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現場のビジネス英語“after you”

2012年02月21日 [ 現場のビジネス英語シリーズ ]@sanmotegiをフォローする

 前回、“sleep on it”の効用根拠の一つとして自律神経の日内変動リズムに言及し、“なぜ、「これ」は健康にいいのか?”小林弘幸著(サンマーク出版)から関連する部分を引用したけれど、この本には、役立ちそうな英語が後半に一つ紹介されている。それが“after you”というフレーズである。今回はこの英語についてその効用を考えてみたい。

 “after you”というのは「お先にどうぞ」という意味で、著者で順天堂大学教授の小林氏は、ロンドンの病院で働いていたときによくこのフレーズを聞いたという。まずその部分を同書から引用しよう。

(引用開始)

 日本人は、外国の人たちから勤勉な民族とよくいわれます。
 「勤勉」という言葉は日本人にとってはある種のほめ言葉なので嫌な気はしませんが、これは視点を変えると「余裕に欠ける」といえないこともありません。(中略)
 日本人はみな、いつも大急ぎで歩いています。駅ではエスカレーターを急ぎ足で上がり、一台でも早い電車に乗ろうと駆け込みます。ドアにさしかかってもまわりを見る余裕のある人はいません。みんなまわりを見ることなく、一分一秒を争うかのように急いで歩いていきます。
 こんな交感神経ばかりを刺激する生活をしていたのでは、自律神経のバランスはいつまでたってもよくなるはずがありません。
 そこで私が日本人であるみなさんにとくに提案したいのが、心に余裕をもたらす魔法の言葉を、出来るだけ多く日常生活のなかで、使っていただくことです。
 その魔法の言葉は、イギリス生活のなかで、もっとも強く私の印象に残った言葉、「アフターユー(After you.)」です。
 これは日本語にすると「お先にどうぞ」という意味の言葉です。
 日本でも「お先にどうぞ」と道を譲られることがないわけではありませんが、イギリスでは日本人からは想像がつかないほど、さまざまなシーンでこの言葉がとてもよく使われています。
 たとえば、ドアにさしかかったとき、人が歩いているのが見えたら、イギリスでは誰もがドアを開けてその人を待っていてくれます。そしてにっこり笑って「アフィターユー」といってくれるのです。
 日本にはない習慣なので最初は戸惑いましたが、「アフターユー」と笑顔でいわれたとき、とても幸せな気持ちになりました。
 なぜ幸せな気持ちになったのか、当時はわかりませんでしたが、いまの私にはわかります。「アフターユー」ということばにともなう行動と笑顔に接することで、私自身の副交感神経が上がったからだったのです。(中略)
「アフターユー」という言葉は、心に余裕がなければ使えません。相手のために待ったり、先を譲ったりするには、心に余裕が必要だからです。心に余裕があるとき、その人は幸せです。(中略)
 もし、潜在能力の高い日本人が、この「アフターユー」の精神を身につけることができたら――、日本人は間違いなく大きく変わると思います。

(引用終了)
<同書 203−206ページ>

ということで、“after you”の効用は、交感神経優位に傾きがちな日常生活のなかで、副交感神経を上げて自律神経のバランスを回復させることにあるというわけだ。

 “after you”の効用はこれに止まらないと思う。それはいわゆる「公の精神」との関係である。どういうことか説明してみよう。

 以前「現場のビジネス英語“会議にて”」の項で、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳の働き−「公(public)」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体の働き−「私(private)」

という対比に言及したが、英語はそもそも「公(public)」の表現に強い言語である。

 駅や歩道やエレベーターの中など公共の場で多く使われる“after you”というフレーズは、“you”と“I”という主格同士が、互いの身体性に配慮した上で(権利を)譲り合うときの表現であり、脳(大脳新皮質)は、公共の場で相手から表明されたその「公の精神」に満足する。

 “after you”のもう一つの効用は、公の場で、脳が相手の「公の精神」を確認できるということなのである。

 正確にいえば、“after you”と「お先にどうぞ」とは意味が違う。日本語の「お先にどうぞ」という言葉は、その場(環境)における自分と相手との身体的位置関係(後先)を示すに過ぎないのに対して、英語の“after you”という言葉には、“you”と“I”という主格同士の関係において、“(I will go)after you”という明確な自己の意思(will)が表明されている。この英語的発想と日本語的発想の違いはとても大きい。その対比については、カテゴリ「公と私論」や、カテゴリ「言葉について」などの項をさらに参照していただきたい。

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