夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


“選手”という呼び方

2011年12月06日 [ 言葉について ]@sanmotegiをフォローする

 先日「日本のモノづくり」の項で、日本のモノづくりの質が高いのは、日本語が母音語であることと、それに伴って起こる「自他認識」の希薄性が「話し手の意識を環境と一体化させる傾向」を生み、それが自然や組織ばかりではなく機械などの無機的環境に対しても働くという「日本語の特質」に由るところが大きいと述べたけれど、この特質は一方において、「自分の属する組織を盲目的に守る力」ともなり、悪くすると機能組織が破綻していても「組織内の秩序を乱さないように努力する力」にまで墜することがある。

 日本語が母音語であることとそれに伴って起こる「自他認識」の希薄性のメカニズムについては、「母音言語と自他認識」の項を参照して欲しい。複雑だが興味深いプロセスだ。

 「相手にあわせる」「迷惑をかけない」「空気を読む」「派閥をつくる」「敬語の使用」「上座と下座」「先輩と後輩」「お辞儀」などといった「出来るだけ周囲に波風を立てないための気配り」は確かに日本独特のものである。以前「上座と下座」の項で、日本にはエレベーターの中にも上座と下座があるらしいと述べたけれど、我々は日常生活の上で常に周囲への気配りを強いられる。

 このことに関連して、先日、新聞のコラムに面白い話が載っていたので紹介しよう。

(引用開始)

後輩の呼び方

 たとえ無名の役者であっても「さん」付け、「君」付けで呼ぶことを心掛けている。呼び捨てにした相手が突然出世し、その時になって「さん」付けで呼ぶのは、ばつが悪いからだ。
 一つの仕事がキッカケで、スターになる芸能界。死体役のA君が、数年後、主役になっていることも珍しくない。
 こうした例は何もタレントだけじゃない。
 僕の放送作家の先輩は、駆け出しの作家を「おい、おまえ」と呼び、そこそこ売れてくると、「○○」と呼び捨てにする。そして、その作家が番組のチーフを担うくらい出世すると、「○○選手」と呼ぶようになる。
 なぜ「選手」なのか?明確な理由は本人に聞かないとわからないが、自分の威厳を保ちつつ、相手への尊敬の念を表すのに、きっとバランスが良い呼び方なのだろう。先輩にとって出世する後輩の扱いは難しい。
 先日、前人未到の三百セーブを達成した中日ドラゴンズの岩瀬仁紀投手は僕の大学の後輩だ。
 プロ野球選手になる前、都市対抗野球で東京に来た際、彼に寿司をおごったことがある。
 「気合入れて頑張れよ」
 先輩面して声を掛けた自分が今ではとても恥ずかしい。
 ちなみに日本を代表する大投手を、僕は何て呼ぶのか?
 「岩瀬選手」である。

(引用終了)
<東京新聞 9/14/2011>

コラムの著者は水野宗徳という放送作家さんで、業界の慣例を正直に面白く書いておられるが、みなさんの所属する組織や業界でも似たような話があるのではないだろうか。

 日本では、機能組織(ゲゼルシャフト)においても、「先輩と後輩」の関係が精神的に維持される。だから、後輩が先輩より偉くなると、組織的には序列が逆転するということで、両者に精神的葛藤が生まれる。とくに先輩の方にその葛藤は強いはずだ。“選手”という絶妙な呼び方が出現するのはそういう理由なのだろう。これも「出来るだけ周囲に波風を立てないための気配り」の典型的な表出形態なのである。しかしこのような「気配り」は、仕事の出来不出来とは関係がない。むしろこういった感情が地下に潜ると、不要ないじめの温床になりかねない。

 日本語の「話し手の意識を環境と一体化させる傾向」は、一方で「日本のモノづくり」の素晴らしさを生むけれど、内向すると「出来るだけ周囲に波風を立てないための気配り」となり、それが地下に潜ると不要ないじめや仕事のサボタージュを生みかねない。「日本のモノづくり」の素晴らしさは、同時にこのような弊害も抱え込んでいることを頭に入れてにおいたほうが良いだろう。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 11:42 | Permalink | Comment(2) | 言葉について

この記事へのコメント

中国で日本語教育をしている者です。
大変勉強になりました。
文章の中で言及された西原鈴子先生の東京新聞連載記事「外から見た日本語」について探してみましたが連載の8と9しか見つかりませんでした。もし連載のすべての内容保存していらっしゃるならメールいただければ大変助かります。
これからも注目しております。
Posted by ミカ at 2012年06月29日 02:39
ミカさま、

コメント有難う御座います。

日本語の特徴は、外から見るとよりはっきり分かりますね。

ご所望の新聞記事、切抜きがありましたので、デジタルスキャンの上、先程別途いただいたメールアドレスにお送りしました。

これからも中国での日本語教育現場のお話などお寄せ下さい!

茂木
7/2/2012
Posted by 茂木 at 2012年07月02日 09:34

コメントを書く

お名前(必須)

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント(必須)

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

夜間飛行について

運営者茂木賛の写真
スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)主宰の茂木賛です。世の中には間違った常識がいっぱい転がっています。「夜間飛行」は、私が本当だと思うことを世の常識にとらわれずに書いていきます。共感していただけることなどありましたら、どうぞお気軽にコメントをお寄せください。

Facebookページ:SMR
Twitter:@sanmotegi


アーカイブ

スモールビジネス・サポートセンターのバナー

スモールビジネス・サポートセンター

スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)は、茂木賛が主宰する、自分の力でスモールビジネスを立ち上げたい人の為の支援サービスです。

茂木賛の小説

僕のH2O

大学生の勉が始めた「まだ名前のついていないこと」って何?

Kindleストア
パブーストア

茂木賛の世界

茂木賛が代表取締役を務めるサンモテギ・リサーチ・インク(通称SMR)が提供する電子書籍コンテンツ・サイト(無償)。
茂木賛が自ら書き下ろす「オリジナル作品集」、古今東西の優れた短編小説を掲載する「短編小説館」、の二つから構成されています。

サンモテギ・リサーチ・インク

Copyright © San Motegi Research Inc. All rights reserved.
Powered by さくらのブログ