夜間飛行

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アッパーグラウンド II 

2013年07月23日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 前回に引き続き日本社会の今を検証するために、福島第一原発事故のドキュメント“メルトダウン”大鹿靖明著(講談社文庫)と、“死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日”門田隆将著(PHP)の二冊を読んだ。

 “メルトダウン”では、無能な政治家や無責任な官僚、原子力ムラ人たちのリーダーシップ欠如の詳細が描かれている。こちらは主にResource Planning型リーダーシップだ。村上春樹は“アンダーグラウンド”の最後に、地下鉄サリン事件を巡る責任回避型の社会体質は(戦争に突入した)それ以前と変わっていないと述べているが、今回の原発を巡る諸々の出来事は、それが今も全く変わっていないことを示している。

 “死の淵を見た男”では、先日亡くなった吉田所長を始めとする現場作業員たちの決死の努力が描かれている。こちらのリーダーシップは主にProcess Technology型だ。自衛隊と消防隊の協力も忘れてはならない。端的に言って、この人たちがいなかったら今の日本列島はない訳だ。それといくつかの僥倖があった。たとえば何故か4号機の燃料冷却プールの水がなくならなかった。しかし、また同じ事が起こったら今度こそ日本列島は使い物にならなくなるだろう。

 二冊の本により、原発事故の処理を巡って明らかになるのは、本部のResourcePlanning型リーダーシップの欠如と、現場のProcess Technology型リーダーシップとチームワークの力である。まさに地下鉄サリン事件や戦争の時と同じ構図だ。事故に当たり、システム全体を俯瞰して資源配分などを効率よく進める(社会基盤を効率的に運用する)ためのリーダーシップは前者Resource Planning型で、東京の政治家や官僚、原子力ムラの住人達の役目の筈だが、今回も(昔戦争に突入したときと同じく)機能しなかった。一方、福島の現場のリーダーシップは、正に原発システムの中に入り込んでそれを制御するわけだからProcess Technology型で、これは(与えられた過酷な環境下で)最大限機能したと思う。

 日本社会のResource Planning型リーダーシップの欠如の一端は、その言語構造(日本語の環境依存性構造)にあるというのが私の見立てである。詳細は、このブログのカテゴリ「言葉について」や「公と私論」をご覧戴きたいが、私はリーダーシップを二つの型に分けて、システム全体を俯瞰して資源配分などを効率よく進めるリーダーシップをResource Planning型、システムの中に入り込んで改善を行なうそれをProcess Technology型と呼んでいる。日本社会に欠如しているのは、このうちのResource Planning型だと思う。今の日本語はProcess Technologyには向いているが、Resource Planningには向いていない。英語は逆にResource Planningには向いているが、Process Technologyにはあまり向いていないというのが私の持論だ。勿論今の日本語を鍛えることはできる。

 村上春樹は、2010年の“1Q84”で、リトル・ピープルに象徴される20世紀的価値観が崩壊した世界を描いたわけだが、「世界の問題と地域の課題」の項の最後で触れたように、最新作“色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年”ではそのテーマは足踏み状態だ。この本では、日本社会の問題は「人々の人生は人々に任せておけばいい。それは彼らの人生であって、多崎つくるの人生ではない」(351ページ)として傍観している。好意的に考えれば、今回は東日本大震災後の共同体に暮らす個人の内面に焦点を当てた為だと思われる。村上春樹は長年鍛えた自分の日本語(表現)によって、いずれこの問題に切り込んでいくだろう。そう願いたい。

 とここまで書いて、2011年に出版された“小澤征爾さんと、音楽について話をする”(新潮社)のことを思い出した。誰もそういう読み方をしていないけれど、この作品は、単にクラシック音楽界のことではなく、“アンダーグラウンド”で戦後日本の挽歌を書いた村上氏が、同じ戦後日本へのポジティブなオマージュとして、国際舞台で活躍する小澤征爾という「最も良き戦後の日本人」を一度は描いておこうと思い立って出来た作品ではあるまいか。その意味ではだれでも良かったのだけれど、あのタイミングで全ての条件に合ったのが小澤征爾だったのだと思われる。そう考えて作品のタイトルを見ると、“音楽についての話をする”ということで殊更“音楽”が強調されている。神戸大震災が主人公なのに“神の子供たちはみな踊る”、戦後日本が主人公なのに“アンダーグラウンド”、東日本大震災が主人公なのに“色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年”、といった形で作品を書いてきた村上氏の「ひそかな韜晦術」を見る気がするがいかがだろう。それはそれで村上氏らしい確信犯的韜晦だ。

 それにしても、今の日本は、世界的潮流としてのモノコト・シフトや、地域特有の兆候(高齢化、人口の減少など)に相応した社会基盤の構築が急務だと思う。社会基盤の不備とgreedとbureaucracyによる自由の抑圧システム。この二つの犠牲者は我々自身である。たとえば連日どこかで繰り返される「人身事故」のアナウンス。私を含めて人はみな遅刻を気にして舌打ちする。我々の同胞の一人が、システムの犠牲になっていまこの近くで命を失った(かもしれない)にも拘らず!本当は、誰にも犠牲者を哀悼する気持ちはあると思う。でも忙しさなどからその気持ちを無意識に抑制してしまうのだ。その小さな隠蔽が、人々の心ここに在らずの状態(認知の歪み)をさらに助長していく。

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posted by 茂木賛 at 11:42 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

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