以前「街の魅力」の項などでその著書を紹介した井形慶子さんの新著“よみがえれ!老朽家屋”(新潮社)を読む。前回は老朽マンションのリフォームだったけれど、今度は同じ吉祥寺にある一戸建てのリフォームだ。本の帯の紹介文を引用しよう。
(引用開始)
私たちは「家は高い」という呪縛からどうすれば開放されるのだろう?
家づくりは料理やガーデニングと同じ、特殊なものではないと説く著者が、東京・吉祥寺の人気商店街にほど近い15坪の古家付き売り地を購入して、「取り壊しが前提」と言われた築31年の建て売り住宅を見事の再生――。
そんな実践体験をもとに、この国の住宅文化のあり方を問い返す。
(引用終了)
前回紹介した“老朽マンションの奇跡”同様、この本も、
1. リフォームが予定内にうまくいくかどうかという、ドキュメンタリー的な面白さ。
2. 経営者としての社員に対する気持ち。組織の適正規模や人を大切にするマネジメントの重要性。
3. 最近の住宅事情や、リフォームに関する実務的な知識。
4. 著者の住宅に対する並々ならぬ好奇心と、イギリス人的生き方への共感。
5. 著者の吉祥寺という街に対する愛着。
という五つの「層」に支えられており気持ちよく読める。特に、これから自宅をリフォームしようと考えている人にとっては、とても参考になる内容だと思う。
さて、井形さんはこの吉祥寺の一戸建ての前に、ロンドン・ハムステッドにフラットを購入している。その時の様子は“突撃!ロンドンに家を買う”井形慶子著(講談社)という本になっている。
(引用開始)
飛ぶように売れていく古家!
世界一住宅が高い!階級社会!のロンドンで、むらがる世界の投資家よりも先に「掘り出し物」を探せ!
英国で知った理想の家を買う技術
イギリスを描く著者が生涯の夢をかけて突入したノンフィクションの決定版!
(引用終了)
<本の帯の紹介文より>
ということで、いくら仕事(雑誌の編集)に関わりがあるとは云え、
2008年 吉祥寺・フラット
2009年 ロンドン・フラット
2010年 吉祥寺・一戸建て
と家を三軒も立て続けに(しかも可能な限りの廉価で)買ってしまうとは、いやはや、改めて井形さんの行動力に脱帽する。
ロンドンの家の購入は投資目的というよりも、プライベート(イギリスの骨董品や小物の収集)と、社員の出張宿泊用らしい。そういうえば、吉祥寺のフラットは、若手社員の住居兼、会社の広報用とのことだった。そして、今度の一戸建ては、ロンドンで仕入れた骨董品や小物を売るための店舗を兼ねた老後のプライベートスペースということだから、彼女の家づくりの情熱は、全て仕事と人生の目的に繋がっている。先日「不変項」の項で、
(引用開始)
目まぐるしく変転する生活環境の中にあって、自分を確認できる優れた場所や物は貴重である。近親者や友人の存在とともに、そういった場所や物があってこそ、人は「至高的存在」に近づくことに専念できるのだ。
(引用終了)
と書いたけれど、井形さんの家づくりは、ご自身が「至高的存在」へ近づくことに専念するための基地づくりでもある。この二つのフラットと一つの一戸建て、それにご自宅を併せた四軒の家は、井形さんのこれからの活動を「不変項」として支えていくことだろう。
尚、家を購入する前後のロンドンについては、“ロンドン生活はじめ! 50歳からの家づくりと仕事”井形慶子著(集英社)、“イギリス式シンプルライフ 月収15万円で暮らす豊かな手引き”井形慶子著(宝島社)の二冊にさらに詳しい。特に後者は写真が沢山使われていて楽しい。
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