夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


単行本読書法(2014)

2015年01月27日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 前回の「新書読書法(2014)」に引き続き、単行本についても去年読んだ中で、これまでこのブログや文芸評論『百花深処』で取り上げなかったけれど印象に残ったものを幾つか紹介したい。

1.Art
『女のいない男たち』村上春樹著(文藝春秋)

 六つの短編はどれも暗く救いがない。中でも「木野」が特に深い喪失を感じさせる。魂の底に下りていくような重苦しい作品。ここに出てくる男たちはみな同じ場所(喪失感に苛まれた居場所)をぐるぐると回っている感じだ。それにしてもこの作品の「女」とは一体何の象徴なのだろう、「日本」のことだろうか。しかし『33年後のなんとなく、クリスタル』田中康夫著(河出書房新社)と比べると、女子力は見えず、父性も現れず、しなやかな<公>の精神もない。暗い闇の中を延々と歩かされて辿り着く先は果たして何処なのだろう。「向き合うヤスオと逃げ回るハルキ」といったフレーズが頭に浮かぶ。『アフターダーク』(新潮文庫)の最後、ようやく明けたばかりの夜の先へ、あるいは『1Q84』(新潮文庫)の最後、天吾と青豆が手に手を取って(一つの)月を眺めるホテルの部屋からその先へ、と思うが、好意的に考えれば一番苦しい心持のときなのだろう。次作に期待したい。

2.History
『桂離宮と日光東照宮』宮元健次著(学芸出版社)

 桂離宮と日光東照宮という対照的な建物は、ほぼ同じ時代、17世紀初頭に造られた。この本はまず、寛永文化サロンが両方の建築に加わったことによる様式の共通性、特にその西欧文化の影響(パースペクティブ、ビスタ、黄金分割といった建築手法)を指摘する。その上で二つの建物の対照性は、一時代における勝者と敗者、権威と虚構、北極星と月といった対立概念にあるとする。東照宮が勝者、権威、北極星であり、桂離宮が敗者、虚構、月といった差異である。先日『百花深諸』<迷宮と螺旋>の項で、求心的な鏡花の世界と、遠心的な禅の世界が日本文化を形造ってきたと書いたが、これを当て嵌めて、東照宮は権威の身体表現として絢爛な求心性を、桂離宮は敗者の精神表現として隠遁的な遠心性を求めた、と付け加えたいがいかがだろう。「時系列読書法」の項でも紹介した本だが年末このことを考えたくて再読した。

3.Natural Science
『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』山口創著(さくら舎)

 人の神経は、中枢神経系と抹消神経系からなり、中枢神経系には脳(大脳/脳幹/小脳)と脊髄があり、末梢神経系には体性神経(感覚神経/運動神経)と自律神経(交感神経/副交感神経)がある。複眼主義で「脳の働き」と呼んでいるのは大脳の内の進化的に新しい大脳新皮質の働きを指し、「身体の働き」と呼んでいるのは、大脳の大脳旧皮質、脳幹の働きを指している。後者は小脳、脊髄および末梢神経全体と強く結ばれているから総じて「身体の働き」と言っているわけだ。人は「脳の働き」と「身体の働き」をバランスさせながら生きている。「身体の働き」と直結する腸・皮膚・筋肉の異変は早晩「脳の働き」にも影響してくる。この本は「脳の働き」を支える身体側のケアの大切さを説く。

4.Social Science
『東京ブラックアウト』若杉冽著(講談社)

 現役キャリア官僚が電力モンスター・システムと、それに蝕まれる日本の姿を描く。この本はフィクションだが、「国家理念の実現」の項で紹介した『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』矢部宏治著(集英社インターナショナル)の外伝的シュミレーションとして読む価値ありと思う。矢部氏のいう平成期の国家権力構造:米軍+外務・法務官僚のうち、官僚(この本では主に経済産業省の官僚たち)の生態が詳しく描かれる。ストーリーや登場人物の多くは前著『原発ホワイトアウト』若杉冽著(講談社)から引き継がれているから、そちらから先に読むとより分りやすいだろう。

5.Geography
『匠たちの名旅館』稲葉なおと著(集英社インターナショナル)

 棟梁平田雅哉、建築家吉村順造、村野藤吾の三人が建てた戦後日本を代表する名旅館の数々(南紀白浜・万亭、熱海・大観荘、芦原温泉・つるや、京都・俵屋など)を、作家・写真家にして一級建築士でもある著者が(泊り込みで)訪れる。旅館やホテルのホスピタリティは人と共に、建物によっても支えられていることに改めて気付く。多く掲載された白黒写真が美しい。渡辺鎮太郎という建築家が建てた倉敷の旅館やホテルも紹介されている。去年倉敷を訪れた際、そのうちの一つ倉敷国際ホテルに泊まることができた。ロビーにある棟方志功の大きな版画が素敵だった。

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新書読書法(2014)

2015年01月20日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 前回の「文庫読書法(2014)」に引き続き、新書についても去年読んだ中で、これまでこのブログや文芸評論『百花深処』で取り上げなかったけれど印象に残ったものを幾つか紹介しておきたい。

1.Art
『「黄昏のビギン」の物語』佐藤剛著(小学館新書)

 中村八大作曲、永六輔作詞の「黄昏のビギン」は、初め(1959年)水原弘によって歌われたが、1991年にちあきなおみによってカバーされ、新たなる生命を吹きこまれた。ジャパニーズ・スタンダートとなった名曲の評伝。この本の中に「ビギン・ザ・ビギン(Begin the Beguine)」という歌のことが出てくる。多くのアーティストに歌われた曲だが、私が好きなのはジョニー・マティスによるそれ。「ミスティ(Misty)」にしても「恋のチャンス(Chances Are)」にしてもマティスの歌声は艶があって素敵だ。

