先日「日本のモノづくり」の項で、
(引用開始)
モノづくりの本質は、絶え間のないProcess Technologyの改善である。以前「日本の生産技術の質が高い理由」の項で、日本語が母音語であることと、それに伴って起こる「自他認識」の希薄性が、「話し手の意識を環境と一体化させる傾向」を生み、それが自然や組織ばかりではなく機械などの無機的環境に対しても働くことを論じたけれど、日本のモノづくりの質の高さは、この「日本語の特質」に由るところが大きいと思う。
このブログでは、安定成長時代の産業システムとして、多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術の四つを挙げているが、これらの中心に「日本のモノづくり」があるのは間違いないだろう。
(引用終了)
と書いたけれど、「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」のなかで、これからの日本のモノづくりはどうあるべきなのだろうか。今回はこのことについて考えてみたい。
日本のこれからのモノづくりにとって第一に大切なのは、それが、「多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術」という四つの安定成長時代の産業システムに何らかの形で関わっていることであろう。実態として、大量生産・輸送・消費システムによる製造が日本からまったく消えることはありえないだろうし、そうなるべきだと主張しているわけではないが、これからの日本のモノづくりは、安定成長時代の産業システムと親和性を持つ方向にシフトしていくべきだと思う。
多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術にリンクしたモノは、「コト」を生み出す力が強い。「コト」は必ず地域(固有の時空間)で起こる。多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環の三つは、高度成長時代の大量生産・輸送・消費システムよりも地域密着型だから、「コト」を起こす力がより強いのだ。「“モノからコトまで”のリードタイムが短い」と言い換えても良いかもしれない。また、新技術(や新素材)は、旧技術よりも新しい「コト」を起こす力が強い。小惑星探査機「はやぶさ」が引き起こした新しい「コト」の数々は我々の記憶に新しいところだ。
日本のこれからのモノづくりにとって第二に必要なのは、できるだけ「コト」が起こりやすいモノづくりを心掛けることであろう。「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」の項の最後に、
(引用開始)
そしてまた、「モノ」であっても、自分が気に入った「モノ」をよくよく観察していれば、やがて、それが作られたときの「時間と空間」が解けて見えてくるかもしれないということでもある。
(引用終了)
と書いたけれど、伝統工芸品や手作り品の良いモノは、それが作られたときの「時間と空間」が後ろに揺曳してみえる。優れたブランド品は、ブランド固有の物語がそのモノの内に秘められている。絵画の傑作は、描かれた光景がいまにも動き出しそうに見える。
“営業部は今日で解散します。”村尾降介著(大和書房)という本には、自社製品の持つ物語(コト)をいかに顧客に伝えるか、というアイデアの数々が書かれている。「覚えられるネーミング」「写真に取りたくなる仕掛け」「お客さまにビジネスに参加してもらう」「人が覚えられるコピーは15文字以内」「意外な推薦人をつくる」などなど。本のサブタイトルには“「伝える力」のアイデア帳”とある。一読をお勧めしたい。
以上、これからのモノづくりにとって大切なポイントを纏めると、
A 安定成長時代の産業システムに何らかの形で関わっていること
B できるだけ「コト」が起こりやすいモノづくりを心掛けること
となる。さて、これを踏まえて、改めて「日本のモノづくり」の項で取り上げた“奇跡のモノづくり”江上剛著(幻冬舎)に紹介された8つのモノづくり:
1. 本間ゴルフ・酒田工場(ゴルフクラブ製造)
2. メルシャン・八代工場(焼酎づくり)
3. 山崎研磨工場・燕市(タンブラーなどの研磨)
4. コニカミノルタ・豊川工場(プラネタリウム製造)
5. クレラ・新潟事業所(新素材開発)
6. キッコーマン・野田工場(醤油の国際化)
7. 宮の華・宮古島(琉球泡盛づくり)
8. 波照間製糖・波照間島/シートーヤー・宮古島(黒糖づくり)
を見てみると、どれもAに関わり、Bに対応していることがわかる。これは偶然ではないと思う。そして重要なことは、これらの企業は決して売り上げ規模のみを追求していない。このブログでは、「安定成長時代の産業システムを牽引するのは、フレキシブルで、判断が早く、地域に密着したスモールビジネス」であると主張してきたが、これからは「モノづくり」においても、地域に密着した理念あるスモールビジネスの出番なのではないだろうか。中小規模の「モノづくり」については、「中小製造業」の項も参照していただきたい。
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