「社交のための言葉」「議論のための日本語」「議論のための日本語 II」の各項において、複眼主義の、
A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
という対比から、A、a系の言葉の強化が、近代的社会にとってどれほど重要かということを論じてきたわけだが、ここでその例として、デンマークという国について考えてみたい。
『デンマーク流「幸せの国」のつくりかた』銭本隆行著(明石書店)という本から、デンマークと日本を比較した文章を引用しよう。
(引用開始)
デンマークと日本を比べたときに、なにが異なるのだろう。たしかに制度は異なる。しかし、その制度を利用する国民の姿勢そのもに大きな違いを感じる。国民そのものが制度を支えている。ただの客体ではなく主体なのである。自ら積極的に参加し、自分の住みやすい社会を作り上げている。世の中を変えるには、この主体性というものはとても大切だ。
対して受身の日本人。しかし、ただの制度の受け手では、いつまで経っても望むものは手に入らない。日本人が“主体的国民”となるためのヒントを、これまでみてきたデンマークがら得たい。それはデンマーク人のだれもが持ついかの3つの姿勢である。
「自己決定」
「連帯意識」
「民主主義」
「自己決定」とは、読んで字のごとく、自分で決定するということである。日本人は、自分でものごと決めているだろうか? たとえば、多くの外国人が日本人を評して、「おとなしい」「いうことを聞いてくれる」。しかし、これらは裏を返せば、「意見をいわない」「自分の考えを持たない」と消極的な意味も含まれる。
「連帯意識」とは、他人との共同である。自己主張が強いデンマーク人は、この意識を強く持っている。考え方や背景が違えど、「同じ人間」ということで、手をお互いに差し伸べあう。妬み、嫉み、お互いの足の引っ張りあい、が常態の日本とは大きく異なる。
「民主主義」とは、政治システムの話ではない。簡単にいえば、「徹底的に話し合ってものごとを決める」という姿勢である。これは、デンマーク人に徹底的に浸透している。デンマーク人と話していると、1時間に1回は絶対に「デモクラシー(民主主義)」という言葉がついて出てくるほどだ。
こうした「民主主義」が機能する前提として、「自己決定」と「連帯意識」の原則は不可欠である。つまり、「自己決定」をする主体的な国民が、相手の意見も認める「連帯意識」を持つことで、はじめて「民主主義」は可能なのである。「自己決定」「連帯意識」「民主主義」のいずれかひとつが欠けても、デンマークという国は成り立たない。
(引用終了)
<同書 227−228ページ>
私はデンマーク語が分らないし、まだ訪れたこともないから、この本に全面的に依存するしかないのだが、「主体性」を主格中心、「受身」を環境中心と言い換えれば、銭本氏の主張は、複眼主義の対比構造に当て嵌まるように思う。
デンマークは、最近のいくつかの幸福度調査において世界1位に輝いている。勿論近代国家の幸福度は、地理的な位置、自然環境や歴史状況、国のサイズなどにも左右されるだろうが、言葉の力も大きい筈だ。デンマーク語は英語と同じ西欧の言葉だから、A、a系の言葉が強いものと思われる。国連による2010−2012の間の国別幸福度ランキングを見ても、
1.デンマーク
2.ノルウェー
3.スイス
4.オランダ
5.スウェーデン
6.カナダ
7.フィンランド
8.オーストリア
9.アイスランド
10.オーストラリア
ということで、西欧系の国々が上位を占めている。
『デンマーク流「幸せの国」のつくりかた』を読むと、社会が抱える問題点も含めて、デンマークのことが多少わかる。新聞の書評も載せておこう。
(引用開始)
さまざまな「幸福度調査」で一位となり、高福祉で知られる国デンマーク。本書はその社会保障制度などをわかりやすく解説する。
著者は、福祉や教育を専門とするデンマークの国民高等学校「日欧文化交流学校」の学院長。時事通信と産経新聞で11年間の記者経験がある。豊富な経験と取材に基づいて、この「幸せの国」の歴史や文化を、ユーモアを交えた筆致で紹介。有名な高い税金、若者の生活保護や薬物依存の増加、高い犯罪率など、負の側面にも鋭く切り込んでいる。
それにしても、福祉の充実ぶりには改めて驚かされる。法定の「週37時間労働」が順守され、「夫が午後3時に帰宅するのがストレス」という妻の声も。転職経験は平均6回、資格取得のために休職する間も給与が支払われる支援制度……。日本では考えられないことばかりだ。
社会を支えているのは、自分の意思を貫く「自己決定」、他人との協調を重んじる「連帯意識」、そして徹底的に話し合う「民主主義」というデンマーク人気質。著者は日本人に向けて、この3点こそが「“自分の人生”を生きていくために役立つツール」だと説いている。
(引用終了)
<毎日新聞 11/4/2012>
複眼主義の考え方が間違っていなければ、以前「日本語の力」の項でみたように、日本語のような母音言語は世界でも珍しいから、B、b系の力(現場で与えられた環境を守り何かを紡ぎだしてゆく力)ランキングでは、日本は世界一なのではないか。これで、我々が少しでもA、a系の力を鍛えれば、全体としての幸福度ランキング上昇は間違いないと思われる。皆さんも是非この本などを読みながら、言葉の持つ力に想いを馳せていただきたい。
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