夜間飛行

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五欲について

2012年07月09日 [ 公と私論 ]@sanmotegiをフォローする

 これまで「複眼主義とは何か」、「行動の契機」の両項において、複眼主義の考え方について整理してきた。そして、複眼主義には「脳と身体」、「都市と自然」、「生産と消費」という三つの系があり、この三つは互いに関係し合っていることを論じてきた。今回は、応用問題として、五欲(食・睡・排・名声・財)について「複眼主義」に拠って考えてみたい。

 欲望の充足とは、そもそも「自分のための行為」である。従って、五欲は、

I   生産−交感神経優位−理性
II  消費−副交感神経優位−感性

という「生産と消費」の系でいうところのIIの側に属する。そして、複眼主義でいえば、人は自分のために生まれるのではなく、社会のために生まれてくるわけだから、欲望の充足は、Iの「生産」(他人のための行為)の糧となるはずである。

 それでは、五欲(食・睡・排・名声・財)を「脳と身体」の系から見てみよう。するとどういうことが言えるだろうか。五欲における前の三つ(食・睡・排)は、人だけでなく動物にも備わる「自然」な欲望である。従って、

a 脳の働き(大脳新皮質主体の思考)―「公(public)」
b 身体の働き(脳幹・大脳旧皮質主体の思考)―「私(private)」

という「脳と身体」の系でいえばbに属する。

 一方、後の二つ(名声・財)は、大脳新皮質が発達した人間だけに備わる欲望である。従って、「脳と身体」の系でいえばaに属する。

 そもそも後者(名声・財)は、前者(食・睡・排)の身体的欲望を、人の脳が肥大化させたものである。人は、大脳新皮質を進化させて、道具を作り、計画を練り、通貨を発明し、前者(食・睡・排)の欲望をより効果的に満たす方法をいろいろと編み出してきた。その過程で生まれたのが後者(名声・財)なのである。

 前者(食・睡・排)は、人や動物を問わず須らく身体時間(t = life)に従って自然に生起・消滅する。しかし、人が大脳新皮質を進化させて獲得した後者(名声・財)は、人の脳の時間(t = 0)によってのみ制御されるので、理性を用いて意識的に抑えないと、果てし無く増殖する性質を帯びている(脳の時間については「アフォーダンスについて」の項を参照のこと)。

 「生産と消費」の系でみたように、本来「理性」は主に生産(他人のための行為)に用いられる。だから人は理性を用いて後者(名声欲と財欲)の無限増殖を抑えなければならない。しかし理性を欲望の抑制に使わず、その充足方向にのみ使っていると、後者(名声・財)は無限に増殖し、やがて人は脳と身体とのバランスを欠いた状態に陥ってしまう。

 「水の力」の項で紹介した“脳の方程式+α ぷらす・あるふぁ”中田力著(紀伊国屋書店)によると、ヒトとは本来、「理性を持ち、感情を抑え、他人を敬い、優しさを持った、責任感のある、決断力に富んだ、思考能力を持つ哺乳類」(同書113ページ)であるという。しかし、理性を欲望充足にのみ用いていると、名声欲と財欲とが果てし無く増殖し、ヒトは「他人を蹴落とそうとする、悪知恵に長けた、責任感の無い哺乳類」となってしまうのである。

 「都市と自然」という二項対比は、「脳と身体」の集合であるから、「他人を蹴落とそうとする、悪知恵に長けた、責任感の無い哺乳類」が多く住む社会は、「他人を蹴落とそうとする、悪知恵に長けた、責任感の無い社会」となる。

 脳は、身体的欲望を肥大させて名声欲と財欲とを生み出し、同時に、金利という都市の時間(t = interest)を編み出した。「理性を持ち、感情を抑え、他人を敬い、優しさを持った、責任感のある、決断力に富んだ、思考能力を持つ哺乳類」が多く住む社会においては、都市の時間(t = interest)は効率の良い秩序を生み出すだろう。しかし、「他人を蹴落とそうとする、悪知恵に長けた、責任感の無い哺乳類」が多い社会では、富の偏在が加速し、秩序が乱れ、やがて全体の活力が衰えていくだろう。だから名声欲と財欲の二つからなる「greed(貪欲)」は、「都市」の宿痾と言われるのである。

 脳と身体とのバランスが崩れていると、生産と消費のバランスも乱れてくる。「他人を蹴落とそうとする、悪知恵に長けた、責任感の無い哺乳類」が多い社会では、生産性が低下する。名声欲と財欲とに訴える消費財(商品)が増え、生産の多様性も失われる。こうして、生産と消費の面からも、名声欲と財欲の増殖は社会の活力を衰えさせる。

 以上、五欲について、複眼主義に拠って考えてきたが、この「名声欲と財欲の無限増殖」と同じような話を、どこかで聞いたことがあるのではないだろうか。そう、癌細胞の増殖だ。成長や活力を生むための細胞分裂が、健康のバランスを欠いたために、そのまま止まらなくなる。癌細胞の増殖が止まらないと個体はやがて死に至る。名声欲と財欲の無限増殖によって、癌の増殖と同じようなことが、脳と身体、都市と自然、生産と消費の各系で起こるわけだ。

 さて、この「他人を蹴落とそうとする、悪知恵に長けた、責任感の無い哺乳類」が多い社会とは、戦後の高度成長とその後のバブル経済を引きずった今の日本社会の姿と重って見えないだろうか。複眼主義によって、「脳と身体」、「都市と自然」、「生産と消費」のメカニズムを理解し、これからの社会をより豊かなものにしていこうではないか。

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posted by 茂木賛 at 09:23 | Permalink | Comment(0) | 公と私論

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