夜間飛行

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1/f のゆらぎ

2011年08月16日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 自然界には「1/f のゆらぎ」(もしくは「1/f ゆらぎ」)と呼ばれる興味深い現象がある。“宇宙の不思議”佐治晴夫著(PHP文庫)から引用しよう。佐治氏は、時間や空間の中の場所が変わっていくにつれて、ある物理的な性質や状態が変化していく様子を表す「ゆらぎ」について、「フーリエ変換」や「スペクトル分解」などの分析方法を説明した後、

(引用開始)

 さて、宇宙から生体まで、一般の自然現象の中に見られる「ゆらぎ」をこのような方法で調べてみると、それぞれの成分波の強さが、その波の振動数に反比例している場合が多く見受けられます。ここで振動数をf で表せば(振動数の英語frequencyの頭文字ですね)、この性質は、成分波の強さが1/f に比例するということですからこれらを「1/f ゆらぎ」とよんでいます。

(引用終了)
<同書60ページ>

と解説しておられる。この「1/f ゆらぎ」の特徴は、振幅が小さいほど振動数が多く、振幅が大きいほど振動数が少ないというもので、星の瞬きからそよ風、心臓の鼓動や脳のα波に至るまで、心地よく感ぜられる自然現象に多く見られるという。

 以前「境界としての皮膚」の項で紹介した“皮膚という「脳」”山口創著(東京書籍)によると、皮膚を優しくなでるとこの「1/f のゆらぎ」振動が発生し、なでられた人は心地よく感じるという。このゆらぎ振動はどのように脳に伝わるのか。

(引用開始)

 それでは「1/f ゆらぎ」の振動は、どのようにして脳に届いているだろうか。
 ひとつの可能性は、皮膚にある4種類の感覚受容器がなでられた皮膚の振動を知覚して、それが電気的信号に変換されて神経を伝って脳へ届き、「1/f ゆらぎ」を感知して心地よさを感じるということになる。もちろん、この可能性を否定するのでは無いが、ここでは別の可能性を提案したい。
 それは、なでられた皮膚の振動が皮膚上を伝って頭部まで届き、それが脳に伝わっている可能性である。
 なぜならこの仮説は、ゾウリムシが外部からの皮膚(細胞膜)への刺激によってカルシウム振動を起こしていること、さらには隣接する細胞へ伝達している状況と極めて類似するからである。私がこの仮説にこだわるのは、第2章で述べた、可聴帯閾外の高周波音が皮膚の振動として脳に伝わっている可能性ともリンクしている。

(引用終了)
<同書131−133ページ。強調傍点は省く>

 以前「皮膚感覚」の項で、皮膚に関する興味視点を三つに纏め、その二つ目に体表と経絡ネットワークを挙げた。以下再度引用しよう。

(引用開始)

 二つは、体表と経絡ネットワークについてである。傳田氏は、自らの体験なども踏まえて、体表(表皮)そのものに、神経系・循環器系とは別の「経絡ネットワーク」とでもいうべき情報経路が存在するのではないか、と推察されている。以前「脳について」のなかで、脳内の情報伝達の仕組みについて、ニューロン・ネットワークの他にもう一つ高電子密度層があり、その仕組みが人の「内因性の賦活」を支えているという説に言及したけれど、体表そのものに神経系・循環器系とは別の情報経路が存在するという説は、人の脳と身体を考える上で大変興味深い。

(引用終了)

皮膚上の「1/f のゆらぎ」振動は、この経絡ネットワークを伝って頭部まで届いているのだろうか。

 「1/f のゆらぎ」のもう一つの特徴は、部分の中に全体が、全体の中に部分が含まれているような性質である。“宇宙の不思議”(PHP文庫)から再び引用しよう。

(引用開始)

 またあとで、あらためてふれたいと思いますが、私たちをとりまくこの自然界は、部分の中に全体が、また逆に考えれば、全体の中に部分がそのままふくまれている性質が内在しているようです。それは、いうなれば、ひとつの人形の中に、小さいけれども同じ形をした人形がつぎつぎにはいっているロシアの有名な民芸品マトリョーシカに見られるような「入れ子構造」とでもいえるような性質です。
 このような性質を数学の世界では「フラクタル」といっていますが、前にお話しした「1/f ゆらぎ」も、変動の様子を詳しく調べると全体と部分の変動が、きわめて似た形をしていて、「フラクタル」の代表例であると考えられているのです。

(引用終了)
<同書99ページ>

「1/f のゆらぎ」は「ベキ法則」(もしくは「ベキ則」)の一種である。ベキ法則については、以前「ハブ(Hub)の役割」や「リーダーの役割」の項で、平均値や分散値が捉えられないスケールフリー・ネットワークとして説明したが、このスケールフリー・ネットワークも、特徴的なスケールを持たないという点で実はフラクタル的現象の一つである。

 そしてこの「フラクタル」性に注目すると、その先には、コッホ曲線、マンデルブロー集合、カントール集合、ブラウン曲線、DLA(Diffusion-Limited Aggrigation)、等角らせんなどといった多くの非線形科学現象が姿をあらわす。さらに、等角らせんはフィボナッチ数列を介して黄金比の話に繋がっている。

 心地よさの本質、皮膚振動の脳への伝達経路、フラクタル性などなど、「1/f のゆらぎ」とその関連現象への興味は尽きない。

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posted by 茂木賛 at 10:54 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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