夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


階層性の生物学

2010年12月14日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 “性と進化の秘密”団まりな著(角川ソフィア文庫)を面白く読んだ。「重力進化学」で紹介した“生きもの上陸作戦”同様、この本の内容も多岐に渡っているから、さまざまな「興味の横展開」が可能だけれど、ここでは「階層性の生物学」というテーマについて考えてみたい。まず同書カバーより紹介文を引用する。

(引用開始)

今から38億年前、とてつもない偶然が重なり、地球上に誕生した、たった1つの細胞。この細胞が人間のような複雑な生命へと進化した生命の仕組みとは?原核細胞から真核細胞、そして21億年もの間生き続ける不死の細胞を経て、有性生殖によって死を克服する細胞へ――。「階層性の生物学」という独自の観点から、“思考する細胞”と進化の秘密にせまる。いのちと性の不思議をやさしく解きあかす、独創的な生物学入門。解説・養老孟司

(引用終了)

 生物学における階層性とは何か。同書から引用しよう。

(引用開始)

 ある単純で、小さな単位が集まって、より大きく複雑な単位を作り出す、というのは、自然界の物質の一般的な性質なのです。この性質を、階層性と言います。そして、酸素の毒に立ち向かった「原核細胞」の一部が、苦し紛れに融合し、さらに酸素を利用できる種類の細胞と協力して生きのびた現場は、「真核細胞」という一段と複雑な細胞、つまり生物、を生み出す現場でもあったのです。
 階層性には、もう一つ大切な法則があります。一般に、より単純な「下位の単位」が集まって「上位の単位」を作ったとはっきりというためには、新しく生まれた「上位の単位」が、それを作った「下位の単位」にはなかったより高度な機能・作用をそなえていなければなりません。

(引用終了)
<同書30ページ>

階層関係について、団まりな氏の別の著書“生物のからだはどう複雑化したか”(岩波書店)には次のようにある。

(引用開始)

 以上のように、階層関係というものは、何がしかの複雑さのあるところなら、どこにも見つけることができます。そして、その内容のいかんにかかわらず、二つのもののあいだには、「包含関係」と「新機能の付加」という一般的な性質が成立しています。

(引用終了)
<同書15ページ>

 階層性とは、下位の単位を上位の単位に含む「包含関係」と、上位の単位にのみ与えられた「新機能の付加」という、二つの要素を備えた概念である。動物の階層的進化を考えると、ハプロイド体制→ディプロイド体制→上皮体制→胚葉分化→間充組織体制→上皮体腔体制→脳・中枢神経系ということで、それぞれの段階で「包含関係」と「新機能の付加」が成立しているという。

 階層性は、多様性とは異なる概念である。多様性とは、たとえば同じ脳・中枢神経系の動物に、キリンもいればライオンもいてゾウもいるという状態を指すのだろう。「包含関係」と「新機能の付加」が成立していない段階である。

 生物を含む自然環境が、「多様性」と共に「階層性」を持っているとすると、ある段階の「多様性」はどうようにして次の「階層性」へ分岐するのかという疑問が沸く。下位の単位から上位の単位への進化は長い長い時間がかかるので、実証は難しいだろうが。個体発生と系統発生、外胚葉・中胚葉・内胚葉からなる3の構造、機能と形態の生成、有糸分裂と減数分裂などなど。興味は尽きない。

 さて、階層性について、“性と進化の秘密”の解説のなかで養老孟司氏が面白い指摘をしておられるので紹介しよう。

(引用開始)

 階層性については、団さんとの間に、個人的な思い出があります。私が最初に書いた本『形を読む』(培風館)のなかで、欧米の学問は階層性を重視するけれど、私にはそれはわからないという趣旨のことを書きました。そうしたら、団さんからお手紙をいただいたんです。生物学では階層性はとても大切なことですよ、もっと考えてくださいな、と。
 こういう嬉しいというか、ありがたい指摘をしてくれる人は、本当に少ないんです。私はわかっていなかったから、すなおにそう書いたんですが、団さんの指摘以来、階層性のことをなにかと考えるようになりました。私の頭のなかの混乱を、読者に伝える必要はないでしょう。でも結局私は、階層性という問題は、日本の伝統的な思考のなかにあまり含まれていないのではないか、と思うようになりました。だから階層性は意味がないということではありません。大切なことなのに、ピンと理解できない。大げさですが、ひょっとすると、それは日本語、あるいは日本の文化と関連していないだろうか。そう思ったのです。べつに私が日本人を代表しているわけじゃない。でも私だって大学院まで教育を受けてきたのに、階層性が話題になる場面に出会わなかったんです。
 この話題の端的な例は、たとえば英語で学ぶ関係節です。一つの文章のなかに、入れ子構造の文章が入っています。文法的には主文と副文といいます。ここにもある「階層」がありますね。でも日本語にはこれがないんです。欧米人なら、ふだん使う言葉のなかに、階層がたえず顔を出す。これが思考の構造に影響を与えないはずがないでしょう。
 じゃあなぜ団さんは階層性を重視できたのでしょうか。育ちが関係あるかもしれません。「あとがき」で書いておられるように、団さんのお母さんはアメリカ人だったし、お父さんも日本人ではあるけれど、ひょっとすると奥さんの故郷の社会のほうが性に合っていたのかもしれません。

(引用終了)
<同書179−181ページ>

 同書の「あとがき」によると団まりな氏は、母親がアメリカ人であるだけではなく、小学五年生のときから一年半ほどアメリカで過ごしたとある。先日「バイリンガルについて」の項で見たように、バイリンガルは“マージナル・マン”たる資格がある。日本語と英語のバイリンガルとして、団氏も優れたマージナル・マン(woman)なのであろう。今後の更なるご活躍を期待したい。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 10:03 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

この記事へのコメント

コメントを書く

お名前(必須)

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント(必須)

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

夜間飛行について

運営者茂木賛の写真
スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)主宰の茂木賛です。世の中には間違った常識がいっぱい転がっています。「夜間飛行」は、私が本当だと思うことを世の常識にとらわれずに書いていきます。共感していただけることなどありましたら、どうぞお気軽にコメントをお寄せください。

Facebookページ:SMR
Twitter:@sanmotegi


アーカイブ

スモールビジネス・サポートセンターのバナー

スモールビジネス・サポートセンター

スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)は、茂木賛が主宰する、自分の力でスモールビジネスを立ち上げたい人の為の支援サービスです。

茂木賛の小説

僕のH2O

大学生の勉が始めた「まだ名前のついていないこと」って何?

Kindleストア
パブーストア

茂木賛の世界

茂木賛が代表取締役を務めるサンモテギ・リサーチ・インク(通称SMR)が提供する電子書籍コンテンツ・サイト(無償)。
茂木賛が自ら書き下ろす「オリジナル作品集」、古今東西の優れた短編小説を掲載する「短編小説館」、の二つから構成されています。

サンモテギ・リサーチ・インク

Copyright © San Motegi Research Inc. All rights reserved.
Powered by さくらのブログ