前回「竜神伝説」の項で紹介した『冬虫夏草』と同時に読み進めたのが、友人星川淳氏の小説『タマサイ 魂彩』(南方新社)という本だ。今回はその話をしたい。まず、本カバーの帯と表紙裏の案内文を紹介しよう。
(引用開始)
魂の源流をたどって<海の道>へ――
青い石が語る祖霊たちの声
新しいSF=ソウルフィクションの誕生か!?
まことに、この世は白い民の訪れと、あの火筒のせいで終わる。
これから五百年後、その病が地上を覆い尽くし、焼き尽くすだろう。
だが、われらは次の世の備えをしなくてはならぬ。
そのとき、青い石を通じて魂の自由を思い出させるのは
私らよりももっと古い祖霊たちの声だ。
(引用終了)
本書の主人公は、以前「文庫読書法(2010)」の項で紹介した、星川氏の『ベーリンジアの記憶』と同じ語り手由紀、それと、種子島に鉄砲が伝来した16世紀を生きる龍太の二人である。
話は、由紀の生きる201X年と、龍太の時代1545−1550年を舞台として、交互に展開する。由紀は、飛行機で日本からカナダ、ハワイ、屋久島、沖縄、広島、アメリカ・ニューメキシコへと旅をし、16世紀の龍太は、舟で種子島から黒潮にのって北米大陸へ、そして大陸沿いに南へ下る。その間、由紀は様々な人と巡り会い、龍太は各地で冒険を繰り返す。男女の愛の物語も進行する。
21世紀と16世紀という離れた時空を繋ぐのは、両方に登場する「青玉(ターコイズ)」だ。昔、ヒマラヤ山中にある、宝石のような湖で生まれた三つの美しい青玉。そのうちの二つは龍太の時代に、龍太や双子の姉妹の手を経て、もう一つは他の時代に別ルートで、共に北米大陸に渡る。
三つの青玉は、その後さらに数奇の運命を辿り、最終的に、一つは主人公由紀のブレスレットに、もう一つは由紀がハワイで出会うケン(由紀の許婚となる男性)の胸に、そして三つ目は、北米大陸インディアンの末裔の手元に残された。
「三つの石がふたたび出会うのは、次の世がはじまるとき。この世の終わりが終わるときだ」とは、龍太が出会った土地の老女の言葉だった。その予言をなぞるように、由紀とケンは、旅先ニューメキシコの地で(201X年8月28日に)、三つ目の青玉を持つインディアン女性と邂逅する…。
この小説のテーマは、太古の昔からあったであろう、太平洋を跨ぐ民族の交流を跡付けることと、火縄銃に象徴されるヨーロッパ文明の次に来る筈の、新しい時代について考えることだ。その意味でこの本は、前作『ベーリンジアの記憶』や、星川氏の他の活動と密接に繋がっている。本の「あとがき」から一部引用しよう。
(引用開始)
前作以来、魂の源流を探っていくと、そのむこうに現代や未来の問題が見えてくる、そしてその逆も真である、一見不思議だけれども、ある意味ではあたりまえの共時世界に馴染んだ私にとって、この物語は時間と空間を越えた“親族”の来歴の一端です。過去から未来を見ているのか、未来から過去を見ているのか――いやじつは、私たちの深い学びはそういう矢印とはあまり関係なく起こるのかもしれません。
(引用収容)
民族交流の本当の歴史、物質文明の次の世界、どちらも21世紀のモノコト・シフト時代の重要なテーマである。これからも氏の仕事を応援したい。
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