『シェアをデザインする』猪熊純・成瀬友梨・門脇耕三編著(学芸出版社)という、「シェア社会」についての報告とディスカッションの本を読んだ。副題に「変わるコミュニティ、ビジネス、クリエーションの現場」とある。まず、建築家隈研吾氏の新聞書評を引用しよう。
(引用開始)
私有からシェアへという、パラダイム転換が、今、あらゆる領域、あらゆる場所で話題になっている。その転換で、われわれの生活、社会はどう変わるのか。実践者たちの声を通じて、その実態が、具体的に語られる。
なかでも、最も耳目を集めているのは、シェアハウスという、一種の共同生活スタイルのアパートである。多少、家賃が割高でも、仲間とリビングやダイニング、水周りを共有して暮らせる、この新しい集合住宅は、若者のみならず、中高年の単身者からも、さみしくない老後のための新しい共同体のあり方として、がぜん注目されている。しかもシェアという方法が、居住スタイルにとどまらず、生産、消費、創造を含む社会のすべての領域に拡大しつつある現状を、本書は生々しく記述する。
日本は、このシェアという方法で、世界をリードできるのではないかという可能性も感じた。少子高齢化で、高度成長期に築きあげた莫大(ばくだい)なボリュームの建築群が、一気に余りはじめているからである。シェアは日本の都市自体をリノベーションする、新しい方法論でもありうる。
シェアが日本的であると感じたもうひとつの理由は、日本人が持っているやさしさが、日本社会のセキュリティーの高さ、犯罪率の低さが、シェアというゆるいシステムの適合しているからである。シェアハウスは、実は、日本の昔ながらの下宿屋の再来という説もあって、シニアには昭和のなつかしい香りもする。1990年代以降の社会、経済的停滞、特にかつて日本をリードしていた大企業の不振と無策とによって、シェアシステムが活躍する隙間が、無数に出現したことも、本書から見えてきた。その意味で、シェアは日本社会にとって、起死回生の策となるかもしれない。経済のグローバル化に乗り遅れたかに見える日本が、再び先にたつための、強い武器になるかもしれない。
(引用終了)
<朝日新聞 2/23/2014)
本カバーの帯には、ディスカッションに参加した17人の名前とともに、「今、何が起こっているのか?会社員でもフリーでも、個人ベースで働く/コラボレーションが新しい仕事を生み出す/共感を呼ぶ不動産活用が、ストックの価値を高める/無数のクリエーターとのつながりが、イノベーションを起こす」との紹介文がある。
この本の構成は、
プロローグ
1.コミュニケーションのシェア
2.シェアのビジネス
3.クリエイティビティのシェア
4.社会のバージョンアップ
エピローグ
となっている。その「2.シェアのビジネス」の最後の方に、
(引用開始)
関口 シェアの付加価値は大きく分けて二つあって、ひとつめが、合理的かつ経済的な付加価値。たとえば一人で暮らすと最低限のキッチンしか持てないところ、大勢で住めばもっとグレードアップした、業務用のキッチンさえ持てちゃいますよ、というようなことです。二つめは、情緒的価値。つまり、そもそも人が集まっていると、単純に楽しいんですね。出会いがあったり、目標を達成した時の高揚感を共有できたり、あるいは、互いに切磋琢磨したり、刺激を受けられたりする。その二つかなと思います。
(引用終了)
<同書 134ページ>
とある。複眼主義の対比、
A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
に当て嵌めれば、「合理的かつ経済的な付加価値」はA、a系のメリット(効率)、「情緒的価値」はB、b系のメリット(効用)ということだろう。
シェアは「棚に陳列されたモノ」ではなく「人同士に起こるコト」であり、シェア型経済においては、焦点が「モノからコト」へシフトしてゆく筈だ。だからこの本は、シェアから見るモノコト・シフト時代(モノよりもコトを大切に考える新しいパラダイム)の現場報告ともいえる。隈氏が指摘するように、日本がシェア社会の最前線に立てるとしたら素晴らしい。
「3.クリエイティビティのシェア」にあるクリエイティブ・コモンズの考え方は、成果をシェアするとさらに良いコトが起こる、という意味で、「コト経済」の基本ルールとして捉えることもできそうだ。「経済の三層構造」の項で述べたように、経済は「コト」「モノ」「マネー」の三層構造になっていて、「コト経済」とは、生命の営み、人と外部との相互作用全般を指す。それは本来、互助的な性格のものなのだ。
シェアについては、以前「“シェア”という考え方」「“シェア”という考え方 II」という項を書いたことがある。併せてお読みいただければ嬉しい。
この記事へのコメント
コメントを書く