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男性性と女性性 II 

2011年03月29日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 脳レベルの性差に慎重で、男女差についてはジェンダー(社会・文化的な性差)を重視する精神科医の斉藤環氏は、その著書“関係する女 所有する男”(講談社現代新書)の中で、人の欲望形式について、男性は「所有原理」が強く、女性は「関係原理」が強いと指摘しておられる。この立場からも、空間や時間の認識に関して、先回「男性性と女性性」の項で述べた黒川伊保子さんの分析と重なるところがある。この指摘も体験的に納得がいく。まずその部分を引用したい。

(引用開始)
 
「所有原理」と「関係原理」は、認識に対しても大きく影響を及ぼす。
 たとえば空間把握力について考えてみよう。この能力は、ひろく概念操作能力として理解できる。これは視覚イメージを頭の中で操作する能力だ。対象を視覚化すること、またそのイメージを操作すること、いずれも「所有」に慣れた男性にとってはお手のものである。いっぽう、関係性を切り離しての概念操作は、女性にとってかなり不得意な領域だ。
 この空間把握については、興味深い実験がある。目的地に辿り着くのに、地図の描き方によっては、女性のほうが男性よりも良い成績を収めたというのだ。(NHKスペシャル取材班『だから、男と女はすれ違う』ダイヤモンド社、二○○九年)。
 簡単に言えば、距離と方角が示された地図を読むのは男のほうが得意だが、「眠れる少年像のところで左に曲がれ」といったように、目印を手がかりとした地図を読むのは女のほうが得意なのだ。この本では、あくまで「脳」の視点からこの違いを説明していたが、所有と関係という視点から捉えるほうが説明が簡単だ。
 さきほども述べたとおり、距離や方角といった空間把握は、概念操作のひとつだから、男性の「所有」原理になじみがいい。いっぽう女性は、そのつど出くわした目標物と自分の位置との「関係」をリアルタイムで把握しながら進むほうが得意なのだ。
 ついでにいえば、所有原理は一般性や普遍性を志向するため、しばしば無時間的なものとなる。これは男性が、所有が永続的であることを望むのだから当然だ。いっぽう女性は、その場その場でのリアルタイムな関係性を重視する。

(引用終了)
<同書233−235ページ>

男性の「所有原理」と「空間重視」、女性の「関係原理」と「時間(リアルタイム)重視」は、男性性と女性性それぞれの欲望形式と認識形式とを言い表したキーワードなのだろう。

 さらに、斉藤氏も、黒川さんの脳の分析同様、「所有原理」と「関係原理」という二つの欲望形式は、男女それぞれに固有・固定なものとは考えておられない。同書からの引用を続けたい。

(引用開始)

 僕がこの本で言いたかったこと。それは、人間の欲望には「所有原理」と「関係原理」というふたつの形式がある、ということだった。もうわかっているとは思うけれど、このふたつの原理とジェンダーとの関係は、絶対的でも固定的でもない。
「セックス(生物としての性)」「ジェンダー」「欲望の原理」は、それぞれ別の階層に位置づけられる。通常これらはシンクロすることが多いが、その結びつきにしっかりした因果関係はない。それゆえ階層間の関係は、ときに流動的だ。(中略)
 個人の欲望が、「所有」と「関係」という両極の間のどこかに位置づけられるということ。もちろんその個人が、複数の欲望の形式を持っていてもいい。ただ一般的には、生物としての男は所有原理で活動し、同様に女は関係原理で動く、という傾向があるだけの話だ。繰り返すが、そこになにか決定的な違いがあるというわけではない。
 ならばもうジェンダーを、男と女という素朴な枠組みで考えることもないだろう。世界はただ、「所有者」と「関係者」だけがいる。そういう見方はどうだろうか。どちらの原理が欠けてしまっても、この世界は失調をきたしてしまうだろう。
 圧倒的なまでに「所有者」が支配するこの「世界」の中で、いかにして「関係者」の存在を認識していくか。これはジェンダー・センシティブであろうとする態度から導かれた、もう一つの問いかけなのである。

(引用終了)
<同書246−248ページ>

 前回の黒川さんの分析と併せて考えると、先天的な脳の性差、あるいはジェンダーなどの後天的な性差に拘らず、人はある比率で「空間重視」、「時間重視」、「所有原理」、「関係原理」といった認識及び欲望の形式を持つといえるようだ。そして、斉藤氏が“圧倒的なまでに「所有者」が支配するこの「世界」の中で、いかにして「関係者」の存在を認識していくか”と問いかけるように、社会においては、やはり両者のバランスが大切なのである。

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posted by 茂木賛 at 13:46 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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