夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


認知の歪みを誘発する要因

2013年05月13日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 経営を圧迫する認知の歪みの弊害については、これまで「認知の歪み」や「世界の問題や地域の課題」などの項で述べてきたが、その認知の歪みを誘発する、様々な要因についても考えてみたい。その前に「認知の歪み」のパターンを整理しておこう。

二分割思考(all-or-nothing thinking)
過度の一般化(overgeneralization)
心のフィルター(mental filter)
マイナス思考(disqualifying the positive)
結論への飛躍(jumping to conclusions)
拡大解釈と過小評価(magnification and minimization)
感性的決め付け(emotional reasoning)
教義的思考(should statements)
レッテル貼り(labeling and mislabeling)
個人化(personalization)

 これらの歪みを誘発する内的要因は、脳や身体に起こる様々な出来事だ。必ず誘発するわけではないが、まず、病気、疲労、五欲(食・睡・排・名声・財)そのもの、の三つを挙げておきたい。体が健康でなかったり、疲れすぎていたり、五欲への執着があると、頭の切れが悪くなって認知の歪みに陥りやすい。

 上の三つは体全体への影響だが、特に脳の働き(大脳新皮質の働き)領域に関しては、上に加えて、無知、誤解、思考の癖(くせ)の三つを挙げることができる。人は誰でも知らないことがあり、誤解したり思考の癖があったりするわけで、そういったこと自体が悪いわけではないが、それらはいづれ認知の歪みを誘発するから、人は学ばなければならないし、誤解や思考の癖による間違いについては、その可能性について常に自覚的でなければならない。

 特に身体の働き(大脳旧皮質・脳幹の働き)の領域としては、感情そのものを挙げることができる。感情を、陽性感情(愛情・楽しみ・嬉しさ・幸福感・心地よさ・強気など)と陰性感情(怒りと憎しみ・苦しみ・悲しさ・恐怖感・痛さ・弱気など)とに分けると、陰性感情のほうが認知の歪みに結びつきやすいようだ。“「つながり」の進化生物学”岡ノ谷一夫著(朝日出版社)に、

(引用開始)

 悲しみ、怒りといったネガティブな感情は、人をだましやすいものです。悪いことというのは生存に影響するから、生き物は悪い情報のほうに動かされやすい傾向があります。悪い情報は、それが間違っているとしても、さしあたりそれを避けるような行動を誘発しやすいわけですね。

(引用終了)
<同書 204ページ>

とある。自律神経バランスなどの身体管理に気を配って、陰性感情への過度の傾斜には歯止めをかけなければならない。尚、このブログでいう脳の働き、身体の働きについては、「脳と身体」の項を参照していただきたい。

 自戒を込めて書くが、それでも人は、内的要因による認知の歪みから完全に自由であることは出来ない。特に何かの専門家であればあるほど、それ以外の事柄について認知の歪みに陥りやすいことは特筆しておく必要があるだろう。専門家や高学歴者は、自分の専門領域の知識や見識でほかのこと類推しがちだ。だから、認知の歪み、なかでも過度の一般化(overgeneralization)や、拡大解釈と過小評価(magnification and minimization)などに陥りやすい。

 これを経営に即して言えば、セールスの専門家は経理のことが分からないし、経理の専門家は技術のことがわからない、技術者は人事のことが分からない、そして、経営のトップは現場のことが分からなくなる、といった困った状態だ。大切なのは、上で述べたようなことに皆ができるだけ自覚的であること、自分の専門分野以外のことも学び、よく話し合って、誤解や間違いをできるだけ少なくすることである。

 歪みを誘発する外的要因には、自然発生的なものと人工的なものがある。自然発生的なもとは、災害や紛争、言語や宗教、その時代のパラダイム(その時代や分野において当然のことと考えられていた認識)や流行などのことで、それらは人々の認知を一様にある方向へ歪ませる。現代のパラダイムとその歪みについては、「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」や「近代家族」の項などを参照いただきたい。

 人工的なものとは、過剰な財欲と名声欲(greed)と官僚主義(bureaucracy)が、人々を認知の歪みに陥れるために編み出す数々の罠のことだ。平たく言えば騙しのテクニックである。人々を認知の歪みに陥れ、巧妙にその資産を奪うのがgreedとbureaurcracyの目的だ。それらは概ね、上に挙げた内的要因を誘引する形を取る。多くの場合、自然発生的な外的要因をうまく利用して、人工的に内的要因を作り出し、人々の認知をその望む方向へ歪ませる。

 古くはいわゆるスリー・エスと呼ばれる政策があった。スリー・エスとは、セックス・スポーツ・スクリーン(映画)のことを指す。日本では戦後、敗戦による焦土化を一種の災害と考えさせ、人々の認知を経済復興というテーマに縛り付けておくために導入された。この政策は主に人々の陽性感情を利用する。

 ショック・ドクトリンと呼ばれる政策もある。災害によって人々がショック状態や茫然自失状態に陥っていることにつけこんで、人々の認知をその望む方向へ歪ませようとするものだ。ほかにも、紛争を戦争へと拡大したり、宗教を装ったり、人々の無知を利用したり、デマや風評を垂れ流して陰性感情を煽ったり、利益を貪る騙しのテクニックにはきりが無い。

 人を病に陥れる騙しのテクニックもいろいろとあるようだ。先日“知っておきたい有害物質100”齋藤勝裕著(サイエンス・アイ新書)という本を読んだが、健康を害する有害物質はこれでもかと思うほど実に多い。本に書かれた以外にもまだまだあるに違いない。「世界の問題と地域の課題」の項で書いたように、greedとbureaurcracyは、産業システムとして、効率の良い大量生産・輸送・消費へ向かう。最近“新農薬ネオニコチノイドが日本を脅かす”水野玲子著(七つ森書館)という本を読んだが、食品や薬の大量生産・輸送・消費は、とくに騙しの温床になりやすいと思われる。

 これらの外的要因にどう対処したら良いのか。残念ながら、内的要因同様、人はこれらの外的要因による認知の歪みから完全に自由であることはできない。しかしその影響について自覚的であることは出来る。面倒でも、一つひとつの事柄についてよく考え、必要ならば現場に足を運び、自分の脳と身体とで事実を確認し、認知の歪みに陥らないよう努力しようではないか。起業している皆さんは、是非内外の要因に騙されないようにして、ビジネスを成功させて欲しい。起業していない人も、騙されないようにして、「自立と共生」の項で述べた精神的自立を果たしていただきたい。

 このブログで提唱している「複眼主義」の考え方は、認知の歪みに陥らないために、思考に複数の軸を設定し、理性と感性、男性性と女性性、母音語と子音語など、様々な二項対比や双極性を相互に関連付け、世の中を包括的に理解し、バランスの取れた考え方を実践しようとするものだ。先日上梓した電子書籍“複眼主義入門”では、そのエッセンスを、図を多く用いてわかりやすく説明している。無料なので是非一度お読みいただければと思う。こちらのfacebook page(サンモテギ・リサーチ・インク)から、5月1日付でアップされた“複眼主義入門.pdf”をクリックしてすぐに閲覧することもできる。

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posted by 茂木賛 at 09:45 | Permalink | Comment(1) | 起業論

この記事へのコメント

(友人からコメントと励ましのメールを貰ったのでここに転載させていただきます)貴兄の複眼主義は、先が見通せないこの国、この世界の人々に生きるヒント・指針を与える大変良いツール(と呼ぶのは失礼ですが)になると思いますので、引続き頑張ってください。応援します。
Posted by 茂木 at 2013年05月14日 10:48

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