『地域再生の罠』久繁哲之介著(ちくま新書)という本を共感しながら読んだ。いろいろな都市の失敗例に学びながら、本当の地域再生を考える本。まずは新聞の書評を引用しよう。
(引用開始)
「失敗学」を提唱するアナリストが書いた本書は地域おこしの必読書として有名。地域再生施策の大半は「成功事例にならう」という発想を基本にしているが、この「成功模倣主義」は2つの点で大問題という。
第一に、専門家が推奨する成功事例の多くは実は成功していない。また「本当の成功」話はたいてい外国や昔の話で実際には役立たないことのほうが多いのだ。本書は成功例とされる宇都宮、松枝、長野、福島、岐阜、富山をくわしく分析。そこから得た教訓として「地方自治と土建工学」のいびつな関係を批判する、地元おこし関係者のみならず、住民運動や一般の生活人としても考えたいテーマが目白押しだ。
(引用終了)
<日刊ゲンダイ 10/29/2013>
ここに「土建工学」という面白い言葉が出てくる(失敗学については以前「失敗学」の項で解説した)。土建工学者とは、土木、建築、都市計画、都市工学における技術分野の学者の総称。彼らの発想は往々にして住民を置き去りにするという。同書カバー裏の紹介文も引用しよう。
(引用開始)
社員を大切にしない会社は歪んでいく。それと同じように、市民を蔑ろする都市は必ず衰退する。どんなに立派な箱物や器を造っても、潤うのは一部の利害関係者だけで、地域に暮らす人々は幸福の果実を手にしていない。本書では、こうした「罠」のカラクリを解き明かし、市民が豊になる地域社会と地方自治のあり方を提示する。
(引用終了)
ということで、この分野に興味がある人には大いに参考になる本だと思う。本の内容を、さらに章立てのタイトルから見ていただこう。
第1章 大型商業施設への依存が地方を衰退させる
第2章 成功事例の安易な模倣が地方を衰退させる
第3章 間違いだらけの「前提」が地方を衰退させる
第4章 間違いだらけの「地方自治と土建工学」が地方を衰退させる
第5章 「地域再生の罠」を解き明かす
第6章 市民と地域が豊になる「7つのビジョン」
第7章 食のB 級グルメ化・ブランド化をスローフードに進化させる
第8章 街中の低未利用地に交流を促すスポーツクラブを創る
第9章 公的支援は交流を促す公益空間に集中する
このブログでは、モノコト・シフト時代の産業システムの一つとして、食の地産地消を挙げているが、「食のB級グルメ化・ブランド化をスローフードに進化させる」という提案は、導入ステップとして分りやすい。「勝負の弁証法 II」の最後で述べたように、スポーツクラブも、モノコト・シフト時代に相応しい提案だ。第6章の「7つのビジョン」とは以下の通り。
ビジョン@「私益より公益」
ビジョンA「経済利益より人との交流」
ビジョンB「立身出世より対等で心地よい交流」
ビジョンC「器より市民が先に尊重される地域づくり」
ビジョンD「市民の地域愛」
ビジョンE「交流を促すスローフード」
ビジョンF「心の拠り所となるスポーツクラブ、居場所」
また、第2章には、商店街再生へ向けての4つの提案がある。
1.車優先空間から「人優先空間」への転換
2.出店者一人にリスクを押しつけず、「市民が安心・連携して出店できる仕組みを創る
3.店舗個別の穴埋めをする発想をあらため、地域一帯の魅力を創造することを考える
4.商店街の位置づけを「物を売る(買う)」場」から「交流・憩いの場」へ変える
中でも最後のポイントは、モノコト・シフト時代を象徴する提案であろう。「経済の三層構造」の項で述べたように、これからは「モノ経済」以上に「コト経済」が重視される時代だからだ。
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