夜間飛行

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現場のビジネス英語“否定形の質問について”

2008年01月16日 [ 現場のビジネス英語シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 私は大学を卒業してすぐ、大手エレクトロニクス企業に入社した。入社して三年目にアメリカへ赴任し、そのまま十三年間アメリカで、製造と原価計算関わる仕事や、ビジネスプランの仕事をしていた。帰国後は、マーケティングや他社との共同開発のまとめ役、そしてブランド戦略に関わるネット事業の立ち上げを経験した。

 子供のときにもアメリカにいたことがあるので、都合十五年間、外では英語を使って生活していたことになる。そういう経験から、何回かに分けて、現場のビジネス英語について書いてみよう。まず初回は「否定形の質問について」である。

 Aさんはある外資系の会社に勤めている。この会社では、最近日本へやってきたばかりのアメリカ人のリーダーの下であるプロジェクトが進められているが、Aさんもそのプロジェクトの重要メンバーである。しかしそのプロジェクトは遅れ気味で、その日も朝早くからプロジェクト進捗会議が招集された。会議は当然英語で行われる。Aさんの語学力は、リーダーや他のメンバーの発言内容をだいたい理解できる程度だ。

 会議の中ごろになって同僚のBさんが、プロジェクトの遅れを回復するために一つの提案をした。Aさんはそれを聞いていて、あまり良い案だとは思えなかった。アメリカ人のリーダーであるトムもそう思ったらしく、「それはあまり良い案だとは思えないね」(”It does not seem to be a good idea”) といった。そしてその後、Aさんの方を向いて「あなたも彼のアイデアに不賛成でしょ?」(“You don’t agree with his idea, do you Miss A?”) と同意を求めてきた。Aさんは(自分もそう思っていたので)すぐに「そうですね」(”Yes”)と答えた。それを聞くと、トムはなぜか怪訝な顔をして、Aさんに「何故?」(“Why?”) と質問した。Aさんは慌てて何故その案を良くないと思ったかを説明をした。するとトムはな〜んだという顔つきで、「そうだよね」(“You are right”) と答えてくれた。おかげで会議は無事進行したのだが、Aさんはどうしてトムが始め怪訝な顔をして「何故?」と質問したのかが分からない。

 みなさんもこれに似た経験をしたことはないだろうか?なぜトムが怪訝な顔をしたのか?それは、Aさんの「そうですね」(“Yes”) という答えにある。Aさんとしては、トムの「それはあまり良い案だとは思えないね」という発言に対して、相槌を打った積りで「そうですね」と答えたのだが、アメリカ人のトムは、Aさんの返事を、Bさんの提案に対する肯定の”Yes”と取ってしまったのだ。

 英語ではこういった否定形の文に付加疑問詞がついた場合、質問者の意見に対してYes/Noを答えるのではなく、取り上げられた事象に対して、自分は肯定なのか否定なのかという答え方をする。だから本当はここでAさんは(Bさんの提案を良くないと思っているのだから)、“No”と答えなければいけなかったのだ。そして続けて、自分がNoと思う理由をきちんと述べるべきだった。

 この、「質問者の意見に対してYes/Noを答えるのではなく、話題とされた事象に対して、自分が肯定なのか否定なのかを述べる」という答え方は、「客観的な事実(Fact)の前では万人が平等である」という欧米の思考法に基づいた考え方なのだろう。個々人はつねにその事実と向き合って、事実に関するお互いの意見を述べ合う。しかも出来るだけ正直に。正直に述べ合うことによって、事実がより明らかになることを全員が望んでいるからだ。だからNoといっても相手の人格が傷つくことはない。

 日本語ではそれに対して、Aさんがそうしたように、「質問者の意見に対してYes/Noを答える」という返事の仕方をする。それは、「客観的な事実よりも共同体における人間関係の方が大切だ」といった日本社会の伝統的な考え方が影響しているのだろう。人々はつねに周りの人間関係に気を配りながら、質問者の意見に対して賛成・反対を表明する。しかも、反対するときはできるだけ遠まわしな言い方をする。そうすることで人間関係が円満に保たれることを望むのだ。

 さて、とっさの場合、YesかNoかどちらか分からなくなってしまう事もある。そのときはYes/Noはさておき、とにかく自分の意見をきちんと述べることだ。そうすればYesかNoかは相手が判断してくれる。英語での会話は、こういった欧米の思考方法に関する本質的なことを踏まえていないと思わぬ誤解を生むことがある。逆に言うと、英語を学ぶということは、そういう思考方法を身につけることでもある。

 ところで、英語の否定形の質問については、最近読んだ「西洋音楽から見たニッポン」石井宏著(PHP研究所)にも書いてある(エピローグ:「ノー」と言えない日本語)。この本の、日本語はリズムよりも旋律である、という指摘はとても面白い(第一章:俳句は四・四・四)。

西洋音楽から見たニッポン―俳句は四・四・四

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