2.History
『新史論/書き替えられた古代史1〜3』関裕二著(小学館新書)

 関氏の古代史については以前「時系列読書法」の項などでも触れたことがあるが、このシリーズは氏のこれまでの知見を総合した通史となっている。日本の古代史は、歴代天皇の繋がりよりも、出雲、吉備、東海、越、丹波、北九州といった各地(の豪族)の動き(対立と連携)を追っていくと分りやすいようだ。このシリーズは、図によって豪族たちの動きを見ることが出来る。1では「ヤマト建国に至る道1」、2では「ヤマト建国に至る道2」、3では「ヤマト建国をめぐる連合と対立(1)と(2)」ということで、何処と何処の豪族がどう対立、連携したかが辿りやすい。関古代史の魅力は、文献や考古学を参考にするだけでなく、ヤマトの纏向、九州の日田盆地、琵琶湖、丹波と播磨を結ぶ由良川・加古川ルートや豊岡、紀伊熊野の特徴など、地形や地理条件を大いに参考にしながら論を組み立ててゆくところだろう。


3.Natural Science
『マンガでわかる無機化学』斎藤勝裕著(SB Creative)

 イオン結合や金属結合、典型元素や遷移元素、酸性・塩基性、酸化還元反応などの基礎が分りやすい。『マンガでわかる有機化学』斎藤勝裕著(SB Creative)の姉妹編。「D/A変換とA/D変換」の項で述べたように、デジタルな原子の連なりから形としての無機物や有機物が立ち上がってくる様は、デジタル情報から(アナログ的な)意味が生成されるのと同型だと思う。原子を細分化すると原子核とその周りの電子雲というアナログ状態が観測できる。さらに細分化するとデジタルな素粒子が観測できる。宇宙構造そのものがD/A変換とA/D変換のループを成しているのだろうか。

4.Social Science
『銀座にはなぜ超高層ビルがないのか』竹沢えり子著(平凡社新書)

 著者は銀座街づくり会議・銀座デザイン協議会事務局長。街づくりに地元がどう関わるか、三越の増床、歌舞伎座竣工、六丁目再開発(現在進行中)など、銀座における具体的なプロセスを丁寧に描く。大事なことは、街の人たちによる自力運営、「全銀座会」や「銀座街づくり委員会」などの組織化、「銀座デザインルール」の文書化、専門家との契約、事務局があること、行政(中央区)との信頼関係など。その手法は他の地域でも参考になると思う。

5.Geography
『ゴッホのひまわり全点解読の旅』朽木ゆり子著(集英社新書)

 ゴッホの<ひまわり>11枚のうち、花瓶に入ったひまわりの絵は7枚。そのうちの2枚はなんと日本にある(あった)。1枚は損保ジャパン東郷青児美術館にある。100.5cm x 76.5cmという大きな絵で、左にセザンヌ「りんごとナプキン」、右にはゴーギャン「アリスカンの並木路、アルル」という作品が並べて展示してある。もう1枚は戦前関西の実業家が購入、芦屋の自宅においてあったが戦中、爆撃で焼けてしまったという。残りの5枚のうち4枚は各地の美術館にある。アムステルダム1枚、フィラデルフィア1枚、ロンドン1枚、ミュヘン1枚、しかしもう1枚は個人蔵で行方がわからない(たぶんアメリカ)という。<ひまわり>全11枚、それぞれの来歴を探る朽木さんの文章が楽しい。朽木さんはICU少林寺拳法部の先輩。よくご一緒に練習した。

 以上だが、『「黄昏のビギン」の物語』の佐藤剛氏には『上を向いて歩こう』(岩波書店)という著書もある。坂本九の歌とこの本については「上を向いて歩こう」の項で書いたことがある。佐藤氏はまた、由紀さおり&ピンク・マルティーニの『1969』という味わい深いアルバムのプロデュースも手がけておられる。そのアルバムのことなどについては「1969年」の項をお読みいただきたい。

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文庫読書法(2014)

2015年01月13日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 久しぶりの読書法シリーズ、今回は私が去年読んだ文庫の中から、印象に残る本を幾つか選んで紹介したい。

1.Art
『ブエノスアイレス午前零時』藤沢周著(河出文庫)

 去年舞台化されたのを機に新装版が出た。雪国の温泉町、古いホテルのダンスホールで孤独な青年カザマと盲目の老女ミツコが出会う物語。二人がタンゴを踊るに連れて、ブエノスアイレスと温泉町とが交叉するラストが味わい深い。「二つの短編小説」の項で書いたように、私の『夜のカフェ』という短編はこの作品からインスピレーションを得て出来上がった。また、青年と老女がダンスを踊ることで幻が出現するという話は、三島由紀夫の『近代能楽集』「卒塔婆小町」へと連想を誘う。能楽を現代に生かすという手法は私が二つの小説で試みたことでもある。

2.History
『ローマ亡き後の地中海世界1〜4』塩野七生著(新潮文庫)

 ローマ帝国滅亡後の地中海世界を描く。イスラムの海賊とその背後にあるオスマントルコ対キリスト教諸国の戦いが主なテーマ。スペイン、フランス、イタリア、ヴェネツィアなどの対応の違いが国柄を表していて興味深い。以前読んだ『海の都の物語』や『レパントの海戦』などの舞台を、地中海という別の視座から眺める面白さがあった。

3.Natural Science
『キャラクター精神分析』斎藤環著(ちくま文庫)

