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流域社会圏

2011年05月09日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 “地域社会圏モデル”山本理顕・中村拓志・藤村龍宝・長谷川豪共著(INAX出版)という本を読んだ。“地域社会圏”とは、400人程度の人が一緒に暮らす居住空間を指し、「一住宅=一家族」という既存の仕組みとは違った社会のあり方を考えようという思考実験だという。リーダーは建築家の山本理顕氏である。

 山本氏はこの本の中で、戦後展開された「一住宅=一家族」という住宅施策は、官僚による統治システム(管轄部局の内部が私的に運営されていること)と同型であり、そこから脱却するためには、エネルギーの供給からごみ処理、看護や子育て、買い物までを400人程度の共同体で賄う新しい仕組み(地域社会圏モデル)が必要なのではないか、と提案しておられる。

 このブログでもカテゴリ「公と私論」などで、地域社会の再生には、戦後の“官僚と会社父長制”システムとは異なる、“新しい公共”の共同体理念が必要であることを論じてきた。

 三人の若手建築家の案はどれも面白いが、特に私の目を引いたのは、「コミュニティーに於けるのっぴきならないものとは何か」という議論(共著者の四人に伊藤豊雄、藤森照信氏を交えた講評会の部分)だ。地域社会圏モデルが成功するためには、コミュニティーに何か「のっぴきならないもの」が必要なのではないか、という指摘である。

 このブログでは、“新しい公共”理念の必要性と共に、街づくりにおける「流域思想」の重要性について書いてきた。そして、流域における「両端の奥の物語」の大切さについて述べてきた。その観点からしてみると、この「のっぴきならないもの」とは、流域における“両端の奥の物語”と重なるように思える。

 この本では、「のっぴきならないもの」は、学校であったり農業であったりといささか抽象的に議論されているけれど、「それがないと社会圏としての存在理由がない」といった地点までこの「のっぴきならないもの」を掘り下げていくと、それは必然的に、神話や御伽噺を含むところの流域“両端の奥の物語”にまで行き着くのではないだろうか。

 “長良川をたどる”山野肆朗著(ウェッジ)という本がある。この本は、長良川の文化と歴史を河口から源流、さらに分水嶺の先まで辿った紀行文だ。サブタイトルに“美濃から奥美濃、さらに白川郷へ”とある。本の帯の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

清流に育まれた文化と歴史を訪ねて

織田信長の築いた岐阜城、豊かな水をたたえた群上八幡の城下町。1300年以上の歴史をもつ鵜飼、極上の天然鮎にサツキマス、関の日本刀に美濃の和紙、そして世界文化遺産の白川郷―――。

(引用終了)
<同書の帯の紹介文>
 
長良川の下流域、中流域、上流域、源流域それぞれに伝わる文化は、長い歴史を経て、その流域にとって「かけがいのないもの」となっており、それぞれの文化を貫く軸としてその中心に「長良川」が存在している。長良川流域における“両端の奥の物語”があるわけだ。

 さて、前回「水辺のブレイクスルー」の項で、河川法などについて、

(引用開始)

法の整備は、流域ごとに自然環境が違うわけだから、基本理念は全体共有した上で、その流域に合うように、地域主権で進められなければならないと思う。

(引用終了)

と書いたけれど、「かけがいのないもの」や「のっぴきならないもの」を共有するという意味で、“新しい公共”の理念においては、法律のみならず、都道府県や市町村といった既存の行政単位も、「流域」を一つの纏まりとして考えてみてはどうだろうか。全国には109の一級水系があるというから、それぞれの流域毎に政治や文化の特色が出せれば、全体として、自然に沿った形の多様性に富む社会が構築できるのではないだろうか。

 勿論そうなると、社会圏としては400人という規模を上回ることになる。400人という規模が、エネルギーの供給からごみ処理、看護や子育てなどの自治にとって適当なサイズなのであれば、流域全体の物語(のっぴきならないもの)を共有した上で、その中を複数の(400人程度の)共同体に分ければ良い。“地域社会圏モデル”の最後にも、こういった集団の階層性について、“SLM”という「3の構造」による単位の考察がある。

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posted by 茂木賛 at 09:21 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

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