夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


複眼でものを見る必要性

2011年01月25日 [ 公と私論 ]@sanmotegiをフォローする

 ここまで「継承の文化」「継承の文化 II」の両項で、街づくりにおける「過去と現在との繋がり」の重要性について考察してきたが、街づくりには、過去の歴史と現在だけではなく、外部からの新しい息吹も欠かせない。新しい息吹がないと、共同体は縮小均衡に向かってしまう。街づくりにおいて、「新しいものをどう取り入れるか」ということは、「過去と現在との繋がり」と同じように重要な課題である。

 日本では明治以降、海外の新しいものを取り入れるかたちで近代化が進んだ。しかし、それまで長い間「お上」に頼ってきた人々は、海外のものを取り入れる際にも、自己判断によってではなく、「官僚」に頼ることでその支配を受け入れてきた。

 「ゲマインシャフトとゲゼルシャフト」の項で述べたように、近代化社会とは、利害関係に基づいて人為的につくられる共同体であるから、本来個人の自立を前提とする。そうしないと、単に弱いものが虐げられるゆがんだ社会になってしまう。しかし日本人は、海外の新しい息吹を取り入れるに当たり、それまでの「お上に頼る方法」で進めてきてしまった。

 官僚主導で都市化が進められ、効率が優先され、土地が分割され、戦争が行われ、世代が分断され、弱いものが虐げられてきた。その過程で、もともと日本人が持っていた「三世代存在としてのあなた」「至高としてのあなた」も忘れられてしまった。敗戦後、大量生産・消費時代に至って都市化はさらに進み、生産と消費の現場が分断され、流域両端の「奥」が忘れられると同時に、街の中間領域である「外」も多くはシャッター通りに変貌してしまった。その結果が、「奥山は打ち捨てられ、里山にはショッピング・センターが建ち並び、縁側は壁で遮断され、奥座敷にはTVが鎮座する」という日本社会の典型的な姿なのではないだろうか。

 外部から入る新しいものは玉石混交で商売も絡むから、「奥」を大切に守るためには、騙されないようにしなければならない。「騙されるな!」の項で述べたように、騙されないためには自分で物事の本質を見抜くことが必要で、そのためには「精神的な自立」がまず必要となる。自分の考えを主張しながら、最終的には合議で決着するという精神が必要になってくるのである。

 昔は外部から入る新しいものも限られていたので、人里は単なる「奥」の延長でよかったかもしれない。いまでもそういう土地は(島嶼部などに)残っているかもしれない。しかし新しいものの流入が増えたところは、両端の「奥」を守るためにこそ、個人の精神的自立と合議的精神が必要になってくるのだ。

 このことを、小沢一郎氏の「民主党代表選挙投票前決意表明文」(去年9月)の一部を引用しながら考察してみたい。

(引用開始)

 私には夢があります。役所が企画した、まるで金太郎あめのような町ではなく、地域の特色にあった町作りの中で、お年寄りも小さな子供たちも近所の人も、お互いがきずなで結ばれて助け合う社会。青空や広い海、野山に囲まれた田園と大勢の人たちが集う都市が調和を保ち、どこでも一家だんらんの姿が見られる日本。その一方で個人個人が自らの意思を持ち、諸外国とも堂々と渡り合う自立した国家日本。そのような日本に作り直したいというのが、私の夢であります。

(引用終了)
<9/14/2010 MSN産経ニュースより>

この文の前半は、「流域両端の奥」をしっかりと踏まえた街づくりが述べられている。そして後半(“その一方で”以降)で、精神的自立を踏まえた合議的精神が述べられる。「三世代存在としてのあなた」を共有した上で、さらに共同体に対してはっきりとものを言うことが求められている。

 「流域両端の奥」は、「至高としてのあなた」というプライベートな感性によって深化し、「精神的自立を踏まえた合議的精神」は、「公」としての自立した個人を前提とする。このブログでは、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳の働き−「公(public)」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体の働き−「私(private)」

という対比を見てきたけれど、「流域両端の奥」=「私(private)」、「合議的精神」=「公(public)」として捉えれば、この両方を上手くバランスさせていく必要性、いわば「複眼でものを見る必要性」があるということだと思う。それは「広場の思想と縁側の思想」の両立と考えても良い。「効率と効用」、「脳と身体」、「都市と自然」のバランスと云っても良いだろう。

 このことは、長く律令国家の「お上」に頼ってきた日本人にとっては、かなり高度な技といわなければならない。とくに「言葉について」などで考察してきた日本語の特質を考えると、簡単なことではないだろう。これまで日本人が長く「お上」に頼ってきた資質は、「階層性の生物学」の項で述べた、日本人の階層性への無頓着な態度とも関連しているに違いない。しかし小沢一郎氏の夢であるところの「流域両端の奥」と「合議的精神」とを両立させるためには、どうしても、複眼視点で行動するという、複雑な手続きが必要になってくるのである。

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posted by 茂木賛 at 10:55 | Permalink | Comment(0) | 公と私論

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