 氾濫する日本の「キャラ」とは、人間という主格=固有性と同一性(一般性)の混淆から、同一性部分だけを拡大強調、主格もどきとして複製し、与えられた環境=場所において、相手とコミュニケートするときに使う道具(tool)だという。英語のように主格中心でない、環境中心の言葉を使う日本人が、(特に公私の間の微妙なコミュニケーションにおいて)主格もどきの「キャラ」を対人の道具として使おうとするというのは納得できる。「キャラ」は、「文化の三角測量」の項で書いた日本文化の特徴、「道具の人間化」の類型・発展系でもあるのだろう。しかしこういうこと(同一性部分の拡大強調)ばかりやっていると同化圧力が強まって社会が窮屈になる。本物の主格の尊重とのバランス(固有性の擁護)が必要だと斉藤氏はいう。氏の主張をより深く理解するには『生き延びるためのラカン』(ちくま文庫)との併読をお勧めしたい。精神分析治療から人(と世界)を眺めるとこう見えるのかという面白さがある。

4.Social Science
『日本の歴史を貫く柱』副島隆彦著(PHP文庫)

 単行本でも読んだが文庫化されたのを機に再読。日本の儒教、仏教、神道の系譜を辿り、江戸中期の思想家富永仲基の考え方を発掘、評価する。それは大坂で生まれた町人、商人の思想で、松下幸之助に代表されるような、まじめな商業利益で生きることを肯定し、率直に実利に生きよというものだという。日本が、道教、仏教、儒教さらにはキリスト教などの外来思想にどのように影響を受け、どうそれを日本化してきたかが分りやすく解説してある。これまで日本列島人は、抽象的な外来思想をそのまま受入れるのではなく、具象的な環境や場所に落とし込んで土着の信仰に習合させてきた。発想がやはり環境中心なのだ。

5.Geography
『山の仕事、山の暮らし』高桑信一著(ヤマケイ文庫)

 日本の山で生きる(山の恵みを暮らしの糧とする)人びとの姿を描く。「只見のゼンマイ採り」「南会津の峠の茶屋」「川内の山中、たったひとりの町内会長」檜枝岐の山椒魚採り」「足尾・奈良のシカ撃ち」などのタイトル(全19話)が並ぶ。大量生産・輸送・消費とは無縁の世界。これからのモノコト・シフトの時代に読み直されるべき書だと思う。

 以上、『ブエノスアイレス午前零時』を例外として、どれも、これまでこのブログや新しく始めた文芸評論『百花深処』で取り上げなかった本を選んだ。

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一日一ページ読書法

2012年03月27日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 今回は、私が最近実践しているおもしろい読書法を紹介しよう。名付けて「一日一ページ読書法」。一ページといっても、話によっては見開き一ページの場合もあるし、場合によっては二〜三ページ程になることもあるから、実際は「一日一話読書法」とでも呼んだ方が良いのだが、分りやすさを考えてこういうネーミングにした。

 この「一日一ページ読書法」、まあ読んで字の如く、ある本を一日に一ページ(一話)読み進むというだけのことなのだが、ここで重要なのは、その読む「タイミング」と読む「テーマ」である。

 まずタイミングであるが、これは朝の食事後など、副交感神経と交感神経が共に高まっているタイミングが宜しい。仕事に出かける前のほんの数分間でよいから、一ページ(一話)をソファなどでリラックスして読む。そういうときに短い文章を読むと、その内容がことのほか深く記憶に刻まれる。望むらくは、その日の一ページを読む前後にそれまで読んできたページをぱらぱらと読み返すと、さらに前日までの記憶が固定される。朝(自宅で)あまり時間が取れない人は、通勤や通学途中の乗り物の中で読むのも良いだろう。

 次にテーマであるが、この読書法に適したものは、主に語学や理系の本である。単語や数式の場合、普通の読み方で本を読んでいると、全体の文脈を追うなかで記憶が薄まり、次第にそれ(単語の意味や数式自体)を忘れてしまうことがある。しかし一日一ページであれば、そのページを画像的に記憶できる。この方法、ややこしい法則や定理の理解などに特に向いている。法則や定理などの場合、基礎から一歩ずつ学ばないと、勘違いしたり間違ったまま覚えたりしてしまうことがあるからだ。できれば、下線を引いたり書き込みをしたりしながら、しっかりと内容を記憶する。

 週末の朝など、時間に余裕があるときのために、以前紹介した「平行読書法」の要領で、複数の本を用意しておくのも善い。テーマが異なっていれば、数冊同時に(一ページずつ)読んでも、あまり記憶がこんがらからない。

 大事なのは、時間が余って先を読みたくなっても、同じ本は(ちょっと覗く位にして)次のページ全部を読まないこと。一日一ページに抑制する方が、却ってその内容がはっきりと頭に残る。また、本の体裁としては、見開きの片方のページに文章、もう片方に図解があるものが特に相応しい。

 一日一ページ(一話)だと、なかなか一冊読み終わらないと思うかもしれない。しかし本一冊200ページとして、一日見開き一ページずつ読み進めば、最速3ヶ月ほど(100日)で一冊読み終わる。内容がきちんと頭に残ることを考えれば、けっして遅すぎるペースはないだろう。

 例を挙げてみよう。たとえば、以前「盤上の自由」の項で紹介した“カガク英語ドリル”(シーエムシー出版)などはこの読書法に最適だった。私は夏休み明けに帰京してからその年の11月までかけて、一日一ページ(見開き一ページ)読書を実践した。理系の本では、最近“流れのふしぎ”(講談社ブルーバックス)という本を一日一話じっくりと読んだ。お陰で、流体の粘性と圧縮性の違い、流体中の個体にはたらく抗力と揚力、流体質量保存の法則、流体エネルギー保存の法則、ベルヌーイの定理、流体曲率の定理などなど、流体力学の基本が復習できた。

