“里山資本主義”藻谷浩介・NHK広島取材班共著(角川oneテーマ21)という本を読んだ。まずは本の内容について、新聞の書評を紹介しよう。
(引用開始)
中国地方を舞台に森林資源などを活用し、自然エネルギーの普及と地域再生に取り組む動きを紹介したNHK広島放送局制作の番組を活字にしたのが本書だ。「里山資本主義」は広島放送局のプロデューサーが考えた言葉である。
同番組にも出演した藻谷氏は、里山資本主義を「マネー資本主義」を補完するシステムと位置付ける。大震災でエネルギーの原子力発電への依存に限界があることがわかった今、自然エネルギーの普及は急務だ。本書に登場する岡山県真庭市の銘建工業のように木質バイオマス事業に取り組む地域企業が増えている。
耕作放棄地を使って自然放牧に取り組む若者や、空き家を転用した福祉施設で地元のお年寄りがつくる野菜を食材に使う話なども取り上げている。身近な資源を最大限に生かし、お金に過度に依存しない社会をつくる試みだ。
藻谷氏はそれが現代人の不安や不信を解消し、高齢者の健康につながり、少子化を食い止める対策にもなると指摘する。地方の集落崩壊が人口の減少に拍車をかける一因になっているのは事実だろう。
里山資本主義の先進国として紹介しているオーストリアの話が面白い。森林資源をエネルギーとして生かすだけでなく、木造の高層ビルも続々と増えている。日本でも強度に優れた集成材を普及させ、木造建築物に対する規制を緩和することが必要になる。
(引用終了)
<日経新聞 8/18/2013>
以前「効率と効用」の項で書いたように、経済とは、「自然界の諸々の循環を含めて、人間を養う、社会の根本の理法・摂理」を意味する。里山資本主義は、これからの日本の経済システムとして、充分通用する考え方だと思う。
「地方の時代」の項で、「新しい国づくりは魅力ある地方都市から始まる」と書いたけれど、里山資本主義こそ、地方都市発の国づくりに相応しい。統治とは国家経営であり、経営とは、集団の理念と目的の実現に努めることだから、国づくりにも「理念と目的」が必要だ。モノコト・シフト時代の国の「理念と目的」には、多様な「コト」の起こる環境や場を守る理念が入っていなければならない。里山資本主義が、これからの日本の国づくりに相応しい由縁である。
これからの時代、そもそも、「国」が一方的に価値を縛る時代ではあるまい。「近代家族」同様、「民族国家」という概念は、20世紀の遺物なのではないだろうか。21世紀の国づくりには、全国各地の里山システムが、多様な流域価値を生み出し、それが繋がり、大河となって全体の価値観が形成される、といった重層的なプロセスが必要だと思う。この本にもあるが、里山システムが海外のそれと連携するといったことも積極的に行なわれるべきだ。むしろ、これからの国の「外交」は、そういった地方の連携の交通整理が主な仕事になるのかもしれない。そもそも政治とは、社会集団における利害の合理による調整なのだから。
里山については、このブログでもこれまで「里山ビジネス」や「内と外 II」、「継承の文化」の項などで、いろいろと考察してきた。併せてお読みいただけると嬉しい。
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