前回紹介した、藤田紘一郎氏の“脳はバカ、腸はかしこい”という本の第四章「食べ物は脳をだます、腸はだまされない」には、五大栄養素の中の糖質と脂質について、最新の知見が纏められている。少々長くなるが、そのエッセンスの部分を引用したい。
(引用開始)
近年、老化や寿命に関係ある栄養素として、糖と脂質が重要視されてきました。糖や脂質は活性酸素の影響を受けてカルボニル化合物になり、たんぱく質を修飾して「AGEs(糖化最終産物)」を生成し、脂質が修飾を受けて「ALEs(脂質過酸化最終産物)」を生成し、これらが細胞や組織を傷害して老化やさまざまな病気の発症や進展につながっていくと考えられるようになったからです。このようなAGEsができる反応を、「タンパク質の糖化(グリケーション)」と呼んでいます。
生物が呼吸して取り入れている酸素の95%以上は、生体中のミトコンドリア内の電子伝達系で水に分解されます。しかしその3〜5%が中間体として残り、いろいろな活性酸素が生成されます。その活性酸素にはスーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、一重項酸素、脂質ペルオキシドラジカル、次亜塩素酸などがあります。これらの活性酸素は他の物質と反応して安定しようとする性質があり、過剰になると共存するタンパク質や脂質、核酸などを酸化変性させてしまいます。その結果、糖と結合しAGEsに、脂質と結合してALEsになるのです。(中略)
糖質とともに、食事での摂取について注意しなければならないのは脂質です。
ヒトを含めて動物は、長い進化の過程で絶えず飢えの危険にさらされてきました。そのため動物は余分なエネルギーを摂取したときには、それを脂質の形で蓄積し、飢餓の際にそれを利用することによって生き延びる仕組みを獲得しました。しかし皮肉なことにエネルギーの過剰摂取と運動不足が常態化した現代文明社会において、このしくみは肥満の原因となり、さらにはメタボリックシンドロームの要因となってきました。
脂質は常温で固体のものと液体のものとに分かれています。脂質の成分はグリセロール3つの水酸基に脂肪酸がそれぞれエステル結合したものです。脂肪酸には炭素数や二重結合の位置および数の違いによってさまざまな種類があります。二重結合を持たない脂肪酸を飽和脂肪酸といい、二重結合を持つ脂肪酸を不飽和脂肪酸といいます。動物の脂質は飽和脂肪酸が多く、常温では固体です。それに対して植物では不飽和脂肪酸を多く含み融点が低く、多くの場合、常温では液体となります。
飽和脂肪酸はバター、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)などです。不飽和脂肪酸は一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分けられます。一価不飽和脂肪酸にはオレイン酸がありオメガ9といわれています。これにはオリーブ油、キャノーラ油、ひまわり油、ピーナッツ油、パーム油などがあります。また、後者の多価不飽和脂肪酸のうち、リノール酸を含む油をオメガ6といい、コーン油、ごま油、大豆油、くるみ油などがあります。そして、α−リノレン酸やDHA、EPAを含む油をオメガ3といい、亜麻仁油、しそ油、えごま油、イワシやサンマなどの魚の油があります。
このうちオメガ6とオメガ3は必須脂肪酸であり、人の身体では合成できないので、食べ物などから摂取することが必要となります。
いま問題になっているのは、体内で合成できない必須脂肪酸のうち、オメガ6脂肪酸は現代文明社会において摂取量が拡大傾向にあり、オメガ3脂肪酸が減少傾向にあるということです。この二つの脂肪酸の摂取比率のバランスは、どんどんオメガ6脂肪酸に偏っているのが現代人の食生活であるといわれています。(中略)
うつ病が20世紀に入って増加しているのは、オメガ6脂肪酸を多く含む植物油の摂取が増加しているからだと考えられます。
(引用終了)
<同書 184−199ページより(文中の化学記号は省略した)>
いかがだろう。さらに、脂質のなかでも、最近人工的につくられるようになった「トランス脂肪酸」に関する解説は次ぎの通り。
(引用開始)
植物油である多価不飽和脂肪酸は、常温では液体で、酸化しやすい油です。そこで植物油を常温で固形状にし、しかも空気中に安定したものにするにはどうすればよいかが研究された結果、多価不飽和脂肪酸に水素添加するという方法が考えられました。水素添加すると普通の飽和脂肪酸とよく似ていますが、少しいびつな脂肪酸ができあがります。これが「トランス脂肪酸」と呼ばれるものです。
脂肪を研究している科学者たちの間では、油に水素添加することを「オイルをプラスチック化する」と言っています。水素添加によって作り出されるトランス脂肪酸は、プラスチック同様、自然界では分解されない物質で、もちろん自然界には存在しない物質なのです。
私たちの周りには、いつの間にかこのトランス脂肪酸を多く含む食品があふれています。マーガリンをはじめ、ショートニング、フライドポテト、ビスケット、クッキー、クラッカー、パイ、ドーナッツ、ケーキ、シュークリーム、アイスクリーム、菓子パン、クロワッサン、インスタント麺など、若者を中心に多くの日本人が喜んで食べているものばかりです。
しかし、自然界に存在しない人工産物であるトランス脂肪酸が体内に入り込むと、必須脂肪酸としての役割を果たせないため、細胞膜の構造や働きが正常でなくなってしまいます。その結果、体内では活性酸素が生じるようになるのです。そして、摂取したトランス脂肪酸の影響を最も受けるのは、脳ではないかといわれています。それは脳の役60%が脂質でできているためです。(中略)
もっとはっきりしていることは、トランス脂肪酸は動脈硬化などを起こす悪玉コレステロールを増やし、予防効果のある善玉コレステロールを減らします。この結果を受けてWHOは、トランス脂肪酸の摂取量を、総エネルギー摂取量の1%未満とする目標基準を設けるなど、トランス脂肪酸の摂取に関しては、現在欧米を中心として厳しい規制の動きが広がっています。
(引用終了)
<同書 203−206ページより>
以上、糖質と間違った脂質の取りすぎが、健康によくないことがよく分かる。勿論これからも新しい知見がいろいろと出てくるだろう。ここまでのところで、どのような食材を取れば健康に良いかについては、本書や、“糖質革命”櫻本薫・美輪子共著(宝島社)などに詳しい。仕事が忙しい皆さんも、栄養素に関する最新の知見をいろいろと学びながら、健康に充分留意していただきたい。
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