 それでも内容を忘れたらどうするか。そのときは「繰り返し読書法」の要領で、同じ本を(一日一ページ)また読み返せば良いのである。長い人生、基礎的な本は何度読み返してもけっして損はしない筈だ。

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新書読書法(2010)

2011年02月14日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする



 年初に「文庫読書法(2010)」と題して文庫本を紹介したので、今回は「新書読書法(2010)」題して、私が去年読んだ印象深い新書を幾冊か紹介してみよう。ただし重複を避けるために、すでにこのブログで紹介したものは除く。

 「新書」には、フィクションものは少なく、エッセイや評論、専門知識を分かりやすく解説したものなどが多い。私のようにいろいろな分野に興味がある者にとっては、入門書として最適だ。一冊の新書から、興味の横展開具合によってさらに専門書に進むことができる。文庫同様、値段が手ごろで、持ち運びに便利なことも利点である。

1.Art
“三島由紀夫 幻の遺作を読む”井上隆史著(光文社新書)

 去年は平岡公威(ペンネーム三島由紀夫)の没後四十年ということで、様々な本が出版された。この本もそのうちの一つ。“豊饒の海”四部作は発表された時に読んだけれど、40年経って初めて、作品のラストを巡る納得のいく解釈に出会ったような気がする。「皮膚感覚」の項にも書いたけれど、平岡氏は「精神と肉体」という二元論を身をもって追及した人で、最後は「戦後の欺瞞性」を座標軸に据えてそれに体をぶつけて死んでしまった。井上氏の想像するようなラストがあり得たならばその死も無かっただろうけれど、そのためには「精神と肉体」という袋小路的な二元論から脱する、別の契機が必要だったように思う。

2.History
“モーツァルトとベートーヴェン”中川右介著(青春出版社)

 「文庫読書法(2010)」で紹介した“ショパン 天才の秘話”の著者による最新作。ショパンの時代よりも少しさかのぼった18世紀半ばから19世紀初頭のヨーロッパを舞台に、モーツァルトとベートーヴェンの人生とその激動の時代を描く。時代は神聖ローマ帝国、オーストリアとプロイセンの七年戦争、フランス革命、皇帝ナポレオンなど。音楽家が、いわゆる職人から「芸術家」へと変身していく過程もわかりやすい。

3.Natural Science
“胎児の世界”三木成夫著(中公新書)

 1983年初版の名著だが、手元にあるものが1987年版と古かったので、去年改めて2009年版を松丸本舗で買い求め、それを機に再読した。体壁系と内臓系、個体発生と宗族発生、分節性と双極性など、人間と社会についての示唆に富む項目が並ぶ。本が出版されたのは1983年だから、1970年に亡くなった平岡公威氏が読むことはなかったが、もし読んでいたら、「精神と肉体」という袋小路から脱却する契機になったのではないだろうか。著者の三木成夫氏を師と仰ぐ人々には、「視覚と聴覚」などで紹介した養老孟司氏や、「重力進化学」などで紹介した西原克成氏などがある。

4.Social Science
“シンプル族の反乱”三浦展著(KKベストセラーズ)

 このブログでは、これからの安定成長時代を牽引する産業システムとして、多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術の四つを挙げているが、そうだとすると人々の嗜好にもそれを支持する傾向が見られる筈で、この本の云うシンプル族の嗜好(1.ものをあまり消費しない。ためない。2.手仕事を重んじる。3.基本的な生活を愛する。)は、その傾向の一端を示していると思う。著者の三浦氏には、以前「街の魅力」の項で紹介した“吉祥寺スタイル 楽しい街の50の秘密”という街の研究本(渡辺和由研究室と共著)もあり、最近は“高円寺 東京新女子街(トウキョウシンジョシマチ)”(洋泉社)という本(SMLと共著)も出しておられる。

5.Geography
“世界の野菜を旅する”玉村豊男著(講談社現代新書)

 「里山ビジネス」の項で紹介した玉村豊男氏の近作。タマネギやキャベツ、ジャガイモやトウガラシ、ナスやサトイモなど、馴染み深い野菜について、その起源と来歴を追った楽しいエッセイ。玉村氏が旅先でその野菜と出会った光景や、料理のつくり方、栽培方法などもある。この本で仕入れた知識をもとに、世界各地の料理を味わうのも良いと思う。

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文庫読書法(2010)

2011年01月04日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 これまで「平行読書法」「繰り返し読書法」「立体的読書法」「関連読書法」「時系列読書法」と続けてきた読書法シリーズ、今回は「文庫読書法(2010)」と題して、私が去年読んだ、印象深い文庫本を幾冊か紹介してみたい。

 「文庫」の良さは、値段が手ごろで、小さく持ち運びに便利なことだろう。軽いから寝転んでいても読める。単行本にはなかった解説が付いていたり、著者による「文庫のための後書き」があったりするのも楽しめる。最近は新しく書き下ろされたものも多く、それはそれで楽しめる。

1.Art
“ベーリンジアの記憶”星川淳著(幻冬舎文庫)

 この本の著者星川氏は、私の中学・高校時代の同級生で、先日久しぶりに会った時にこの本の話が出て、そのあとわざわざ彼が送ってくれた。もとの単行本が出版されたのが1995年、文庫になったのが1997年。文庫といえども最近は絶版になるのが早いから、今はなかなか書店では手に入らないかもしれない。ユーラシアとアメリカを繋ぐ陸の橋・ベーリンジアを舞台にした長編小説で、雄大な構想が印象的だ。カバー表紙には、著者と親交のあった写真家・星野道夫氏の遺作が使われている。

2.History
“ショパン 天才の秘話”中川右介著(静山社文庫)

