“脳はバカ、腸はかしこい”藤田紘一郎著(三五館)という愉快な本を読んだ。まず新聞の書評から紹介しよう。
(引用開始)
寄生虫学者である著者の体内に4年ぶりに新しい生命が宿った。その名はホマレちゃん。初代サトミちゃんから数えて6代目にあたるサナダムシの幼虫が著者の小腸に着床したのだ。ホマレちゃんは2カ月足らずで10メートル以上に育つ発育ぶりを示した。著者が近年、糖質を制限し悪い油の摂取を避ける健全な食生活を送っているからだ。
著者は寄生虫と共生し、腸内細菌を増やすことで体の免疫力を高め、この腸内環境が「幸せ物質」と呼ばれるドーパミンやセロトニンの前駆体を合成し、脳まで運ぶ重要な役割を果たしていることを、自らの体で実証する。生命の歴史で言えば、腸神経系は40億年前にでき、たかだか5億年前からの脳を支配している。「脳論」の一歩先を行く「腸論」で、恋愛、健康から社会病理まで見事に読み解く。目からうろこの免疫最新情報も満載。三五館・1260円。
(引用終了)
<東京新聞 11/13/2012>
このブログでは、
A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳の働き(大脳新皮質主体の思考)―「公(Public)」
B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体の働き(脳幹・大脳旧皮質主体の思考)―「私(Private)」
という二項対比・双極性を指摘し、二つのバランスの大切さを強調しているが、藤田氏のいう「腸」は、この対比でいうところの「身体の働き」と重なり、「脳」は、「脳の働き」と重なっている。大脳新皮質の働きは、社会を構成し始めた人(ヒト)において著しく発達した。だから脳(大脳新皮質)はそもそも社会のための“公器”なのであって、自分の欲望の充足のためにあるものではない。以前「日本語と社会の同質性」の項で、
(引用開始)
日本語的発想における脳の働きは、どうしても身体の働き(脳幹・大脳旧皮質の思考)に引きずられてしまうので、「公(Public)」の概念をしっかりさせておかないと、生産(他人のための行為)に向かうよりも、消費(自分のための行為)に向かってしまうようだ。
(引用終了)
と書いたけれど、いまの日本人は、脳(大脳新皮質)を自分のためだけに働かせすぎる。そういう今の日本社会を憂う藤田氏は、自分の健康のためには“脳はバカ”だから、「腸」を鍛えなさいと主張しておられるのだと思う。
健康における「腸」の大切さに関する本は、“腸!いい話”伊藤裕著(朝日新書)、“腸脳力”長沼敬憲著(BABジャパン)、“腸は第二の脳”松生恒夫著(河出ブックス)などもある。併せて読むと腸の働きについてさらに理解が深まるだろう。
藤田氏の“脳はバカ、腸はかしこい”の副題には、“腸を鍛えたら、脳がよくなった”とある。上の新聞の書評にもあるように、自分の健康のために「腸」を鍛えると、「脳」の働きもよくなるというわけだ。詳しくは本書をお読みいただきたいが、一部引用してみよう。
(引用開始)
トリプトファンやフェルニアラニンなどのアミノ酸からセロトニンやドーパミンを合成するためには、葉酸やナイアシン、ビタミンB6といったビタミン類が必要です。これらのビタミン類は私たちの体内では合成できません。腸内細菌が作っているのです。腸内細菌がバランスよく、数多く存在しないと、幸せ物質であるセロトニンとやる気物質であるドーパミンが不足し、うつ状態になったりイライラしたりするのです。
(引用終了)
<同書 91−92ページ>
セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質については、以前「仕事の達人」の項でも触れたことがある。「腸」を鍛え、そして「脳」の働きを強め、社会のためにより良い仕事をしようではないか。
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