以前「発音体感」の項で、母音の発音体感について書いたので、ここで、子音(息を制御して出す音)の発音体感の属性についても、“怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか”黒川伊保子著(新潮新書)に沿ってまとめておこう。
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<清音>
「K」: 硬さ(最大)、強さ(清音中最大)、乾きの質(最大)
「T」: 硬さ(大/Kに準じる)、強さ(Kと同等)、湿度・粘性(最大)
「S」: 空気感、摩擦係数の低さ、適度な湿度感
「H」: 温感、適度なドライ感、空気感、早さ
「N」: 密着度(最大)、粘性(最大)、癒し
「M」: 柔らかさの質、丸さ、母性、遅さ
「R」: 弾性、理知的、リズム感、冷たさ
「P」: 気持ち良い破裂を伴う柔らかさ
<濁音>
「B、G、D、Z」: 清音の属性に、力強さ(膨張+放出+振動)が加わる
<その他>
「Y、W、V」: 直前のことばの音や、直後の母音の属性を演出(和らげたり拡散したり)する
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意識や質感といったクオリア詳細、上記以外「C」「L」「F」などについてはさらに本書を参照して欲しいが、基本的には、これら子音の発音体感と、以前まとめた母音の発音体感、
「A」: 口腔前方を自然に開いた開放音。明るく自然で、あっけらかんとしている。存在を認める音、認識の始点。
「I」: 喉の奥から舌の中央部に向けて力が入り、まっすぐに意識対象に突き進む音。前向きで一途、尖った感じ。
「U」: 口腔内の小さな閉空間。痛みなどを受け止めて体内にキープする音。内向する感情や、内に秘めた潜在力を示す。
「E」: 口腔内に生じる平たい奥行き。平たい空間の広さ、遠さ、時の永遠をイメージさせる。遠慮やエレガントさを示す。おもねる感情なども示す。
「O」: 口腔内の大きな閉空間。自身を包み込むような大きさの空間や物体をイメージさせる。包み込む感じ。
との組み合わせによって、単語としての「発音体感」が得られるということになる。本書には、具体例として「のぞみ」や「ひかり」、「カゴメ」や「キリン」など、さまざまな商品のネーミング評価なども載っているので、マーケティングの手引書としてもお読みいただきけると思う。
さて、「発音体感」とは、発声された音韻によって意識と所作と情景が結ばれるという、言葉の(記号として以前の)本質的なはたらきを指す。とすれば、これは日本語だけでなく、ある程度世界共通のものなのかもしれない。黒川氏もこの本の中で、
(引用開始)
ことばの音を、単に聴覚情報としてではなく、脳のすぐ近くで起こる物理現象として捉える。そう考えると、ことばの音が意外に大きな印象を脳に与えていることがおわかりになるのではないか。また物理現象として精査すれば、今日まで主観でしか語られなかったことばの感性(語感)を客観視できる。
つまり、このことは、「ことばの音が意味に先んじて潜在脳を牛耳(ぎゅうじ)っていて、その感性には人類共通普遍の仕組みがある」という仮説を証明する手がかりになるのである。
(引用終了)
<同書48ページ>
と述べておられる。私のいたソニーという会社なども、アルファベットでは「SONY」ということで、さわやかな「S」、つつみこむ「O」、親密な「N」、突き進む「い」音を和らげる「Y」といった発音体感によって、世界の人々に「さわやかで包容力があり、親密で先進性があり、かつ親しみやすい」企業イメージを与えてきたのかもしれない。
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