 去年はショパン生誕200年ということで、様々な本が出版された。この本もそのうちの一つ。ショパンが20歳となる1830年前後のヨーロッパを舞台に、同じ時代を生きたロマン派の作曲家たち、ベルリーオーズ、メンデルスゾーン、リスト、シューマンなどの人生を交差させながら、ショパンの青春とその激動の時代を描いている。文庫のための書き下ろし。この本を読んで、さっそくショパン初期のピアノ協奏曲のCDを買った。

3.Natural Science
“性と進化の秘密”団まりな著(角川ソフィア文庫)

 先日「階層性の生物学」の項で紹介した本。単行本は“性のお話をしましょう――死の危機に瀕して、それは始まった”というタイトルで、2005年に哲学書房から出版された。単行本が出たときは読み逃していたけれど、文庫の広告を見て、読むことができた。文庫化に際して、養老孟司氏の解説と、著者による「少し長いあとがき」が加えられた。人間と社会について示唆に富む良書である。

4.Social Science
“セーラが町にやてきた”清野由美著(日経ビジネス人文庫)

 単行本は2002年に出版され、2009年に文庫になった。単行本でも読んでいるけれど、文庫になったので改めて目を通した。セーラ・マリ・カミングスさんは、「内と外」の項で書いた「小布施」の街の活性化に尽くしておられる。日本語と英語のバイリンガルで、優れたマージナル・マン(woman)に違いない。著者による「文庫版のためのあとがき」を読むと最近のセーラの活躍がわかる。セーラさんにお会いしたことはないけれど、小布施に注目している一人として、彼女の活動を応援したい。

5.Geography
“東京ひがし案内”森まゆみ著(ちくま文庫)

 著者の森まゆみ氏は、地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を創刊し、建築の保存や不忍池保全などにも関ってこられた。代表作に“鷗外の坂”(新潮文庫)がある。この本は、著者が東京の東側を中心に案内したもので、雑誌に掲載されたものが去年文庫化された。地図やイラストもあって楽しい。持ち運びに便利だから、この本を手に新春の東京を散策するのも良いと思う。

 ところで、「文庫」は、もともと単行本として出され、その後評価を得たものが文庫化される場合が多かった。だから、当たりはずれの少ないことが文庫の良さのひとつだった。最近は、その後の評価に関らず文庫化されるケースが多く、また冒頭で述べたように文庫として新しく書き下ろされるものも多いから、結果的に文庫でも早く絶版にする慣習が一般化してしまったようだ。出版社は読者の声に耳を傾け、いったん絶版にしたものでも、これはという本は是非復刊して欲しいと思う。

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時系列読書法

2010年03月23日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 ある本を読み終えてからその作家に興味を抱き、その人の昔のものから今に至る全ての著書を読んでみたくなることがある。その人の興味や主張の変遷を辿ることで、最初に読んだ本に対する理解が深まるというわけだ。

 あるテーマについて分野別に読み進める「立体的読書法」とも、ある興味に関連した本を手当たり次第に読み進める「関連読書法」とも異なる方法であるから、これを新しく「時系列読書法」と名付けることとしたい。

 具体的な例として、2つのケースを述べてみよう。1つ目は“この一冊で「日本の神々」がわかる!”関裕二著・茂利勝彦絵(三笠書房「知的行き方文庫」)である。本屋でふと目にし、日本の神々を体系的に理解する入門書の一つとして読んでみたのだけれど、内容が分かりやすかったので、関氏の他の著書も読んでみようという気持ちになった。

 関裕二氏の著作を昔のものから今に至るまで時系列に並べると膨大な数に上るので、ここでは比較的入手しやすいPHP文庫を列挙してみよう。

“古代史の秘密を握る人たち”
“消された王権・物部氏の謎”
“大化の改新の謎”
“壬申の乱の謎”
“神武東遷の謎”
“継体天皇の謎”
“聖徳太子の謎”
“鬼の帝 聖武天皇の謎”
“ヤマトタケルの正体”
“「出雲抹殺」の謎”
“天孫降臨の謎”
“古代史 9つの謎を掘り起こす”
“古代史 謎解きの「キーパーソン50」”
“おとぎ話に隠された古代史の謎”
そして最新書は2010年3月17日第1版第1刷発行の“海峡を往還する神々”である。

 関氏の著書を大方読み進めた今、最初の“この一冊で「日本の神々」がわかる!”に戻ると、格段に理解が深まったのを実感する。理解が深まったついでに、同書冒頭に掲げられた「神々の系譜」図の間違い(山幸彦と海幸彦の名前が逆になっている)まで見つけてしまった。尚、関氏の著書については、「関連読書法」のなかで“呪いと祟りの日本古代史”(東京書籍)を紹介したことがある。

 2つ目は“善光寺の謎”宮元健次著(祥伝社黄金文庫)である。長野へ行くので善光寺のことでも調べておこうと読んでみたのだが、善光寺の本尊や守屋柱をめぐる謎を追って、宮元氏の他の著作も読んでみたくなった。

宮元健次氏の著作も数多いので、ここでは比較的入手しやすい光文社新書を昔のものから列挙してみる。

“月と日本建築−桂離宮から月を観る”
“京都名庭を歩く”
“京都 格別な寺”
“仏像は語る−何のために作られたのか”
“神社の系譜−なぜそこにあるのか”
“名城の由来−そこで何が起きたのか”
“日本の美意識”
そして最新書は2009年12月20日初版第1刷発行の“聖徳太子 七の暗号−「太子七か寺」はなぜ造られたのか”である。

 宮元氏の著書を読み進めることで、最初の“善光寺の謎”の背景がより深く理解できるようになった。また、宮元氏は建築家でもあり、その著書には“桂離宮と日光東照宮 同根の異空間”(学芸出版社)や“江戸の陰陽師 天海のランドスケープデザイン”(人文書院)などもある。

