夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


民族移動と言語との関係

2010年10月26日 [ 言葉について ]@sanmotegiをフォローする

 前回「赤筋と白筋」の項で、アフリカから長い旅をしてきた日本人は赤筋(ミトコンドリア系)が発達している、という安保教授の説を紹介したけれど、氏はさらに、日本語について、“かたよらない生き方 病気にならない免疫生活のススメ”(海竜社)のなかで、次のように書いておられる。

(引用開始)

 それは言葉にも表れています。主語・述語、目的語の言語体系は中国まできていますが、日本と韓国は、主語の次に目的語をもってきて、結論は後まわしにするような言語体系です。
 だから、民族の思想、東洋思想の謎も、アフリカからの移動とそれに対応してきた赤筋、白筋、その内容を決定してきた自律神経の働きに関係していると私は考えています。(中略)
 長い旅をしてきて、ミトコンドリア系の多い民族としてたどり着き、日本風土は温帯性気候で雨量が多くて、そう興奮しなくてもいいような環境だから、穏やかな気性や文化が育まれたのだと思います。四季の変化があり、それに合わせて冬の食べ物を用意したり、桜が咲いたら花を見て楽しんだり、メリハリをつけて自然に同調しながら生きてきたわけです。そういう文化から強引に自然を変えるという発想が出てこないのは当然でしょう。
 こういう生活文化なので、異質のものを「調和」したり、「均衡」をとったりする感性が培われてきたのです。

(引用終了)
<同書161−164ページ>

 日本人が「調和」を好むことは、以前「日本語の力」の項でも、金谷武博氏や黒川伊保子氏、長谷川櫂氏などの著書を引用しながら論じてきた。なかでも、黒川伊保子氏は、日本語が母音語であることに注目し、母音語の使い手は人や自然と融和する傾向があると指摘された。黒川氏の“日本語はなぜ美しいのか”(集英社新書)にはまた、民族移動と言葉との関係についても言及がある。その部分を引用しよう。

(引用開始)

 さて、身体性から論じれば、自然発生音の母音の方が当然発音しやすいので、本来なら世界の主流が母音語であってもよいはずである。驚いたり、伸びをしたり、痛みを耐えたり、しみじみしたとき、自然に口をついて出る母音をコミュニケーションの中心に使う方が、音韻上は無理が無い。(中略)
 古代、大陸全体が豊かな緑におおわれていたアフリカが砂漠化し始めて、人類が北へと旅を始めた。砂漠や寒冷地のような過酷な環境と闘うようになると、大らかに口を開けていられないので、子音語化が始まる。
 機械のようなデジタル音である子音語は、論理的で合理的な意識をヒトの脳に与える。やがて、怒涛(どとう)のような科学の発達と、侵略の論理が世界の潮流になった。このようにして、人類は、何か大きな渦に巻き込まれていったのではないだろうか。
 環境は言語を作り、意識は人を作る。いったん言語を選択してしまうと、今度は、その言語の発音特性がヒトの意識を作り出す。意識はエスカレートしていき、やがて、止まらない潮流が人々を呑み込んでいくことになる。
 子音の選択こそが、ヨーロッパ世界の本当の失楽園に違いないと、私が考えるゆえんはここにある。しかし、そのとき、人類の発祥に地といわれる、アフリカの緑豊かな地を後にした人たちに、他にどんな選択肢があったのだろう。(中略)
 さて、その頃、豊かな自然に恵まれた日本列島は砂漠化もせず、太平洋の西端にぽつんと暮らしていた日本人には、この国を後にするような事情がなかった。砂嵐も知らず、凍る大地も知らず、民族移動の通り道にもならない日本人には、残念ながら、子音語を選択するチャンスがなかったのだ。完全に、世界の潮流には乗り遅れたまま、今に至っている。
 そう。なんと、私たちはいまだに、楽園の住人なのである。

(引用終了)
<同書180−182ページ>

 赤筋と白筋の発達と、母音語と子音語の発達とは時間軸上並列的な出来事ではないだろうけれど、両氏の指摘は、日本語の特質を考える上で興味深い。民族移動において日本列島がアフリカから遠く離れた極東の地にあり、なおかつ自然環境に恵まれていたことと、日本語が結論を後まわしにする構文構造であり母音語であることとは、歴史的に深く関連している気がするが、皆さんはいかがだろう。

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尚、本項に関連して、「反重力美学」のコメント欄も参照していただければと思う。

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こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 07:09 | Permalink | Comment(2) | 言葉について

この記事へのコメント

茂木さん、はじめまして。サムライと申します。

茂木さんが西原克成先生のことを取り上げていることを知り、関連記事を拝読しましたが、それ以外の記事も大変興味深く拝読しました。

殊に、最新記事の「民族移動と言語との関係」ですが、拙ブログでも「ツランという絆」というテーマを取り上げ、アルタイ語族という一つの共通事項で結ぶことのできそうな、ツラン民族圏についての記事を書いたことがあります。その時の情報収集の段階で、トルコの青年で日本の某大学に留学しているZ君に聞いたのですが、やはりトルコ語も動詞が最後に来るのであり、今学んでいる日本語や朝鮮語と一緒だと云っていました。そのZ君と語り合いながらつくづく思ったことは、どうやら母語というのは、その人の思考行動様式を決定しているのではないかということです。日本とトルコは遠く離れているのに、互いに心の奥底で繋がっているような気がしたのは、お互いにツランという連帯意識で結ばれているためなのかもしれないと、ふと思ったことでした。

その意味で、今後の茂木さんの記事を楽しみにしております。

サムライ拝
Posted by サムライ at 2010年10月30日 19:10
サムライさま、

コメント有難う御座います。

御ブログ「ツランという絆」の記事、興味深く拝読させていただきました。
日本とトルコとは“北のシルクロード”を通して、文化的に深く繋がっているのでしょうね。

今後とも、情報交換の程宜しくお願いいたします。

茂木
11/1/10
Posted by 茂木 at 2010年11月01日 10:36

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