このブログで提唱している、これからの産業システム(多品種少量生産・食の地産地消・資源循環・新技術)にせよ、スモールビジネス(小規模企業)にせよ、流域思想(山岳と海洋を繋ぐ河川を中心にその流域を一つの纏まりと考える思想)にせよ、“モノからコトへ”のパラダイム・シフト(モノコト・シフト)にせよ、どれも、いわゆる「農業的」な価値観と親和性を持っている。
“千曲川ワインバレー 新しい農業への視点”玉村豊男著(集英社新書)という本は、この「農業的価値観」を、21世紀の日本人の暮らしのあり方の中心に据えてはどうかという提案である。まず本のカバー裏の紹介文を引用しよう。
(引用開始)
千曲川流域を活性化したい、就農希望の若者やワイナリー開設を夢見る人の背中を押したい、という思いから始まったプロジェクト「千曲川ワインバレー」。
流域にブドウ畑や新たなワイナリーを集積、更にはそのノウハウを伝授するワインアカデミーを設立するなど、本書では壮大なプロジェクトの全容を明らかにし、そこから見えてきた日本の農業が抱えている問題や展望にも迫る。様々な実践の先にあったのは「縁側カフェ」や「エコロジカルな生活観光」といった新しいライフスタイルの提案であり、日本農業の可能性だった。
(引用終了)
農業については、「日本の農業」の項で紹介したようなシビアな見方もあるが、これから先の日本にとって、そういった現実を踏まえつつも、「農業的価値観」を追求することは大切なことだと思う。さらに玉村氏の言葉を本文からいくつか引用しよう。
(引用開始)
私たちがワインに求めているのは、産地やつくり手によってそれぞれに異なる個性であり、それぞれが違うことによって生まれる付加価値です。(中略)
ふたつとして同じものがない、というのは、農業のもつ価値にほかなりません。(中略)
均一でないことや企画にあわないことを、効率的でない、といって切り捨てる時代はもう終わりました。この三十年、あるいは二十年間におけるワインの世界での確信は、農業的価値観を発見した私たちが、ワインが農業のもつ価値をあますところなく表現していることに気づいたときからはじまったのです。
ひとつひとつ違う、その土地からしか生まれない、自然の力がつくり出す、でもそこにはたしかに人間が介在する……。(中略)
ワインという商品は、すでに述べたように農業の産物ですから、ひとつとして同じものはありません。
だから、隣にライバルがあってもいいのです。むしろ、あってくれたほうがいい。同じクリマ(気候)とテロワール(土地)をもつひとまとまりの地域であっても、できるワインはそれぞれに違うのですから、飲み較べてその違いを味わってもらったほうが、よりそのメーカーの個性を理解してもらえるでしょう。その意味で、ワインメーカーは競争より共存を求めるのです。
(引用終了)
<同書 120−124ページ>
「競争か協調か」の項で述べたように、ビジネスにおいては、全体の経営資源の多寡によって、競争して勝ち残りを狙うのか、協調して共存を図るのか戦略が分かれるが、ワインにおいては、同じ味の生産量が限られるから、協調して共存を図るメリットの方が大きいというわけだ。
それにしても最近の日本のワインは味が良くなった。私も近くの酒屋でよく長野や山梨のワインを買ってくる。小布施ワイナリー、五一わいん林農園、井筒ワイン、グレースワイナリーなどなど。
最後に本の帯に印刷された文章も引用しておこう。
(引用開始)
私はいま会う人ごとの「千曲川ワインバレー」の実現がもたらす未来を熱く語っているのですが、この地域にワイナリーが集積することは、農業を中心とした新しいライフスタイルが多くの人の目に見えるかたちで定着し、それがこれからの日本人の暮らしのあり方を変えていくのではないか、と期待しているからです。信じるか、信じないかはともかく、まず私の話を聞いてください。(本文より)
(引用終了)
玉村氏のワインづくりについては、以前「里山ビジネス」の項などでも紹介したことがある。言うまでもなく、氏の経営する「ヴィラデスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリー」は、理念濃厚な小規模企業の一つである。
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