。「1/fのゆらぎ」現象も興味深い。こういったフィードバック効果の働きを頭に入れて、これからの列島の統治を考えたい。

 尚、蔵本氏の本はこれまで『非線形科学』(集英社新書)について「相転移と同期現象」の項で、『非線形科学 同期する世界』(集英社新書)について「同期現象」の項で紹介したことがある。併せてお読みいただきたい。

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日本列島の来歴

2019年07月29日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 前回「新しい統治正当性」の項で、日本のことを“4つのプレートがせめぎ合い、自然災害の多い列島”と表現したが、『フォッサマグナ』藤岡換太郎著(講談社ブルーバックス)によって、そのような日本列島の来歴を概観しよう。

 せめぎ合う4つのプレートとは、北海道と東北、関東が乗っている「北米プレート」、北陸、西日本が乗っている「ユーラシアプレート」、伊豆半島と伊豆諸島が乗っている「フィリッピン海プレート」、そして日本海溝の東側に位置する「太平洋プレート」である。

 海洋プレートである「太平洋プレート」は、西側にある大陸プレート「北米プレート」の下に潜り込もうとしている。同じく海洋プレートの「フィリッピン海プレート」は、東側でユーラシアプレートの下に、北側で「北米プレート」の下にも潜り込もうとしている。「ユーラシアプレート」の日本海部分は、「北米プレート」の下に潜り込もうとしている。「フィリッピン海プレート」と「太平洋プレート」は、海洋プレート同士として互いに押し合って(引きずり込み合って)いる。房総半島沖では「太平洋プレート」と「フィリッピン海プレート」、「北米プレート」の3つが一点で交わっている(三重会合点/海溝三重点)。これがせめぎ合いの様相だ。

 尚、「プレートテクトニクス」の項で参照した『日本列島の下では何が起きているのか』中島淳一著(講談社ブルーバックス)では、新しい理解として、北海道と東北、関東が乗っているのは「オホーツクプレート」(北米プレートの一部とされていた)、北陸、西日本が乗っているのは「アムールプレート」(ユーラシアプレートの一部とされていた)としているが、ここでは『フォッサマグナ』の記載に従う。

 フォッサマグナとは、「ユーラシアプレート」と「北米プレート」との境界に位置する巨大地溝を指す。現在は八ヶ岳や富士山など数々の火山や堆積物に覆われている。特徴的なのは、「フィリッピン海プレート」の伊豆半島(伊豆・小笠原弧)がそこに衝突したことで、地溝の北側と南側でだいぶ様相が違っていることらしい。藤岡氏は、世界で唯一の地形といわれるこのフォッサマグナがなぜできたのかを考えることで、日本列島の来歴を推理する。

 「3つの石」の項で参照した『三つの石で地球がわかる』(講談社ブルーバックス)でもそうだが、藤岡氏の本は、疑問に対して(充分と思える根拠に基づいて)大胆な仮説を展開するところが面白い。ここでのキーワードは「プルームテクトニクス」と「オラーコジン説」の二つ。

 プルームテクトニクスとは、スーパープルームの上昇と下降とを指す。プルームとはマントルの流れ、スーパープルームとは、メソスフィアとアセノスフィアの間を上昇あるいは下降する大規模なプルームのこと。オラーコジン説とは、平坦な地形にできる大規模な溝状の断裂(オラーコジン)はしばしば三つの方向に分かれ、それらは多くの場合1点に集まる点(三重会合点/三重点)で二つのよく発達した「腕」と未発達の第3の「腕」となることを指す。

 藤岡氏の仮説による日本列島(とフォッサマグナ)の来歴は次の通り。

(ステップ1)2000万年前頃、南太平洋で火山活動を引き起こしたスーパープルームの一部が北上しユーラシア大陸の東端に達した。

(ステップ2)その後、プルームの上昇によってユーラシア大陸の東端の大地が3方向に割れた。

(ステップ3)1500万年前頃にかけて、3本の割れ目のうち、発達した2本が日本海の拡大に寄与しながら「逆くの字形」の日本列島をつくった。もう一本が北部フォッサマグナとなった。

