スモールワールドに加えて、社会ネットワークでもう一つ重要なエレメントは、各人が持つ知人・友人の数(次数と呼ばれる)である。
この次数相関(関係)によって、社会ネットワークにはスケールフリー性が生まれる。スケールフリー性とは、例の80:20の法則(全体の20%の人が80%の収入を得るという譬え)のように、平均値や分散値が捉えられないネットワークの性質を指す。
この次数が非常に大きい頂点のことをハブ(Hub)という。インターネットの世界では、このハブの振舞い方によっていわゆるロングテール現象などが起こるらしい。「渋滞学」西成活裕著(新潮社)という本では、近年ハブの研究が道路渋滞の解明にまで及んでいることが分かって面白い。
さて、次数相関には、「正」と「負」さらに「±0」の三種類がある。ハブが別のハブと結びつきやすい場合を「正」、ハブが次数の小さい頂点と結びつきやすい場合を「負」の相関、ハブにそういった振舞いが見られない場合を「±0」と呼ぶ。
インターネットには「負」の相関が見られ、それがロングテール現象を生む訳だ。一方、「正」の次数相関は、「リッチ・クラブ」(特権階級)を形成しやすく、往々にして集団内部に不平等を生む。
スモールワールドの特徴は、「小さい平均距離」「高いクラスター性」および「遠く離れた人同士の繋がりが一部存在すること」だったが、ハブが極端な「正」もしくは「負」相関を持つと、この三つのバランスが崩れ、スモールワールド性が失われてしまう。
先日「人の生産活動に注目するということ」の中で書いたランプ屋さんの例を使って考えてみよう。ランプ屋Aさんには、インテリア・コーディネーターのCさん以外にも知人・友人が多かった。ある日Aさんは、仲間内のお金持ちだけを相手に商売をしようと考えた。
Aさんが手間隙かけて作るランプは評判を呼び、その希少性から一時売り上げは上がった。しかし「リッチ・クラブ」内の需要が一巡すると、逆に売り上げは下がってしまった。インテリア・コーディネーターのCさん、アクセサリーのデザイナーのBさん、鏡屋のDさん、アクセサリー好きのEさんとの連携も生まれない。
多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術といった、安定成長時代の産業システムは、スモールワールド性がつくり出す「多様性」と「意外性」が発展の糧になる。だからハブの役割は、広く門戸を開き、公平性(次数相関「±0」)を心がけることで、数多くのリアルな「場」を作り出し、社会のスモールワールド性をより加速させることなのだ。


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