 さてこの時系列読書法、実はもうひとつ、「ある本に書かれた対象について興味を抱き、その対象について昔のものから今に至る全ての著書を読む」という方法が存在する。たとえば、上の2つの時系列は、関氏の“聖徳太子の謎”と宮元氏の“聖徳太子 七の暗号”においてテーマが交差する。この対象テーマは、以前「繰り返し読書法」で紹介した小林恵子氏の別の著書、“聖徳太子の正体”(文春文庫)の内容とも交差する。

 この交差地点から、聖徳太子の謎に対して、「ある本に書かれた対象(この場合は聖徳太子)について興味を抱き、その対象について昔のものから今に至る全ての著書を読む」ことによって理解を深める方法がこれである。ここまで述べてきたような、一人の作家の思考を追うものを「思考の時系列読書法」、これを「対象の時系列読書法」として分けて考えるべきかもしれない。「対象の時系列読書法」についてはまた項を改めて述べてみよう。

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関連読書法

2009年07月21日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 ある本の読書から、その内容に関する興味が派生して、次々と関連した本を読み進めたくなることがある。本の最後に書かれている参考文献などから辿る場合もあるし、本屋の書棚を眺めて関連した本を選ぶ場合もある。

 「並行読書法」のように異なるテーマの本を同時並行的に読み進めるわけでもないし、同じテーマの本を読むのは同じでも、「立体的読書法」のように、

1. Art
2. History
3. Natural Science
4. Social Science
5. Geography

といった5つの分野に拘るわけでもないから、これを新しく「関連読書法」と命名しよう。

 たとえば「並行読書法」で取り上げた“白の民俗学へ 白山信仰の謎を追って”前田速夫著(河出書房新社)の場合。同書は、柳田國男や折口信夫などの民俗学を手懸りとして、白山信仰や白い神々の系譜を探求したものだが、私の場合、そのから縄文以来の古い神々への興味が派生した。以下、読み進めた関連書籍を、本の帯やカバー裏の紹介文と共に五つほど挙げてみよう。

1.“牛頭天王と蘇民将来伝説 消された異神たち”川村湊著(作品社)

(引用開始)

湮滅された最古の神々

各地に残る「蘇民将来子孫」の伝説。「備後風土記」にも描かれ、千数百年に亘って民衆に支持されてきたこの神々とはいったいどういう神か。土着的でありながら記紀神話とは異質の蕃神性を伴う神格の由来を辿り、日本人の魂の源泉を探る渾身の書き下ろし。

(引用終了)
<同書帯より>

2.“精霊の王”中沢新一著(講談社)

(引用開始)

<魂の原日本>を求めて縄文へと遡る思考の旅………日本という国家が誕生したとき、闇へと埋葬された「石の神」とは?芸能、技術、哲学の創造を司る霊妙な空間の水源をたどる。柳田國男『石神問答』の新たな発展がここにある!宿神の秘密を明かす奇跡の書金春禅竹『明宿集』現代語訳も収録!!

(引用終了)
<同書帯より>

3.“シリウスの都飛鳥 日本古代王権の経済人類学的研究”栗本慎一郎著(たちばな出版)

(引用開始)

蘇我氏は、どこから渡来してきたのか?!シリウスの影響下「聖方位」をもつ前方後円墳の存在や、そこに隠されているゾロアスター教的、ミトラ教的要素によって解明。「われわれはわれわれ自身を誤解してきた!」という、日本人の価値観や宗教観、日本古代王権の起源に迫る、著者渾身の書!

(引用終了)
<同書帯より>

4.“東西/南北考−いくつもの日本へ−”赤坂憲雄著(岩波新書)

(引用開始)

東西から南北へ視点を転換することで多様な日本の姿が浮かび上がる。「ひとつの日本」という歴史認識のほころびを起点に、縄文以来、北海道・東北から奄美・沖縄へと繋がる南北を軸とした「いくつもの日本」の歴史・文化的な重層性をたどる。新たな列島の民族史を切り拓く、気鋭の民俗学者による意欲的な日本文化論。

(引用終了)
<同書カバー裏より>

5.“呪いと祟りの日本古代史”関裕二著(東京書籍)

(引用開始)

ヤマト建国にさいし、なぜ「祟る王」が擁立されたのか。反逆者が築いた稲城、呪具ヒスイの抹殺、稲荷信仰の謎ほか、古代史のキーワード「呪いと祟り」の正体を明らかにする。

(引用終了)
<同書帯より>

 以前「繰り返し読書法」で書いたように、国の正史といわれる書物は、時の為政者の都合で書かれるので偽りも多いだろうから、正史には残されず、闇に葬られた風習、神々の系譜の中にこそ、歴史の真実が隠されている可能性が高い。白い神々、蘇民将来、石の神、聖方位、いくつもの日本、祟る王、などのキーワードから、闇に消えた日本列島の姿が浮かび上がる。

 「社会の力」の内でも、歴史は、そこに暮らす人々の脳神経回路の組織化に根っこのところで多大な影響を与えているはずだ。日本人の脳や言葉の特徴はどのようにして生まれてきたのか、それを探る上でも、これからも歴史の探求を続けていきたい。

 さて、この読書法シリーズ、「並行読書法」、「繰り返し読書法」、「立体的読書法」、「関連読書法」と、なにやらもっともらしく並んだわけが、そもそもこの企画、「読書法」というタイトルに託(かこつけ)て、愛読書を紹介するのが狙いでもあるから、今後さらに違う「読書法」がでてきたら、微笑みながら「ああ、茂木さん今度はこんな本を紹介したいのか」と、こじつけられたタイトルと共に、中身の本の紹介を楽しんでいただければと思う。

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posted by 茂木賛 at 09:26 | Permalink | Comment(0) | 読書法シリーズ

