夜間飛行

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クレタ人の憂鬱

2013年08月21日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 “不完全性定理とはなにか”竹内薫著(講談社ブルーバックス)を読んだ。この本は、カントールやデデキント、ゲーデルやチューリングの仕事を分りやすく解説したものだが、それはそれとして、私は、第4章の「不完全性と不確定性の関係(203ページ)」以降の著者のコメントが面白かった。

 ここで著者は、超ひもとブラックホール、質量とエネルギー、時間とエントロピーなど、「似ている」ことを辿って、ゲーデルの不完全性と量子力学の不確定性の相関を考え、「視点」という言葉に行き着く。

 著者は、相対性理論と量子力学、不完全性定理に共通するのは、「視点」を意識しなければならないことだという。それは、自分を客観的立場において宇宙や量子を考えるという意味だが、この「視点」は、「時を抜いた“モノ”」としてのいわゆるメタな視点だと思う。

 「時を抜いた“モノ”」については、「時空の分離」と「再び複眼主義について」の項で述べた。20世紀を席巻し、今も多大な影響力をもつ「時空の分離」を前提とした「視点」そのものは、実は、大きさのない点や太さのない線のように、人が脳の中でつくったフィクションでしかない。人の本当の視点は常にどこかの「場」に置かれているからだ(勿論、フィクションも多数決や工学計算には必要だが)。

 ゲーデルが証明したのは、あるシステム内では、真だけれども証明できない数式があるということだが、システムの外にいる人間については何も語っていない。ゲーデルは、自分を含むシステムを数学的に考えると矛盾が生じるといったわけだが、それはシステムに矛盾があるのではなく、システムを数学的に(「時を抜いた“モノ”」として)考える「自分」の側に矛盾があるということを言いたかったのはないか。

 ゲーデルの不完全性定理とは、「時を抜いた“モノ”」信仰の限界を、自己言及性の無限ループとして数学的に証明したものではないだろうか。フィクションは、自然を扱うには限界があるということなのだ。

 この本に、「嘘つきクレタ人」の話が出てくる。嘘つきクレタ人が「クレタ人は嘘つきだ」といったときにその話を信じて良いのか、という例のパラドックスだ。このパラドックスは「時を抜いた“モノ”」信仰を象徴している。

 モノコト・シフト後(「時を含んだ“コト”」時代)の我々は、シンプルに、「嘘つきクレタ人とは、いつの時点のどのクレタ人を指しているのか?」と問えば良い。クレタ人は「時を抜いた“モノ”」ではなく、日々生滅を繰り返す生きもの=「時を含んだ“コト”」なのだから。

 「時を含んだ“コト”」は「場」=「環境」において発動する。これからの科学の知見は「場」の研究にシフトしていくだろう。ヒトゲノムの全解読が「エピジェネティクス」の研究に、ヒッグス粒子の解明が「ヒッグス場」の研究にシフトしつつあるのはそういうことではないのか。

 理論科学も、カオス理論や複雑系を経ていまや同期現象や集合知などの「場」の研究に加速的にシフトしている。宇宙科学でも「時を抜いた“モノ”」信仰の名残のような理論は早晩新しい知見に止揚されると思う。

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posted by 茂木賛 at 09:46 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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