夜間飛行

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現場のビジネス英語“take your time”

2013年02月19日 [ 現場のビジネス英語シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 「糖質と脂質」と「脳腸バランス」の項で紹介した“脳はバカ、腸はかしこい”藤田紘一郎著(三五館)という本は、腸内細菌や腸の働きをよくして健康を維持し、さらに脳の働きを強めようという話だが、「ゆっくり動く」ことで、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスを整えようというのが、“「ゆっくり動く」と人生が変わる”小林弘幸著(PHP文庫)という本だ。カバー裏の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

体を緊張・興奮させる「交感神経」とリラックスさせる「副交感神経」。両者のバランスが崩れるとさまざまな不調・病気を招くが、ストレスだらけの現代人の多くは「交感神経優位」になってしまっている! 本書では、自律神経研究の第一人者として知られる著者が、「副交感神経の働きを高める最も簡単かつ効果的な方法(=歩く、話す、食べるといった日常動作を『ゆっくり』行なうこと)を指南。文庫書き下ろし。

(引用終了)

いろいろな動作をゆっくり行なうと、呼吸が自然とゆっくり深いものに変わり、そのお陰で副交感神経の働きが高まる。だから、交感神経優位になってしまっている現代人にとって「ゆっくり動く」ことが大切になってくる。

 以前「呼吸について」の項でも指摘したことがあるが、呼吸の面白いところは、それが自律神経の支配下にありながら、体壁系の筋肉(肋間筋と横隔膜)によって行なわれることだ。呼吸は、我々が意識的に直接自律神経に働きかけることができる方法なのだ。

 この本に、“take your time”という英語のフレーズが出てくる。“take your time(テイク・ユア・タイム)”というのは、「自分のペースでゆっくりどうぞ」という程の意味である。その部分を引用したい。

(引用開始)

 「テイク・ユア・タイム」と「ドント・ラッシュ」は、じつは私がイギリス留学時代の恩師たちからよくかけてもらっていた言葉です。
 とにかく一日でも早く、イギリスでの仕事に慣れなければならない、そんなふうに思い詰めて、つねにバタバタ焦っていた私に、恩師たちは、それこそ、ゆっくり、穏やかな口調で、「テイク・ユア・タイム」「ドント・ラッシュ」というふたつの言葉を、ことあるごとにかけてくれたのです。
 そうすると、「早く、早く」と焦っていた気持ちが、一瞬でほっとする――。それはまさに、プレッシャーとストレスでギリギリまで追い詰められていた当時の私を救ってくれた魔法の言葉でした。私が、眠る時間もないほどの激務を乗り越え、無事に五年間のイギリス留学を終えることができたのも、そのふたつの言葉があったからこそだと思います。
 自律神経を研究するようになって、このふたつの言葉がいかに人の自律神経のバランスを安定させる金言であるかということがわかりました。
 そして今、仕事の遅い部下や学生たちに、つい「早く、早く」と言いそうになるとき、恩師たちのあの穏やかな口調を思い出し、反省するのです。

(引用終了)
<同書 226−227ページ>

ということで、“take your time”や“don’t rush”、“relax!”といったフレーズは、私もアメリカに住んでいる頃よく耳にした。

 さて、“take your time”といった場合の“time”とは何か。このブログでは、

脳の時間:  t = 0
身体の時間: t = life
都市の時間: t = interest
自然の時間: t = ∞

という四つの時間について書いてきたが、この場合は“your time”、「あなたの時間」ということで、それはこのうちの「身体の時間」だと考えられる。「自分のペースでゆっくりどうぞ」という場合、話者が想定しているのは、“時は金なり”で動く「都市の時間」の何時から何時までということでもなければ、「自然の(悠久の)時間」でもなく、相手の長い寿命(your time)における「一時(いっとき)」のことである。

 それに対して、「早く、早く」と焦るのは、勿論自分の「脳の時間」である。脳の時間はt = 0、すなわち常に「現在進行形」だから、頭だけで考えると「早く、早く」となってしまうわけだ。大事な仕事の前には、副交感神経の働きによって、「身体の時間」をゆっくり感じることが大切なのだ。このことは、“脳はバカ、腸はかしこい”という本における「腸で考える」という話にも繋がる。

 呼吸をゆっくり深くすると、体内に酸素を多く取り込むから、エネルギー生成においても解糖系からミトコンドリア系にシフトしてゆき、持久力を必要とする仕事に向いた体調になる筈だ。伝統工芸の職人さんなど、根気のいる職業の人は、言われなくとも日々「ゆっくり動く」ことを実践しておられるのではないだろうか。

 尚、以前「現場のビジネス英語“sleep on it”」と「現場のビジネス英語“after you”」の二つの項で、小林氏の別の本を紹介したことがある。併せてお読みいただければ嬉しい。また、自律神経については「交感神経と副交感神経」、人のエネルギー生成については「解糖系とミトコンドリア系」の項をそれぞれ参照していただきたい。

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