立体的読書法

2009年01月13日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 読書法についてはこれまで、「並行読書法」「繰り返し読書法」という二つを紹介した。今回は「立体的読書法」について述べてみよう。

 以前の「並行読書法」は、幾つかの分野の本を同時並行的に読み進めることで、記憶や思考に関わるニューロンの同時発火を促すことが目的だったわけだが、この「立体的読書法」は、あるテーマについて複数分野の本を読み進め、さらにそれを連鎖させながら、その元のテーマの全体像を立体的に浮び上がらせようとするものである。いってみれば、「並行読書法」の手法をもっと意図的にテーマを絞って(同時並行性はあまり重視せずに)行なうわけだ。

 分野は「並行読書法」と同じ、

1. Art
2. History
3. Natural Science
4. Social Science
5. Geography

とする。例としてテーマに「江戸・東京」を選んでみよう。

1. 『謎解き 広重「江戸百」』原信田実著(集英社新書 ヴィジュアル版)
2. 「日和下駄」永井壮吉(号荷風)著(岩波書店 荷風全集第十一巻)
3. 「東京の地形を考える(全10回)」松田磐余著(東京新聞連載4/27-9/7/06)
4. 「東京都市計画物語」越澤明著(ちくま学芸文庫)
5. 「東京の空間人類学」陣内秀信著(ちくま学芸文庫)

『謎解き 広重「江戸百」』は、浮世絵「江戸百景」が当時の様々な出来事とリンクして書かれた事実を解き明かす本。美しい広重の作品も全120点が掲載されている。一昨年この本の出版前後にお亡くなりになった著者故原信田実さんは私の兄の親友でもあった。ご冥福をお祈りする。「日和下駄」は云わずと知れた荷風の傑作。日和下駄に、杖代わりの蝙蝠傘を手にした著者が、東京の淫祠・樹・寺・水路・露地・崖・坂・夕陽などを巡る、大正時代の作品だ。荷風が散策したであろう四谷坂町には私の母方祖母の実家があった。「東京の地形を考える(全10回)」は、サブタイトルに「災害都市」とあるように、数々の災害に見舞われてきた東京について、関東平野・武蔵野台地・関東ローム層・東京低地・墨田川・荒川などから地形・地質の成り立ちを考える。「東京都市計画物語」は、後藤新平を始め明治から昭和に至る都市計画者たちの仕事を辿った作品。「東京の空間人類学」は、水の都東京を縦横に探訪する都市学の定番書だ。

 これらの本(含新聞連載記事)を読み進めながら、さらにそれぞれの本・著者に関する複数分野の5冊を選ぶ。たとえば2.「日和下駄」に関する5冊。

1. 「荷風文学」日夏耿之介著(平凡社ライブラリー)
2. 「荷風散策」江藤淳著(新潮文庫)
3. 「女たちの荷風」松本哉著(白水社)
4. 「『断腸亭』の経済学」吉野俊彦著(NHK出版)
5. 「荷風と東京」川本三郎著(都市出版)

あるいは1.『謎解き 広重「江戸百」』に関連する5冊。

1. 「ライバル日本美術史」室伏哲郎著(創元社)
2. 「江戸の武家名鑑」藤實久美子著(吉川弘文館)
3. 「日本人の身体観」養老孟司著(日経ビジネス文庫)
4. 「江戸城」深井雅海著(中公新書)
5. 「大名屋敷の謎」安藤優一郎著(集英社新書)

さらに、実体験(自ら歩き回って得たもの)を加えて、これらの本・著者と元のテーマに関連する複数分野の5冊を選ぶ。中には元のテーマから外れるものもあるだろうがあまり厳密に考える必要はない。こうして読み進めていくと、「江戸・東京」というテーマについて様々な角度から光を当てることができ、徐々に全体像が見えてくる。

 この読書法は、いわば一つの五角形からその一辺に対してそれぞれ別の五角形を作り、さらにその作業を連鎖させることで大きな立体的な構造を作り出すイメージなので、「立体的読書法」と名付けた。テーマに沿って異なる分野の本がダイナミックに連携するので視野が広がり、新しい発見・発想が生まれてくる。これからもときどき「あるテーマに関する5冊の本の紹介」を行なっていこう。

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posted by 茂木賛 at 15:07 | Permalink | Comment(0) | 読書法シリーズ

繰り返し読書法

2008年04月29日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 以前「並行読書法」で、幾つもの本を同時並行的に読む方法とその効用について述べた。私が実践しているもう一つの読書法は、同じ本を何遍も読むことである。なにも勿体つけるほどのことでもないが、これを「並行読書法」と対になるように「繰り返し読書法」と名付けよう。

 本を初めて読んだときは、全体を掴むことに精一杯で細部にまで目が行き届かない場合が多い。二回目に読むと細部が分かってきて、さらにいろいろと知りたくなる。同じ著者のほかの本や、同じ分野の別の人の本を読み継いで、さらに理解を深める良い機会だ。日を措いて同じ本をまた読むと、これまで見えなかった新しいことが見えてくる。そして初めて読んだときとは違った理解の仕方が生まれる。場合によってはそれまで面白いと思っていた本がつまらなく思えることもある。

 繰り返し読書法の良いところは、いずれまた戻って来ることが分かっているから、初回は無理せず、解らないところは飛ばし読みしても構わないことだ。読み進めながら気になるところに鉛筆で薄く傍線を引いておく。二回目は、既に本の全体像は把握しているわけだから、分かりにくかったところを重点的に読み返す。興味の度合いに応じて、濃い傍線、余白への書き込みなどを行いながら内容を記憶していく。そして三回目は新しい気持ちで全体を読む。三回読んでまだ面白いと感じる本は、きっとあなたの枕頭の書としてその後も折に触れて繰り返し読まれる筈だ。

