夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


ビール経済学

2014年09月02日 [ 各種データ ]@sanmotegiをフォローする

 この夏も猛暑で皆さんの中には大いにビールのお世話になった人も多いと思うが、今回は、ビールを通して、「モノ経済」と「コト経済」について考えてみたい。まずは「朝日新聞グローブ」から引用する(グラフや他の記事は割愛)。

(引用開始)

二極化するビール

 ビールは世界で一番飲まれている酒だ。英シェフィールド大学のデイビット・グリッグ教授の論文によると、1997〜99年時点で、世界の酒消費量(重さ単位)の8割近くがビールだった。アルコール量だけで比べても、世界の消費の3分の1はビールによるものだ。
 世界全体の生産量は1975年から2012年にかけて2.4倍に増えた(G-2面グラフ参照)。人口一人当たりでも4割近い伸びだ。
 大まかな傾向として、ある国が経済成長し、一人当たりの所得が伸びるにつれビールの消費量も増えていく。おうせいな需要を満たすのは、大手メーカーによって大量生産されるビールが中心だ。ところがドイツや日本のように、ある時点から消費が頭打ちになり、高齢化や人口減に伴い、減り始める国もある。
 そこで起きているのがいわば「二つの二極化」だ。一つの軸は、新興国と先進国。ビール消費量世界一の中国や、下の記事にあるベトナムのように、勢いのある新興市場に先進国のブランドが押し寄せ、激しい競争を繰り広げる。G-5面でみるように、国境を越えた企業の買収・再編や系列化も進み、ビール業界は上位5社が世界市場の約半分を押える寡占状態になっている。
 もう一つは左の記事でみたような、先進国内での二極化だ。効率的な生産で低価格を売りにする大手メーカーと、独自性を強調するクラフトビール。1994年をピークに消費が減り始めた日本では、税制の影響もあって値段の安い「発泡酒」や「第3のビール」の開発競争が激しくなり、ビール系飲料の半分を占めるようになった。一方で、地ビールに再び注目が集まり、メーカーは200社を超えた。個性的なビールを飲ませる店も増えている。
 ビールの飲み方、飲まれ方は、経済や社会の変化を如実に映し出している。

(引用終了)
<同新聞 6/15/2014>

ということで、ビール経済において「二つの二極化」が起っているという。今回はこれを「経済の三層構造」、

「コト経済」

a: 生命の営みそのもの
b: それ以外、人と外部との相互作用全般

「モノ経済」

a: 生活必需品
b: それ以外、商品の交通全般

「マネー経済」

a: 社会にモノを循環させる潤滑剤
b: 利潤を生み出す会計システム

と、「モノコト・シフト」から読み解いてみよう。モノコト・シフトとは、「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」の略で、20世紀の大量生産システムと人のgreed(過剰な財欲と名声欲)による、「行き過ぎた資本主義」への反省として、また、科学の還元主義的思考による「モノ信仰」の行き詰まりに対する新しい枠組みとして生まれた、(動きの見えないモノよりも)動きのあるコトを大切にする生き方・考え方への関心の高まりを指す。

 以前「21世紀の文明様式」の項で、

(引用開始)

 西欧近代文明の時空は(地球規模ではあるが)一様ではない。「モノコト・シフト」の進んでいる地域もあれば、そうでない地域もある。進んでいる階層もあれば、そうでない階層もある。その中で、いち早く「モノ経済」が飽和状態に達したいまの日本(の多くの地域と階層)は、モノコト・シフトの最前線に立っているのではないだろうか。人口も減り大量生産・輸送・消費システムを増強する必要もない。だから日本は、この新しい思考の枠組みに移行しやすい筈だ。

(引用終了)

と書いた。クラフトビールは、大量生産されるビールと違い、作り手と飲ませる店、それと飲み手の距離が近く、三者の気持ちが相互作用する「コト経済」bに属している。日本で個性的なビールを飲ませる店が増えていることは、日本でモノコト・シフトが起っている証左といえるだろう。

 一方、大量生産されるビールは、作り手と飲ませる店、飲み手の距離が遠く、それぞれが商品交通だけで繋がる「モノ経済」bに属している。先進国ブランドの大量生産ビールが押し寄せているということは、新興国ではモノコト・シフトがまだあまり進んでいないということだ。そう遠くない将来それらの国にモノコト・シフトの波が押し寄せると、日本のように個性的なビールを飲ませる店が増えるだろう。

