夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


現場のビジネス英語“sense of humor”

2013年06月11日 [ 現場のビジネス英語シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 前回「羅針盤のずれ」の項で、認知の歪みに陥らないためは、人は自らの無知や誤解、思考の癖、不得意分野などに自覚的でなければならないと書いたけれど、欧米人がよくスピーチの前にjoke(とくに自分の至らなさを肴にしたjoke)を言うのは、緊張気味の聴衆を和ませるためばかりではなく、聴衆に対して「わたしは自らの無知や誤解、思考の癖、不得意分野を心得ていますよ、だからわたしの言うことを信用して聞いてくださいね」というメッセージでもある。

 日本人はなかなかこれが出来ない。お集まりいただいて有難うございますと挨拶した後、すぐスピーチの本題に入っていってしまう人が多い。せいぜい途中で聴衆を飽きさせてはいけないことを思い出して出来の悪い駄洒落を言うくらいだ。近代日本語が環境べったりで、自らの無知や誤解、思考の癖、不得意分野などに自覚的であるという精神的自立の条件の一つが不十分なのだと私は睨んでいるが、それ以上に、真面目すぎる人が多いのかもしれない。日本ではjokeをいうやつは不真面目だと思われる。欧米人でも真面目すぎる人はあまりjokeを言わない。ユーモアのセンス(sense of humor)は、大脳新皮質の余裕を示すバロメーターだから、真面目すぎると忙しくて、頭の働きに余裕が無いのかもしれない。ただし、jokeの効用を分かっている日本人でも、日本人を相手にスピーチする場合、不真面目なやつだと誤解されたくないので敢てjokeを口にしないということも考えられる。いずれにしても、聴く方にしてみればあまり面白くないsituationではある。

 というわけで、“叡智の断片”池澤夏樹著(集英社インターナショナル)という愉快な本から、私の気に入ったsense of humorやjokeをいくつか紹介したい。自分の至らなさを肴にしたものばかりではないが、どれもどこか精神的余裕が感じられるのがお分かりいただけると思う。

(引用開始)

「ボーイさん、もしもこれがこの店のコーヒーならば、紅茶の方をくれないか。ひょっとしてこれが紅茶なら、コーヒーを頼みたいんだが」(80)
「私をメンバーとして迎え入れてくれるようなクラブには入りたくない」(33)
「何かを測るのはやさしい。むずかしいのは、自分が何を計っているかを正確に知ることだ」(44)
「アメリカ人を批判してはいけない。あれでも金で買えるかぎりのいい趣味を身に付けたのだからね」(162)
「政府に金と権力を渡すのは、ティーンエージャーにウイスキーと車の鍵を渡すようなもの」(152)
「悪口を最も優雅に受け止めるには、無視すればいい。それができなければ凌駕する。それが無理なら笑いとばす。もしも笑えないとなったら、その悪口は真実だと思った方がいい」(93)
アメリカとは「野蛮から退廃に一足飛びして、その途中にあったはずの文明をかすりもしなかった」国なのだそうだ。(161)
「イギリス人はたった一人でも正しく列を作る」(210)

(引用終了)
<同書より。括弧の中の数字は掲載ページ>

 ユーモアのセンス、とくに自分の至らなさを肴にしたユーモアは、思考の系から自分のことを外さないことによって生まれる。パース(1839-1914)のプラグマティズムの特徴は、事象の連続性、自己(観察者)を思考の系から外さないこと、合理的なロジック(推論)、の三つだが、アフォーダンス理論を創り上げたギブソン(1904-1979)は、パースから直接教えを受けたわけではないが、パースの友人・ジェイムズの影響を受けたホルトを師としてことで、間接的にパースのプラグマティズムを学んだと思われる。アフォーダンス理論は、極めて実務的に自己意識(自己と世界との関係)を論じたもので、パース哲学の三つのうち、事象の連続性と、自己(観察者)を系から外さないことの二つを見事に引き継いでいる。パースのプラグマティズムとギブソンのアフォーダンス理論は、21世紀の“モノからコトへ”のパラダイム・シフトの理論的支柱となると思われる。その意味でもユーモアのセンスを磨くことは有意義なことだと思う。

 ということで、これから皆さん、特に欧米人の前で話すときには、自分や日本人を論(あげつら)ったjokeの一つや二つかましてから本題に入ることをお勧めする。聴衆も「あいつは自分のことをよくわかっているな、本題の話も信用できるかもしれない」と思ってくれるかもしれない。しかし、jokeが過ぎると、それはそれでsarcasms(当てこすり、辛らつな皮肉)と取られてあまり趣味がよろしくとされるから留意されたい。ものごと全て、過ぎたるは及ばざるが如しである。

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