 具体的な例で考えてみよう。私にとっての枕頭書の一つが「本当は怖ろしい万葉集」小林惠子著(祥伝社)、「西域から来た皇女 本当は怖ろしい万葉集A」小林惠子著(祥伝社)、「大伴家持の暗号 本当は怖ろしい万葉集完結編」小林惠子著(祥伝社)の三部作である。

 私は歴史の専門家ではないが、日本という国がどういう来歴を持っているのか興味を持って勉強している。歴史の記述とは、様々な事暦を一定のストーリーに整合する作業である。事暦は無数にあり、進展は因果性と偶発性とに等しく左右されるから、何が歴史的真実で何が偽りであるかを後世の人間が軽々に決め付けることはできない。特に国の正史といわれる書物は、時の為政者の都合で書かれるから偽りも多いだろう。従って歴史の記述には多くの選択肢があって良いと思う。私が重視するのは、
1. ストーリーに一貫性があり、全体を貫く法則がシンプルであること
2. 多くの出来事が無理なく説明できること
3. 当時の人びとの考え方を深く洞察できていること
の三点である。

 小林惠子氏の著作(「興亡古代史」文藝春秋など)の特徴は、内外の幅広い文献に丁寧に当たり推論を積み重ねていること、既成の歴史観から自由であること、視野が列島内に止まらず、常に大陸との関係を重視していることだ。特にこの三部作は、歌に焦点が当てられているので、登場人物が生き生きと描かれている。「集合名詞(collective noun)の罠」でのべたように、何かを成すのは個々人であって、人の集合体が何かをする訳ではない。

 額田王の出自、柿本人麻呂と高市皇子、万葉集成立の経緯、大津皇子と山辺皇女、西域と日本、長屋王と渤海勢力、大伴家持の生き方などなど、当時の大陸と列島の姿が眼前に浮かび上がる。勿論個々の修正はあるだろうが、古代の列島が大陸の強い影響下にあり、頻繁に為政者の行き来があったという推論、その事暦が、最古の詩集の中に墓誌のように埋め込まれているという指摘はとても魅力的だ。

 初回は無理せず、解らないところは飛ばし読みをしても構わない。万葉集の解読はどうしても万葉仮名の読み下しが出てくる。二回目は分かりづらかったところを重点的に読み返す。氏の他の著作や、同時代について書かれた別の歴史家の著作と読み比べてみる。三回読んで面白いと感じられれば、この三部作は私同様あなたの枕頭書としてその後も繰り返し読まれる筈だ。

 並行読書法では、脳の複数の分野が同時期に刺激されることで、ニューロン・ネットワークに思わぬつながりが生まれるわけだが、同じ本を繰り返し読むことは、脳の同分野が異なる時期に刺激されることでそれまでのニューロン・ネットワークの結びつきがより強まるのだろう。本の内容が短期記憶から長期記憶へと移るわけだ。二つの方法、「並行読書法」と「繰り返し読書法」を併用することで、皆さんの読書体験がより実り多いものとなることを期待したい。

本当は怖ろしい万葉集―歌が告発する血塗られた古代史   本当は怖ろしい万葉集 (2)   本当は怖ろしい万葉集 完結編 大伴家持の暗号―編纂者が告発する大和朝廷の真相

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posted by 茂木賛 at 11:51 | Permalink | Comment(0) | 読書法シリーズ

並行読書法

2008年01月09日 [ 読書法シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 本を一冊ずつ読むのではなく、幾つか同時並行的に読み進める人がいる。どうしてそうするかというと、異なる分野の本を読むことで気分が変わるからだという。単行本は一冊ずつにしても、雑誌や新聞には連載ものもあるから、誰でも同時並行的にいくつか読み進めているわけだが、これを意識的にやるわけだ。

 この読書法の良いところは、気分転換ばかりではなく、記憶や思考に関わる脳の複数の分野が同時期に刺激されることだと思われる。私は大体以下五つの分野の書物を並行的に読み進める。

1. Art
2. History
3. Natural Science
4. Social Science
5. Geography

 5番目のカテゴリーは地理だけに止まらず、モノとモノとの関係を論じたTopology(位相学)的な本や各種実用書も含む。勿論、本の内容によってカテゴリーはオーバーラップするわけだが、本のメイン・テーマで大雑把に分ければよい。たとえばこういう具合だ。

1. 「イサム・ノグチ 宿命の越境者」ドウス昌代著(講談社)
2. 「白の民俗学へ 白山信仰の謎を追って」前田速夫著(河出書房新社)
3. 「免疫の意味論」多田富雄著(青土社)
4. 「ドル覇権の崩壊 静かに恐慌化する世界」副島隆彦著(徳間書店)
5. 「新説 東京地下要塞」秋葉俊著(講談社)

 これらの本は一見何の脈絡もない。しかしそれが故に、カテゴリーを越えて思わぬつながりが生まれることがある。私にとって副島隆彦氏は、1950年代に勢いのあったアメリカの社会科学が何故衰退し、それを日本がどう受け入れたのか(受け入れなかったのか)ということについて目を開かせてくれた人だが、多田富雄氏の人体免疫システムに関する知見は、行き詰ったアメリカの行動科学の先にある、新しい社会科学のあり方に示唆を与える。

 並行読書法の効用は、脳のニューロン・ネットワークから見ると、まるでスモールワールドのような話だが、ニューロンの同時発火という同期現象から考えると、むしろ熱力学や波動理論と関係がありそうだ。

ドル覇権の崩壊―静かに恐慌化する世界   免疫の意味論

 

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posted by 茂木賛 at 17:49 | Permalink | Comment(0) | 読書法シリーズ

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