 勿論、日本にも大量生産されるビールはある。しかしモノコト・シフトが進んでいるこの国では、そういったビールにおいても、高級な「プレミアムビール」、上の記事にもある値段の安い「発泡酒」や「第3のビール」、さらには「ノン・アルコールビール」といった多様な商品が開発生産され、それぞれにおいて独自の物語性を訴求する(「コト経済」bに近づく)努力がなされている。

 JALの雑誌「アゴラ」7月号を読んでいたら、ハワイ島のクラフトビールのことが書いてあった。ハワイでもモノコト・シフトが大分進んでいるのだろう。信州の情報誌「KURA」7月号には、軽井沢高原ビールの広告記事があった。

 さて、このビール経済における「二つの二極化」現象、ビール以外の様々な嗜好品にも当て嵌まる法則だと思われる。たとえば珈琲(コーヒー)、たとえば音楽・美術、例えばおしゃれ用品、例えばパッケージ旅行、たとえば観光ホテル・旅館、などなど。皆さんが起業した会社、もしくは働いている会社がそういった分野に関わっているのであれば、是非この「ビール経済学」を参考にして、戦略を立ててみていただきたい。所得の伸びと経済発展を短絡的に結びつけないように。

 珈琲の「コト経済」については、以前「コーヒーハンター」の項で書いたことがある。併せてお読みいただければ嬉しい。

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10年連続200本安打

2010年11月09日 [ 各種データ ]@sanmotegiをフォローする

 今年、大リーグの鈴木一朗(イチロー)が、10年連続200本安打を達成した。二年前「200本安打」の項で、「8年連続の記録達成は容易ではない」と書いたけれど、実はその時すでに「10年連続」もあるだろうと感じていた。といっても、イチロー本人にとっては「簡単じゃないことは僕が一番知っている。それなりの思いはある。」(記録達成の試合後記者インタビューから)とのことで、この記録は、今後なかなか破られないだろう。ここまで10年のデータを纏めておく。

年度  打率  安打数
2001年 .350 242本
2002年 .321 208本
2003年 .312 212本
2004年 .372 262本
2005年 .303 206本
2006年 .322 224本
2007年 .351 238本
2008年 .310 213本
2009年 .352 225本
2010年 .315 214本

 イチローは、自分の身体はもとより、使用するグラブやバット、スパイクなどを入念に手入れすることで知られている。前回「日本の生産技術の質が高い理由」の項で、

(引用開始)

日本人の生産技術の質の高さも、その根本に、環境中心の日本語的発想があるということなのだろう。

(引用終了)

と書いたけれど、スポーツ選手における身の回りの道具類は、生産工場における機械類と同じだ。日本語で思考するイチローは、自身と身の回りの道具とを一体化させる「環境中心の発想」が得意だと思われる。それが、忍耐力と粘り強さを生み、10年連続200本安打という大記録に繋がったのだろう。

 また一方でイチローは、塀際の美技やレザー・ビームといわれる返球、走塁などでファンを魅了する。先日「反重力美学」の項で、

(引用開始)

「反重力美学」はまた、西洋的なリズム感を伴っている。速さや跳躍力を競う「オリンピック・ゲーム」の発祥地は、そもそもギリシャである。

(引用終了)

と書いたけれど、野球もアメリカのスポーツだから、観戦の楽しみは「反重力美学」が基本だ。

 グラブやバット、スパイク、さらにはフィールドと一体化しながら、一方で、打撃、守備、走塁において「反重力美学」を堪能させてくれるイチローのプレイは、かくして日米のファンを同時に楽しませてくれるのである。イチローは筋肉トレーニングの際、「赤筋と白筋」のバランスに気を配っているに違いない。

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五人目の男

2010年07月06日 [ 各種データ ]@sanmotegiをフォローする

 今年のNBA(National Basketball Association)は、ロスアンジェルス・レイカーズ(LA Lakers)が、プレイオフ・ファイナルの最終第7戦でボストン・セルティックス(Boston Celtics)を下し、二年連続優勝を果たした。去年の感想(「司令塔」)に引き続き、今年も印象を記してみたい。

