以前「交感神経と副交感神経」の項で、
(引用開始)
この「自律神経系」と「生産と消費論」のアナロジーについては、また項を改めて考えてみよう。
(引用終了)
と書いたけれど、今回はこのことについて少し掘り下げてみたい。まずこのブログにおける「生産」と「消費」の定義から。
このブログでいう「生産」とは、単にお金に換算できる仕事だけを指すのではなく、ボランティア活動などの「他人のためになる行為全般」を指す。「消費」とは、単に金銭的な消費行為だけでなく、食事、睡眠、休暇などの「自分のためになる行為全般」を指す。詳細はカテゴリ「生産と消費論」を参照のこと。
次に、自律神経(交感神経と副交感神経)の役割を再度確認しておこう。今回は、“ガンは自分で治せる”安保徹著(マキノ出版)から引用する。
(引用開始)
交感神経と副交感神経は正反対の働きをし、両者は互いに拮抗(きっこう)するように働いています。交感神経は主に運動時や昼間の活動時に優位になる神経で、心臓の拍動(はくどう)を高め、血管を収縮(しゅうしゅく)させて血圧を上げ、消化管の働きを止めて、体を活動的な体調に整えます。
副交感神経は食事のときや休息時に優位になる神経で、心臓の拍動をゆるやかにし、血管を拡張して血流を促し、心身をリラックスモードに整えます。また細胞に分泌(ぶんぴつ)や排泄(はいせつ)を促す働きがあり、副交感神経が優位になると、消化液の分泌や排便が促進されます。
(引用終了)
<同書23−24ページ>
それでは次に、この自律神経と生産と消費活動の関係を見てみよう。多く場合、活動的な体調が「生産」の緊張を支え、リラックスした体調が「消費」の心理状態を支えている。従って、「生産」には交感神経優位の体調が必要で、「消費」には副交感神経優位の体調が必要といえる。すなわち、
「生産」:交感神経優位
「消費」:副交感神経優位
という対比が可能になるわけだ。勿論、どちらの自律神経が優位かということであって、「生産」には交感神経だけが使われるとか、「消費」には副交感神経だけが使われるということではないので念のため。
この対比については、さらに「理性と感性」「統合と分散」の項などを参照して欲しい。自律神経という人の体内活動が、生産と消費という人の社会活動とこのような形でリンクするのは、なかなか興味深い。
自律神経と生産と消費活動の現場をもう少し微細に見てみよう。自律神経は、心臓や血管、胃腸や汗腺など内臓諸器官の働きを調整している。呼吸を調整しているのも自律神経で、息を吸うときは交感神経が、吐くときは副交感神経が調整している。
我々は何かの作業に集中していると、ときどき息を吐(つ)くのを忘れてしまうことがある。これは体調が交感神経優位になるため、副交感神経の調整する呼気が疎かになるわけだ。これが「息吐く暇も無い」という状態だ。以前「体壁系と内臓系」の項で指摘したように、呼吸(特に吸気)は体壁系の横隔膜によって行われるから、人は息を止めることが出来でしまう。
「体壁系と内臓系」の項などで紹介した三木成夫氏は、その著書“海・呼吸・古代形象”(うぶすな書房)のなかで、「仕事の唄」について考察しておられる。日本では昔から作業中息吐きを忘れないように、一緒に唄を歌いながら(息を吐きながら)作業をしたという。その部分を引用しよう。
(引用開始)
田植えから稲刈りまで、船曳(ひ)きから樵(きこり)まで、人びとは山に海に四季色とりどりの唄ごえに合わせて仕事の手を進めていったのである。そこには「仕事すなわち息抜き」の等式があった。
現在、ヨーガや太極拳からカラオケに至るまで、呼吸に関係する健康と娯楽のブームであるという。しかしこれらは仕事の息詰まりに対する精一杯の息抜きとして作用しているようだ。私はむしろ、この現代こそ、あの仕事の唄の呼吸の掛け声を、日々の作業の上にも何らかの形でよみがえらせるべき時ではないかと思っている。
もちろん声で歌う必要は無い。「クビ」を正しく、肩肘(ひじ)の力を抜いて横隔膜の余分の張りをとり、つねに、この唄の吐く息で手を進めてゆけば、それでよいのだ。
仕事になれるとは、要するに、この呼吸をマスターすることではないだろうか。
(引用終了)
<同書27ページ>
呼吸を正しく行わないと、交感神経優位の状態が続くことになり、いっとき作業の効率は上がるだろうが、身体は低酸素状態になる。そうなると、「解糖系とミトコンドリア系」の項で述べたように、エネルギー生成系のほうもミトコンドリア系から解糖系にシフトしていく。解糖系エネルギーは、瞬発力に優れているが持久力には向かない。だからそのままではやがて仕事も行き詰ってしまうわけだ。皆さんも、
「生産」:交感神経優位
「消費」:副交感神経優位
という大枠を理解した上で、呼吸法などを工夫しながら、バランスよく仕事を進めていただきたい。
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