夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


ゲマインシャフトとゲゼルシャフト

2010年07月27日 [ 公と私論 ]@sanmotegiをフォローする

 「迷惑とお互いさま」の項で、日本語の「自然環境を守る力」は、自然環境に対してだけでなく、人為的な組織に対しても同じように働くようだと指摘し、「少数意見」や「ハーモニーとは」などで、その「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」について論じてきたけれど、今回は、「人為的な組織」と「自然発生的な組織」の違いそのものについて考えてみたい。

 ドイツの社会学者フェルディナント・テンニースは、社会組織について、「ゲマインシャフト」と「ゲゼルシャフト」という二つの概念を提起した。ゲマインシャフトとは、地縁・血縁などにより自然発生した社会集団を指し、ゲゼルシャフトとは、利害関係に基づいて人為的に作られた社会組織を指す。テンニースは、人間社会が近代化するとともに、社会組織は「ゲマインシャフト」から「ゲゼルシャフト」へと変遷していくとした。このブログでいう「人為的な組織」は、テンニースの「ゲゼルシャフト」という概念に近く、「自然発生的な組織」は、「ゲマインシャフト」に近いと思う。

 テンニースはさらに、社会組織が「ゲマインシャフト」から「ゲゼルシャフト」へと変遷していく過程で、人間関係そのものは、疎遠になっていくと考えた。社会の機能化に伴って個人の権利と義務が明確化され、それまでのウエットな人間関係は、利害関係に基づくドライなものへと変質するからだ。

 しかし、日本語に備わった「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」は、地縁・血縁などにより自然発生した「ゲマインシャフト」においてのみならず、明治の近代化以降、利害関係に基づいて人為的に作られた「ゲゼルシャフト」においても、それまで同様作動し続ける。

 たとえば、「先輩と後輩の関係」について考えてみよう。どこの国でも、血縁により自然発生した親族内(ゲマインシャフト)において、一族の長老が先輩として敬われ、子供たちが若輩ものとして扱われるのは自然なことであろう。一方、大学や会社などの機能組織(ゲゼルシャフト)においては、個人の権利と義務が明確化され、効率的な運営が図られるのが普通である。

 しかし日本では、大学や会社などにおいても、入学・入社年次によって、あたかも親族内のような「先輩と後輩の関係」が築かれる。先輩は後輩の面倒を見ることが暗黙のうちに了解され、後輩は先輩を立てることが求められる。個人の権利と義務の明確化や、効率的な組織運営は二の次で、組織構成員はひたすらその関係維持に腐心する。「先輩と後輩の関係」維持は、「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」の典型的な表出形態であろう。

 機能組織(ゲゼルシャフト)も一つの有機体であれば、合理性と同時に、人間関係をスムーズに運ぶための工夫も必要である。組織が充分小さく、先輩と後輩との親密性が長く保てるのであれば、「先輩と後輩との関係」維持も良いけれど、機能組織(ゲゼルシャフト)は、あくまでも目標達成の為に(人為的に)作られるもであり、組織運営には、合理性と人間性とのバランスが欠かせない筈だ。

 本来、ゲマインシャフトは「私(private)」の領域に属し、ゲゼルシャフトは「公(public)」の領域に属す。しかし、日本では二つの違いの意識が希薄である。「先輩と後輩の関係」は、大学や会社だけでなく、官僚や公共団体など、日本の機能組織のいたるところで見られる。我々は、「自然発生的な組織」=「ゲマインシャフト」と、「人為的な組織」=「ゲゼルシャフト」との違いをしっかりと認識し、そのどちらにも影響を及ぼす日本語の「自分の属する組織を盲目的に守ろうとする力」に対して、殊の外自覚的でなければならない。

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posted by 茂木賛 at 08:58 | Permalink | Comment(1) | 公と私論

