ある本を読み終えてからその作家に興味を抱き、その人の昔のものから今に至る全ての著書を読んでみたくなることがある。その人の興味や主張の変遷を辿ることで、最初に読んだ本に対する理解が深まるというわけだ。
あるテーマについて分野別に読み進める「立体的読書法」とも、ある興味に関連した本を手当たり次第に読み進める「関連読書法」とも異なる方法であるから、これを新しく「時系列読書法」と名付けることとしたい。
具体的な例として、2つのケースを述べてみよう。1つ目は“この一冊で「日本の神々」がわかる!”関裕二著・茂利勝彦絵(三笠書房「知的行き方文庫」)である。本屋でふと目にし、日本の神々を体系的に理解する入門書の一つとして読んでみたのだけれど、内容が分かりやすかったので、関氏の他の著書も読んでみようという気持ちになった。
関裕二氏の著作を昔のものから今に至るまで時系列に並べると膨大な数に上るので、ここでは比較的入手しやすいPHP文庫を列挙してみよう。
“古代史の秘密を握る人たち”
“消された王権・物部氏の謎”
“大化の改新の謎”
“壬申の乱の謎”
“神武東遷の謎”
“継体天皇の謎”
“聖徳太子の謎”
“鬼の帝 聖武天皇の謎”
“ヤマトタケルの正体”
“「出雲抹殺」の謎”
“天孫降臨の謎”
“古代史 9つの謎を掘り起こす”
“古代史 謎解きの「キーパーソン50」”
“おとぎ話に隠された古代史の謎”
そして最新書は2010年3月17日第1版第1刷発行の“海峡を往還する神々”である。
関氏の著書を大方読み進めた今、最初の“この一冊で「日本の神々」がわかる!”に戻ると、格段に理解が深まったのを実感する。理解が深まったついでに、同書冒頭に掲げられた「神々の系譜」図の間違い(山幸彦と海幸彦の名前が逆になっている)まで見つけてしまった。尚、関氏の著書については、「関連読書法」のなかで“呪いと祟りの日本古代史”(東京書籍)を紹介したことがある。
2つ目は“善光寺の謎”宮元健次著(祥伝社黄金文庫)である。長野へ行くので善光寺のことでも調べておこうと読んでみたのだが、善光寺の本尊や守屋柱をめぐる謎を追って、宮元氏の他の著作も読んでみたくなった。
宮元健次氏の著作も数多いので、ここでは比較的入手しやすい光文社新書を昔のものから列挙してみる。
“月と日本建築−桂離宮から月を観る”
“京都名庭を歩く”
“京都 格別な寺”
“仏像は語る−何のために作られたのか”
“神社の系譜−なぜそこにあるのか”
“名城の由来−そこで何が起きたのか”
“日本の美意識”
そして最新書は2009年12月20日初版第1刷発行の“聖徳太子 七の暗号−「太子七か寺」はなぜ造られたのか”である。
宮元氏の著書を読み進めることで、最初の“善光寺の謎”の背景がより深く理解できるようになった。また、宮元氏は建築家でもあり、その著書には“桂離宮と日光東照宮 同根の異空間”(学芸出版社)や“江戸の陰陽師 天海のランドスケープデザイン”(人文書院)などもある。
さてこの時系列読書法、実はもうひとつ、「ある本に書かれた対象について興味を抱き、その対象について昔のものから今に至る全ての著書を読む」という方法が存在する。たとえば、上の2つの時系列は、関氏の“聖徳太子の謎”と宮元氏の“聖徳太子 七の暗号”においてテーマが交差する。この対象テーマは、以前「繰り返し読書法」で紹介した小林恵子氏の別の著書、“聖徳太子の正体”(文春文庫)の内容とも交差する。
この交差地点から、聖徳太子の謎に対して、「ある本に書かれた対象(この場合は聖徳太子)について興味を抱き、その対象について昔のものから今に至る全ての著書を読む」ことによって理解を深める方法がこれである。ここまで述べてきたような、一人の作家の思考を追うものを「思考の時系列読書法」、これを「対象の時系列読書法」として分けて考えるべきかもしれない。「対象の時系列読書法」についてはまた項を改めて述べてみよう。
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