(ステップ4)ほぼ同じ頃、北部フォッサマグナに伊豆・小笠原弧が衝突、南部フォッサマグナが形成された。

(ステップ5)北にはプレートを生産するオラーコジンが、南にはプレートを引きずり込む房総半島沖の三重会合点があったことで、フォッサマグナはバランスよくその形を保った。その後数々の火山や堆積物が一帯を覆った。

 日本列島の生成は、『日本列島の下では何が起きているのか』では、「日本列島は、大陸から離れた日本列島の北半分と南半分とがそれぞれ(北半分は反時計回り・南半分は時計回りに)回転しながら太平洋側に押し出され、そこに伊豆半島が衝突したことで合体・形成された」と解説されている。しかしそれだけでは、そもそもなぜ列島部分が大陸から離れたのか、なぜそのまま押し出され続けた(日本海開裂が進んだ)のか、なぜフォッサマグナという地形がそのまま残ったのか、までは分からない。藤岡氏の仮説は、フォッサマグナの北部と南部の様相の違いや、スーパープルーム、オラーコジン説などに着目しながら、これらの疑問に答えようとする。論点に房総半島沖の三重会合点まで包含していて、なかなか興味深い。

(引用開始)

 アジアの端でオラーコジンができて、その先端がリフトとして日本海溝に達する一方で、伊豆・小笠原弧が北部フォッサマグナの南端に衝突し、南海トラフが海溝となって海溝三重点できた――この一連のイベントが、すべて15Maにいっぺんに起きたと私は想像しています。
 3本のリフトが交わるオラーコジンは、これも「三重点」ということができます。オラーコジンのリフトは大地を裂き、背孤を陥没させましたが、そこからはマグマが噴き出され、マグマはプレートとなります。一方の房総沖海溝三重点は、プレートを引きずり込んでしまう海溝が交わった三重点です。すると、北にはプレートを生産する三重点ができ、南にはプレートをなくしてしまう三重点ができたことになります。この両者が日本列島をはさんで南北に向かい合っているというのは、世界的に見てもかなり怪しげな配列です(図6−8)。宇宙で言えば、爆発を起こした超新星のすぐ近くに、ブラックホールがあるようなものです。
 この二つの三重点がほぼ同時に形成されたことが、フォッサマグナの存続において不可欠だったのではないかと私は考えます。1本のリフトでつながった両者は、いわば車輪でつながった車の両輪の関係になったのではないでしょうか。
 海溝三重点は、フィリッピン海溝プレートとともに次々に南から押し寄せる火山島の衝突にも位置をほとんど変えずに存在しつづけ、フォッサマグナというジオメトリーを変えないように、コントロールしてきたのではないかと考えるのです。もし海溝三重点の位置が大きく変動していたら、フォッサマグナという地形は保持されていなかったのではないかと。
 もっと言うならば、オラーコジンと海溝三重点を結ぶリフトの存在こそが、フォッサマグナなのです。このような配列が15Maにできたことは、まったく再現不可能な、特異な地球科学現象であると思われます。フォッサマグナに相当する地形が世界でほかで見つけられないのも、そう考えると頷けるのではないでしょうか。
 日本海の拡大は200万年ほどでマグマがなくなって終わりましたが、今度は日本海そのものが太平洋プレートとともに日本列島の下へと沈み込みを開始しました。しかし、日本列島の反対側には海溝三重点という巨大なアンカー(錨)が存在しているため、日本列島そのものが形を変えていくようなことはありませんでした。そのかわり、とくに東北地方には強い東西方向の圧縮が起り、その結果、フォッサマグナでは赤石山脈が隆起し、さらに北アルプスや中央アルプスのような高い山脈ができていったのです。海溝三重点の位置が変わらないかぎり、こうした東西圧縮はこれからも続くでしょう。

(引用終了)
<同書 ページ193−195(リフト=大地の裂け目、1Ma=100万年前、図は省略した)>

いかがだろう。このような“4つのプレートがせめぎ合い、自然災害の多い列島”に暮らす我々は、他国の人々にも増して、複雑系地球科学・非線形科学に精通していなければならない筈だ。それを国家統治の教義そのものにするのは理に適っていると思う。これからも研究の深化に注目したい。

