夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


1969年

2012年04月10日 [ アート&レジャー ]@sanmotegiをフォローする

 先回、寅さんの映画シリーズの始まりが1969年ということで、当時のことをいろいろと想い出した。考えてみれば、いまの若い人は1969年という年をリアルタイムで知らないわけだ。私は1969年のとき18歳だったから、当時のことは今でもよく覚えている。

 1969年は、1月に東大安田講堂陥落、5月に東名高速道路が全線開通している。映画「男はつらいよ」の封切はこの年の8月27日、第二作目「続・男はつらいよ」は同じ年の11月15日である。当時のことを、“『男はつらいよ』の世界”吉村英夫著(集英社文庫)から引用しよう。

(引用開始)

 要するに、人間性を置き去りにした「高度成長」下、社会的矛盾がいやおうなく激化する時代を迎えている。むろんバブルがその彼方ではじけてしまうなど思いもよらぬ時点に、時代錯誤の落ちこぼれとでもいうべき「姓は車、名は寅次郎」のフーテンが、四角いトランクをぶら下げた雪駄ばきで、下総の国から矢切の渡しを船に乗って、混沌のるつぼ東京は江戸川べりの葛飾柴又に戻ってきたのである。
 放蕩児寅次郎の二十年ぶりの故郷への帰還である。何かが起こらないわけがない。

(引用終了)
<同書 21ページより(フリガナは省略)>

ということで、そのあと26年間も生き長らえる時代のアンチ・ヒーローは、1969年という高度成長後半期にひょっこりと登場したわけだ。

 当時私は高校三年生、世界のことなど何も知らないくせに、受験勉強の振りをしながら吉本隆明の“共同幻想論”(河出書房)などを読む、生意気盛りの若者だった。その夏封切られた寅さんの映画を私は観に行かなかった。寅さんの映画などダサいと思っていたのだろう。

 1969年といえば、去年、由紀さおり&ピンク・マリティーニによる“1969”というアルバムが発売された。佐藤利明氏(オトナの歌謡曲/娯楽映画研究家)の解説には、

(引用開始)

 1969年という年は、由紀さおりが「夜明けのスキャット」でデビューを果たしただけでなく、日本の、そして世界の音楽シーン、ポップカルチャー、政治、モラル、あらゆるコトやモノが大きく変革を遂げた年でもある。その1969年に日本でラジオから流れていた歌をセレクトして、「1969」というタイトルのアルバム企画が進んでいくなかで、由紀さおりはスタッフとともに10数曲を選曲、アレンジとプロデュースをPink Martiniに依頼することとなった。こうして両者の本格的なコラボレーションが実現に近づいた。

(引用終了)
<「1969」CDアルバムの解説より>

とある。ちなみに、Pink Martini編曲による「夜明けのスキャット」はとても佳い出来だと思う。

 思えば、1960年代というのは面白い時代だった。戦後の日本の高度成長は、復興期(1946年−54年)、前半期(55年−65年)、後半期(66年−75年)に分けられるが、1960年代は、その前半期半ばから、後半期の半ばまでに相当する。和暦でいえば昭和35年から44年である。

 東京タワーの完成が1958年、東京オリンピックの開幕が1964年、ザ・ビートルズの来日は1966年だ。世界的に見ると、ケネディ大統領の暗殺が1963年、ビートルズのアメリカ上陸1964年、ベトナムでアメリカの北爆が始まったのが1965年である。時代のパラダイムは、まさに「大量生産・輸送・消費システム」が中心だった。ベトナムでアメリカが敗北したのは、下って1975年のことである。

 1969年が終わり1970年に入ると、3月に万国博覧会が開会し、11月に三島由紀夫(ペンネーム平岡公威)が割腹自殺する。寅さんの映画は、第三作「男はつらいよ フーテンの寅」が1970年1月15日、第四作目「新・男はつらいよ」が同年2月27日、第五作目「男はつらいよ 望郷篇」が同年の8月26日、と立て続けに封切られている。三島由紀夫については以前「平岡公威の冒険」の項で書いたけれど、死に急ぐ晩年、彼はこの遠い将来のヒーロー寅さんを映画館で観る余裕があっただろうか。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 10:07 | Permalink | Comment(0) | アート&レジャー

この記事へのコメント

コメントを書く

お名前(必須)

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント(必須)

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

夜間飛行について

運営者茂木賛の写真
スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)主宰の茂木賛です。世の中には間違った常識がいっぱい転がっています。「夜間飛行」は、私が本当だと思うことを世の常識にとらわれずに書いていきます。共感していただけることなどありましたら、どうぞお気軽にコメントをお寄せください。

Facebookページ:SMR
Twitter:@sanmotegi


アーカイブ

スモールビジネス・サポートセンターのバナー

スモールビジネス・サポートセンター

スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)は、茂木賛が主宰する、自分の力でスモールビジネスを立ち上げたい人の為の支援サービスです。

茂木賛の小説

僕のH2O

大学生の勉が始めた「まだ名前のついていないこと」って何?

Kindleストア
パブーストア

茂木賛の世界

茂木賛が代表取締役を務めるサンモテギ・リサーチ・インク(通称SMR)が提供する電子書籍コンテンツ・サイト(無償)。
茂木賛が自ら書き下ろす「オリジナル作品集」、古今東西の優れた短編小説を掲載する「短編小説館」、の二つから構成されています。

サンモテギ・リサーチ・インク

Copyright © San Motegi Research Inc. All rights reserved.
Powered by さくらのブログ