夜間飛行

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音響空間

2012年08月20日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 先日「密息と倍音」の項で、

(引用開始)

日本列島に音響幅の広い母音言語が育ったのは、倍音(特に非整数次倍音)を多く含む自然・住居環境があったことが寄与していると思われる。西欧では、音がよく反射し、高い方の倍音が吸収されやすい自然・住居環境があったため、子音言語と基音を主体にした音楽が発展した。

(引用終了)

と書いたけれど、日本と西欧の「音響空間」の違いについて、中村明一氏の“倍音”(春秋社)からさらに引用しておきたい。

(引用開始)

 まず、国土の問題として、日本は非常に湿気を多く含んだ自然環境にあります。柔らかい土、草木、落ち葉に覆われ、日本中が響かない空間になっていたのです。音が響かないと、相対的に、高い音、倍音が聞こえてくるようになります。ですから、私たち日本人は、常にそれらの倍音が存在するところに生息していたことになります。
 次に、私たちの住環境を見てみましょう。日本人が伝統的に住んでいた家は、藺草(いぐさ)で編んだ畳、紙の障子や布の襖(ふすま)といった、いわば吸音材に囲まれたようなものでした。外の自然環境がそのまま、家の中に形成されていたといってもよいでしょう。こうして一層、高い音、倍音に敏感になっていったのです。
 これと対比して、西欧の場合を見てみると、家は石や煉瓦でできており、道路も石畳で造られていました。石に覆われているということは、非常に音が響く空間だということです。その音が響く空間で、西欧人は生活していました。
 先に述べた通り、響く空間においては、音が反射します。すると反射のたびに高い方の倍音が吸収されてしまい、それらを聞くことが難しくなります。低い倍音は、並行面により定常波となり増幅されます。それゆえ、西洋においては日本と反対に、基音を主体にした音楽が発展することになるわけです。

(引用終了)
<同書 78−79ページ>

響かない空間だと高い音、倍音がよく聞こえ、響く空間だと、基音がよく聞こえる。それが言語や音楽の違いに寄与しているわけだ。言語については、音響空間の他、歴史や文字の違いなども勿論併せて考えなければならない。それらについては「民族移動と言語との関係」、「音声言語と書字言語」、「二重言語としての日本語」などの項を参照して欲しい。

 さて、中村氏は同書のなかで、「ハイパーソニック・エフェクト」という興味深い研究について紹介している。それによると、可聴域の部分とそれを越える可聴域外の高周波成分が共に鳴っている場合、その高周波成分は、皮膚から脳に伝達されるらしい。皮膚から脳に伝達された高周波は、α波の増加やNK細胞の増加などを促進し、リラックス効果や健康を促進するという。

 皮膚の能力については、このブログでもこれまで「皮膚感覚」や「境界としての皮膚」、「1/f のゆらぎ」の項などで述べてきた。その中で紹介した“皮膚という「脳」”山口創著(東京書籍)という本にも、この「ハイパーソニック・エフェクト」のことが載っている。人(の一生)も“モノ”ではなく“コト”であるから、「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」(略してモノコト・シフト)の時代、人という“コト”の境界面に張り巡らされた「皮膚」について、これからもさらに勉強を続けたい。

 中村氏はまた、コミュニケーションの種類には一方向型、双方向型、同期(シンクロ)型、自己回帰型があり、音楽によるコミュニケーションは、伝わる情報量が多い「同期型」であるという。同期とは、以前「相転位と同期現象」の項でも書いたように、二つのリズムが相互作用して周期が一致し乱れがない状態を指す。中村氏は演奏家と聴衆との関係について、

(引用開始)

 これまでは、演奏家→聴衆という一方的な関係が主に語られてきましたが、同期型コミュニケーションという観点から振り返ると、実は、演奏家と聴衆というのは、同じ音の場に同期しながら存在しているのです。したがって、この両者の関係、聴衆の重要性を、捉えなおす必要があるのではないでしょうか。

(引用終了)
<同書 187ページ>

と書いておられる。モノコト・シフトの時代、音楽を含む「同期型コミュニケーションの場」が増えることは間違いないだろう。

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posted by 茂木賛 at 15:25 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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