 まずはファイナル戦(4ゲーム先取)の結果から。

[Game 1] Lakers 102 over Celtics 89 (6/3/10 at LA)
[Game 2] Celtics 103 over Lakers 94 (6/6/10 at LA)
[Game 3] Lalkers 91 over Celtics 84 (6/8/10 at Boston)
[Game 4] Celtics 96 over Lakers 89 (6/10/10 at Boston)
[Game 5] Celtics 92 over Lakers 86 (6/13/10 at Boston)
[Game 6] Lakers 89 over Celtics 67 (6/15/10 at LA)
[Game 7] Lakers 83 over Celtics 79 (6/17/10 at LA)

 今年のファイナルはどちらのチームも譲らず、第6戦までまったくの五分の勝負だった。セルティックスの最大の敗因は、第6戦でセンター・パーキンス(K. Perkins)が怪我をして、第7戦に出られなかったことだろう。また、この最終戦はロスアンジェルスで行われたので、応援などやはり地元チームに分があった。

 とはいえ、去年「司令塔」の項で述べた、レイカーズのコーチのジャクソン(Phil Jackson)とガードのブライアント(K. Bryant)の名コンビは、昨年に引き続き、今年もきっちりとリーダーとしての役割を果たした。

 今年私がレイカーズで注目した選手は、フォワードのアーテスト(R. Artest)である。他のスターティング・メンバー(Starters)は去年と変らないのだが、彼だけが、去年活躍したアリーザ(T. Ariza)に代わって、スターティング・メンバーに加わったからである。

 バスケットボールにおいて、チーム「五人目の男」の果たす役割は意外に大きい。まず常時ゲームに出場できる体力がなければならない。その上で、ディフェンスやリバウンドは勿論のこと、3点シュートを確実に入れること、速攻に絡むことなど、多彩なプレイが要求される。

 アーテストは、去年のアリーザの柔軟性に比べて、ディフェンスのしつこさやリバウンド力などにおいて優れていた。また、3点シュートの確立も高かった。だから今年レイカーズのリズムは、幸い去年に比べてあまり変化することがなかったように思う。アーテストは特に最終戦(第7戦)、攻守に亘って活躍した。新聞記事から引用しよう。

(引用開始)

 序盤からブライアントのシュートがなかなか決まらず、相手に主導権を握られた。そんなピンチを支えた脇役の代表格がオフに獲得したアーテスト。自身初の優勝となった30歳の守備のスペシャリストは、逆転に成功した後、再び3点差に追い上げられた残り1分1秒に値千金の3点シュートを沈めるなど20得点を稼ぎ「チームとして戦った結果」と胸を張った。

(引用終了)
<東京新聞6/19/10>

 以下去年同様、ファイナルを戦った両チームの選手たちを、それぞれポジション別に紹介しておこう。

Lakers Starters
--------------------------
[Guard] D. Fisher
[Guard] K. Bryant
[Forward] R. Artest
[Forward] P. Gasol
[Center] A. Bynum
--------------------------
Reserves
[Guard] J. Farmar
[Guard] S. Vujacic
[Guard] S. Brown
[Forward] L. Odom
[Forward] L. Walton
[Forward] J. Powell
[Center] DJ. Mbenga
[Forward] A. Morrison

Celtics Starters
--------------------------
[Guard] R. Allen
[Guard] R. Rondo
[Forward] P. Pierce
[Forward] K. Garnett
[Center] K. Perkins
--------------------------
Reserves
[Guard] T. Allen
[Guard] N. Robinson
[Guard] A. Johnson
[Forward] M. Daniels
[Forward] M. Finley
[Forward] S. Williams
[Center] R. Wallace
[Forward] B. Scalabrine

第7戦に怪我で出場できなかったCelticsのパーキンズは、優勝のかかったゲームだっただけに、さぞ悔しかったことだろう。怪我の悔しさは、私も経験したことがあるのでよく解る。その分、来シーズン頑張って欲しい。

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ジェットストリーム

2010年04月06日 [ 各種データ ]@sanmotegiをフォローする

 読者の方とのやりとりの中で、「夜間飛行」というタイルの由縁に触れたので、ここにも載せておきたい。読者の方にお許しをいただいて、対話形式のままとする。最初のところは、私の読書についての話から始まる。

