以前「内需主導と環境技術」の項で、
(引用開始)
最近、21世紀のエネルギーに関して、“流域思想”というものがあることを知った。“流域思想”とは、山岳と海洋とを繋ぐ河川を中心にその流域を一つの纏まりとして考える発想で、これからの食やエネルギーを考える上で重要なコンセプトの一つだと思われる。
(引用終了)
と書いたけれど、「元気なリーダー」でご紹介した島村奈津さんは、“スローフードな日本!”(新潮社)のなかで、宮城県唐桑町流域における生態系の循環について書いておられる(第五章 牡蠣が見上げた森)。
島村さんのこの本は、日本各地の食の「地産地消」活動を取材したものである。本の帯の紹介文を引用しよう。
(引用開始)
食の真髄を知ることは、人生で最大の冒険だ。
安全なお米はアイガモが慈しみ、
水俣の再生は美しい水がつなぎ、
おいしい牡蠣は森から生まれ、
身体に効く食卓は笑顔が創る。
食の生まれ故郷を探訪し、
元気の源を爽快な筆致で教えてくれる、
「スローフードな人生!」に続く、
食をめぐるノンフィクション!
(引用終了)
ここにある「おいしい牡蠣は森から生まれ」というのが宮城県の話だ。三陸唐桑町の漁師たちは、おいしい牡蠣をつくるために、海に注ぐ河川をさかのぼり、流域の森に広葉樹を植林するという。その理由について本文から引用しよう。
(引用開始)
植物プランクトンにも、陸の植物と同じように微量ではあるがミネラルが必要で、中でも鉄分は海洋に不足している。これを補うのが、土や岩に含まれている山の鉄分である。かつて、日本中の沿岸部が森に覆われていた時代、沢水が海に流れ込み、鉄を供給していた。これが魚が寄ってくるという「魚付き林」のメカニズムらしい。それなのに、水源の山や沿岸では伐採が進み、杉山には人の手が入らず荒れている。産廃の不法投棄も方々で目に余る。頼みの川といえば、ことごとく護岸工事でコンクリートで固められていく。だが、大切なのは広葉樹の森が作り出す栄養素の豊富な土壌である。そこで生まれたフルボ酸という物質が、鉄イオンと結びついてフルボ酸鉄となる。これこそが、植物性プランクトンが直接、吸収しやすい鉄分のかたちなのだ。
(引用終了)
<同書141ページ>
この豊富な植物プランクトンを食べて牡蠣が育つ。だから唐桑町の牡蠣は美味しいという。
前回「車の両輪」の項では、食における「生産者と消費者との距離の近さ」の重要性と街の「生産と消費活動の循環」を論じたが、ここでは、生態系における「食物連鎖」と流域における「エネルギーの循環」がテーマである。このブログでは、
1.多品種少量生産
2.食の地産地消費
3.資源循環
4.新技術
の四つを「日本の安定成長時代を代表する産業システム」と位置づけて勉強しているけれど、それらの産業システムと親和性がある「流域思想」について、これからもいろいろと考えていきたい。
尚、この地上の森と海の食物連鎖については、唐桑町の活動にも関わった北海道大学松永勝彦名誉教授の“森が消えれば海も死ぬ”(講談社ブルーバックス)にさらに詳しい。
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