夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


認知の歪みとシステムの自己増幅

2013年03月26日 [ 公と私論 ]@sanmotegiをフォローする

 先日「1963年」の項で、村上春樹の小説に触れ、「我々が共に戦うのは人の過剰な財欲と名声欲、そしてそれが作り出すシステムの自己増幅力である」という意味のことを書いたけれど、そのシステムの自己増幅を助長するのは、人々の「認知の歪み」なのだと思う。認知の歪みとは、誤った思い込みのことで、全てか無か、白か黒かと物事を両極端に考える二分割思考、過去の体験から一足飛びに結論を急ぐ過度の一般化、悪い面だけを見て良い免を評価しない選択的抽象化、何事も「〜すべき」「〜してはならない」と決め付ける教義的思考などを指す。

 村上春樹の短編小説集“レキシントンの幽霊”(文春文庫)のなかに“沈黙”という一編がある。そこに描かれた「人の言いぶんを無批判に受入れて、そのまま信じてしまう連中」こそ、認知の歪みを抱えた人々の姿なのではないだろうか。その部分を引用しよう。

(引用開始)

 でも僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間(人の心を巧みに扇動する財欲と名声欲の権化のような人物)の言いぶんを無批判に受け入れて、そのまま信じてしまう連中です。自分では何も生み出さず、何も理解していないくせに、口当たりの良い、受入れやすい他人の意見に踊らされて集団で行動する連中です。彼らは自分が何か間違ったことをしているんじゃないかなんて、これっぽっちも、ちらっとでも考えたりはしないんです。自分が誰かを無意味に、決定的に傷つけているかもしれないなんていうことに思い当りもしないような連中です。彼らはそういう自分たちの行動がどんな結果をもたらそうと、何の責任もとりやしないんです。本当に怖いのはそういう連中です。そして僕が真夜中に夢をみるのもそういう連中の姿なんです。夢の中には沈黙しかないんです。そして夢の中に出てくる人々は顔というものを持たないんです。

(引用終了)
<同書 84ページ(括弧内は引用者による補足)>

以前「自立と共生」の項で、「精神的自立」の大切さについて述べたことがあるけれど、認知の歪み(二分割思考、過度の一般化、選択的抽象化、教義的思考など)は、精神的自立を阻害する。その歪みに付け込む悪意に簡単に踊らされてしまう。そして、本人に悪気がなくとも、間接的に「システム」の増幅を補完することになってしまう。「認知の歪み」の項で紹介した「複眼主義」などによって、そういう「顔なし」にならないための努力をしたいものだ。

 さて、この財欲と名声欲をコントロールできない輩が作りだした「システム」を実際に動かしているのは誰かというと、それは、財欲と名声欲の権化のような人物の後ろに隠れている「官僚」(bureaucrats)と呼ばれる一群である。彼らは「システム」を粛々と運営し、その増幅を図り、それが生み出す財と名声のおこぼれを貰いながら密かに生きている。彼らは国家だけではなく、民営化された機関、理念を失った会社や学校、その他あらゆる惰性に流された組織に忍び込んで来る。立派な建物をシロアリが蝕むように。

 この「過剰な財欲と名声欲、そしてそれが作り出すシステムの自己増幅力」、問題は三つあることが分かる。一つは人の過剰な財欲と名声欲。「五欲について」の項で述べたように、人は誰でも身体の働きとしての「食欲・睡欲・排欲」を持ち、脳の働きとして「財欲と名声欲」を持っていて、「財欲と名声欲」は無限に増殖し得る危険な欲望だ。しかし多くの人は、理性によってそれをコントロールすることができる。人は本来、「理性を持ち、感情を抑え、他人を敬い、優しさを持った、責任感のある、決断力に富んだ、思考能力を持つ哺乳類」なのである。こういう「真っ当な人間」が作る組織は健全である。だが一部、財欲と名声欲をコントロールできない輩がいるのが問題の第一。

 そしてもうひとつの問題が、上で述べた認知の歪み。認知の歪みを抱えた人々(顔なし)は、悪気がなくても、財欲と名声欲をコントロールできない輩が作りだした「システム」の自己増幅を助長してしまう。

 そして最後が「官僚」(bureaucrats)と呼ばれるシロアリの群れ。どれも問題なのだが、理性によって財欲と名声欲をコントロールすることと、認知の歪みを正すことを啓蒙してゆけば、時間はかかるかもしれないが、「真っ当な人間」たちを増やすことができる。また、人は誰でも一定期間たてば死んでしまうから、前の二つは困った人たちだけれども、いづれ個体としては死んでしまうから、次の世代に期待することも出来る。しかし最後の問題、官僚主義の問題は、「システム」と共にずっと引き継がれていくから、多少のことでは壊すことができない。むしろストレスを受けると焼け太りする。だから、「真っ当な人間」たちが、それぞれの持ち場で、継続的に気を配って排除しなければならない。

 「神経伝達物質とホルモン」項で、自律神経とホルモン系、免疫系の三つが互いに影響しながら我々の体の恒常性を保っていると述べ、「活性酸素」の項で、体の恒常性が、体内に発生し病や老化を齎す活性酸素を抑制・除去する、と述べたけれど、この社会の「システム」の自己増幅は、身体における「活性酸素」の増殖と同じようなものだ。「過剰な財欲と名声欲、そしてそれが作り出すシステムの自己増幅力」の問題は、他人事ではなく、我々自身にいつでも忍び寄ってくる病原として捉えるべきなのかもしれない。そうだとすれば、自律神経とホルモン系、免疫系の三つに相当するのが、理性による過剰な財欲と名声欲のコントロール、複眼主義などによる認知の歪みの修正、そして官僚主義の排除なのではないだろうか。

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posted by 茂木賛 at 11:46 | Permalink | Comment(0) | 公と私論

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