“夢の扉〜NEXT DOOR〜不可能を可能にした会社”菊野浩樹著(朝日新聞出版)を読んだ。元気ある日本のスモールビジネス9社を紹介した本で、(TVプロデューサーである)著者菊野氏が、自らのドキュメンタリー番組で取り上げた社会フロンティアたちの中から、特に印象に残った会社を再取材して纏めたものだ。
(引用開始)
人も、会社も、日本もまだまだ捨てたものじゃない!
人を救いたい、アイデアで役に立ちたい、失敗しても諦めない……
プロデューサーが自ら綴った、番組で触れられなかった感動のドラマ。
放送300回を超えた人気長寿番組、初の単行本化。
(引用終了)
<本の帯の紹介文より>
ということで、その9社とは、
(引用開始)
1 ふわふわのパンを缶詰で世界を救いたい|パン・アキモト
2 家を空気で浮かせて地震から守りたい|ツーバイ免震住宅
3 事故の起きない安全なナットを作りたい|ハードロック工業
4 あらゆる製品の小型化に役立ちたい|シコー
5 小型風力発電で新しいエコを広めたい|ゼファー
6 世界を駆け回りハイテク産業を守りたい|アドバンスト マテリアル ジャパン
7 日本の伝統を守るため新たな職人を育てたい|秋山木工
8 もっと農業に向き合う人々を増やしたい|マイファーム
9 体が不自由な人にも旅行を楽しんでもらいたい|旅のお手伝い楽楽
(引用終了)
<本の帯裏の紹介文より>
の各社である。どれも社会貢献への確固たる理念(Mission)と目的(Objective)とを持ったすばらしいスモールビジネスだ。
紹介の最後に載せられた会社基本データによると、各社の従業員数は、非本社籍社員などを除くと8名−76名で、年商は多いところで340億円である。以前「組織の適正規模」の項で述べたように、従業員規模が大きくなると、意思疎通や情報伝達の面で効率が悪くなる。同じことを繰り返すだけの“少品種大量生産”企業はそれでも良いかもしれないが、多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術を旨とするこれからの産業システムにおいては、意思疎通の十全さと情報伝達のスピードが命で、そのためには組織規模が小さい方が断然有利である。ネット時代だから、足りない機能はいくらでも他社との連携によって補完できる。
この本を読むと、それぞれの社長さんたちがいかに顧客と社員とを大切にしているかがわかる。各社の来歴やオペレーションの詳細は本書を読んで貰うとして、以下、私が気に入った社長さんたちのコメントを幾つか紹介したい。
「親父に言われた言葉があります。私たちは、食品会社です。その食品の“食”という字は、“人”に“良”と書くんですね。そして“品”という字は、“口”が三つじゃないですか。だから、『多くの人の口に良いものを作るのが、食品会社だ』って、教わってきたんです」(「パン・アキモト」秋山義彦氏)
「人を見るときは、半分以上、良いところがあるかどうか。良いところと悪いところを両方、考えてみる。あいつは、だらしなくて無愛想だけど、真面目(まじめ)で、仕事熱心で、手先も器用だから、半分以上は良いところがあるというふうに人を見る。まあ、主観でしかないんですけどね。社員のみんなにも、半分以上良いところがあれば、“良い”と見るよと。そして、そういうやつなら、うちの会社のためになると。人間、100パーセント完璧な人なんていないですしね。もし、いたとしても、まあ、うちの会社には来ないでしょう(笑)」(「ツーバイ免震住宅」坂本祥一氏)
「“顧客満足”が第一だって、いつも言うんですけど。お客さんを満足させないと仕事というのは安定しないし、拡大していかないね。お客さんの満足より自分の満足が先に来たら、絶対ダメ。たとえば、仮に一個10円でできるものを50円で売ったら40円儲かるじゃないですか。自分は儲かるけど、お客さんは満足しませんね。それじゃ、うまくいかないわけですよ」(「ハードロック工業」若林克彦氏)
「どんな商品でも、同じ性能なら小さいほうがいい。機能さえあれば、姿はいらないんですよ。あとは、商品が小さければ材料も少ないから費用がかさまない。その分、知恵の勝負になる。日本は資源がないから、知恵で戦わないとダメだと思っています」(「シコー」白木学氏)
「社長になる人は、ビジョンを語れる人でないとダメ。ここで大事なのは『語れる』ことだよ。ビジョンを持つだけじゃダメ。ビジョンを持って、人に語る。人に伝えるんだよ。要するにビジネスの世界は、常に群れだからね。群れの中でコミュニケーションしないと。そのためには、口に出して語らないと」(「ゼファー」伊藤瞭介氏)
「何かにこだわるやつ、物事にこだわるやつね。そして、ちょっとしつこいやつ。そういう人は、知識も含め、専門的な考え方ができるようになる。そして同時に、広い視野を持っている人がいいね。あまり、偏見とか、差別意識とか、持っている人はダメだね」(「アドバンスト マテリアル ジャパン」中村繁夫氏)
「『機械を導入すると、10人の職人のクビが切れるよ。今は高くたって、長期的には、人件費の大きな節約になるよ』って言われたんです。でも絶対に、買わなかった。こんな機械を3000万出して買うならね、人間に3000万円投資したほうがいいよ。こんな機械で作ったもん、そのうち、だれも買わなくなるよ。そういう時代が来るよ、ってね」(「秋山木工」秋山利輝氏)
「日本の農業を変えるには、農家や農地や法制度をどうこうするまえに、まず消費者の意識を変えなければいけません。実際に農業をしてみて、自分で育てた作物を自分で食べる。その一連を我々は“自産自消”と言っているんですが、やはり、自分で育てた野菜はおいしいですよ。これが、『めっちゃ楽しい』です。同時に、その“自産自消”を通じて、農業がどれだけ大変か、知ってもらう。『安全で美味しい食品を食べたい』、そう言うだけなら簡単です。言うだけじゃなく、いろんなことがわかった上で、食品の安全や味を考えて欲しいですね」(「マイファーム」西辻一真氏)
「霊山護国神社ですか。確かに、あそこは車椅子では厳しい。でも、お客様がどうしても行きたいとおっしゃったら、なんとか行ける方法を考えますよ。『いけるところ』から『行きたい所』へ、ですからね」(「旅のお手伝い楽楽」佐野恵一氏)
いかがだろう、元気なリーダーたちの宝石のような言葉を味わってもらえただろうか。尚、先ほどの会社基本データには、各社のホームページアドレスも載っているから、アクセスして更なる情報を得ることも可能だ。
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