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茂木:私の読書は、千夏さんのように移動中か、あとはもっぱら夜ですね。いったん眠ったあと、夜中の2時−5時ごろに読みます。そのあとまた眠って朝7時ごろ起きると、夜中に読んだこと(や前日考えていたことなど)が頭の中で整理されていて都合が良いです。ブログの名前を「夜間飛行」とした訳は、「夜中に思索の大空を飛行している」というイメージがあったのが一つです。

千夏さん:夜の読書とは、ユニークですね!夜中の2時から5時、という部分で目を疑ってしまいました。確かに、知識の吸収と整理には良い方法なのかもしれませんね。ただ、意思が強い方でないと、とてもできない手段ですよね。一度試してみようかな、と思います。
「夜間飛行」は、サン=テグジュペリから取られたのかと思っておりました。「思索の大空を飛行」なんて、素敵な表現ですね。

茂木:「夜間飛行」というタイトルイメージには、千夏さんが指摘された、サン=テグジュペリの本のタイトルもあります。テクジュペリの本はどれも素敵ですね。私も「茂木賛の世界」のサイトで小説に挑戦しております。
タイトルイメージには他に、昔FMラジオでやっていた「ジェットストリーム」という番組のナレーションがあります。番組は、毎夜午前0時から、今は亡き城達也さんの声で、Boby Vintonの歌でヒットした"Mr. Lonely"という曲のオーケストラ・サウンドに乗せて、

(引用開始)

遠い地平線が消えて
深々とした夜の闇に心を休めるとき
はるか雲海の上を音もなく流れ去る気流は
たゆみない宇宙の営みを告げています
満天の星をいただく果てしない光の海を
ゆたかに流れゆく風に心を開けば
きらめく星座の物語も聞こえてくる
夜のしじまのなんと饒舌なことでしょうか
光と影の境に消えていった
はるかな地平線も瞼に浮かんでまいります

これからのひと時あなたにお送りする
音楽の定期便
ジェットストリーム
夜間飛行のお供をいたしますパイロットは
わたくし城達也です

(引用終了)
<“ジェットスリーム”FM東京より>

と始まります。なかなか良いでしょ。
60分間、世界の音楽と素敵なナレーションがあって、番組の終わりには、

(引用開始)

夜間飛行のジェット機の翼に点滅するランプは
遠ざかるにつれ次第に星のまたたきと区別がつかなくなります
お送りしております、この音楽も美しく、あなたの夢に、溶け込んでいきますように
日本航空がお送りした音楽の定期便、ジェットストリーム
夜間飛行のお供をいたしましたパイロットは私、城達也でした
また明日、午前0時にお会いしましょう

(引用終了)
<“ジェットスリーム”FM東京より>

というエンディングナレーションが流れます。
学生の頃よく聴いていたので耳に残っていて、ブログのタイトルを決めるときに、この音楽・ナレーションもイメージにありました。

千夏さん:お返事、ありがとうございました。「夜間飛行」、色々なところからインスピレーションを得て考えられた名前だったのですね。
「ジェットストリーム」のナレーション、なんて綺麗な文章なんでしょう!日本語の響きにあらためて感動しました。なんだかとても惹かれて、webで調べてしまいました。こちらの散文詩も本当に美しいですが、城さんの声もなんとも言えない心に残る声だったようですね。今では聴く事のできないこのナレーション、私もぜひ聴きながら夜間飛行へご一緒してみたかったものです。この素敵な散文詩のイメージを頭に思い浮かべつつ茂木様のブログを読み進めさせていただきますね。

茂木:「ジェットストリーム」のナレーションは、CDにもなっていますから、聴くことができますよ。ただし、JALなどが企画する特別CDですから、通販などで販売していて、普通のCDショップに売っているかどうかわかりませんが。ところで、千夏さんとやりとりしていて思ったのですが、この「夜間飛行というタイトルの由縁」そのものも、ブログ記事にしたら面白いかもしれませんね。

千夏さん:CDにもなっているのですね!少し調べてみます。ひょっとしたら、You tube などにも載っているかもしれませんね。「夜間飛行というタイトルの由縁」、ぜひブログ記事でご紹介していただきたいです。
------------------------------------------------------

 ブログタイトルに関する読者との対話は以上だが、調べてみたら、千夏さんのおっしゃるように、Web上にもいくつか「ジェットストリーム」の素晴らしいナレーションが聴けるサイトがあったので、城達也さんの写真も載っているHPをリンクしておく。みなさんも是非一度聴いてみていただきたい。また、ブログへの感想なども、気軽にコメント欄に書き込んでいただければ嬉しい。

