前々回「ゲマインシャフトとゲゼルシャフト」の項で、
(引用開始)
「先輩と後輩の関係」維持は、「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の典型的な表出形態であろう。
(引用終了)
と書いたけれど、日本の機能組織(ゲゼルシャフト)においては、「先輩と後輩の関係」以外にも、「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の表出形態が様々見受けられる。「迷惑をかけない」「空気を読む」「派閥をつくる」「敬語の使用」「上座と下座」「お辞儀」などなど。波風を立てないために「相手にあわせる」というのも、その表出形態一つであろう。以前「迷惑とお互いさま」の項で紹介した、海原純子氏の新聞連載コラムから、別の記事を引用しよう。
(引用開始)
アメリカと日本の往復で仕事をしていると、ボストンに着いてしばらくの間、そして日本に帰ってからしばらくの間は、何となく調子がヘンである。時差ボケではなく、仕事の流れがスムーズではないのだ。
この原因は一体何だろう、と考えて気がついた。アメリカにいるとき、周囲のペースにあわせようとすると調子がヘンになり、日本に帰って来て、自分のペースで仕事をすると周囲とぎくしゃくするのである。
発言も同じ。アメリカの研究室でみなの意見を聞きながら自分の発言のタイミングを探していると、いつの間にか論点がかわってチャンスを逃す。つまり、アメリカでは、自分のペースを守らないと疲れるし、日本にいる時は、相手にあわせることが大事なのだ。(後略)
(引用終了)
<毎日新聞「一日一粒心のサプリ」4/25/2010より>
心療内科医である海原氏の研究機関は、日米とも機能組織(ゲゼルシャフト)の筈なのだが、日本では、地縁組織(ゲマインシャフト)的な「相手にあわせる」対応が求められるという訳だ。
日本語の「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の表出形態は、往々にして「組織内の秩序を乱さないように努力する姿」となり、硬直化した組織では、そういった表出形態のうち、どれか一つでも作法を間違えると仲間から白い目で見られ、それが続くとみんなから爪弾きに会うことになる。
「組織内の秩序を乱さないように努力する姿」は、ときに滑稽な光景を生み出す。先日都内の電車に乗っていたら、液晶画面でマナー・クイズのようなものをやっていた。そのお題がなんと、エレベーターの中での立つ位置のどこが「上座」でどこが「下座」かを当てる、というものであった。日本においては、エレベーター(機能空間)の中にも「上座と下座」が存在するのである。
どこの国にもプロトコル(外交儀礼)はある。どこの国の機能組織(ゲゼルシャフト)にも、合理的な配慮に基づくプロトコル的対応はあってしかるべきだ。しかし、エレベーターの中での立つ位置までうるさく言う国はあまりないのではないか。いくらなんでもやりすぎだろう。
海原氏は日本の機能組織(ゲゼルシャフト)で、「相手にあわせる」こと以外にも、「迷惑をかけない」「空気を読む」「派閥をつくる」「敬語の使用」「上座と下座」「お辞儀」などなど、様々な「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の表出形態に遭遇し、その都度、対応にご苦労されているに違いない。
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