この記事へのコメント

ゲマインシャフトは感情の社会、ゲゼルシャフトは論理で結びついた社会と言える。別の言葉で言えば、ゲマインシャフトは無意識的、ゲゼルシャフトは有意識的とも言える。

原始民族は、完全にゲマインシャフトであり、感情が大半を支配する。従って、非難感情を煽れば、異民族を平気で虐殺する。アフリカのラジオ局がフチ族・ツチ族の対立感情を煽り、50万人の虐殺に至らしめた事件は記憶に新しい。戦前の日本は、正に、こういう世界であった。そもそも、戦争の目的が自己目的化し、”1億総玉砕”などという精神分裂的な国家目標が正当化される社会は、原始民族以下と言っても過言ではないだろう。

一方、ゲゼルシャフトの社会では、誰かに煽られても、”ちょっと待てよ”と考えてから行動する。戦後のヨーロッパは、ゲゼルシャフト優位の社会であったのだろう。

ソマリア沖の海賊監視をテーマにした番組があり、興味深い内容であった。民間船を護衛するEU海軍であったが、海賊(たったボート1隻)が出現すると、民間船オーナーは興奮し、”ぶっ放せ!”と叫ぶ。一方、EUの艦長(大卒)は極めて冷静で、銃口を向ける事なく、ボートを止め、相手の銃3丁と食物を交換する交渉を行い、バスケット3つ分の食料を与え、彼らを返した。

艦長は、ソマリアの状況を熟知しており、”ただの貧しい原住民”と判断し、穏やかな武装解除を行ったのだ。

民間船のオーナーとEU艦長は、実に対照的で、彼らがどういう社会(ゲマインorゲゼル)で生きているかがよく判った。

さて、21世紀の現代日本は、どういう社会であろうか? 北朝鮮を罵倒し、”強気”の政策を掲げる政府は、件の民間船オーナーにだぶる。

その社会の特徴を知るには、討論の様子を見ればよい。政府に関しては、国会。国民に関しては”朝までテレビ”が材料となる。

これを見る限り、日本人は見事にどっぷりとゲマインシャフトの社会に浸かっている。国会では、与党はゲマインシャフト・野党はゲゼルシャフトである。

”朝までテレビ”に至っては、ほぼ全員がゲマインシャフトにどっぷり浸かっている。大声で相手をののしり、相手の質問には答えない。テーマのすり替えは日常茶飯事。たまに、外国人高官が出席する事があるが、5分で彼らは眉をしかめ、発言しなくなる。”犬の喧嘩”には参加しないのだ。

日本にゲゼルシャフトが育たない原因は、学校の教え方にある。日本の教育方法は、教条主義であり、ただただ、教科書という経典を暗記するだけである。これは、単なる宗教に過ぎない。討論番組は、単なる宗教戦争である。

一方、ゲゼルシャフトが育つ国では、思考・討論に重きが置かれる。考えながら討論する事で、”根拠”を元にした議論が育つのである。つまりは、”科学”なのだ。従って、議論は必ず収束する。

日本における議論(のようなもの)は、根拠がなく、無意識的な擦り込みや思い込みの”叫び合い”に過ぎず、討論と呼べるものは殆ど存在しない。

以上の日本の特徴は、カルト宗教の温床となる。何故、大学生がオウム真理教に入信したのか? 日本の教育が宗教的手段(教条主義)で行われているからである。これは、明治維新から変わらない特徴である。第2次世界大戦で、超大国アメリカに戦争をふっかけ、”1億総玉砕”を国家目標に据えた姿を見れば、その姿はカルトそのものであろう。

ゲゼルシャフト優位の社会は、教育によってしか獲得できないのであるが、昨今の若者を見る限り、未だ、ゲマインシャフトからの脱却を果たしていない様に思える。

そもそも、ゲマインシャフト・ゲゼルシャフトで検索しても、極めて少数しかヒットしない。(笑)
Posted by PAL at 2018年01月02日 15:01

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