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posted by 茂木賛 at 10:26 | Permalink | Comment(0) | 各種データ

司令塔

2009年06月30日 [ 各種データ ]@sanmotegiをフォローする

 今年のNBA(National Basketball Association)は、ロスアンジェルス・レイカーズ(LA Lakers)が、プレイオフ・ファイナル戦でオーランド・マジック(Orlando Magic)を下し、7年ぶりに優勝した。バスケットボールは私が子どもの頃から親しんできたスポーツであり、レイカーズは昔から好きなチームなので、プレイオフを(TVで)観戦するのは楽しかった。

 まずはファイナル戦(4ゲーム先取)の結果から。

[Game 1] Lakers 100 over Magic 75 (6/4/09 at LA)
[Game 2] Lakers 101 over Magic 96 (6/7/09 at LA)
[Game 3] Magic 108 over Lakers 104 (6/9/09 at Orlando)
[Game 4] Lakers 99 over Magic 91 (6/11/09 at Orlando)
[Game 5] Lakers 99 over Magic 86 (6/14/09 at Orlando)

レイカーズは敵地オーランドでの初戦に負けたけれど、そのあと2つ勝って一気に勝負を決めた。オーランドはフロリダ半島の中部にあり、同じフロリダでも、先回書いた「スロッピー・ジョーズ」がある最南端のキー・ウエストとはだいぶ離れている。

 両チームの戦力を比べると、ブライアント(K. Bryant)を擁するレイカーズの方に元々分はあったが、プレイオフを最終戦まで勝ち上がってきたマジックも、けっして弱いチームではない筈だ。それでもレイカーズが4対1で勝利した理由は、両チームの司令塔の差ではなかったか。

 レイカーズにおいては、コーチのジャクソン(Phil Jackson)とガードのブライアントが、それぞれ「リーダーの役割」をしっかりと果たした。ジャクソンは「ホームズとワトソン」でいうところのホームズ役、ブライアントは現場で活躍するワトソン役でもあった。

 一方のマジックにおいては、腕を痛めていた正ガードのネルソン(J. Nelson)がファイナル戦からベンチに戻ったことで、司令塔の役割に関して、スターティング・ガードのオルストン(R. Alston)との間で混乱が見られた。特にゲーム終盤の大事な時に、誰が司令塔なのかはっきりしなかった。これは(ホームズ役である筈の)コーチ・ガンディー(Stan Van Gundy)の責任だろう。

 以前「競争か協調か」の中で、

(引用開始)

 コーチが大勢の選手の中からベンチに入る選手を選び、さらにその中からスターティング・メンバーを選ぶのは「自由競争」の原理に基づいている。すなわち、人的資源はチーム内の全ての選手たちであり、豊富にあるものの中から「自由競争」の原理でベストなものを選び出すわけだ。場合によってはよそのチームの選手も選ぶ対象になる。一方、実際の試合になると、スターティング・メンバーおよびベンチの選手たちはチームとして団結しなければならない。これが「チームワーク」だ。この場合の目的は試合に勝つことで、人的資源は(スターティング・メンバーとベンチの選手たちだけに)限られるからである。

(引用終了)

と書いたけれど、二人の司令塔がきっちりとリーダーとしての役割を果たしたことで、レイカーズの方が、試合において「チームワーク」に勝っていたのである。

 以下、ファイナルを戦った両チームの選手たちを、それぞれポジション別に紹介しておこう。

Lakers Starters
--------------------------
[Guard] D. Fisher
[Guard] K. Bryant
[Forward] T. Ariza
[Forward] P. Gasol
[Center] A. Bynum
--------------------------
Reserves
[Guard] J. Farmar
[Guard] S. Vujacic
[Guard] S. Brown
[Forward] L. Odom
[Forward] L. Walton
[Forward] J. Powell
[Center] DJ. Mbenga

Magic Starters
--------------------------
[Guard] R. Alston
[Guard] C. lee
[Forward] H. Turkoglu
[Forward] R. Lewis
[Center] D. Howard
--------------------------
Reserves
[Guard] J. Nelson
[Guard] JJ. Redick
[Guard] A. Johnson
[Forward] A. Foyle
[Forward] M. Pietrus
[Forward] M. Gortat
[Center] T. Battie