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posted by 茂木賛 at 14:07 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

20のアミノ酸

2019年06月30日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 このブログではこれまで、健康や栄養素、食品に関する記事をいくつか纏めてきた。

ビタミンとミネラル
発酵食品

などなど。ここでは、『アミノ酸の科学』櫻庭雅文著(講談社ブルーバックス)によって、タンパク質の元となるアミノ酸について纏めておきたい。

 周知のように、タンパク質は人間の臓器や筋肉などの細胞を構成する成分であり、代謝の調整を行うホルモンや酵素を構成する成分でもある。タンパク質は、20種類のアミノ酸の組み合わせでできているという。

必須アミノ酸:イソロイシン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、リジン、スレオニン、ロイシン

非必須アミノ酸:アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、グリシン、グルタミン、グルタミン酸、システイン、セリン、チロシン、プロリン

の20種類。必須アミノ酸とは、体内で合成することが出来ず一種類でも欠けると重大な栄養障害を起こすものを指し、非必須アミノ酸とは体内で合成できるアミノ酸を指す。

 人間の体内には10万種類ものタンパク質があるが、それらがわずか20種類のアミノ酸の組み合せによって作られているとは驚きだ。

 アミノ酸を構成している原子は炭素、水素、窒素、酸素、なかには硫黄の入ったものもある。アミノ酸の構成で特徴的なのは、分子内に、アミノ基(−NH2)とカルボキシル基(−COOH)があること。もっとも簡単な構造のアミノ酸はグリシン、最も複雑なものはトリプトファンやヒスチジン(分子構造の中に二種類以上の原子からなる環を持つ)。

 グリシンは、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)など、遺伝子情報を司る物質の原料ともなっている。アミノ酸は、タンパク質の構成成分として、また生命の根元として非常に重要な役割を果たしているわけだ。

 アミノ酸にはまた、「呈味機能」「栄養機能」「生理機能」「反応性」という四つの基本的機能があり、食品、栄養食品、医薬品、化粧品など、さまざまな分野で用いられている。

「呈味機能」:うまみ調味料、甘味料(アスパルテーム)など
「栄養機能」:アミノ酸輸液、経腸栄養剤など
「生理機能」:各種代謝促進・正常化、胃粘膜生成促進
「反応性」 :医薬品合成、界面活性剤

この本はそれら機能に詳しい。目次の一部を載せておこう。

第1章 アミノ酸とは何か
〇 人間の体は二〇種類のアミノ酸でできている
〇 アミノ酸が体内で果たすさまざまな役割
第2章 スポーツの最前線が変わった
〇 長時間運動してもバテなくなるアミノ酸の効果
〇 気力や集中力の低下にもアミノ酸は効果がある
第3章 美容効果とアミノ酸
〇 必要なものを自在につくり出すアミノ酸
〇 皮膚の柔軟性はアミノ酸の保湿効果で保たれる
第4章 医療を変える力
〇 アミノ酸の低価格化で進歩した「高カロリー輸液療法」
〇 素材、原材料として期待されるアミノ酸
第5章 食べ物とアミノ酸
〇 アミノ酸添加肥料で畜産が変わる
〇 アミノ酸の利用が耕地不足を解決する
第6章 アミノ酸と味覚
〇 うまみの研究では日本は世界の先駆け
〇 発酵食品がおいしい秘密はアミノ酸にあった
第7章 アミノ酸製造法
〇 もっともポピュラーな生産法(発酵法)
〇 今後が期待される生産法(酵素法)

第6章は「発酵食品」の項の内容とも重なる。

 アミノ酸は、原始の大気中で出来たというが、落下した隕石からもグリシン、アラニン、グルタミン酸といったアミノ酸が見つかっている。化石や隕石に含まれているアミノ酸に生命の起源の謎を解く鍵がありそうだ。

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posted by 茂木賛 at 10:31 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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