夜間飛行

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密息と倍音

2012年08月09日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 先日「呼吸について」の項で、胸式呼吸や腹式呼吸について言及したが、“「密息」で身体が変わる”中村明一著(新潮選書)によると、呼吸法にはこの二つのほかに「密息」という日本古来のやり方があるという。「密息」は、

(引用開始)

 ごく簡単にいえば、腰を落とし(骨盤を後ろに倒し)た姿勢をとり、腹は吸うときも吐くときもやや張り出したまま保ち、どこにも力を入れず、身体を動かすことなく行なう、深い呼吸です。外側の筋肉でなく、深層筋を用い、横隔膜だけを上下することによって行なうこの呼吸法では、一度の呼気量・吸気量が非常に大きくなり、身体は安定性と静かさを保つことができ、精神面では集中力が高まり、同時に自由な開放感を感じます。

(引用終了)
<同書 13ページ>

ということで、身体の安定性を重んじる武術や禅、茶の湯などの日本文化の原点にはこの呼吸法があるという。

 以前「リズムと間」の項で、

(引用開始)

 カナ一文字が最小の音声認識単位であるところの日本語の歌は、「拍」と「間」によって構成される。それに対して、シラブル(子音から子音への一渡り)が最小の音声認識単位であるところの英語の歌は、シラブルを繋ぐものとしての「ビート(脈動)」や「リズム(律動)」によって構成されるということがわかる。(中略)西洋の音楽は、粒子の連続だから「ビート(脈動)」や「リズム(律動)」が重要であり、日本の音楽は、一本の線だから「拍」や「間」による抑揚が大切なのであろう。

(引用終了)

と書いたけれど、日本文化にとって大切な「間」の感覚は、身体に安定性と静かさを齎す「密息」という呼吸法によって、さらに研ぎ澄まされてきたようだ。

 著者の中村明一氏は、日本の伝統楽器である尺八の演奏者である。氏によると、尺八の音楽には、「倍音(特に非整数次倍音)」が多く含まれているという。「倍音」とは何か。中村氏のもう一つの著書“倍音”(春秋社)から引用しよう。

(引用開始)

 音に含まれる成分の中で、周波数の最も小さいものを基音(きおん)、その他のものを「倍音」と、一般的に呼び、楽器などの音の高さを言う場合には、基音の周波数をもって、その音の高さとして表します。(中略)
 倍音の種類は、大きく二つの分けることができます。
 ひとつが、「整数次(せいすうじ)倍音」と呼ばれるものです。基音の振動数に対して整数倍の関係にあります。(中略)
 もうひとつが、「非整数次(ひせいすうじ)倍音」と呼ばれるものです。弦がどこかに触れてビリビリとした音を発することがあります。このように整数倍以外の何かしら不規則な振動により生起する倍音が「非整数次倍音」です。

(引用終了)
<同書 9−12ページ>

ということで、自然界が発する有機的な音には、非整数次倍音が多く混ざっている。

 以前「母音言語と自他認識」の項などで、日本人は母音を左脳で聴くと述べたけれど、中村氏によると、日本人は尺八などの伝統音楽も左脳で聴いているという。

(引用開始)

 音楽、言語、自然の音響について見てみると、西欧人の場合は、言語は左脳、音楽、自然の音響は、右脳。日本人の場合は、言語、音楽(日本の伝統音楽)、自然の音響はすべて左脳でとらえられています。日本人の言語、音楽、音響を結びつけているのは、「非整数次倍音」です。前章でも述べたように、日本の伝統音楽は「非整数次倍音」が出るように改造されている、つまり、より言語に近く、自然の音に近い音響が出るように工夫されています。

(引用終了)
<同書 31ページ>

日本列島に音響幅の広い母音言語が育ったのは、倍音(特に非整数次倍音)を多く含む自然・住居環境があったことが寄与していると思われる。西欧では、音がよく反射し、高い方の倍音が吸収されやすい自然・住居環境があったため、子音言語と基音を主体にした音楽が発展した。

 中村氏は、世界の音楽を基音・倍音構造によって調べ、今後の音楽の方向性について次のように述べる。

(引用開始)

 私たちは、いま、歴史的に大きな転換点に立っています。基音による音組織をもとに大きく発展してきた西洋音楽の発展は終焉を迎え、世界は倍音に重きを置いた音楽にシフトチェンジして行くでしょう。
 言語、音楽、それぞれ個別に発展し、飽和点に達した文化は、境界を越えて、大きな発展を迎えるスタートラインに立ったところです。

(引用終了)
<同書 242ページ>

 倍音豊かな音楽は、録音されたCDなどではなかなか再現することが難しい。以前「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」の項で「ミュージッキング」というコンセプトを紹介し、これからの“モノからコトへ”のパラダイム・シフト(略してモノコト・シフト)の時代においては、音楽もモノ(一方的な鑑賞の対象物)から、コト(あらゆる関係性に開かれたパーフォーマンス)へとその中心が移ってゆくだろうと書いたけれど、基音から倍音に重きを置いた音楽へのシフトチェンジも、モノコト・シフト時代の到来を示しているように思える。

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posted by 茂木賛 at 10:53 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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