夜間飛行

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理念濃厚企業

2013年04月29日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 “建築家、走る”隈研吾著(新潮社)という本を読んだ。隈氏の著作については、これまでも「場所の力」の項などで紹介してきた。氏の建築は、場所という「コトが起こるところ」の力を最大限利用しようとする。それは“モノからコトへ”のパラダイム・シフト(モノコト・シフト)の時代に相応しい。この本は、氏のそういった建築思想の来歴を、家庭環境やバブル崩壊期の苦労、右手の怪我や、初めて中国で手がけた「竹の家」のことなどを通して、自伝的に跡付けようとしたものだ。その率直な語り口に好感が持てる。新聞の書評を引用しよう。

(引用開始)

 4月開場の新しい歌舞伎座の設計を手がけた建築家が、建築とは何か、建築家とは何者かを、自身と自作を通して語る。バブル崩壊後の10年で地方の建築物をいくつかつくり、「その場所でしかできない」「際立って特別な建築」への思いが深まったという。それは同時に「コンクリートに頼ってできた、重くてエバった感じ」の20世紀的建築の否定でもある。制約があれば、それを乗り越えて面白いものができるという発想で、利き腕の右手の怪我も完全に治さない。建築家に要求されるのは、心身兼ね備えたタフさ。グローバリゼーションの時代、「競走馬」として世界を飛び回る建築家が見れば、日本だけが21世紀に取り残されている。

(引用終了)
<朝日新聞 3/17/2013>

 隈氏は、過剰な財欲と名声欲が生み出した「アメリカンドリーム」、“モノ”の象徴としての「コンクリート」、官僚主義に犯された「サラリーマン」、という三つを否定しながら、「場所」というひとつの言葉にたどり着く。そして最終的に、「何かが生まれるプロセスを、真剣な思いの人たちと共有したい」というシンプルな心情に行き着く。

 前回「世界の問題と地域の課題」の項で、理念希薄企業がはびこる日本の現状打破は、自立した理念濃厚な小規模企業と、その横の連携によてのみ可能だろうと書いたけれど、隈氏の設計事務所(総勢150人)は、そういった理念濃厚な小規模企業の一つだと思う。今この建築家が面白い。

 ところで、新聞の書評にもある新歌舞伎座だが、先日柿葺(こけら)落四月大歌舞伎に行ってきた。建物や内装は素晴らしいが、やはり背後霊のように聳える高層ビルが目障りだった。それは、昨今出来た三菱一号館や東京駅舎、郵政ビルの復元建築と同様な敷地光景だ。一極集中が招いた余裕の少ない東京都心の風景。しかし今の日本社会において、一企業の力で歌舞伎とその周辺の社会資本を運営維持していくのが大変なことは分かる。隈氏はこの本で、歌舞伎座について、

(引用開始)

 歌舞伎座をコンクリートのハコの一つにしようとする外部の圧力とは、戦い抜く気持ちでした。

(引用終了)
<同書 63ページ>

と語っている。自らが出来るだけのことをすれば、歌舞伎座がコンクリートのハコになってしまうことだけは避けられるだろう、そんな思いで隈氏はこの設計を引き受けたに違いない。「1963年」の項で、村上春樹の小説に言及して、

(引用開始)

 現実が「暗澹たる“1Q84”の世界」だとしたら、いずれ「“1Q84”の世界をどうするか」ということが書かれねばならない。私が思うところ、その戦いは、青豆と天吾が手を取り合ったように、一人ひとりの精神的「自立」と、信頼するもの同士の「共生」によってなされる筈だ。そしてその戦法は、敵と無闇に刃を交える決戦主義ばかりではない筈だ。

(引用終了)

と書いたけれど、隈氏も建築の世界において、決戦主義ではない方法で「アメリカンドリーム」「コンクリート」「サラリーマン」という敵(私の言葉でいえば「人の過剰な財欲と名声欲、そしてそれが作り出す「壁」というシステム」)と戦っておられるのだと思う。

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posted by 茂木賛 at 17:29 | Permalink | Comment(0) | 起業論

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