前回「情報公開」の項で、
(引用開始)
組織が競争に打ち勝つには、「情報公開」によって組織メンバーの能力を結集し、その上で、最適戦略を立案することが求められるのである。
(引用終了)
と書いたけれど、企業が競争に打ち勝つためには、「情報公開」ばかりではなく、日本語の「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の源泉を分析し、それをさらに、「自覚的」に利用することも考えなければならない。
どういうことか説明しよう。「先輩と後輩の関係」「迷惑をかけない」「空気を読む」「派閥をつくる」「敬語の使用」「上座と下座」「お辞儀」「相手にあわせる」といった「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の表出形態には、そもそも何故それらが日本社会に出現したのかという歴史的理由(わけ)がある筈だ。今日の機能組織(ゲゼルシャフト)では、往々にしてそれらが「組織内の秩序を乱さないように努力する姿」となってしまい、変革の妨げになるわけだが、その表出形態の源泉を探り、その奥にあるエッセンスだけをいまの経営に生かすことができれば、今日の機能組織にとっても、「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」そのものは、力強い見方になり得るということである。
もともと、「先輩と後輩の関係」「迷惑をかけない」「空気を読む」「派閥をつくる」「敬語の使用」「上座と下座」「お辞儀」「相手にあわせる」といった「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の表出形態は、日本の近代化以前の、血縁・地縁組織(ゲマインシャフト)において整備された、きわめて「身体性」の強い、日本人特有の行動様式であった。個人という主格中心ではなく、家族や一族、身分、自然や神々などの「環境」を中心に据えた、人々の「身の処し方」であった。
であるならば、「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の表出形態の奥にあるエッセンスは、環境を中心に据えた身の処し方、つまりは「身体性」そのものであると考えることができる。従って、その「身体性」を上手くいまの経営に生かすことができれば、今日の機能組織にとっても、「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」そのものは、力強い見方になり得るということなのである。
一昔前、日本的経営の鏡としてもてはやされた「家族的経営」を例にとって具体的に考えてみよう。
「家族的経営」手法は、家族や一族、身分、自然や神々などの「環境」の代わりに、「会社」という「環境」を中心に据え、経営者と社員の「身の処し方」を謳ったものである。「会社」をいわば擬似的家族として位置付けるわけだ。昨今のグローバルな競争のなかで、「家族的経営」は、組織の効率的な運営を妨げる元凶として打ち捨てられた感があるけれど、使い方を間違えなければ、今日でも会社運営における力強い見方になる筈だ。
なぜ「家族的経営」が一見時代遅れのように見えるのか。それは、会社の規模が肥大化し、経営者と社員一人ひとりの顔が見えなくなってしまったこと、経営者が自分の家族を後継者に据えるなど、「家族的経営」を意思決定プロセスに用いてしまったこと、などが主な理由であろう。「身体性」の強い「家族的経営」手法は、組織規模を適正に保ち、その上で、従業員のモチベーション管理などに限定して用いるべきなのである。
組織経営には、戦略思考であるところのResource Planningと、工程の改善を図るProcess Technologyの両方が必要であることは、以前“現場のビジネス英語「Resource PlanningとProcess Technology」”の項で説明した。意思決定プロセスはResource Planningの重要エレメントであり、従業員のモチベーションはProcess Technologyのエレメントである。このProcess Technologyの実現手段として、日本では「家族的経営」「ボトムアップ」「サークル活動」「全員参加」「会社運動会」などが有効に働く筈である。
以前“現場のビジネス英語「MarketingとSales」”の項で、今は亡き井上ひさし氏の著書を紹介しつつ、「自治の精神」(Resource Planning的エレメント)と「市民同士の連帯」(Process Technology的エレメント)について書いた文章も、ここに再録しておこう。
(引用開始)
ところで、Resource PlanningとProcess Technologyの二つを活かす「包容力」は、企業経営だけに止まらず、あらゆる組織運営に必要なことだと思う。
最近「ボローニャ紀行」井上ひさし著(文藝春秋)を読んだが、氏はその軽妙な語り口で、ボローニャ市民が豊かな地域文化を創りあげてきた背景には、ローマ時代から長く受け継がれてきた「自治の精神」があり、市民たちの思考の原点には自分という「主格」がしっかりと置かれていること、と同時に彼らはボローニャという自分たちの「環境」を大切にし、市民同士の連帯のなかからいろいろなビジネスや施設を立ち上げていることを指摘しておられる。都市の運営にも的確なResource Planningと、行き届いたProcess Technologyが必要なのだ。
(引用終了)
「崖の上のPonyo」の項で紹介した株式会社「スタジオジブリ」は、数年前に社員のための保育園を設立した。ソフト販売会社の「アシスト」は、数年前から従業員の週末農業を助成している。これらは、「家族的経営」手法を従業員のモチベーション管理に導入した、優れた例と云えよう。
尚、企業における「従業員のモチベーション管理」の重要性は、以前「リーダーの役割」の項で述べた、
(引用開始)
社員が何に興味を持っているのか、何に向いているのかを良く見て、社内外で適材適所を図るのがリーダーの役割の第一である。
(引用終了)
という指摘とも重なる筈だ。
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