夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


モノと物質主義

2014年05月13日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 『養老孟司の大言論 III 大切なことは言葉にならない』養老孟司著(新潮文庫)は、養老孟司の大言論シリーズ最終巻だ。ここでは、言語や宗教の問題を、主観・客観・現実感といった言葉や、物質主義、生物多様性や採算性、インドやチベット、台湾への旅行などを通して考える内容となっている。

 この本では、「科学と宗教と文明」の章にある「モノ」と「物質主義」の話が興味深い。その部分を引用しよう。

(引用開始)

 モノの定義はすでにしたことがある。一つの対象が五感のすべてで捉えられるとき、それをモノと呼ぶ。その意味では、音も光も、夕焼けも空もモノではない。では「物質主義」というときの物質とはなにか。
 物質とは、よく考えられた翻訳語である。勿論それは右に定義したモノではない。それに「質」が加わっている。物質主義の言語はmaterialismで、マテリアルは素材、材質といった意味である。感覚中心に世界を見れば、机は人工物である。しかし素材は木材で、木材は自然物である。欧米文化では、その素材に注目するから、感覚と概念の間で世界を切断する考え方は、ふつうはとらないのだと思う。つまり「机は人工物だろ」というところで話が切れない。素材に注目する限り、「机は自然物だろ」となってしまう。イスラム世界でもこれは同じである。私のところにいたイランからの留学生は、机を指して「材料は自然物です」とはっきりいった。
 材質に注目するなら、都市という「人工」世界もまた、自然と同じ「材質」で作られている。そういう世界の住人が、日本文化のように、「自然そのままを大切のする」という感覚をあまり持たなくても当然であろう。いくら自然をいじったところで、物質は不滅で、かつエネルギーは保存されるからである。むしろ「まったく手をつけるな」というのが、欧米式の自然保護である。でも「まったく手をつけない」なら、人間との関係が生じないじゃないか、とは思わないらしい。
 モノを見たとき、直接の感覚を重視するか、材質に注目するかの違いは、あちこちに表現されている。料理がそうで、和風なら「生き造り」が典型で、魚や海老そのままが出てくる。これは欧米流では、料理と見なされないであろう。素材を上手に変形することが、料理なのである。逆にその変形が論理的に見やすいものであれば、たとえ自然の造形であっても「人工的」である。だから六角形で占められた蜂(はち)の巣は、まさにartificialと表現される。

(引用終了)
<同書 64−66ページ>

日本文化は「モノ」を感覚で捉え、西欧の「物質主義」は、「モノ」を感覚ではなく、理性で(質量として)捉えるという。

 このことを複眼主義の対比、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」

で考えると、前者はB、b系の捉え方で、後者はA、a系の捉え方ということになろう。

 「モノ」を質量として捉えると、物質は不滅でエネルギーは保存されるから、いくら自然を破壊しても前と「同じ」だと錯覚してしまう。21世紀に入って自然保護が叫ばれ始めたが、この線だけでいくと、今度は「まったく手をつけるな」という話になってしまう。日本文化は「モノ」を感覚で捉える。だから自然を慈しむ(と同時に畏怖する)。そして、自然に少しずつ手を入れて(里山として)それと共生しようとしてきたわけだ。

 だからといって日本人がいいとばかりも言えない。以前「迷惑とお互いさま」の項で指摘したように、日本人は、自然だけではなく、多くの人工物に対してもそれと共生しようとする。東京タワー、スカイツリーしかり。学校や会社組織、政治体制しかり。それが行き過ぎると、腐った組織や政治体制とも日本人は心中しかねない。複眼主義でいつも言うように、何事もバランスが肝心なのである。

 これで、新潮文庫の養老孟司の大言論シリーズはIからIII巻まで出揃ったわけだが、第I巻については「足に靴を合わせる」、第II巻については「差異と同一性」の両項で紹介した。併せてお読みいただけると嬉しい。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 09:59 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

この記事へのコメント

コメントを書く

お名前(必須)

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント(必須)

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

夜間飛行について

運営者茂木賛の写真
スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)主宰の茂木賛です。世の中には間違った常識がいっぱい転がっています。「夜間飛行」は、私が本当だと思うことを世の常識にとらわれずに書いていきます。共感していただけることなどありましたら、どうぞお気軽にコメントをお寄せください。

Facebookページ:SMR
Twitter:@sanmotegi


アーカイブ

スモールビジネス・サポートセンターのバナー

スモールビジネス・サポートセンター

スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)は、茂木賛が主宰する、自分の力でスモールビジネスを立ち上げたい人の為の支援サービスです。

茂木賛の小説

僕のH2O

大学生の勉が始めた「まだ名前のついていないこと」って何?

Kindleストア
パブーストア

茂木賛の世界

茂木賛が代表取締役を務めるサンモテギ・リサーチ・インク(通称SMR)が提供する電子書籍コンテンツ・サイト(無償)。
茂木賛が自ら書き下ろす「オリジナル作品集」、古今東西の優れた短編小説を掲載する「短編小説館」、の二つから構成されています。

サンモテギ・リサーチ・インク

Copyright © San Motegi Research Inc. All rights reserved.
Powered by さくらのブログ