先日「勝負の弁証法 II」の項で、人(の脳)が考え出した弁証法というロジックは、自然界の出来事や生物進化の様子を模倣したものに違いないと書いたけれど、他にもいくつか、人の脳が真似たと思われる自然の特徴を挙げてみたい。
例えば脳の合目的性。養老孟司氏はその著書『脳と自然と日本』(白日社)のなかで、人の脳が持つ合目的性(予測とコントロール)は、生物が進化の過程で積み重ねてきた合目的的な遺伝子情報システム(本能)の模倣ではないかと論じておられる。
例えばデジタル情報のアナログ変換。『面白くて眠れなくなる素粒子』竹内薫著(PHP研究所)に、
(引用開始)
実際、私たちはテレビを見ていても、ピクセルごとに分解してみているわけではありません。
ピクセルごとに分解するのがデジタルの本質ですが、私たちはなめらかな映像があると認識する。人間はアナログ的にとらえるのです。
おそらく人間の脳は、アナログ処理をするようにできているのでしょう。しかし、世界の本質はデジタルなのです。
(引用終了)
<同書 88ページ>
とある。人の脳は、目や耳から入ったデジタルな情報を、「意味」というアナログ情報に変換するが、これは、原子や分子を集めて「形態」を生成する自然界の模倣ではなかろうか。構造としてのデジタルと、機能としてのアナログ。
世界の本質はデジタルだが、自然界は、ゆらぎによって形態を生み出し、多様な階層性を作り出してきた。弁証法は、自然界の「階層性」の模倣だった(生物の階層性については以前「階層性の生物学」の項で触れたことがある)。「形態形成」と「階層性」、それとさきほどの「合目的性」。人の脳は、このように、自然の様々な力を模倣しながら、都市や文明を作り出してきたようだ。
「階層性」=弁証法
「形態形成」=D/A変換
「合目的性」=予測とコントロール
21世紀のモノコト・シフトは、20世紀の大量生産・輸送・消費システムと、人のgreed(過剰な財欲と名声欲)が生んだ“行き過ぎた資本主義”に対する反省として、また、科学の「還元主義的思考」によって生まれた“モノ信仰”の行き詰まりに抗して表出した新しい枠組み(コトを大切にする生き方・考え方)だが、それが、これからどのような社会の「形態形成」として結実するのか、人々がそこにどのような意味を見出そうとするのか、今から楽しみだ。
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