レイカーズは、スターティング・メンバー(Starters)としても充分通用するオドム(L. Odom)を、ベンチ(Reserves)に擁していたのも大きかった。

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200本安打

2008年11月04日 [ 各種データ ]@sanmotegiをフォローする

 今年も、大リーグの鈴木一朗(イチロー)が200本安打を達成した。8年連続の記録達成は容易ではない。新聞記事からデータを集めてみよう。

年度  打率  安打数
2001年 .350 242本
2002年 .321 208本
2003年 .312 212本
2004年 .372 262本
2005年 .303 206本
2006年 .322 224本
2007年 .351 238本
2008年 .310 213本

 200本安打を達成した翌日の新聞記事に、同僚のイバネス選手の談話として、イチローは「毎試合、最後の試合にでも臨むかのような準備をする」(9/19/08東京新聞「筆洗」)とあった。このような記録は、常に「心・技・体」の三拍子を最高の状態にしていて初めて達成できるのだろう。野球選手に限らずプロのスポーツ選手というのは、自分の身体だけが頼りという意味で、究極のスモール・ビジネスだ。我々も、日々の覚悟についてイチローから大いに学ばなければならない。

 一方、イチローのような選手でも、打率に関しては4割に届かない。10回打席に立ってヒットが打てるのはおよそ3回。このことは、いかにヒットを打つのが難しいかということではあるが、同時に、残りの7回の失敗をいかに次に活かすかということでもある。前回の「失敗学」の話に繋がる話だ。

 「失敗学」で紹介した本「失敗学の法則」の中に、「“千三つの”法則」というのがある。「何か新しいことや未知の分野に挑戦しようとすると、九九.七%は失敗します。物事がうまくいく確立は0.三%。」(同書41ページ)ということなのだが、この法則によると、新規ビジネスで成功する確率は、イチローの打率よりもさらに一桁低いことになる。千回打席に立ってヒットが打てるのはたったの3回(!)。ビジネスはイチローのように打率3割とはいかない。それでも決して諦めてはいけないということだ。

 イチローについて、オリックス・ブルーウエーブ(当時)の元打撃コーチ、小川亨氏の次のようなコメントがある。「彼は『個』の概念が日本と違う米国の野球に合っていると思う。『個』が最高のプレーを見せれば、チームが勝つと考えるのが米国の野球ならば、チームのために時には『個』を犠牲にさせられる日本の野球よりも、彼は光る。」(7/31/08夕刊フジ)

 直接イチローについてではないが、日本の野球全体について野球評論家の豊田泰光氏は、「日本の野球のいいところはノックの前の内野の『ボール回し』などでも手を抜かないことだ。きびきびと速く、相手の胸に正確に投げる。(中略)野球は一つの作業にかかる時間をいかに短縮できるか、という競技なのだ。文字にすれば簡単だが、これを身体で覚えることが肝心だ。日本式の練習もそこに眼目がある。」(4/24/08日本経済新聞「日本式野球がうけるワケ」)と述べておられる。

 イチローはおそらく、日・米の野球それぞれの良いところ、

A Resource Planning(R.P.)−英語的発想−主格中心
a 脳の働き

B Process Technology(P.T.)−日本語的発想−環境中心
b 身体の働き

の両方を、高いレベルで追求しようとする稀有な選手なのだろう。200本安打を達成した日彼は、「いつもは晩酌にビールを一本飲むのですが今夜は二本にします」と笑顔で日本人記者に話していた。8年連続の200本安打記録を、瞬間、一本のビールに置き換えてしまうその言やよし。今後さらにこういった彼のユーモア・センスが磨かれることも楽しみにしよう。

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レアメタル

2008年03月26日 [ 各種データ ]@sanmotegiをフォローする

 以前「スモールビジネスの時代」の中で、安定成長時代を支える産業システムの一つは「資源循環」であると書いた。地球資源として貴重でありながら、携帯電話端末などに使われて産業のビタミンともいわれる「レアメタル」に関するデータを集めてみよう。

携帯電話の回路版に使われている主なレアメタル
ネオジウム(振動モーター)
パラジウム(キャパシタ)
インジウム(液晶)
タンタル(タンタル・キャパシター)
アンチモン(プラスチック)
ニッケル(石英振動子など)
クロム(コンタクト・ブレーカー・ポイント)

