先日「人の生産活動に注目するということ」で、人は社会の中で「生産」(他人のための行為)と「消費」(自分のための行為)とを繰り返している、ということを書いたが、社会にとって重要なのは、ある人の「生産」が、別のある人の「消費」となる、というダイナミズムである。
「生産」(他人のための行為)と「消費」(自分のための行為)には、必ず相手が存在する。一対多である場合もあれば一対一ということもあるだろうし、「生産」がサービスではなく物(商品)の場合は在庫期間もあるだろうが、他人のための行為にはかならず受け手が想定されるし、自分のための行為にはかならずそれを与えてくれる人が居る。自然を満喫しようと思って山歩きをしたとしても、どこかに誰か、山道を整備してくれた人が居るはずなのだ。三つ星レストランのシェフが腕によりをかけて料理を作ろうとすれば、すばらしい素材を提供する多くの農家や酪農家が必要となる。オペラ歌手にはその技量を味わう観客が必要なのだ。
マーケティングの本を開くと、ビジネスを二つに分けて、B2C(Business to Consumer)とかB2B(Business to Business)などと呼んでいるが、自分のための行為=次に行う「生産活動」のための準備、と考えれば、すべての取引は「生産」(他人のための行為)と「消費」(自分のための行為)との交換に分解できることがわかる。B2CであろうがB2Bであろうが、全てのビジネスは、その商品(あるいはサービス)を必要とする相手が居て成り立つわけだ。
だからビジネスとしては、「人の生産活動に注目せよ」ということのなるのだが、社会にとっては、「生産」と「消費」が出会う「場」が決定的に重要となる。ここでいう「場」とはフリーマーケットや野菜の朝市のことだけではない。先日も述べたように、ここでいう「生産」と「消費」には、金銭の授受を伴わない行為も含まれる。人と人が出会うところは全て「場」なのである。
以前「ハブ(Hub)の役割」で、出来るだけ多くのリアルな「場」を作り出すことの重要性を書いておいた。スモールワールドが作り出すのは、多様性と意外性に富んだ、かけがいのない「生産」と「消費」の出会いの場なのである。
人が心をこめてつくった商品やサービス(あるいはボランティア活動など)は、受け手に深い満足と感動を与える。そして、次にその受け手が(別の他人のために)何か良いものを作り出す力の源泉となる。この「生産」と「消費」の出会い、相補性、およびその永続的な連鎖が、真に豊かな人間社会を創り出すのだ。
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