前回の「仕事の達人」に続いて、今回は仕事へのモチベーションをどうキープするかについて書いてみたい。勿論前回みた脳内物質のコントロールや起業家精神をもって進めば、モチベーションは保たれる筈ではあるけれど、そこは人間、仕事以外でいろいろと悩むことも多い。
“ポジティブな人だけがうまくいく 3:1の法則”バーバラ・フレドリクソン著(日本実業出版社)という本は、人の心理状態をポジティブ(自己肯定的な心の状態)とネガティブ(自己否定的な心の状態)とに分け、モチベーションに関連してこの二つの比率に注目している。
著者はアメリカの心理学者だが、様々な実験によって、ポジティブ比率がある点(転換点)を越えると、ポジティブ・フィードバックが掛かってその比率がさらに上昇することを確かめたという。逆に転換点を下回ると、人はネガティブ・スパイラルに陥ってしまうという。本のタイトルからも分る通り、その転換点の比率は、3:1(ポジティブ3:ネガティブ1)以上ということである。
たしかに自己否定的な心理状態は人を落ち込ませる。なにごとも常に前向きに考えることは大切だ。ここで著者のいう「10のポジティブ感情」を挙げておこう。
1. 喜び(Joy)
2. 感謝(Gratitude)
3. 安らぎ(Serenity)
4. 興味(Interest)
5. 希望(Hope)
6. 誇り(Pride)
7. 愉快(Amusement)
8. 鼓舞(Inspiration)
9. 畏敬(Awe)
10. 愛(Love)
ということで、どれも自己肯定的な心理状態である。
以前「モチベーションの分布」や「興味の横展開」で述べたように、個人のモチベーションは必ずしも会社の目標と合致するわけではないけれど、生きていく上でこれらのポジティブ感情を増やすことができれば、人生の目標を支える日々の仕事についても、前向きに取り組むことができるだろう。
ところで、この本には3:1の比率の分析に関して、「バタフライ効果」の話が出てくる。その部分を引用したい。
(引用開始)
ロサダの方程式は、マネジメントチームの行動がひとつの複雑系―――具体的にいうと、非線形動的システム―――を反映していることを示しています。非線形動的システムの顕著な特徴は、よく「バタフライ効果」という言葉で呼ばれます。些細に見えるインプット(たとえば、ある地域でチョウチョが羽をばたつかせること)が、のちに他所でそれと比較にならない大きな結果につながる、というような意味です。
確かにポジティビティは「バタフライ効果」なのかもしれません。チョウチョの羽のばたつきのように、かすかなポジティビティが驚くほど大きな結果につながるからです。
(引用終了)
<同書178−179ページ>
ここでいうロサダの方程式とは「チーム行動の数学的モデリング」から導かれたチーム連結性を示す数式のことで、著者の「拡張―形成理論」と多くの点で整合するという。詳しくは本書をお読みいただきたいが、ある転換点を超えると、ポジティビティの拡張(上昇スパイラル)が起こるというのが「拡張―形成理論」であり、ロサダの方程式などと共にこの理論が「3:1の法則」のベースとなっている。
バタフライ効果とは、気象学でよく使われるTermである。「仕事の達人」の項で挙げた脳内物質(神経伝達物質)のコントロールを仕事術への免疫学(生物学)的アプローチとすれば、このポジティブ比率の考え方は、いわば気象学的(物理学的)アプローチと云ってもよいかもしれない。
以前「気象学について」の項で、免疫学と気象学への共通興味として「社会科学への応用」を挙げたけれど、免疫というミクロコスモスと気象というマクロコスモスの両面から中間のメゾコスモスを分析するというアプローチは、社会分析だけでなく、「仕事の達人」への道にも応用できるようだ。
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