 携帯電話端末にはこれら以外にも多くの金属が使われている。出典は「メタル・ウォーズ」谷口正次著(東洋経済新報社)より。さて次に、それらレアメタルの生産国を調べてみる。

レアメタルの鉱石生産比率トップ
ネオジウム:中国(93%)
パラジウム:南ア(41%)
インジウム:中国(35%)
タンタル: オーストラリア(63%)
アンチモン:中国(89%)
ニッケル: ロシア(23%)
クロム:  南ア(47%)

 出典は同じく「メタル・ウォーズ」谷口正次著(東洋経済新報社)から。鉱石生産比率で見ると、これらのレアメタルが、中国や南アなどの国々に偏在していることが分かる。原材料の安定供給が不安視される理由である。

 では、「資源循環」の視点から、携帯電話に使われているレアメタルや他の金属で、日本に蓄積されリサイクルの対象となるものの量をみてみよう。

主な金属の国内蓄積量(世界埋蔵量に対する比率)
インジウム:61%
銀:    22%
アンチモン:19%
金:    16%
スズ:   11%
タンタル: 10%
鉛:    10%

 出典は、独立法人物質・材料研究機構(平成20年1月11日発表資料)より。すなわち、携帯電話端末で使われるインジウム、アンチモン、タンタルなどのレアメタル、金や銀などその他の金属においても、資源循環を安価に行うことさえできれば、日本はすでに世界有数の資源国なのである。

 これから携帯電話端末のデザインはもっと省資源化が進むだろうが、捨てられる材料が循環されれば環境にはプラスになる。この観点からすると、先端技術を使ったスモールビジネスとして適しているのは、それらレアメタルやその他金属のリサイクル事業の筈だ。

 先日テレビ番組で紹介されたティーエムシー株式会社という企業は、まさに先端技術を使って、レアメタルや希少金属のリサイクルを行う、本社社員数37名のスモールビジネスだ。


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食生活の変化と自給率

2008年03月05日 [ 各種データ ]@sanmotegiをフォローする

 ビジネスで大切なことは、いろいろなデータをいつも身近に揃えておくことである。人口や所得分布に始まって、土地の風土や資源の特色、物流コストや材料原価などなど。スモールワールドで培った人脈データもその中に入るかもしれない。

 それらはいつ何処で役立つか分からないが、概ねを頭に入れておけば、意外な組み合わせから新しいビジネス・チャンスを見つけることもある。このブログでもときどき、新聞や雑誌、書籍やネットなどの中から、目を引くデータを(出典を明らかにしながら)集めてみよう。

 今回は、日本の食生活の変化と、自給率の変化とを組み合わせてみる。

日本の食生活の変化
(1960年度)
米:  48.3%
畜産物: 3.7%
油脂類: 5.0%
小麦: 10.9%
魚介類: 3.8%
その他:28.7%
(2005年度)
米:  23.3%
畜産物:15.4%
油脂類:14.3%
小麦: 12.4%
魚介類: 5.3%
その他:29.3%

 二つの時期を比べると、米が減って畜産物と油脂類が大きく増えている。データは「フード・マイレージ」中田哲也著(日本評論社)から。

供給熱量の自給率の変化
(1965年度)
米:  100%
畜産物: 47%
油脂類: 33%
小麦:  28%
魚介類:110%
合計:  73%
(2006年度)
米:   95%
畜産物: 17%
油脂類:  3%
小麦:  13%
魚介類: 57%
合計:  40%

 自給率が軒並み低下している中、依然として米は95%と高い数値を示している。データの出典は同じく「フード・マイレージ」中田哲也著(日本評論社)。

 以前「スモールビジネスの時代」の中で、安定成長時代を支える産業システムの一つは「食品の地産地消」であると書いた。物流コスト面でも食の安全面でも、これからはこの傾向がさらに進むだろう。

 その観点からすると、食のスモールビジネスとして当面適しているのは、今でも自給率が高い「米」を多用した加工食品(パンなど)の筈だ。また農業においては、米の高付加価値化(発芽玄米など)が重要だろう。

 米の高付加価値化については、株式会社大潟村あきたこまち生産者協会の様々な取り組みが大いに参考になる。協会代表取締役涌井徹氏の書かれた「農業は有望なビジネスである!」(東洋経済新報社)に詳しい。

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